4-1:探索
真壁のブカブカしたフライトスーツの背中を掴む。
「じゃ、行くぞ」
「はいっ!」
若桐が腕を揺すると、脳内に〝V1……、VR……〟と声が響く。
「V2……、離陸します!」
「行ってこい!」
手を放すと、真壁がぱっと空へと舞い上がった。
真壁の姿は、若桐の手が離れてすぐは〝人型〟のままだ。
だが上空まで上がると、そこにはF-15の機影がある。
「よっく見てても、変身も変形もしてねぇんだよな……」
そもそも、高さ二メートルぐらいに上がった時点で、機体のシルエットになってはいるが。
大きさが〝真壁の身長〟ぐらいしかない。
しかし巡航高度に上がった時点で、見慣れたシルエットに見えているのだ。
(上空だと、19メートルになってるってこと?)
首を傾げる若桐の耳に、真壁の声が届く。
「無線クリア!」
「おう、聞こえてる」
「視界クリア」
「これって、リアルタイムで視界の同期とか出来るんかな?」
地図を出すと、画面が二分割されていて、固定マップとリアルマップが表示される。
「あ、出た」
「守さん、あれ、海じゃないですか?」
真壁の視線が上がったのか、真下からのカメラアングルが正面へと映った。
「どうかな? デカい湖の可能性は?」
「浜名湖が海に見えたこと、ありませんよ?」
「カスピ海クラスだとわからんし……。てか、おまえ今、高度どれくらい?」
「千ぐらいですけど。……でもカスピ海なら塩湖だから、塩は取れますよ?」
「カスピ海ならな……。そのイーグルちゅースキルが、ホントにF-15の機体性能なら、高度は一万以上に上がれるが……」
「上がりますか?」
「見た目がF-15でも、実態は生身の人間だしなぁ。とりあえず五千を目標に上がってみて、途中で息が苦しくなったりとかしないか、確かめながら進もうか」
「はい。上昇します」
リアルマップの視界が、どんどん広がっていく。
「うわ……、こんだけ上がっても、建物一つ見えないとか……」
「守さん、やっぱり海です。対岸が見えません」
「距離は?」
「それほどないですね。ホエールに海水汲んでみますか?」
「着水出来ないのに、どうやって汲むんだ? 着陸しちゃうと、俺がいないと飛べないだろ!」
「そうか……。目で見たものが収納出来るわけじゃないですもんね」
「偵察は許可するが、収集は却下。オーバー?」
「了解です」
移り変わる景色を見つめながら、若桐は考え込んだ。
真壁が〝F-15の巡航速度〟で飛び、高度を五千まで上げても、人里が一切見えない。
これは、かなり問題だ。
(この拠点にしばらく腰を据えて、旅の準備を整えるべきか。……いっそ、なにもないなら、移動をするべきか……?)
ナイフすらないのが、かなり痛い。
真壁はイーグルで遠距離移動が可能だが、海水の件で〝着陸したら戻れない〟ことを、改めて認識した。
(つまり、離れて活動することを考えちゃ駄目ってことだな)
森の中の脅威も、どの程度かわからない。
(食うものは、俺が選別できる。だが、飲料水はある程度の量を確保しておくべきだな。ホエールを使えば、かなりの量の物資を運べるが……。傷みが出るものは長く維持出来ない。……やっぱり、ここを拠点に、しばらく準備をするべきか……)
ジジッと、脳内に無線音がする。
「こちら、真壁」
「おう、どうした?」
「えっと……、守さんにも見えるかな? 二時の方向に岩肌が見えて、そこに洞窟っぽいのが見えるんです」
「ああ、あるな」
「なんか、そこから嫌な感じがします」
「嫌なじゃわからん」
「イノシシと同じ感じです。……なんとなく、脅威みたいな?」
「距離は?」
「拠点から四キロぐらいです」
「了解」
「なんでしょう? 異世界ですから、ダンジョンとかですかね?」
「それ、無線でする話?」
「あ〜、そうですね。戻ったら説明します。真壁アウト」
「はい、はい」
若桐は、一つ息を吐いた。
※
V1:離陸決心速度。まだ滑走路内で安全に止まれる速度。
VR:機首上げ速度。前輪を地面から放せる揚力が充分に発生した速度。
V2:安全離陸速度。失速せず安全に上昇が続けられる速度。




