【プロローグ】幼馴染みの婚約者
わたし、エレナ・ハーシェルには、生まれたときから婚約者がいる──。
「こんなやつが婚約者なんてな!」
「同じ言葉をそっくりそのままお返しするわ! あなたみたいな人が婚約者なんてね!」
「なんだと!」
「なによ!」
聖夜祭を五日後に控えた冬のある日、わたしは眉を吊り上げながら、目の前に対峙している同い年の十七歳の婚約者、デューイ・アイヴズをにらみつけていた。
一方のデューイも負けじとばかり、眉間に深いしわを寄せて、わたしをにらみつけている。
こんな言い争いをしているが、ハーシェル伯爵家の娘であるわたしと、アイヴズ伯爵家の息子のデューイはまぎれもなく婚約者同士だ。
それこそ、生まれたときから──。
ハーシェル伯爵領とアイヴズ伯爵領は領地が隣同士で、さらに王都にあるタウンハウスまでも隣という縁もあり、父親同士は幼馴染みであり、親友だった。
そして互いに妻を迎え、その後、偶然にも同じ年に性別の異なる子どもがそれぞれ生まれたことで、嬉々として子ども同士を婚約させたのだ。
わたしとデューイはお互いに譲らず、にらみ合っている。
しかし、しばらくしてしびれを切らすように、
「──ふん!」
「──はっ!」
腕を組んだわたしが顔を背けると同時に、デューイも腕を組み、苛立ったようにそっぽを向く。
(ああ、なんでこうなるの──?)
わたしは心の中で叫ぶ。
頭の中の自分は、デューイに向かってにっこりと微笑み、
『今年もまた、デューイと一緒に聖夜祭を迎えられてうれしいわ』
そう言っている。
鏡の前で何度も練習したはずなのに、現実とのあまりの落差に自分で自分がいやになる。
(微笑んで、たったそれだけの言葉がどうして言えないの──?)
キュッと唇を噛みしめる。
わたしとデューイの婚約は父親同士が決めたものだが、わたしは物心ついたときから、彼のことが好きだった。
それなのに、この婚約が解消になるかもしれないなんて、このときのわたしは夢にも思わなかった──。
たくさんの素敵な作品がある中、目を留めていただき、ありがとうございます。
冬にクリスマスにちなんだお話をお届けしたいなとずっと思っていて、ようやく叶いました。楽しんでいただければうれしいです!
投稿初日の今日は、このあと12時台後半と13時台、14時台にも投稿できたらと思っています。
以降は、完結まで1〜2話/日投稿予定です。
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