魔力の可能性
グリーンメア州の滞在はあっという間に終了し、再び両親、騎士団長達との別れの時がやってきた。
視察期間中、モンスター出現や凶悪な犯罪もなく、平和に過ごせたのは良かったと思う。
騎士団本部の正門前で皆んなからの見送りを受ける私とセノさん。
「セノ、引き続きリアノのことをよろしく頼むよ」
「心配なら全然このまま置いていきますけど」
「もぉ、セノさん!」
「ははっ。…リアノ、どんな事があっても生きて、強くなって帰っておいで」
「うん!」
「セノさん、お世話になりました。次回はぜひ自分とも手合わせお願いします。…リアノ、元気でな」
「はい」
「短期間でしたが、セノさんに習熟度を確認していただけて嬉しく思います。我々に何が足りないのか、後日で構いませんのでご意見を頂きたく存じます。…では、お気をつけていってらっしゃいませ」
そういえば今回の視察中、セノさんはあまり指導や手合わせをしなかった。元々教える事が向いていないし、面倒くさがる人だけど、他の騎士団の訓練ではもう少しアドバイスなどをしていた気がする…。
「んじゃ、またー」
シーアに乗った私とセノさんは、澄んだ青空へと飛び立った。
✳︎
「今夜は寂しくて泣いちゃわない?」
「泣きませんよ」
空を移動中、セノさんはまた私を子供扱いしてくる。
「ははは。つーか、ヒューアルさんの父親っぷりが沢山見れて面白かったわ」
「そんなに騎士団の中での父と、家での父は違いました?」
「喋り方とかは違わねーけど…騎士団長だったヒューアルさんは“聡明”を絵に描いたような人だったからなぁ」
「聡明…」
「ほら、ヒューアルさんを知ってる人は皆んな、頭が切れるとか、頭脳派とか、そう言うでしょ?どんな状況においても鋭いんだよ、あの人は。だけど、家では柔らかくて父親の顔してたわ」
「…あまり騎士達にアドバイスなどをしなかったのは、父が関係していますか?」
「うーん、どうだろうねー。剣術レベルは特に言うことなかったし、弓使いはお嬢ちゃんのおかげでやる気になっただろうし…今すぐどうにかしろってとこ無かったしな」
「そうですか…」
グリーンメア騎士団の実力が認められて嬉しいはずなのに、何か引っ掛かっている自分がいる。
「そういや、あの坊っちゃんの護衛どーすんの?」
「あぁー…」
ジュネリサ卿からの専属護衛になるお誘いは、おそらく私が正式に騎士になってからの話だろうから、一旦保留にさせてもらっている。しかし、他の州の騎士がわざわざ護衛につくのは珍しいため、どこまで本気なのか分からない。
ユーイエローに優秀な騎士が沢山いるだろうに…。
「護衛つっても、お嬢ちゃんへの下心ありまくりだな、あれは。もっとマシな告白しろよってな」
「だから、そんなんじゃありませんって」
✳︎
「お、見えてきたな」
月明かりに照らされる私達は、次の目的地であるノシュパープル州を夜空から見下ろした。
いつ見ても不思議な雰囲気だよね…。
ズラリと並ぶ石造りの建物は、他の州とは異なり高楼なものばかりだ。明日行く予定の騎士団本部も例外ではなく、月が届きそうなほど高く聳え立っている。
宿の庭にシーアを休ませ、私とセノさんは各部屋へ荷物を置きに行った。
約10分後、食事スペースで夕食中の私達のところへ騎士らしき男性が1人で姿を現した。マレットヘアに華奢な身体、ちょっぴり猫背な姿勢で顔色は青白い。
なんだか怪しげな人だわ…。
「おー、ゾッチ!久々だねー」
「…りで…」
ん?今なんて言った?
セノさんと言葉を交わした男性が私の方へ体を向けたので、私も立ち上がり姿勢を正した。
「…して……の……ラタです」
え…!?声が小さい上にボソボソ喋っていて、何一つ聞き取れなかったんだけど!?
「ははっ、年々声量小さくなってんじゃん。お嬢ちゃん、こいつはノシュパープル騎士団の団長、ゾッチ・パランドラタ」
え、この人が騎士団長なの!?
