4-2:燃費
しばらくすると、真壁が戻ってきた。
若桐の元へ駆け寄ってくる真壁は、裾から脛がでていて、腕は肘が見えている。
「ずいぶん、消費したっぽいな」
「あ、ホントだ」
裾と袖を直してから、真壁は若桐の隣にすとんと座った。
「飛んだほかに、なんかしたか?」
「してないです。……でも、守さんと視界共有してるのとかに、使ってる可能性はありますよね?」
「あ〜、スマホが通信してると電池消耗してる……みたいな感覚か?」
「それです、それです」
「だが、共有は絶対だから、それは基本消費エネルギーとみなした方がいいだろうな」
「なるほど」
「海までの距離と、消費魔力を計算すると……」
「え、なんですか、それ? タブレットみたい……」
若桐の前に、マップと同じような画面が出ているが、指で数値を書くと表計算のように入力されていく。
「おまえが昨日、ナイフ出したり、ライターみたく火付けたりしてるの見て、俺もなんか応用出来ないかなって考えたら、出来るようになった」
「なんか、異世界に来ても、守さん仕事してるみたい……」
「仕事より深刻だ。百合緒の命が掛かってる」
そこで燃料計算をしている若桐の肩に、真壁はそっと頭を預ける。
若桐は、片手で計算を続けながら、もう片手で真壁の頭を撫でた。
「F-15の燃費と、ほぼ同じって計算で良さそうだ」
「それなら、いつもの肌感覚で飛べそうです」
「あと、先刻の嫌な感じのする洞窟だけどな」
「はい」
「百合緒は気軽に〝二時の方向〟つったけど、イーグルで飛んでる時に、方位は出てるのか?」
「出てます。太陽の位置と、方位盤の指針を合わせると、方位の感覚もほぼ同じですね」
若桐は黙り込んだ。
環境が自分たちのいた世界と似すぎていることに、作為的なものを感じたからだ。
「守さん?」
「いや……、なんでもない。方位が同じなら、洞窟はここから北東東寄り四キロってとこか」
「ですね。行くんですか?」
「そうだな。行くにしても、明日以降だ。水や食料の確保もあるが、まず最初の目標は塩だ。出来れば岩塩でもありゃいいが……」
「僕が海まで行って、パラシュートとラインで汲んでくるのはどうでしょう?」
「莫迦、墜落したらどうすんだ!」
「体感的に、音速も出るけど、時速三キロぐらいまで落とせると思います」
「それ、子供の歩く速度だろ。なんで墜落しないんだよ?」
「飛行機じゃなくて、魔法だからじゃないですか?」
「……やっぱり、意味がワカラン……」
若桐は首をかしげて固まった。
が、そこはいつもの若桐らしく、切り替える。
「速度がそこまで落とせるなら、むしろこの近辺を低空で詳細に調べた方がいいかもな。俺は共有した画面越しでも〝情報の精査〟が出来るし」
「上空から、塩が見つかりますかね?」
「探すべきは、湯気だ」
「なぜです?」
「塩が欲しいのは、肉に味付けがしたいからじゃない。体からミネラルが失われるのが怖いからだ。人里がないが湯気が出てるってのは、つまり温泉がある」
「そうか、温泉のお湯にはミネラルが含まれますもんね。それに、守さんと温泉とか、楽しそうです」
「おまえはホント、そーいうところがポジティブで羨ましいよ」
若桐は、真壁の頭をぽんぽんっと叩いた。
※
クロックポジション:自分の進行方向(正面)をアナログ時計の文字盤で12時を基準にして、目標や対象物の位置を知らせる手法。二時の場合は右前方60度。




