50 光源
リョウが視線を上げると、女性教師の頬は淡くオレンジ色に照らされている。
木製の扉を背に、彼女と正面から向き合っていたリョウは、その光景を見て、思わず左右の光を確認する。
リョウの知る所である物理法則では、このような密閉空間で炎は燃え続けることはできない。
見てみると、燭台の炎と思われたものは雫のような形をした光源であり、その滑らかな表面からは炎特有の揺らめきは感じられなかった。
「あれは、どういう仕組みで光っているのですか?」
リョウは右側の燭台を指差して尋ねる。
科学であろうが、魔法を含む別の文明であろうが、ここでは少なくとも、リョウがアワルで知る範囲を超えた技術が利用されている。
「......知らないのね」
女性教師は小さく呟く。
その言葉は、独り言のようにも思えるほど淡白に発されたものだった。
しかし、ケメルデの言葉で話されている以上、リョウに伝わることを前提とした発言だということは推察できる。
リョウは、自分の考えを確かめることにした。
「ケメルデ王国の魔法について調べているんですか?」
自分でも予期しなかったほど強張った声が、リョウの口から出た。
その問いに、女性教師は驚きの表情を一瞬浮かべたが、すぐに落ち着いた表情を取り繕う。
「ええ、興味があって」
その返答を聞き、リョウは女性教師に受け流されたように感じた。
アワル書店で得た断片的な情報から、フータンの人々はアワルにおいては森人と呼ばれ、幻の魔物のように扱われていると推測できる。
リョウには、ケメルデ人とフータンの人々の差は、人種の違い程度にしか感じられない。
しかし、王国を取り巻く価値観ではそうではないのかもしれない。
通俗的に分類するなら、ケメルデ人はいわゆるモンゴロイド、フータンの人々はコーカソイドに近い外見をしている。
確かに差異はあるが、ディアンがケメルデで生活していた事実を鑑みれば、言語や文化の壁を乗り越えることができれば、相互理解は可能なはずだ。
そんな中でも交流が限定的に見えるのは、一体どういうことだろうか。
その疑問に対し、リョウは両者の間に緩やかな対立関係が存在しているという一応の答えを作り出して納得していた。
リョウの認識では、アワルは開拓村という位置付けであり、その開拓の方向は南下方向である。
開拓していく過程で、ケメルデ王国の勢力圏はフータンの人々の勢力圏を圧迫してきたはずで、一部の人々の間では友好的、融和的な関係があっても、全体的には緊張を孕んだ空気が存在しているとしても不思議ではない。
例えば、ケメルデ人の誘拐を伴う人身売買が、フータン側では倫理の範囲を逸脱しないものとして行われていることが明らかになっている。
そのような情勢であれば、仮想敵国の技術や情報を探ることは合理的な行動だ。
もしかすると、リョウの知らない過去に紛争があったかもしれないし、これから起こる気運があるのかもしれない。
魔法は、少なくともケメルデでは産業に根差した技術であり、手に入れたい情報の一つだろう。
こうした推論と、女性教師の態度を合わせて、リョウは自身を通して王国の魔法について探りを入れられていると考えたのだった。
女性教師は、リョウを扉から出るように促す。
腕に抱えたボールの感触で、リョウはここに来た当初の目的を思い出し、その指示に従った。
建物の中を歩きながら、思考を整理し、得られた情報を振り返る。
少なくとも、あの燭台の光は炎ではなく、魔法に関連する技術である可能性が高い。
それは、自分の突っ込んだ問いに対する女性教師の反応から導き出された結論だった。
(魔法土に何かを混ぜると光る性質があるのかな......)
再びリョウは思考の海に沈んでいったが、廊下を歩くその足取りは、それに伴って軽やかになっていったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
一話一話の内容はそこまで濃いわけではないですが、今日で50話を達成しました!
当初は第一章で50話ほどの予定でしたが、まだまだ続きます。
四月下旬には忙しさが抑えられるので、日曜の複数更新が復刻するかもしれないことを予告しておきます。




