夢の途中
ホワイトダラ州での視察中。
教会近くでモンスターが出現したと聞き、私とセノさんがマミアー副団長と現場に駆け付けると、女性騎士3名がモンスター5体と対峙していた。
どっしりとした巨大な体、鼻先にある大きな角…あれはライノ型モンスターに違いない。
「待たせた。状況は?」
「市民の避難は完了しております。モンスターは5体。先ほどから剣で対応していますが、ダメージを与えることは出来ていません」
「分かった。私も一度剣で試してみよう」
剣を構えたマミアー副団長は、1体のモンスターに向かって勢いよく斬りかかった。
「うぉぉーっ……ぐっ!」
しかし、傷をつけるどころか剣ごとはじかれてしまった。
副団長は今、相当な力で斬りかかったはずなのに…。
「その剣じゃ、ちょいと無理があるねぇ」
私の横に立つセノさんがマミアー副団長に伝える。
「ライノ型のモンスターは、めちゃくちゃ硬い皮膚で覆われてっから、通常の剣や弓矢じゃ傷を負わせることは難しい。無意味に斬りかかっても刃こぼれするだけだわ」
中型に分類されるライノ型モンスターに遭遇することは稀だと聞いたことがある。そして、大型でもなければ、何十体で現れるわけでもないにも関わらず、討伐に苦戦する相手だとも聞く。きっとその理由は、今セノさんが言った通りだろう。
硬さに屈しない大剣レベルでなければ無理ってことよね。つまり、大剣のないこの状況で倒すためには……
「己の身体が武器になる時よ!」
…!!
そう言い華麗に現れたのはサータシ騎士団長。
「遅くなってごめんなさいね。…キュワちゃん、皆んな、天使の強さ見せつけましょ」
「はいっ!」
剣を鞘に戻した騎士達は、サータシ騎士団長の「いくわよっ」の掛け声を合図に一斉にモンスターに向かって走り出した。
そして、1体に対し騎士団長と副団長は1人で、残りの騎士達は2人ずつでモンスターに蹴りや殴打の攻撃を開始した。昨日の訓練では見られなかったサータシ騎士団長とマミアー副団長のスピードと威力は凄まじく、身体が武器だということを体現している。
「…。」
凄い…。騎士の方達の体術さえ圧倒されたのに、団長と副団長のレベルは段違いだ。全ての攻撃を目で追い続けるのが難しい。
剣では無傷だったモンスター達も脅威的な体術攻撃を受け、体の内部へダメージを受け始めたようだ。
その様子を見守っていた時、1体のモンスターが私とセノさんめがけて突進してきた。
「お嬢ちゃん、ちょい下がってて」
すぐに私に指示をしたセノさんは迫り来るモンスターに向かって走り出し、何の躊躇いもなく大きな角を片手で掴み、そのまま遠心力を利用して顔面に強烈な蹴りをいれた。
数メートル飛ばされたモンスターは高速で追ってきたセノさんから口に剣を突き刺され、あっという間に生き絶えた。
「……。」
今さらセノさんの強さに驚く事はないと思っていたけど…
「流石に口ん中は硬くねぇな。よかったよかった」
呑気に言ったセノさんは、モンスターを蹴った足を気にかける素振りすら見せない。
…あんな巨体を蹴り飛ばしたのに。…剣や弓の技術だけじゃなく、体術まで難なくこなしてしまう。私の師匠はどこまで最強なんだろう…。
サータシ騎士団長達もモンスターを倒し、無事に討伐は終了した。
✳︎
本部に戻り、団長室でサータシ騎士団長とマミアー副団長は、セノさんに感謝の言葉を伝える。
「セノさん、討伐にお力添えいただきありがとうございました。とっても助かったし、お噂通りの強さに感動したわ」
「体術と剣術の見事な合わせ技…大変勉強になりました」
「いやいや、おたくらの体術だけで倒したことのほうがすげぇんだけど」
そんな3人の会話を聞く私は心の中で呟く。
3人とも凄いんですよ…。謙遜していいレベルじゃないのよ、ほんとに…。
