身勝手な大人
バードイーヴィルの襲来から10日が過ぎた。ヌブルー州内のパトロールは強化され、騎士団の訓練はバードイーヴィルとの戦いに向けた内容になっている。
セノさんが予想した通り、バードイーヴィルは“キグア”という地域の人間達によって構成されていることが分かった。
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キグアだと判明した日、セノさん達は納得した表情で話をしていた。
「もし他の州にあいつらが来てたら、多分もっと犠牲者が出たろうな。ドラゴンファルコンにクロスボウ…鳥騎士のお前らだから互角に戦えた」
「そ、そうかもしれません」
「空中戦だけは、負けられませんからねぇ」
キグアって、そんなに凄いところなの?
「あの…勉強不足で申し訳ないのですが、キグアは一体どんな地域なんでしょうか?」
「キグアは、ホマント国の一部なんですー」
ホマント国って…小さな国だけど冷酷な武力国家だと父さんが前に言っていたような。
「キグアの人口は少なくて、貧困問題も深刻で…だけど、個人個人の武力だけは凄まじいんですよぉ」
「…武力だけは…?」
「理由は簡単。…戦争や紛争のためだけに生かされてきたから」
セノさんの言葉に一瞬思考が止まってしまう。
「え…」
「ホマント国が13年前に大きな戦争を起こしたのは、お嬢ちゃんも知ってるよな?」
「はい…」
「そん時に相手の国から何人もの子供を人質として拉致したわけ。ま、元々戦争が終わっても返すつもりはなかったんだろうけど」
「拉致された子供達はキグアに集められ、そこで重労働をさせられながら、戦力になるための厳しい訓練を受け続けたんですよぉ。…簡単に言えば、今後起こる争いに向けて人型の兵器を大量に作り出すのが目的だったんですね」
「そんな……。じゃあ、バードイーヴィルは子供の頃に拉致されて、酷い扱いを受けた人達ってことですか…?」
「だろうねぇ。青髪の三つ編み男の首に黒バラのタトゥーがあった。あれは、拉致された子供達に強制的に入れられたもの」
バードイーヴィル達の言葉に闇を感じたのが腑に落ちる。
「…でも、戦争はとっくの昔に終わってますし、ドラゴンファルコンに乗って自由に移動出来るってことは、自分のいた国や地域に帰ることだって…」
「洗脳」
「…っ」
「いつ自分が殺されるかもわかんねぇ極限状態で、毎日毎日ホマント国の戦力になることが生き抜く方法だと聞かされたら、正常な判断失うだろ。それに目の前で親を殺された奴も沢山いる。大人になったところで、今さら戻っても自分達を待ってる人間がいないのを分かってんだよ」
そんなの酷すぎる…。
「か、彼らがドラゴンイーグルをぬす、盗んだ事や最近の凶悪な犯行が、ほ、ホマント国の指示なのか、彼らの独断なのか分かりません。悲惨な過去に同情の気持ちはありますが、その…だからといって、一連の出来事を許すことはできません…」
「自分達の争いに無関係な子供巻き込んで、人生狂わせて……大人ってのは、つくづく勝手だよなぁ」
「……。」
他国で起きた出来事だとしても、同じ大人として思う事が沢山あるんだろうな…。
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訓練終わりの夕方、団長室ではセノさん、ツマーサ騎士団長、ベナス副団長で話し合いが行われていた。
セノさんの弟子とはいえ、本来騎士でもない私がこの場にいるのは間違っているのだが、セノさんの指示で参加させてもらっている。
セノさんは基本的に、大人や上の立場の方々と大事な話をする際、子供だからといって除け者にせず、必ず私もその場に付き添えるようにしてくれるのだ。それはきっと、重要な会話を生で聞くことで、技を磨く以外にも騎士団長になるために必要なことがあると、セノさんなりに伝えようとしてくれているのだと思う。
「そろそろ現れると思うんですけどねぇ」
「来ない方が平和だけどなー。つーか、またあの人数で来んのかな?三つ編み男抜いて6人だったっけ?」
「は、はい、そうでした」
「襲撃された他国の情報でも、10人以下だと聞いているので、大勢で来ることはないと思いますよぉ」
だとしたら、騎士団は人数を増やして、勝つための戦力を上げるのが得策よね。
