転生と魔力
世界をめちゃくちゃにしたい。
一度でも、そう思ったことはあるだろうか?
僕はある。
しかも、一度どころじゃない。何度も、何度もだ。
単なる厨二病だろ、と笑うかもしれない。
その通りだ。
僕は厨二病だし、自分が痛い人間だという自覚もある。
黒歴史ノートを書いたこともあるし、夜中に「世界を裏から支配する組織」とか考えてニヤニヤしたこともある。
だが、そんな自己認識があったところで、この衝動は消えなかった。
世界を壊したい。
秩序を崩したい。
人々が当たり前だと思っているものを、根底からひっくり返してみたい。
善悪の話じゃない。
復讐でもない。
誰かが憎いわけでもない。
ただ――見てみたいのだ。
世界が壊れる瞬間を。
人間が絶望する顔を。
積み上げたものが崩れ落ちる、その音を。
そんな好奇心を、僕はずっと心の奥底に押し込めて生きてきた。
だって、前世は現代日本だったのだから。
法律があり、警察があり、監視社会で。
世界をめちゃくちゃにするなんて、漫画かアニメの中だけの話だ。
だから僕は我慢した。
真面目に学校へ行き、働き、社会に溶け込んだ。
普通の人間として生きた。
……表向きは。
心の中では、いつだって壊したかった。
壊してみたかった。
この世界を。
そして――そんな僕は死んだ。
事故だったのか、病気だったのか、もう覚えていない。
気づいた時には、赤子として新しい世界に生まれ変わっていた。
異世界転生。
剣と魔法の世界。
その事実を理解した瞬間、僕は確信した。
ああ、これだ。
これこそが僕に与えられた舞台だ、と。
この世界なら。
僕の夢を叶えられる。
もう一度言おう。
僕は世界をめちゃくちゃにしたい。
誰からも恐れられ、憎まれ、忌み嫌われる存在。
災厄。
魔王。
終焉。
呼び名なんて何でもいい。
ただ、全てを壊し尽くす存在になりたい。
だから今世では――
この好奇心を、思う存分解放する。
遠慮も、理性も、常識も捨てて。
好きなように生きる。
好きなように壊す。
それが僕の生き方だ。
◇
今世の僕の名前は、クシロフ・レオニダス。
どこにでもいる平民の家に生まれた男の子だ。
現在五歳。
家族は四人。
父、レーニ。
母、ソニア。
妹、カリィ。
そして僕。
正直に言えば、世界を壊すのに家族なんて必要ない。
情は弱点になる。
守るものは足枷になる。
だけど、僕はまだ五歳だ。
今すぐ独りで生きていけるほど、この世界は甘くない。
だから今は家族を利用する。
僕が住むのは、アルテタ王国内にあるリューガの街。
裕福でもなく、貧困でもない。
ありふれた街だ。
だが、僕にはこの平凡さが退屈で仕方ない。
だから今日も僕は、人目のない場所で訓練している。
魔力訓練だ。
もちろんこの世界には魔力と魔法が存在している。
人は誰しも魔力を持ち、魔法を扱える可能性がある。
そして僕が世界を壊すために、まず必要なのは――圧倒的な力だ。
誰にも止められない力。
理不尽そのものの暴力。
それが必要だ。
僕は家にあった魔導書を読み漁った。
二歳で魔力制御を習得。
三歳で初級から中級魔法を習得。
四歳で上級魔法まで完全にマスターした。
そこで気づいた。
……この世界の魔法、欠陥だらけじゃないか?
魔法の手順は基本三つ。
一つ、魔力を込める。
二つ、詠唱する。
三つ、魔力を放出する。
問題は二つ目の詠唱。
長いし、遅い。
それに隙だらけ。
威力が高い魔法ほど詠唱が長くなる。
戦闘中にそんな悠長なことをしていたら、その間に首を飛ばされる。
欠陥だ。
あまりにも非効率。
だから僕は考えた。
詠唱を消せばいいんじゃないか?って
魔力を込める。
放つ。
それだけで済めばいい。
そう思って実験した。
結果は失敗。
確かに魔力は飛ばせた。
だが威力がない。
例えるなら――空っぽの箱を投げつけるようなものだ。
当たっても痛くない。
殺傷力ゼロ。
実戦では使えない。
普通ならここで諦める。
だが僕は違う。
使えない?
なら、使えるように作ればいい。
魔法が「詠唱によって形を定義している」のなら。
逆に言えば、詠唱なしで形を作れればいい。
つまり必要なのは――
イメージ。
圧縮。
固定。
僕は飛ばした魔力を、無理やり圧縮してみた。
丸く。
小さく。
密度を高く。
限界まで。
ギチギチに。
圧縮。
圧縮。
さらに圧縮。
すると――
バチッ。
空気が弾けた。
「……成功、か?」
僕の掌に、黒い球体が浮かんでいた。
小さい。
拳より小さい。
だが、その中に詰まった魔力量は異常だった。
空気が震える。
地面が軋む。
嫌な予感がした。
でも、好奇心が勝った。
僕はそれを前方へ放った。
次の瞬間。
轟音。
世界が揺れた。
ドォォォォンッ!!
凄まじい爆音と共に、目の前の地面が吹き飛んだ。
土が舞い、木々が折れ、衝撃波が周囲を薙ぎ払う。
煙が晴れる。
そこには――巨大なクレーターがあった。
僕は無言でそれを見つめた。
そして。
ゆっくりと、口角が上がる。
笑いが込み上げる。
抑えられない。
「あは……」
肩が震える。
「あはは……!」
駄目だ。
楽しい。
楽しすぎる。
「ははははははは!!」
これだ。
これだ、これだ、これだ!
魔法なんていらない。
詠唱なんていらない。
僕だけの力。
純粋な魔力操作。
僕は理解した。
この世界の魔法体系は未完成だ。
なら――
僕が完成させればいい。
そしてこの力を用いて、この世界の常識そのものを壊してやる。
魔法。国家。秩序。信仰。英雄。魔王。全部。
全部だ。
僕が壊す。
僕が塗り替える。
クレーターの中心で、五歳の僕は嗤った。
無邪気に。
純粋に。
狂気そのものの笑みで。
「待ってろよ、この世界」
僕は両手を広げた。
まるで世界そのものを抱きしめるように。
そして、宣言した。
「君たちを、最高にめちゃくちゃにしてあげる」