「ホワイトダラは普段小型モンスターの出現が多いから、中型モンスターを相手にするのは久しぶりだったの。ましてやライノ型はアタシが団長になってからは初めてよ。……遅くなってしまったけれど、お昼にしましょうか。セノさん、ちょっとお話したいことがあるから、食堂の個室にお願いできるからしら?」
✳︎
食堂の2階でセノさんとサータシ騎士団長が食事をしている間、私とマミアー副団長は1階で昼食をいただいていた。
パンを口にした私に、向かいに座るマミアー副団長は訊ねる。
「セノさんの弟子はどうだ、楽しいか?」
「えっ…あ、はい。…楽しさもありますが、毎日が刺激的で学ぶことばかりです。セノさんのおかげで騎士候補生の身分で各州の視察に同行させて頂けて…本当に有難い限りですし」
「そうか。…確かグリーンメア前騎士団長の娘だったな」
「はい。父の勧めでセノさんの元で修行を始めました」
「娘を強くさせてやりたい親心か。…という事は、騎士団長を目指しているんだろう」
「…はい」
「私と同じだな」
マミアー副団長は優しく微笑んだ。
「…。」
同じ…ではない。片や国内初の女性副団長、片やただの騎士候補生。どちらが先に騎士団長になるかは目に見えている…というより私はまだ騎士としての実力すら伴っていない段階。
マミアー副団長は、才能だけで今の立場になったわけじゃない。血が滲むほどの訓練を重ね、どんな敵にも臆せず挑んできた。その努力と実績に今の私が勝てるわけがない。
「…マミアー副団長は、どうして騎士になろうと思ったのですか?」
「…私には歳の離れた兄がいて、騎士として市民を守る兄の背中をいつも見ていた。もちろん子供の頃は、女性が騎士になれる日が来るなんて誰も思っていなかったがな。それでも忙しい合間に兄が体術や剣術を幼い私に教えてくれた」
私と父さんの関係みたい…。
「兄は騎士団長になるために日々訓練を重ねていたんだが……16年前のドラゴン襲来でその夢は絶たれてしまった」
「え……」
「負傷した身体で逃げ遅れた市民を守った際に致命傷を負ったらしい。…最後まで騎士としての任務を全うした兄を誇りに思うと同時に、兄の夢を叶える事が私の人生の目標になった。…だから私にとって騎士になることは通過点でしかなかったんだ」
「…そうだったんですね」
「この話を人にするのは、サータシ騎士団長以来だな」
「そんな貴重なお話を私に……本当にありがとうございます」
「まだまだ女性騎士の肩身は狭い。ホワイトダラ以外の騎士団は余計にだ。そんな中でも堂々と騎士団長を目指すと言える仲間がいることは嬉しいよ」
「…ありがとうございます!私、頑張ります!」
†
それから数日間の滞在中、私はマミアー副団長から体術を基礎から学ばせてもらった。
セノさんは面倒だと言いながらも、団員の方と手合わせをする形で剣術を教えていた。
出発前夜、騎士団本部から宿への帰り道。鼻歌を陽気に響かせるセノさんは、私に聞いてくる。
「ホワイトダラ騎士団はどうだったー?」
「はい、良い意味で、元々持っていたホワイトダラへのイメージを覆されました。洗練された中にも揺るがない強さへの覚悟があって、本当にかっこよかったです。…それに、女性が活躍する場面を肌で感じられて、これまで以上に騎士への思いが強くなりました」
「そっかそっか」
「セノさんから見て、ホワイトダラ騎士団の印象はどうでした?」
「騎士団長の士気の高め方がうめぇなって感じたかな。俺もあーゆー喋り方したらいいのかなー」
…そういう問題じゃないと思う。
「あと、やっぱ体術は別格だねぇ。あのスピードを剣術に適応出来たら最高だと思った。俺、体術とか習ったことねぇから、真似てみようかな」
「え!?習ったことないんですか!?」
「うん、ねーよ」
独学であの蹴り……。
「あんま狩りや討伐で体術使わねーから、久々にすると筋肉痛になんだよなぁ」
「またおっさんみたいな事を言って…」
「おっさんだもん。だからたまには労わってくれよ」
再び鼻歌を歌うセノさんの背中を呆れながら見ていた。




