不気味な笑み
私とセノさんは今、ヌブルー州最北端の海にいる。月に照らされる夜空では、ドラゴンイーグルに乗ったヌブルー騎士団とドラゴンファルコンに乗ったバードイーヴィルが対峙している。
「やっぱドラゴンイーグルはデカいなぁ」
そう言ったバードイーヴィルの赤髪の男は、ツマーサ騎士団長に向かい言葉を続けた。
「あんたが乗ってるの1番デカい。もしかして、あんた騎士団長?」
弓矢を持つツマーサ騎士団長は男の問いかけに、いつもとは別人のような冷静なトーンで答える。
「あぁ。…我々のドラゴンイーグルを盗み、悪事に利用した。その事実は合っているか?」
口調は落ち着いているが、怒りを含んでいるのが伝わった。
「盗んだって言っても、いっぱいいる内のたった2頭。それに、ドラゴンファルコンを作り出すために有効活用したから、その解釈は違う」
全く悪いと思っていない発言を聞き、私は眉間に皺を寄せた。
この人達…一体何を考えているの?…そもそも、彼らの目的は何なの?
「ドラゴンイーグルを利用し、ドラゴンファルコンを生み出したことは、この際どうでもよい。問題なのは、お前達が罪のない人々を苦しめたことだ」
バードイーヴィル側の青い髪を三つ編みにした男がツマーサ騎士団長に向かい、小さな声で喋り出した。
「ボクらは相手が困らない程度の金と食料しか盗んでないんだけど。それに苦しめたって言うけど、苦しんでるのはボクらの方だよ」
「いやいや、君ら拉致や人殺ししてるじゃん」
べナス副団長もいつもと違い、鋭い目つきをしている。
「何百人殺したわけでもないのに責めてくるんだ。いいよね、騎士団はモンスターだけ殺しておけば褒められて」
言葉の端々に闇を感じる…。
「賞賛のためにモンスター討伐をしているわけではない。国民を守るためことが我々の使命だ」
「綺麗事言ってるとこ悪いけど、無駄な戦いをするつもりはないんだよなぁ。ドラゴンイーグルとその立派な弓矢を渡してくれたら、ここから大人しく去る」
赤髪の男は無茶苦茶な提案をしてきた。
「そんな馬鹿げた要求を我々が呑むと思ったか?ドラゴンイーグルはもちろん、この国のものは何一つ渡さない。…その命が大切なら今すぐ去れ」
ツマーサ騎士団長の言葉にバードイーヴィルの7人は萎縮するどころか、ドラゴンファルコンの翼をバサバサさせ戦闘態勢に入った。
「じゃあ戦おう」
赤髪の男達は、口元が見えなくても分かるぐらいの不気味な笑みを浮かべ、クロスボウを構え始める。
私とセノさんを抜いてヌブルー騎士団は6人。ツマーサ騎士団長を中心に、6人は弓矢を持ち横一列に並んだ。
「…べナス、生きたまま捕えるぞ」
「はい」
「皆んな!向こうの戦法が分からないが、いつも通りやるまでだ。気を抜かず全力で行くぞ!」
「はっ!」
キーサー君の甲高い鳴き声を合図に空中戦が始まり、騎士団が一斉に矢が放った。
…!!
