1-2:ロックオン
二人が空を見上げていると、カサリと草木を踏む音がした……ような気がした。
そちらを見た若桐は、咄嗟に真壁を抱き上げると場を離れようと踏み出す。
「守さんっ!」
叫んだ真壁の声に思わず振り返ると、かなりの速度で軽自動車ほどもあるイノシシ……のようなものが、こちらに向かって走り出したところだった。
「デカすぎんだろ!」
走りながら、若桐が叫ぶ。
そもそも大きさ以前に、伸びた牙の長さがマンモスのようだ。
「駄目です、守さん! 追いつかれますっ!」
イノシシに背を向けて走る若桐と違い、抱えられている真壁は相手を見ている。
(真壁だけでも……)
そう考えた若桐は、走りながら真壁を抱える腕を持ち替えた。
「百合緒、逃げろっ!」
視界に入った柔らかそうな草地に向かって真壁を投げ、若桐はイノシシを引きつけたまま全力で走る。
(イノシシの時速って、どんくらいだったっけ……?)
相手のサイズが異常過ぎて、遠近感もおかしい。
思ったよりは考える時間があった。
「守さんっ!」
背後から、イノシシの鳴き声と重い足音が距離を縮めてくるのが分かる。
(あの木まで、行けるか?)
イノシシが突進をしているなら、大木の手前で方向転換をすることで、相手の力を利用して倒せるかもしれない。
しかし、その手前で木の根に躓き、倒れる。
「しまった……!」
「守さんっ! 伏せて!」
真壁の声に、咄嗟に頭を下げると、傍で──まるでF-15戦闘機のエンジン音に似た轟音が響く。
「なんだ?」
驚いて顔を上げると、真壁がイノシシの眉間に蹴りを入れているのが見えた。
〝どごおおおおっ!〟
イノシシがふっ飛ばされて倒れる音が響く。
「百合緒?」
「守さん! やりました!」
「やりました……って、なにしたの?」
ぽてぽてぽてと近付いてきた真壁に、少し違和感がある。
「よくわからないんですけど。守さんに投げられたら、なんかこう……ふわっと浮きまして……」
「はっ?」
「そしたら、ぎゅんっと……こう……、なんか頭の中でシミュレーターに乗ってるみたいな感じになりまして」
「はあ……」
「イノシシをこう……翼で牽制しようって思ったら、ロックオンされたんで……」
「ロックオン?」
「なんか……よくわかんないんですけど……。……シミュレーターで、敵機にロックオンして、バルカン砲を撃つと〝撃墜〟判定出るじゃないですか」
「うん? うん……」
「あんな感じで……、イノシシの顔を見たら眉間にロックオンされて……」
「そんで、足が出たの?」
「シミュレーターのボタンを押したら、蹴ってた……みたいな? それで、足がヒットした瞬間にキル判定が出た感じです」
シミュレーターで最高得点を出した時のように、満面の笑みで真壁が言った。




