66 余炎
昨日も更新しているので、ぜひご確認ください!
リョウは、目の前が真っ暗になるような感覚を覚えた。
まるで脳が事実を拒絶しているかのような感覚とは裏腹に、リョウの思考は明瞭に進み、扉を開けた際の暗かった室内の雰囲気と、発話された事実が結び付く。
「えっ......」
リョウは顔を青くして微かな声を発することしか出来なかった。
自分が任せた役割が、カイにどれほどの重荷を背負わせていたのか、どうして気付けなかったのか。
ユイへの同情やら義侠心、または魔法という未知の技術への熱中によって、他者への気遣いは疎かになっていなかったか。
走馬灯のように、ここ数週間のカイの様子がリョウの頭の中を駆け巡る、ことはなかった。
リョウは、刺激の強い日々の中で、自身の視野が狭くなり、カイの様子にまで目が回っていなかったことに気が付き、深く後悔するのだった。
とはいえ、コンクリートに近い素材が主な建材として使われているこの地域で、火災が致命的な被害を生み出すことは考えにくい。
ここまで来る途中に見えた様子からしても、最悪の事態にはなっていないはずだった。
そういう事情もあって、カイの行ったことがチンハオの言う通りだったとしても、重い罪に問われることはないのだろう。
その場合は、シャオユーやチンハオは更に深刻な態度を見せているに違いない。
リョウは、平静を保つため、楽観的かつ冷静な推測を努めて行うが、やはりリョウの心に重くのしかかっているのは、自身の不甲斐なさだった。
数時間前の、中断された母の言葉が思い出される。
(確かに僕は、自身の計画がここまで影響を及ぼすとは気付けなかった)
自身の指示により、予想外の出来事が起き、責任を取りきれない事態が訪れている。
覚悟を持って全力で期待に応えようとしたカイを、リョウの立場からどうこう言うことはできない。
ただただ、自分の力が及ばなかったことが悔しく、歯を強く食い縛る。
カイとの再会は、リョウの心に暗い影を落とす形で果たされたのだった。
リョウが落ち込む中で、ガオが積極的にチンハオの問いかけに答えるようになり、ユイの状況や、フータンの家族との出会いについての共有を行った。
その言葉は辿々しかったものの、熱量が臨場感を伝え、ユイの決断についてガオが語るとき、チンハオとカイの二人は思わず息を呑むほどだった。
「それなら、ガオとリョウの二人はもう一度森に入るってことか?」
話を聞き終えたカイの問いかけに、ガオは首を縦に振る。
「ディアンさんは、ユイが戻ってきたときにいてくれないと困るからな。
俺とリョウは戻らなくてもいいかも知れないけど」
「ユイちゃんがいつ戻ってくるのか聞いてるかい?」
チンハオが尋ねると、ガオは少し考える素振りを見せて、
「なんか聞いた気がするけど......リョウ、覚えてないか?」
と、リョウに質問を振った。
「確か、片道三日って言ってて、出発は一昨日の朝だから、今週中には帰ってくるんじゃない?」
ガオの活力に触発され、質問に答えるリョウの顔色はだいぶ戻っていた。
積極的に証言するガオを頼もしいと思い、救われたとまで感じている。
ただ、ここまでのリョウも、無力感にひしがれて漫然とガオの話を聞いていたわけではなかった。
今まで話に登場していないランの罪を隠蔽するため、手に持っていた荷物を、チンハオの死角になるようにしながら部屋の隅に送ったのだ。
左手でカイの意識を引き、目線や最低限のジェスチャーで意図を伝えようとすると、すぐに察したようで、カイはリョウに対してウインクしてみせた。
現在のチンハオの様子を見るに、その行為は露見していないと考えてもいいだろう。
そう考えると、リョウは胸を撫で下ろした。
こんな状況でもそんな小細工を行えるあたり、リョウの神経は案外図太いのかも知れない。
(でも、問題は何も解決してないんだよな......)
現在、ここ、カイの家と、ディアンが案内された場所、恐らく兵舎のどこかの二箇所で、アワル兵士団による情報収集が行われている。
今後、リョウたちの扱いは、集積された情報を元に、兵士団の上層部によって決められるはずだ。
ガオが話し始めてから、チンハオの態度は軟化しているように見えるが、それが演技なのかどうかはリョウには分からない。
こうなれば、自分自身の落ち度は受け止めた上で、精一杯の思いを伝えようと考えるリョウであった。




