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圧縮と解放

魔力の圧縮。

僕はこの技術を――魔力弾と呼ぶことにした。

単純だが、性能は凄まじい。


詠唱不要。

高速発動。

そして、上級魔法を超える破壊力。


普通なら大発明だ。

だが、問題がないわけじゃない。


「……燃費が悪すぎる」


僕はため息を吐いた。

魔力弾一発に必要な魔力量は、上級魔法一発分。

今の僕は五歳とはいえ魔力量はかなり多い方だが、それでも限界がある。

一日に撃てる上級魔法はせいぜい五回。


つまり、魔力弾も五発が限界だ。

五発。

短期決戦なら十分。


だが、長期戦になれば話は別だ。

相手が大量にいたら?

自分より格上だったら?

五発で仕留めきれなかったら終わる。


「威力は完璧。でも継戦能力がない」


魔法と同じだ。

結局、切り札止まり。

便利ではない。


だったら、どうする?

僕は考える。

もっと効率よく。


もっと実戦向きに。

もっと、殺しやすく。

そして一つの答えに辿り着いた。


「……魔力そのものを武器にすればいいんじゃないか?」


剣。

槍。

斧。


武器の形に圧縮した魔力を固定する。

そうすれば、毎回撃ち出す必要はない。

一度形成すれば、維持するだけで済む。


維持コストの方が安ければ、長期戦にも対応できる。

悪くない。

むしろかなりいい。


問題は、形状変化が可能かどうかだ。

魔力弾は基本的に球体。

圧縮すると自然と丸くなる。

だが、理論上は形を変えられるはずだ。


僕は手のひらに魔力弾を作る。

黒く輝く高密度の球体。

それを見つめながら、意識を集中させた。


球体を崩す。

伸ばす。

角を作る。

平面を作る。


魔力を一粒一粒、粘土のように動かしていく。

……難しい。

想像以上に難しい。


少しでも集中を乱せば、すぐ球体に戻ろうとする。

汗が額を流れる。

魔力制御に全神経を注ぐ。


数分後。


「……できた」


手のひらに浮かぶのは、小さな四角形の塊。

成功だ。

確かに形を変えられた。


だが。


「遅いな……」


球体から四角形。

たったそれだけで三分。

これを剣状まで持っていく?


何時間かかるかわからない。

実戦では使い物にならない。

でも、できないわけじゃない。


だったら答えは一つ。


「練習あるのみだな」


僕は笑った。


努力。

反復。

最適化。


前世でも、才能だけで成功する人間なんて一握りだった。


大半は積み重ねだ。

なら、僕も積み重ねるだけ。

世界を壊すその日まで。



――あれから二年。


僕は七歳になった。

人気のない森の中。

僕は右手を前に出す。


魔力を集める。

圧縮。

形成。

変形。


一秒もかからない。

掌に浮かんだ魔力弾が、一瞬で形を変える。


四角形。

三角形。

長方形。

柱状。


そして――細長く鋭く。


「だいぶ慣れてきたな」


二前、四角形にするだけで三分かかった。

今では秒単位だ。

成長を感じる。


だが、本番はここから。

僕は腰に差した訓練用の剣を抜いた。

誕生日に親から貰ったものだ。


本来あるはずの剣身はない。

持ち手と鍔だけ。

僕専用に作ってもらった特殊な剣だ。

鍔から先に魔力を流す。


すると。


ブゥン――


青白い光が伸びる。

魔力が剣身を形成した。


美しい。

透き通るような光の刃。


「……よし、成功」


剣身形成。

問題なし。

次は威力検証。


僕は近くの木に向かって剣を振った。


ヒュッ。

剣身が木に触れる。

結果、何も起きない。

木の表面が少し削れただけ。


「まあ、そうなるよな」


予想通りだった。

今やっているのは、ただ圧縮した魔力を接触させているだけ。

魔力弾の本質はそこじゃない。


本質は――


圧縮された魔力が、解放される瞬間の爆発力。

放つから強い。

ぶつけるだけでは弱い。


なら答えは簡単だ。


僕が必要としているのは、ただの魔力剣じゃない。

斬った瞬間に、内部から破壊する武器。


つまり――


「接触した瞬間、剣身の一点だけ魔力弾を発生させればいい」


斬撃と同時に爆発。

表面を斬るんじゃない。

内部から吹き飛ばす。


それができれば。

剣術と魔力弾の融合。

最強の近接武器になる。


僕の口角が上がった。


「ああ……やっぱりこの世界、最高だ」


まだ誰も知らない。


魔法でもない。

剣技でもない。


そのどちらでもあり、そのどちらでもない力。


新しい力の形。


僕は剣を握り直し、静かに笑った。


「さあ、実験を始めようか」


僕は深く息を吐き、意識を研ぎ澄ませた。

魔力剣の維持。

これだけでも相当な集中力を使う。


だが、今回はそれだけじゃない。

剣身を維持しながら、さらに剣の先端――接触部分だけに魔力を圧縮する。


一点集中。


局所圧縮。

接触と同時に解放。

理論は単純。


だが、実行難易度は桁違いだ。


少しでも制御を誤ればどうなるか?

