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成長過程


 グリーンメア州西部にて行われている収穫祭。


 私と一緒に会場内を見回りしつつ、祭りを満喫中のセノさんは、気になる屋台を見つけては立ち寄り、食べ歩きをしている。


「この魚うめぇ」


「お口に合って良かったですね。グリーンメアは東部しか海に面していないので、早朝に獲れた新鮮な魚をこっちまで運んできてるんですよ」


「…。」


「…あれ、聞いてます?」


「あの2人組、多分盗るなぁ」


「え」


 セノさんの視線の先には首飾りなどを売る店の前で、他の客に混ざり男2人が商品を見ていた。


 窃盗をするような怪しい見た目はしていないけど…


 次の瞬間、片方の男が商品の入ったケースを持ち上げ、そのまま走り出してしまった。


 え!?ケースごと持ち去った!?


 もう1人の男も手に持っていた布袋に掴み取った指輪を次々と入れ、さっきの男と反対方向へ走り逃げていく。


「お嬢ちゃん、右に行った男よろしくー。俺、左に逃げた奴追うから」


「あっ、はい!」


 私とセノさんは二手に分かれて窃盗犯を追いかけた。


「待ちなさい!」


 人混みの中を逃げているため、男の走るスピードが徐々に落ちていく。


 どうにかして、男の前に行きたい…。


 一か八かで一度人混みから抜けた私は、屋台が立ち並ぶ裏側の通路を走り始めた。


 …よし!追い抜いた!


 人の波が途切れた場所に移動した私は、鞘から剣を抜いて構える。私が後ろから追っていると思っていた男は人混みの中から勢いよく飛び出してきた。


「…うわぁ!!」


「観念しなさい!まだ逃げるというのであれば、容赦なく斬りつけるまでよ」


「…っ、くそっ…」


 悔しそうな表情を浮かべた男はその場に座り込んだ。


「お、そっちも無事確保か」


 セノさんが、もう1人の逃げた男をロープで拘束した状態のまま連れて戻って来た。


 さすがセノさん、もう捕まえている。


 ✳︎


 私とセノさんが捕まえた窃盗犯以外で大きなトラブルや被害は出ず、今年の収穫祭は無事に幕を閉じた。


「セノさん、リアノさん、長時間の見回りありがとうございました。お二人のおかげで窃盗犯を確保でき、大変感謝しております。残りの警備は我々で行いますので、先に宿への移動をお願いいたします」


 今夜はこの近くにある宿へ泊まることになっている。


「いえ、私も最後までお手伝いさせてください」


「お気持ちは大変有難いのですが、今回はリアノさんにはセノさんと行動を共にしていただきたいのです」


「お嬢ちゃんが若いから元気有り余ってんのは分かるけどさ、俺はもう休みてーのよ。ここは騎士団長さんの優しさに甘えてさ…な?」


「…分かりました。キオジャ騎士団長、本日はありがとうございました。お先に失礼します!」



 キオジャ騎士団長と別れ、セノさんと宿へ移動しようとした時、ジュネリサ卿が目の前に現れた。


「こんばんは、リアノさん」


「ジュネリサ卿、こんばんは。最後までいらしたんですね」


「いえ、一度他の場所へ行き、再びこの場に戻って参りました。…リアノさんにまたお会いしたくて」


「…え」


「リアノさん…近い将来、私専属の護衛になっていただけませんか?」


「…。」


 †


 2日後の騎士団本部では、通常通りの訓練やトレーニングが行われていた。

 今日からセノさんにグリーンメア騎士達の技術レベルを確認してもらう。


「最初は弓の練習を見てもらおうと思います」


 ペンラ副団長と訓練場に移動した私とセノさんは、十数名による弓使いの練習を見始めた。

 小さな的に向かい、遠距離から矢を放つ騎士達。


 国内最大面積を誇るグリーンメア州。騎士団の人数は、レッドキン騎士団に次ぐ多さだ。父が長年率いた騎士団の剣術レベルは高く、騎士が大勢いるにも関わらず一人一人の技術差がほとんどないことが強みだと思う。

 しかし、以前視察に行ったヌブルー騎士団と違い、グリーンメア騎士団は剣と盾での戦いが基本の為、弓使いの技術にあまり重きを置いていない。弓矢の練習も数週間に一度程度だ。


「…。」


 セノさんやヌブルー騎士団の最高峰の弓使いを知った私は、今まで上手いと思っていた団員達の弓使いを凡庸に感じてしまった。

 そんな私の心を見透かしたようにセノさんが声を掛けてくる。


「普通だなーって思ってんだろ?」


「えっ…いや、別にそんな…」


「自分の団の弱みを知るのも大事大事。つーか、今ならアイツらよりお嬢ちゃんの方が上手いしなぁ、弓使い」


「え、それはありえませんよ」


「んなことねーって。お嬢ちゃん自身が気付いてないだけで成長してんだよ。師匠の俺が言うんだから信じなってば」


「…。」


「…ペンラくーん」


「はい」


「ちょっとさぁ、お嬢ちゃんにやらせてもいい?」


 え!?