「ボ、ボクが気になっているのは、その、セノさんが狙われる可能性が、高いというこです」
え…
「おそらくあの赤髪のおと、男がリーダーだと思うのですが、セノさんの強さを知った途端、す、すぐに撤収の判断をしたんです。きっと今、か、彼の中でセノさんを倒せば勝てる、と考えているかと…」
「えぇー、俺狙われてんの?やなんだけどー」
真剣な話し合いの場でも、セノさんは相変わらずののんびりムード。
「だってあの赤髪君、弓使いの技もスピードもラクリカとおんなじレベルでしょ?そんな奴に狙われるとか無理無理」
またこの人は…。……あの赤髪の男は、ツマーサ騎士団長との一騎打ちよりもセノさんを倒すことを優先するんだろうか。
「前回の要求はオレ達のドラゴンイーグルと弓矢でした。そこに今回は仲間を返すことが加わりますぅ。きっと前回以上に本気で来るはずですから、セノさんのお力は必ず必要ですよぉ」
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宿へ帰る途中、一歩前を歩くセノさんは私に聞いてきた。
「毎日訓練に参加してっけど、どう?弓の感覚掴めてきた?」
「そうですね…少しずつですが、確実に上達しているんじゃないかと思ってますが……どうですか?セノさんから見て」
私の弓使いがセノさんや騎士団長達と雲泥の差なのは理解している。ただ、私なりに技を吸収し、磨いてきたつもりだ。
「うん、すげぇ成長してると思うよ。命中率上がってるしね」
ホッ…良かった。
「今度バードイーヴィルと対戦する時も前回みたいにシーアちゃんの上に2人で乗ろうと思うのよ」
つまり前回同様、私は自分の身を守ることに専念よね。
「でさ、俺は剣で対応するから、お嬢ちゃんは後ろから弓で攻撃よろしくー」
「……えっ!?…それは、私もバードイーヴィルと戦うということで…合ってますか?」
「うん。もちろん、ある程度俺が指示出すけど」
「……ありがとうございます!」
まだ一対一で通用するレベルじゃないのは自分でも分かっている。それでも、戦力として認めてもらえたことが嬉しい。
「参戦する上で一つだけ約束がある。分かってるよな?」
「…死なないこと」
「そ!それさえ守ってくれたら、何が起こっても俺がどうにかするから」
こんなにも心強い言葉があるだろうか。
†
2日後の昼過ぎ、休憩時間に騎士団本部の廊下の窓から外を見た私。
まだ降ってる…。
今日は朝から雨が降り続き、昼間なのに空は黒い雲で覆われている。
…あ、雷。
雷まで鳴り始め、どんどん嫌な雰囲気になっていく。そんな私の視界に何かが入り込んできた。
「……え、あれって…」
その光景にゾクッとし、身体に力が入る。
空から近づいてくる黒く不気味な集団……あれは紛れもなくバードイーヴィルだ。
私は震えそうになる身体を団長室へ走らせ、ツマーサ騎士団長達に知らせる。
コンコンッ…
「失礼致します!…バードイーヴィルが…バードイーヴィル達が襲来してきました…っ!!」
私の言葉にツマーサ騎士団長とベナス副団長は立ち上がり、セノさんはソファに座ったまま窓の外を見た。
「ほ、本当ですか!?」
「まさかですぅ。騎士団本部に直接来るなんて…」
「…私が見た限り、数が前回よりも多いです。20人は超えているかと…」
「数で勝負が通用しなくなりそうですねぇ。…団員を招集し、戦闘態勢を整えます。セノさん、リアノさんも準備よろしくお願いしますー」
「はい!」
「りょーかい」
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シーアを連れセノさんと屋外の練習場へ移動すると、荒れ狂う空の中ドラゴンファルコンに乗ったバードイーヴィルの集団が待ち構えていた。人数が増え、前回よりも不気味さが増している。
ドラゴンイーグルに乗り上空へ現れたヌブルーの騎士は約30名。弓矢を持ち、別人のようなツマーサ騎士団長に赤髪の男は声を掛ける。
「約束は守ってくれたか?」
「あぁ、お前たちの仲間は生かしている」
「それについては礼を言う。…今回ここに来た目的は3つ。弓矢とドラゴンイーグルを手に入れること、仲間を取り返すこと、そして…あそこにいるおっさんを捕らえて仲間にする」
赤髪の男はセノさんを見ている。
え……
予想外の内容に私達は言葉を失った。




