1-3:イーグル
「や……。……待て、待て、待て……。投げたら飛んだの時点から、変だろう?」
「変ですね」
少し考えてから、若桐は手を広げた。
「ちょっと、いいか……」
「はい」
若桐は、真壁の体を抱き上げる。
(あれ? 先刻より重い……?)
とはいえ、イノシシの圧に混乱していたことを考えると、重さは勘違いかもしれない。
(それ以前に、なんであの距離のイノシシの気配に気付いたんだ?)
ふと、疑問が頭を掠める。
逃げている時に思考する時間が出来た程度に、イノシシと距離があったはずだ。
「守さん、そのままちょっと前に出してください」
親戚の子供が、ヒーローごっこで抱き上げられたようなポーズのまま、真壁が言った。
「前に?」
「こう……前後に揺するような感じで、僕を前に出したところで手を離してください」
「危ないぞ?」
「じゃあ、あの、柔らかそうな草が生えてるところに向かって、軽くぽいっと。ちゃんと受け身取れますから」
「わかった」
ゆるゆると真壁の体を前後に揺すって、若桐はほいっとその小さな体を投げた。
「うわっ!」
すうっと、真壁が水平に──地に足をつけずに移動している。
「どうなってんだ?」
「わかりません。でも、こうして……」
〝キィィィィィィン……〟
と、戦闘機が……まるでタキシングして滑走路に移動するような、聞き慣れたエンジン音が響く。
ザザザ……と、受信の悪い無線のような音が、耳に聞こえたような気がした。
〝……R……〟
囁くような、小さな声。
「えっ? なに……?」
〝V2……、離陸します……〟
ハッとした時には、真壁の体が上空へと舞い上がっている。
「百合緒っ?!」
「はいっ! 無線クリアです!」
「む……無線?」
「えっと……、僕、今、イーグルに乗ってるみたいな感じなんです」
「え……?」
先程まで、両手をちょっと広げて、自身が戦闘機になった──一種、子供が夢想するポーズでふわふわしていた真壁が──
今は間違いなく、F-15の機影になっている。
「装備あるのか? サバイバルキットは?」
「乗ってる時、それ確かめるの無理ですよぅ」
「そういや、そうか……。てか、俺には装備がないのに、なんでおまえと会話出来るの?」
「さぁ? でも、堂島の読んでたラノベみたいですね。異世界チートっていうやつです」
「そんなの読んでるの?」
機体が着陸モードに入り、ランディング・ギアが出た……ように見えたのは一瞬で──
すとんっと、若桐の前に真壁が降りてきた。
※
タキシング:航空機が離陸もしくは着陸した時に、地上を車輪で移動すること。
サバイバルキット:操縦席の下にある。無線機・医療キット・浄水器・非常食・一人用ボートなどが入ってる。
ランディング・ギア:F-15戦闘機が着陸する時に出る車輪。




