53 断層
「教えたといっても、自分のイメージを話してみただけで、それが役に立つとは……」
リョウは女性教師、もといアユの母親と思われる人物にそう訂正した。
実際、リョウはガイの授業を二度受けたのみであり、魔法制御に関してしっかりと教わったのは一度だけだ。
リョウの魔法能力は、到底人に教えられる領域には達していないはずだが、ひとえに魔法への好奇心と創意工夫、そして火事場の馬鹿力によって、彼はフータンの一部の人々からは高度に魔法を扱える珍しい子供として認識されるまでになっている。
そして、その認識は過剰であることをリョウは自覚していた。
「それよりも、フータンの方々が同じような魔法を使うことはないんですか?」
リョウは続けて問いを投げかけることで、話を異なる方向に進める。
(ボールの軌道を動かす魔法は、土魔法でも水魔法でもしっくりこないし、文化間で魔法の認識にも隔たりがありそうだ)
リョウは、最初に土魔法をヌルールに見せた時の周囲の反応を思い出していた。
サッサランの試合に参加したのは、恐らくリョウたちと同年代かそれよりも上の子供たちであり、アワル村のような事情があるわけでもなさそうなここでは、彼らは当然のように魔法と呼ばれる技術を扱っている。
しかし彼らは、リョウが魔法土を生成した時、驚いたような表情を一様に見せていたのだ。
もしかすると、同じ魔法という言葉を用いているだけで、指し示している技術は全く異なっているのではないかとリョウは考えていた。
(遺伝的要素とか触れてきた文化で、魔法の能力の指向性に差があるのかもしれない)
リョウは女性教師を見つめるが、彼女は考える様子のまましばらく沈黙を保つ。
伏せられた目元がアユと非常に似ていて、血縁関係を持っていると言われれば納得できる、などと取り留めのないことをリョウが考えていると、彼女はやがて口を開いた。
「ケメルデでは、リョウくんが使うような魔法の方が主流なんですか?」
そんなに考え込む内容だろうかと疑問に思いながら、リョウは正直に返答する。
「多分そうだと思います。輸送業や建設業でも使われているそうですし、医療の分野でも使われています。逆に、ボールを曲げるのは初めて見ました」
「そうなんですか!えっ!?」
女性教師はリョウの言葉に驚き、さらにリョウの後ろを見て何かに驚いた。
リョウがつられて振り返ると、昇華している途中の魔法土が確認できた。
様子を見るに、それはヌルールが生成したもののようだ。
彼の顔には疲労が浮かび、肩で息をしている様子も確認できる。
「繰り返しになりますが、気絶することもあるので気をつけてください」
リョウが再び念を押すと、ヌルールが浅く頷き、フータンの言葉で何かを呟く。
リョウがその言葉は独り言ではなく女性教師やアユに向けて発されたものであるということを感じ取り、再び女性教師の方に視線を動かすと、彼女は目を瞑って何度か頷いていた。
タイミングを鑑みるに、ヌルールの言葉に対する相槌ではなく、その言葉と自身の考えを混ぜこぜにして何かを咀嚼しているようにリョウには感じられた。
「少しディアンさんに相談するので、リョウくんはアユたちと遊んでいてください。あと二十分ほどでこのグラウンドでの活動は終わります」
そう告げると、女性教師は踵を返して建物の中に消えた。
(そういえば、ディアンさんの姿はしばらく見てないな)
リョウが辺りを見渡すと、子供たちは思い思いの遊びを繰り広げていた。
ガオはいつの間にか木刀を持ち、男子数人でのチャンバラに混じって楽しんでいる。
遠目なのでリョウにはよく分からないが、木刀は森を歩いてきた時に彼が持っていたものと同じもののようだ。
一方で、その木刀よりも少し短い木剣でガオと相対しているのは、試合では最後にガオにシュートを止められた、ある意味因縁の相手でもあるアディだった。
フータンの子供たちの中では小柄なアディだが、ガオとの身長差はほとんどないように思える。
腕と得物が長いガオがどっしりと構え、アディが機動力を活かして打ち込んでいくような試合展開になっている。
リョウがその様子を眺めていると、後ろから肩を叩かれる。
振り向くと、こちらに手を伸ばしていたのは、不満げな表情を湛えているアユであった。
水曜日は54話+アワル付近の地図、来週の日曜日は二話投稿の予定です。