「…あ、初めまして、リアノ・ヒューアルと申します。よろしくお願いします」
パランドラタ騎士団長は小さく会釈した。
「こんな不健康丸出しの見た目だけど、魔術の腕はこの国で3本に入る男だから」
魔術…。
ノシュパープル州は、国内で唯一魔術の使用が許可されている。州内の人口8割が魔力を持って生まれ、様々な魔力を活用して暮らしているのだ。ノシュパープル騎士団の騎士達も剣術や弓矢に魔術を合わせて戦う。
ノシュパープル騎士団の団長や副団長になるには剣術はもちろん、魔術のレベルが相当高くなければいけないと聞いた事がある。どんなに剣や弓が上手くても、魔術が人並みでは団長クラスになる事は不可能らしい。
私は全神経を耳に集中させ、パランドラタ騎士団長の話を聞く。
「明日は昼過ぎまで観光をしていただき、その後本部にて稽古の様子を見てもらう予定で考えています」
うん、なんとか聞き取れた。
「りょーかい。俺らだけで観光すればいい?」
「副団長を付き添わせようと思っています。よろしいでしょうか?」
「うん、おっけー」
†
翌朝、宿の外で待っていると、マッシュルームヘアの男性騎士がやって来た。小太り気味な体型を見て、失礼ながら本当に副団長なのか疑ってしまう。
「お待たせしてすみません。観光の案内をさせていただく副団長のキゼ・プチミタンです。よろしくお願いしますね」
プチミタン副団長の朗らかな笑顔を見て、暖かな安心感に包まれた。
「どーも、セノでーす」
「リアノ・ヒューアルと申します。お忙しい中、ありがとうございます」
「とんでもありません。うちの州は独特な街の構造をしているので、地元の人間がいた方が迷わず観光出来ますから」
確かに1人だと迷子になってしまいそう。
「お2人とも、小腹は空いていませんか?少し先に美味しいスープのお店があるのですよ」
「スープいいねぇ。案内よろしくー」
✳︎
こじんまりとした店内は、午前中にも関わらず満席だった。
数種類のスープのみ販売されているようで、お客さんの入れ替わりが思ったより早く、すぐに席に着くことができた。
「なにこのスープ…すげぇうまいじゃん!」
注文後、あっという間に運ばれてきたスープを飲み、セノさんは美味しさに感動している。私もスプーンですくい、そっと口に運んだ。
「わぁ、美味しい」
「お口に合ったみたいで良かったです。冷めてきたら、あんな風に温め直してくれるので遠慮なく言ってくださいね」
プチミタン副団長が指差した席では、店員さんが小さな杖を使い、魔術でお客さんのスープを熱々に温め直している。
ここでは魔術が生活の一部なんだよね。
グリーンメア州とノシュパープル州は隣り合う場所にあるものの、私自身はノシュパープルに数える程度しか来た事がない。
「俺も特訓したら魔術使えたりしねーかなー」
セノさんが魔術まで使えるようになったら、最強を通り越して神の領域になるんじゃ…。
「ご周知だと思いますが、ノシュパープル騎士団は魔術を使用して戦います。剣や弓矢に魔力を纏わせて強力にするのです。ただ、魔術って聞くととっても強そうに感じると思いますが、今の騎士団はいくつか弱点があるのですよ」
どんな弱点があるんだろう…。
「1つ目は、魔力を使用すること前提で戦うので、個々の剣術や弓使い、体術のレベルが他の州よりも低いこと。…2つ目は、他の州で魔術がほぼ使えなくなることです。団長を含んだ魔術レベルが高い数人はどの州でも通常通りの魔力を使いこなせますが、そうじゃない騎士や市民は何故かノシュパープル州内でしか魔力を発揮出来ないのですよ」
へぇ、そんな違いがあったんだ。
「そして意外な弱点が…遠隔が無理だということなのです。魔力自体を遠くに飛ばせないため、剣で戦う際も接近戦になるのです」
「じゃあ、つまり…どんな強い魔力を合わせても接近戦が上手くなければ無意味になってしまう、ということでしょうか」
「その通りです。1つ目の個々のレベルが低いことに関係してしまうのです。…最近は剣術や弓使いは上手いのに魔術レベルが低い、反対に魔術は上級者なのに剣術等が苦手など、アンバランスな若い騎士が増えてきたように感じるのが副団長の身としては悩みですかね」
なるほど…。魔力の可能性を潰すのは勿体ないよね。
「…。」
グビグビとスープを飲み干したセノさんを見た。
剣や弓であればセノさんから教わる事は出来るけど、魔術に関してはセノさんではどうしようも出来ない問題だ。
セノさんはどう対処するんだろう。