「えぇ、構いませんよ」


「どーも。…お嬢ちゃん、皆んなに見せつけちゃってよ!」


 もぉ、何でも勝手に決めるんだから…。



 私は渋々定位置に立ち、ペンラ副団長達が見守る中、弓を構えた。


「ふぅー…」


 頭の中にイメージするのは、キーヤス副団長の綺麗なフォーム、ヌブルー騎士達の正確な狙い、そしてセノさんの圧倒的なスピード。


 …大丈夫。セノさんの弟子として過ごしてきた時間は必ず私の力になっている。


 …ビュンッ…!


 弓から放たれた矢は一瞬で的の真ん中に突き刺さった。


 ホッ…良かった。


「…。」


 ペンラ副団長達は唖然としている。


「さっすがお嬢ちゃん!やるじゃーん。どうよ、ペンラ君。俺の弟子の弓使いは」


「…えっ、あ、はい、正直とても驚いています。今のであれば、スピード、正確さともにここにいる団員よりも上でした」


「今のだけじゃねーんだわこれが。お嬢ちゃんあと2回他の的にも射ってー」


「あ、はい」


 同じ立ち位置から左右の的にも矢を放った。


 …ビュンッ……ビュンッ…


 2本の矢は、それぞれの的の真ん中を射止めた。


 私…知らない間にこんなに上達してたんだ…。


 ✳︎


 その日の夕食を囲む時間。父はいつもより機嫌が良いようだった。


「リアノ、聞いたよ。弓使いがとても上手になったらしいじゃないか」


「うん、ペンラ副団長からお褒めの言葉をいただけたの。セノさんのおかげだけどね」


「射ったのはお嬢ちゃんでしょ」


「明日父さんにも見せてくれないか」


「いいけど…まだ父さんよりは下手だからあんまり期待しないで」


「父さんの腕は関係ないよ。リアノがどれほど成長したのかを知りたいんだ」


「あはは、溺愛されてんね」


 私達の会話を聞きながら母も嬉しそうな顔をしている。


 †


 翌日、誰もいない訓練場で父とセノさんからの視線を受けながら的に向かって矢を放った。


 …よし!


 無事に刺さった矢を見て安心した私の側にきた父は、優しく頭を撫でてきた。


「リアノ、凄いじゃないか」


「…ありがとう」


 親子のやりとりを見て、腕を組んでいるセノさんは軽く口角を上げている。


 なんだか恥ずかしい…。



「弓使いがこんなに上手くなったということは剣術も上達したんじゃないかい?」


「剣術は…まだまだ手応えがなくて…」


 まだ一度もセノさんから本格的な剣の指導をしてもらっていない。各騎士団の剣術訓練に参加させてもらうことで、日々練習を重ねてきたけど…。


「せっかくだし、久しぶりに手合わせしてもらえば?」


「えっ」


 セノさんの突然の提案に驚く私とは反対に、父は「お、それはいいね」と乗り気になり、木剣を用意し始めた。



 木剣を手にして、父の前に行こうとする私にセノさんが耳打ちした。


「敵は1人だけだ。目の前の相手に集中すればいい」


「はい」


 そうだ。複数人に囲まれているわけじゃない。仲間と連携しながら戦うわけじゃない。ただ目の前の相手に集中するだけ…。


「…お願いします」


「お願いします」


 お互いに一礼をし、木剣を構えた。


 指導はされていなくても、この数ヶ月誰よりも近くでセノさんの剣捌きを見てきた。あの動き、あのスピードを真似ることは到底出来ないけど、近づく為の努力はしてきたつもりだ。


 父に向かって走り出し、一気に剣を振りかざした。


「うぉぉーーっ!」


 器用に防御をする父に何度も攻撃をしていく。


 怯んでいる暇は1秒たりともない。攻めて攻めて…冷静に相手の隙を……今だ!


 木剣を握る父の手元に切先を素早く当てた。父の木剣は衝撃で手から離れ、弧を描くように足元へ落ちた。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 息を切らし、その場に立ち尽くす私に「リアノ!凄いじゃないか!」と父は相当喜んでいる。


「…。」


 父に褒められた事が嬉しい。しかし、それ以上にセノさんの「成長してんじゃん」という言葉と表情に喜びを隠し切れない。


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