女性騎士
バードイーヴィルとの対戦から数日。私とセノさんはヌブルー州から次の州へ向かうため、ツマーサ騎士団長、ベナス副団長と別れの挨拶を交わしていた。
「セノさん、リアノさん、本当にありがとうございましたぁ」
「おっ、お二人のおかげで、ば、バードイーヴィルの被害を、くい、食い止めることができました。ほ、本当に感謝しております」
「他国が絡んでるからまだまだやること沢山だろうけど、2人とも無理せずなー」
バードイーヴィル達はドラゴンファルコンとともに、まだヌブルー州に拘束されている。ホマント国、キグアとのやりとりを経て、最終的な判断が下されるらしい。罪と向き合い償う時間を考えると、セノさんの言っていたメラブラック騎士団の仲間になる件は、もう少し先の話になるだろう。
「が、頑張ります!」
「はぁーい。…セノさん、また色々ご指導お願いしますねぇ」
「えぇ、もうやだよ。つーか、バードイーヴィルとの戦いで強くなったし大丈夫でしょ」
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シーアに乗った私とセノさんは、昼過ぎにホワイトダラ州の宿に到着した。
ヌブルー州と隣り合うホワイトダラ州は、メラブラック州と正反対に位置する。
「相変わらずどこ見ても、ゴミひとつねぇ綺麗なとこだねー」
シーアから降りるセノさんの言葉に深く共感した。
空気が澄んでいるし、街並みも本当に綺麗…。すごく住みやすそう。
荷物を部屋に置いた私とセノさんは、ホワイトダラ騎士団の本部へ徒歩で移動した。
辿り着いた本部の正門には、真っ白なマントに身を包んだブロンドショートヘアの美しい女性が1人立っている。
「ようこそお越しくださいました。私はホワイトダラ騎士団、副団長のキュワ・マミアーと申します」
この女性がホワイトダラの副団長…。
マミアー副団長は、9つの騎士団の中で唯一の女性副団長であり、国内に女性騎士が誕生してから初めて副団長を任された人だ。つまり、女性初の騎士団長になる可能性が最も高い人物ということ。
「セノでーす。よろしく」
「リアノ・ヒューアルと申します。よろしくお願い致します」
「団長は只今外出しておりますので、先に私の方で本部内をご案内させていただきます。どうぞこちらへ」
美しい顔立ちとは裏腹にマミアー副団長の雰囲気は凛々しく、言葉遣いもハキハキとしている。
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初めに案内されたのは、食堂の2階部分だった。個室になっている2階からは1階の食事スペースを見下ろすことが出来る仕様だ。
ちょうど騎士の方々が食事をしており、各テーブルには1人か2人、女性の姿が見える。
「ご覧の通り、我がホワイトダラ騎士団は女性騎士の人数が他の騎士団と比較して1番多いです」
「州の人口も女の方が多いよね?ここって」
「おっしゃる通りです。男女差別をするつもりはありませんが、女性が多く活躍する環境のおかげで、快適で住みやすい街づくりが出来ていると思っています」
その後、各訓練場を見学した私達は団長室へ向かった。
コンコンコンッ…
「はぁーい、どぉぞー」
「失礼致します」
マミアー副団長とセノさんに続き入室すると、胸下あたりまで伸びた髪を巻いた綺麗な人が立っている。
あれ、騎士団長って男性の方じゃ…。
「ご挨拶遅くなってごめんなさいねぇ。ホワイトダラ騎士団長のエンザミ・サータシよ。お2人の話は王子から聞いているわ。セノさん、リアノちゃんよね、よろしく」
高めの声質だが、明らかに声は男性だ。
「よろしくー」
「よろしくお願いいたします!」
「キュワちゃん、もう訓練の様子は見ていただいたかしら?」
「いえ、まだひと通り館内の案内を済ませた段階です」
「分かったわ。…ちょうどこれから今日最後の練習が始まるの。見学していただいて、ぜひご意見を聞かせてほしいわ」
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騎士の方々が集まる訓練場に移動した。
「本日よりこちらにいらっしゃるセノさんに我々の訓練の様子をご覧いただき、ご指南をお願いする。貴重な機会を無駄にせぬよう努めてほしい」
前に立ち話すマミアー副団長は凛々しさが増し、堂々とした立ち振る舞いがかっこいい。
「みんなも知っての通りあの黒のドラゴンを倒した、とぉーっても強いお方なの!正直なところ、どの騎士団長よりも強いこと間違いなしよ」
サータシ騎士団長って、すごく人との距離を埋めるのが上手そう。どんな風に戦うんだろう…。
「では、訓練を始める。それぞれ位置へ」
マミアー副団長の指示で2人1組になり、分散した騎士達は手に何も持っていない。
今日は体術の練習かな?
「それでは…開始!」
一斉に蹴りや拳の突きを繰り出し始めた騎士達。その攻撃スピードは尋常ではなく、軽々と避けていることが信じられない。
…っ!!何これ…
目の前の光景に唖然としている私にセノさんが話しかけた。
「お嬢ちゃん、ホワイトダラ騎士団の別名知ってる?」
「え…確か…拳を捧げた天使、だったはずです」
「それそれ。ホワイトダラはさ、昔から体術がダントツなのよ。女性騎士が入ってからも、体術のレベルが全く落ちてねぇのがすげーとこだよな」
「さすがセノさん。よく知ってらっしゃるわ」
笑顔のサータシ騎士団長も話に加わり、説明を始めた。
「もちろんアタシ達も剣を使用した戦いを基本としている。でもね、何ひとつ武器が無い状況に陥ってしまった時に、己の身体が武器になれば大切な人やモノを守る事が出来るでしょ?…リアノちゃん、あれを見てちょうだい」
サータシ騎士団長の指差す先には、男性騎士と女性騎士が互角に戦っている。
「女性だから力が弱い、男性には敵わない、なんてことはないのよ。もちろん、彼女達の並々ならぬ努力がそれを証明してくれているんだけれど。…アタシ自身は男だけど、騎士団長として女性の強さを知って、理解しているつもりよ」
誰よりも努力すれば女性だって騎士団長になれる、そう背中を押された気がした。
†
翌朝、セノさんと私はマミアー副団長に本部周辺の案内をしてもらいながら、州や騎士団について話をしていた。
「有難いことにホワイトダラ内では、窃盗や乱闘騒ぎなどがほとんどありません」
「あはは、うちの州とは正反対だな」
「ですので、パトロールの主な内容はモンスターに対する見回り、そして市民とのコミュニケーションです」
治安が良いことに納得する。州全体の雰囲気も良く、騎士団内の風通しもよかった。
「モンスターの出現も少ないんでしょうか?」
私からの質問にマミアー副団長はさらっと答える。
「いや、そうではないよ。モンスター討伐件数は、メラブラック、グレースアに次ぐ多さだ」
「えっ、そうなんですか!」
「あぁ。人による犯罪等と違い、モンスターの出現は我々騎士団の力でコントロール出来るものではないからな」
「…そうですよね」
「ねぇねぇ、この辺にフルーツ売ってるとこない?美味いオレンジが食いたいんだけど」
セノさんの緊張感のない質問にマミアー副団長は立ち止まり考え始める。
「美味しいオレンジ……でしたらこの通りを…っ」
「副団長っ!」
会話の途中、女性騎士が駆け寄ってきた。
「どうした」
「教会付近にモンスターが出現したとのことです。正確な数は不明ですが、5体前後かと」
「分かった。すぐに向かう」
私とセノさんもマミアー副団長と共に教会へ向かった。