しかし、バードイーヴィルはほとんどの矢を避け切った。そして、そのまま高速で移動しながらクロスボウから矢を放つ。
「速い…」
シーアに乗り、空中でセノさんと対戦の様子を見ている私は、初めて目にしたドラゴンファルコンの速さに圧倒されてしまう。
「予想以上に速いねぇ」
私の後ろで剣を持つセノさんは、バードイーヴィルの動きをじっと見ている。
弓矢のスペシャリスト、ブルーバードの矢が次々と避けられ、高速移動の中からクロスボウの矢が飛んでくる。
唯一、ドラゴンファルコンとバードイーヴィル達の身体に矢が当たるのは、ツマーサ騎士団長とべナス副団長だけだ。だが、2人の矢でさえ今だに深く突き刺さってはいない。
「ぐわっ…」
騎士団員の右肩にクロスボウの矢が突き刺さった。
「大丈夫かっ!?」
「…はい、まだいけます!」
✳︎
目の前で何本もの矢が交差し、ドラゴンイーグルとドラゴンファルコンが自由自在に飛び回る。
すごい…、あのヌブルー騎士団と矢で互角に戦っている。
「…私たちもそろそろ加勢した方がいいですよね」
「んー、そだなぁ。俺がシーアちゃんに指示出すから、お嬢ちゃんは後ろに乗って矢が自分に来た時は対応してくれる?」
「えっ、私も戦いますよ!?べナス副団長に渡された弓矢もありますし」
「いやいや。少し見た限り、バードイーヴィルの奴ら結構厄介そうなんだよねー」
「…私が、足手纏いになるってことですか?」
「そんなこと言ってねーじゃん。…お嬢ちゃんがその辺の若い娘より余裕で強いのは知ってる。騎士団長を目指して強くなりたいことも。だけどね、前に出会した窃盗集団とはレベルが違うんだよ」
「……。」
つまり、窃盗集団に怪我をさせられたレベルの私にバードイーヴィルの相手は無理ってことか…。
「はい、落ち込まなーい。…分かってよ。弟子の命を守ることも俺の大事な役目だってことを」
これ以上駄々をこねても意味がない。今の自分のレベルを理解して、この悔しさを糧にしなくちゃ…。
「…分かりました。何かあれば指示お願いします」
「ん、了解。…さ、シーアちゃん。ひと頑張りよろしくねー」
私と位置を交代したセノさんは、シーアの身体を優しくトントンした。シーアはそれに答えるかのように力強く翼で音を立てる。
セノさんは、赤髪の男と一騎打ちの状態になっているツマーサ騎士団長に声をかけた。
「ラクリカ、俺ひとまずあの三つ編み男相手するから」
「承知しました。よろしくお願いします!」
戦闘中のツマーサ団長…普段と違いすぎて同一人物か疑うレベルだ。でも凄いな…、一対一で戦いながら、ちゃんと周りの団員に的確に指示を出してる。これが訓練中には見ることのなかったツマーサ騎士団長の牽引力。
「つーわけで…やろっか」
セノさんに話しかけられた青髪の男は、動じることなく小さな声で喋り出す。
「ボクのこと指名するなんて変わってるね。…若い女後ろに乗せたおじさんと戦うとかウケる」
「そりゃどーも。…見てた感じ、あの赤髪君がリーダーで、君が2番手だと思ったんだけど合ってる?」
「答える必要がないんだけど。はぁ…さっさと終わらせようよ」
クロスボウを構えた青髪の男を乗せるドラゴンファルコンは、私たちの周りを高速で旋回し始める。
やっぱり、驚異的なスピードだ…。どこから矢が来るのか…。
「シーアちゃん、格の違い見せつけてやってよ。お嬢ちゃん、しっかり掴まってて」
シーアはスピードを上げ、旋回する部分に真っ直ぐ突っ込んでいく。
えっ!?
シーアがドラゴンファルコンに近付いた瞬間、セノさんが剣を縦に振り落とした。
「キィーーー」
ドラゴンファルコンの叫び声が響き、そのまま青髪の男とともに砂浜へ落ちていった。おそらくセノさんの剣が刺さったのだろう。その後を追いかけながら「お嬢ちゃん、弓!」と私から弓矢を奪ったセノさんは、ドラゴンファルコンの翼に矢を2本放った。
矢が突き刺さり、砂浜に張り付けられる形になったドラゴンファルコンから青髪の男が転がり落ち、シーアから飛び降りたセノさんは、男めがけて剣を振りかざした。
「…っ!!」
剣は砂浜の上に仰向けになった男の首横に突き刺さっている。セノさんの圧倒的な強さに男は言葉を失った。
「……。」
「…生きて捕えろって、団長からの指示なんでね」
厄介だと言っていた相手を一瞬で…。そして、殺さない手加減まで余裕で出来てしまうの…さすがセノさんだ。
✳︎
青髪の男とドラゴンファルコンを拘束している時、空中で副団長とももに戦っていた団員の1人が「ぐわぁぁ」と叫び声を上げた。
…っ!?
空を見ると、団員がドラゴンイーグルから落ちていく姿が目に映った。その体には矢が数本刺さっており、そのまま勢いよく海の中へ落ちてしまった。
団員の乗っていたドラゴンイーグルが助けにいこうとするが、バードイーヴィルの矢が容赦なくその体に突き刺さり、波打ち際に落ちていく。
「…はぁっ…ぷはぁっ…」
矢の刺さった団員は海の中でもがき苦しんでいる。
どうしよう、あのままだと溺れ死んでしまう……っ!!
セノさんがシーアに乗り、海へ飛んでいくのが視界の隅に映った。




