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空に墜ちる -帰投は迷い家のあとで-  作者: 琉斗六


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2-2:かまいたち

 川べりに生えている樹木を選び、パラシュートのラインを利用してイノシシを逆さに吊るす。

 最初は人力で枝にラインを掛けてから引き上げようとして、びくともしなかったが……。

 イノシシの足をラインで縛ったあと、真壁に収納してもらって出し直すと、苦もなく理想の形になった。


「木がギシギシいってますね。ラインより先に、枝が折れそう……」

「こいつが持ち上がるなら、軽自動車持ち上げられそうな気がしてきた……」

「それで、逆さにしてどうするんですか?」

「そりゃまぁ、首を切って血抜きを……」


 そこまで言いかけて、若桐は頭を抱えた。


「いや、無理だこれ!」

「どうしたんですか?」

「サバイバルキットもないのに、どうやって首を切るんだよ! ナイフないじゃん」

「ナイフ……」

「石……をナイフに? いや、そんなん研ぎ上がる前にイノシシ腐るんじゃねぇの?」

「守さん。首って、ちょこっと切るんですか? スパッと切るんですか?」

「スパッと行ければ楽だが、フツーにサバイバルナイフ持ってたって、ちょこっとしか切れないぞ?」

「じゃあ、スパッと……」


 真壁が手刀の形にした手を横に薙ぐと、スパッとイノシシの首が落ちる。

 ぼちゃ……と水音がして、切れたイノシシの首が川下へ流れていく。

 そのあとを追うように、滴った血が川に赤い筋を描く。


「はい……?」


 若桐は、状況が理解できずに固まった。


「百合緒さん……、今……、……なにが起きたの?」

「こう……、音速出すと、翼の後ろに気流が出来るじゃないですか」

「うん? うん……」

「その空気の渦がぐるぐるってなると、かまいたちみたくなってものが切れる……みたいな?」

「はっ?」

「なんか、出来そうな気がしてたんです」

「待って……、待って、待って。それって、つまり、おまえはなんにも道具がなくても、ナイフの代わりが使えちゃうってこと?」

「そう……なりますかね?」

「……おまえは本当に、天才肌と言うか……。感覚派と言うか……」

「思ったより大きく切れたから、ちょっとあっちで練習してきますね」


 血抜きが終わるまで、真壁は離れた場所で〝かまいたちナイフ〟の練習をしていた。

 ほどなく血抜きが終わったイノシシは、若桐の指示で真壁が的確に切り分ける。

 イノシシは適宜な形に解体された。


「じゃ、火起こしすっか」

「手から火は出ないんですかね?」

「……なあ、百合緒。おまえ、やっぱりデカくなってるぞ? 視線が俺と同じ高さになってる」

「あ、ホントだ。なんだろう? 夕方になると元に戻るんですかね?」

「なんだ、シンデレラか?」

「もう〜。僕をオンナノコ扱いしないでください」

「なんで? 百合緒は俺の〝オジョウサン〟だろ?」


 くいと顎に手を当てて、若桐は真壁の唇に〝ちゅっ〟とキスをする。

 真壁は顔を赤らめた。


「どうした?」

「あ……、いえ……。ちょっと、色々あって疲れたなって思ってたんですけど、守さんにキスしてもらったら、なんか元気出ました」


 集めてこんもりと山積みにした枝に向かって、真壁が人差し指を向ける。

 ぼうっと、炎が立ち上がった。


「うわ……、ホントに火ィつけやがった」

「アフターバーナーの応用っぽいです」


 若桐が枝に刺した肉を並べる。


「そういえば、守さん。先刻、葉っぱを摘んでましたけど?」

「食えるって出てたから。肉の臭み消しに使えるかなって」


 炙った肉を渡されて、真壁はかぶりついた。


「ん〜……、味がないです」

「なかないけど、塩が欲しいな」


 若桐は「はははっ」と笑った。


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