簡単だ。

自分の手ごと吹き飛ぶ。


「……ふふ」


思わず笑みが漏れる。

危険。


実にいい。


こういうスリルがたまらない。

僕は剣を構えた。

目の前には、幹の太い木。


右手に意識を集中。

剣身の先端。

さらにその一点。


針の穴に糸を通すような繊細さで、魔力を圧縮する。

圧縮。

圧縮。

さらに圧縮。


剣先がわずかに震え始める。

空気が軋む。

だが、まだだ。


もっと。

もっと密度を上げる。


「――今だ」


踏み込む。

斬る。

剣先が木に触れた瞬間。


僕は圧縮を解放した。


バギィィィンッ!!


轟音。

爆発。

衝撃波が周囲に広がる。


木片が四方八方へ飛び散る。

砂煙が舞い上がる。


数秒後。


煙が晴れる。

そこにあったのは――

真っ二つどころではなかった。


木の中心部が丸ごと消し飛んでいた。


上半分が支えを失い、ゆっくり傾く。

ズズン、と地面に倒れた。

僕は目を見開いた。


「……成功」


予想以上だった。

これは斬撃ではない。

破壊だ。


接触した一点から内部へ衝撃を流し込み、内側から吹き飛ばす。

防御?

鎧?

硬化?


関係ない。


表面が硬かろうが、内部が耐えられなければ意味がない。


「はは……」


肩が震えた。

笑いが込み上げる。


「ははは……!」


あまりにも上手くいきすぎて、笑いが止まらない。

この世界の魔力はすごい。

魔法なんかより遥かに自由で、遥かに可能性に満ちている。


「次だな……次は身体能力を高めよう」


僕は笑うのをやめ、すぐに思考を切り替えた。

僕には魔力弾と魔力剣がある。

だが、魔力剣は相手に当てることが前提だ。


当たらなければ意味がない。

今の僕は七歳。

小さい頃から身体は鍛えているが、純粋な身体能力ではまだ大人に劣るだろう。


だったら、どうするべきか。

その時、ふと昔の記憶が蘇った。

まだ僕がこの世界に来て六歳だった頃。


街に魔物が現れた時のことだ。

住民が逃げ惑う中、一人の冒険者が前に出た。


大剣を持つ男だった。

相手は狼型の魔物。

鋭い牙に、素早い動き。


普通なら苦戦する。


そう思っていた。

だが、その冒険者は違った。


男が地面を蹴った瞬間。


――消えた。


そう見えた。

次の瞬間には、もう魔物の懐にいた。


あれは消えたんじゃない。

速すぎて、そう見えただけだ。


そして一撃。


大剣が振り下ろされ、魔物は真っ二つになった。

その時、僕は気づいた。

あの男は身体強化を使っていた。


身体強化。


魔力を身体に巡らせることで、筋力、反射神経、速度、耐久を底上げする技術。

魔法ではないが、立派な魔力運用の一つだ。

僕はそれを思い出し、笑った。


「確かに……そうだよな。魔力を外に出せるなら、内側にも流せるよな」


筋肉。

骨。

神経。

血流。


そこへ、僕は魔力を通してみる。


ゆっくりと。

慎重に。

全身へ魔力を巡らせる。


すると――


ドクン。


心臓が大きく脈打った。

その瞬間、体の内側が一気に活性化した。


血流が速くなる。

筋肉が熱を帯び、神経が研ぎ澄まされる。


「……これは」


体が、軽い。

いや、違う。

軽く感じるほど、出力が上がっている。


僕は試しに地面を蹴った。


ドンッ!


次の瞬間、景色が一気に流れた。


「っ!?」


気づけば、十メートル以上先にいた。


僕は目を見開く。


「成功……か」


間違いない。


あの冒険者ほどではないが、身体能力が大幅に上昇している。


筋力。

速度。

反応。


全部だ。


口元が自然と歪む。


「なるほど……身体強化、面白いじゃないか」


これでまた一つ、僕は強くなった。


「あとは実戦だな。」


後は今持つ自分の力でどこまで戦えるのか、それを確かめるのみ。

技紹介。



魔力弾


クシロフが最初に生み出した技。


魔法のように詠唱せず、魔力そのものを極限まで圧縮して撃ち出す。


-


魔力剣


魔力を剣の形に圧縮して作る近接武器。


普通の剣ではなく、斬った瞬間に接触点で局所的な魔力弾を発生させるのが本質。

本来の魔力弾よりか威力は劣るが消費魔力も少なくなる

-


身体強化


魔力を体内に巡らせて身体能力を上げる技。

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