4-3:乗り物酔い
昼食を済ませたあと、若桐は「半径五キロの偵察」をしてくるように、真壁に言った。
真壁の言う通り、高さも速度もF-15ならば墜落必至のそれでも、全く不安なく飛び回る。
「イーグルなんて名前、付けてるほうが変じゃね?」
「それは僕のせいじゃないですよぅ」
「百合緒に言ってねぇよ」
視界共有の画面を眺めながら、若桐は言った。
「百合緒、八時の方向に戻ってくれ」
「なにかありました?」
「ちょっと、植生が気になるところがある。……俺が地図をタップすると、百合緒に位置情報って伝わるのか?」
「あ、なんかピンが立ちました」
「近付いてくれ……」
言われた場所で、真壁が滞空する。
(てかホバリングしてるし……。そんでもって音速で飛ぶとか、エアウルフかよ……)
若桐が目を凝らすと、そこに〝鉱泉:27度〟のウィンドウが現れた。
「よし。俺の地図にもピンを立てた。そこに行けそうなルートを考えよう」
「僕が降りて、そっちに向かいます?」
「いや、分断されるのは怖い。戻ってこい」
「じゃあ、ちょっと高度上げて、広めに詳細なマップ収集します」
「そうしてくれ」
真壁から届く上空からの映像は、若桐の目には地形の高低差まで視えてくる。
「便利っちゃ便利だが……。気持ち悪い……」
「えっ、守さん、イノシシにあたりました?」
「いや、むしろこれは、乗り物酔いに近いかも……」
「飛行機乗りが、なに言ってんですか?」
「だって……、なんかサスペンションのないバスに乗ってるみたいな気分……?」
「3D映画に酔ってる……みたいな?」
「あ、そうかも……」
「……守さん。僕が戻ってから、地図でじっくり見たほうがいいんじゃないですか?」
「あ、そうか。リアルタイムで見る必要ないな……」
「そうしてください。真壁アウト」
あまりにも基本中の基本を真壁に指摘されて、若桐は少し凹んだ。
しばらくすると、真壁が戻ってくる。
サイズがほぼ、正常値になっていた。
「大丈夫か?」
「ちょっとふらふらします」
若桐は真壁を抱き寄せ、チュッと唇を触れ合わせる。
「ちょっと元気出ました」
「ホント、おまえはおねだり上手だよ」
焚き火の傍に並んで座り、若桐は真壁を労るようにキスを重ねた。
「すごいなぁ! 地図見ただけでルートわかるとか、カーナビみたいですね!」
「あ〜、まぁ、確かに……」
「一キロぐらいですね、温泉」
「だな。今日はそろそろ日が暮れる。温泉へは、明日行こう」
「でも、ミネラル補給だけじゃ、お肉が美味しくなりそうもないですね」
「や、下手すっと硬水で激まずの可能性もあるぞ」
「そういうハズレは引きたくないですね」
若桐は、ウィンドウを閉じると、真壁の体を本格的にぐいと抱き寄せる。
「チャージタイムといきたいから、ウロん中に入ろうか?」
「え、誰も居ないんだから、ここで良くないです?」
「可愛い顔して、大胆なこと言うなぁ……」
「また僕がうとうとしてる間に、水汲みに行っちゃいやですよ」
「はいはい」
髪を撫で、若桐は改めて真壁に深く口付けた。
※
ホバリング:空中で高度や位置を保って飛行を続けること。
エアウルフ:80年代に放送されていた米国ドラマ。ヘリなのに音速で飛ぶ。




