勝利への近道
「あそこにいるおっさんを捕らえて仲間にする」
薄暗い雷雨の中、再びヌブルー州へ来襲したバードイーヴィル。騎士団本部の屋外練習場で対峙する私達に、赤髪の男はセノさんを仲間にすると口にした。
セノさんを倒すんじゃなくて、仲間に引き入れようと考えるなんて……。
「冗談はやめてもらえますか?オレの仲間は誰1人、君らみたいな凶悪集団に渡さないから」
怒りを含みそう伝えたベナス副団長に、赤髪の男は淡々と答える。
「おっさん以外は必要ない」
人をモノみたいに…。彼らはきっと強さにしか興味がないんだ。これが人型兵器として生きてきた人間の思考なのか。…なんて恐ろしくて、悲しいんだろう…。
「雨音でよく聞こえなかったんだけど、俺を仲間にしたいって言った?え、合ってる?」
セノさんはシーアの背中越しに横に立つ私に聞いてきた。私とセノさんはまだ地上に立っているため、ヌブルー騎士団とバードイーヴィルを下から見上げている状況だ。
「はい、合ってますよ」
さっきまで内心動揺していた私もセノさんの口振りに安心し、普段通りの返事をした。
返事を聞いたセノさんは、バードイーヴィルに向かって喋り始める。
「いやぁ、ご指名いただき有難いんだけどさぁ、俺もうおっさんじゃん?ほら、ぴちぴちの君らと違って肌が雨を弾けてないわけよ。そんなただのお荷物になる人間を仲間にしてどーすんのさ」
「ごちゃごちゃうるさいな。決定権は勝った方にある」
「前にも伝えたはずだ。この国のものは何一つ渡さないと。そして…勝利するのは我々だ。皆、ヌブルー騎士団の本領発揮だ。いくぞ!!」
ツマーサ騎士団長の掛け声を合図に、ドラゴンイーグルに乗った団員達は一斉に弓を構え、矢を放った。
バードイーヴィル達もクロスボウから矢を放ち、両軍団の矢が次々と空中で交差していく。
開始1分。視界の悪い雷雨だという事を忘れてしまうほど、ハイレベルな戦いが繰り広げられていた。
「前回いなかった奴らもレベル高いなー」
セノさんは空を見上げ、感心している。
「でもやっぱ、赤髪君は別格だねぇ。ま、ラクリカも負けてねぇけど」
ドラゴンファルコンで高速移動する赤髪の男からの攻撃を、ツマーサ騎士団長は素早く避け、自らも攻撃を仕掛けていた。一騎打ちになっているが、2人とも周りの状況を冷静に見ていることが分かる。
バードイーヴィルを倒す為の訓練を積み重ねてきたヌブルー騎士団は、ツマーサ騎士団長とベナス副団長以外の騎士もドラゴンファルコンの脅威的なスピードに矢を合わせられるほどに適応していた。
すごい…。この短い期間の訓練で、明らかに個々の技術が上がっている。
「俺らもそろそろ参戦するか」
剣を持つセノさんはシーアに飛び乗った。
「はいっ」
弓矢を持った私がセノさんの後ろへ乗ると、シーアは一気に雨の降る空へと舞い上がっていく。
「お嬢ちゃん、狙うとこ分かってる?」
「もちろんです。ドラゴンファルコンの肩から翼あたりとバードイーヴィル達の手元、ですよね?」
「正解。んじゃ、さっさと終わらせようか」
今ここにいるヌブルー騎士の数は、バードイーヴィル達より若干多い。ベナス副団長は数人の騎士と連携体制を取り、高速で飛び回るドラゴンファルコンの肩や翼に矢を放ち続けている。
生きたまま捕える。それがツマーサ騎士団長の命令であり、悪者だろうが命を大切にしたいという思いだ。
私にはまだ、他の騎士の方々のようにドラゴンファルコンのスピードに合わせた攻撃は出来ない。だけど、1人で無理な事もセノさんとなら…
ドラゴンファルコンの横を並行に飛んでいたシーアから、剣を振りかざしたセノさん。
「うわぁっ…」
剣はバードイーヴィルの持つクロスボウに直撃し、そのままクロスボウは地上へ落下していった。私はすぐさま構えていた弓で動きが低下したドラゴンファルコンの翼あたりに矢を連続して射った。
…よしっ!
矢は肩に突き刺さり、ドラゴンファルコンとバードイーヴィルは急降下していく。
その時だ。
「キィーーーー」
…っ!!
クロスボウの矢が体に数本突き刺さったドラゴンイーグルが騎士を乗せたまま落ち、ずぶ濡れの地面に勢いよくぶつかった。
ヌブルー騎士団と違い、彼らは私達を殺しにきている。確実に仕留める為に心臓や首を狙い、勝利することだけを考えている。きっと、数頭のドラゴンイーグルが手に入れば、セノさん以外の人間やドラゴンイーグルが死ぬことに何の躊躇いもないんだ。…まさに人間兵器だ。
「ベナス!そろそろ守備強化に切り替えるぞ!」
「はい!」
ツマーサ騎士団長の指示で、ベナス副団長や騎士達は攻撃を止め、バードイーヴィル達から逃げるように空を上下左右に飛び回り始めた。容赦なく飛んでくるクロスボウの矢を避けることに集中している。
どうして攻撃しないんだろう…。
高速の攻撃を避けきれず傷を負う者もいたが、それでもベナス副団長達は守備を徹底した。その間、セノさんがドラゴンファルコンへの攻撃を担い、動きを鈍らせ飛行不能にしたことで、バードイーヴィル達は次々と地上からの攻撃変更を余儀なくされた。
そして徐々にバードイーヴィル達から放たれる矢の数は減っていき、気付けば為す術なくクロスボウを下に向けていた。
「弓使いの弱点は、矢が無くなれば戦闘不能になること」
ドラゴンファルコンへの攻撃を止めたセノさんはそう言った。
「相手の矢を無くすために、あえて攻撃をせず守備に徹したということですか?」
「そゆこと。見た感じ、クロスボウ以外に持っているとしたら短剣ぐらいだろうと思ったからな。攻撃することだけが勝つことへの近道じゃねーってことだねー」
「…勉強になります」
ツマーサ騎士団長を中心に騎士達が空中から地上にいるバードイーヴィル達に向かい弓矢を構えた。
ただ1人空に残っていた赤髪の男はゆっくりと地上へ降りていく。
「これ以上無駄な戦いをするつもりはない。…降参でいいか?」
「構わない。ここで殺すなり、拷問するなり、好きにすればいい」
いつのまにか雨は止み、雷の音も消えている。そして、戦いの終わりを告げるかのように、雲の切れ間から太陽の光が差し込んできた。
セノさんはシーアから降りて、ドラゴンファルコンにもたれて座る赤髪の男の目の前にしゃがみ話しかける。
「心優しいヌブルー騎士団がそんな残虐なことするわけないだろ。……俺のこと仲間にしたいって言ってくれたけどさ、俺も君たちを仲間にしたいのよ」
えっ、セノさん何を言っているの…。
「…何をふざけたことを言っている。馬鹿にするな」
「いやいや、至って真面目に言ってるよ?君らがキグアに戻りたいなら話は別だけど」
「…あそこ以外に俺たちの居場所はない」
「それは思い込みだわ。君たちの強さを必要とする場所は他にもあるんだよ。俺はね、そのずば抜けた強さを悪事に使うんじゃなくて、人助けに使ってほしいわけ。仲間になってくれたら即戦力だし、すげぇ助かるんだけどなぁ」
「俺たちのような生い立ちの人間が、騎士団として生きられるわけがない」
「まぁ、普通の騎士団ならそうだよな」
あ、もしかして……
「俺、普段はここじゃなくて他の州に住んでんだけど、そこの騎士団が人手不足で困ってんの。そこはさ、立場や生い立ちなんか関係なく、個々の強さを認めて受け入れてくれる。君らの好きな実力主義ってやつだから、騎士団長になるのも夢じゃねーよ」
「……。」
セノさんの提案に、バードイーヴィルの人達はまだ疑いの表情を浮かべている。
無理もないだろう。私だってある程度の身分がなければ騎士にはなれないとずっと思っていた。しかし、セノさんのおかげでヨグリ騎士団長と出会い、新しい騎士団の形を知ることができた。だから、私にも伝えられることがある…。
「…あの!この人…セノさんの言ってる事は本当ですよ。私もその騎士団の事を知っていますが、とても素敵な団長と副団長をはじめ、勇敢で優しい方々が州を守るために日々頑張っています。きっと、あなた達みたいな強い人が仲間になってくれたら本当に救われると思う」
そして知ってほしい。この世界には、あなた達の知らない人やモノで溢れていることを。沢山の優しさと笑顔が満ちていることを。




