22.とうとう卒業パーティですわ(婚約破棄? 編)
とうとう卒業パーティの日がやって来ました。
「お父様、お母様、お気をつけて。」
「シュテファンもイザベルちゃんも気を付けてね。」
「二人の方が難しいんだ。気を付けるんだぞ。」
「父上、母上、イザベルは必ず守ります。」
「シュテファン頼んだぞ。ゼーゼマン、屋敷は別に奪われてよい、人が捕まったり、傷つく方が問題だ。差し押さえに来たら適当にあしらいながら皆逃げろ。」
「旦那様、かしこまりました。」
今、お父様とお母様の乗った馬車を見送っている所です。
王子は迎えに来なくとも、部下が来るかもと思い、今まで国外への出発を延ばしていました。
私達も出発する以上これ以上ここにいる必要も有りません。家紋などつけない地味な馬車でカルメリアへ出立します。
「イザベル、私達も行こうか。」
「はいお兄様。」
お兄様にエスコートされて私も馬車に乗ります。
こちらの馬車は紋章入り、堂々とした馬車です。
本当は私一人で卒業パーティに参加して、3人で先にカルメリアに行ってもらおうとしたのですが、
『婚約者などがエスコートしない時には親族がエスコートするのが一般的でしょう。殿下にエスコートする気が無い以上、学院生であり、肉親である私がエスコートすることが常識です。エスコート無しなどという非常識なことを妹にさせる気はありません。』
と眼鏡をクイッと直しながら言いきられまして、お父様お母様も納得してしまったので、お兄様と参加することになりました。
本来断罪は、私一人で参加していましたので、ちょっとだけ変わってしまいましたわね。
◇◇◇◇◇
パーティ会場の建物に到着しました。
キラキラしい廊下のはずなのに、監獄についた気分がして、足に鉛の重りが付いてるように足どりが重くなっています。
お兄様のエスコートで何とか前に進んでいます。いなかったらどうなるかと思うと、お兄様がいて下さって本当に良かったと思います。
「アレクサンドル殿下に断罪などさせませんから。全て私に任せて一番近くで見物していてください。」
私の方を見るお兄様の笑顔を見ると、とても安心します。これが一人だったらと思うとぞっとしますわ。
お兄様にエスコートされて会場の入り口を通り抜けた途端、ゲームで見た通りの風景が、待ち構えていました。
入口の広場は2階の天井までの吹き抜けになって、高い天井からシャンデリアの眩しい明りが降り注ぎ、壁のあちらこちらには花が飾りつけられ、大きな曲線を描いて2階へと続く階段の上は、バルコニーとして吹き抜け部分に張り出しています。
そしてそのバルコニーには、中央にアレクサンドル殿下が立ち、その斜め後ろでミリアナ嬢が不安そうに寄り添ってい、その後ろにはウルリケ皇子が彫像の様な立派な姿勢を取り、彼ら3人の後ろ、バルコニーの隅にはアレクサンドル殿下の側近たちが固まってひっそりとしています。
「遅いな、待ちかねたぞイザベル。」
バルコニーの中央から堂々とした態度でアレクサンドル殿下が言い放ちます。金色の髪にシャンデリアの光が照り映えて、青い瞳も輝いて見えます。
「それはあなたがイザベルを迎えに来ないからでしょう。」
私の隣で、眼鏡をクイッと直しながら、お兄様が言い放ちました。いつもは前に下ろしている黒髪をオールバックにしているため、厳しく見つめる緑の瞳とそれを縁取る銀縁の眼鏡が良く見えます。
「婚約者のいる令嬢は、婚約者にエスコートされて会場に入るのが常識。イザベルはわが家でアレクサンドル殿下が来られるのを待っていました。それを違う女性を連れて先に会場に入った上、『遅い』、『待ちかねた』とはなんという言葉でしょう。」
周囲がざわつきだしました。ええ、当たり前ならアレクサンドル殿下は私をエスコートしなければならなかったはず。それをしなかった上の言い分の不自然さに周りの学生たちも気づきました。
「な、何故シュテファン、お前がここにいる。」
いきなり言葉を浴びせられてアレクサンドル殿下は引き攣りながら言い返しました。
お兄様の物言いに、不敬だと怒るかと思いましたが、どちらかと言うと怖がっているようです。
「何故も何もイザベルのエスコート役です。婚約者のアレクサンドル殿下がエスコートしない以上、身内がエスコートするのが常識。それとも何ですか、イザベルに卒業パーティに来るなと言いたかったのですか。」
周りが肯定の雰囲気を醸し出しています。婚約者が来られなければ身内がエスコートしているのは当たり前です。ですからお兄様のエスコートを断れませんでしたの。
「そんなことは無い、イザベルが一人でくれば良いだけの事だ。」
そう思い込んでいたのでしょう。ゲームでは一人で断罪されていましたし、私もそのつもりでしたから。でも一般常識はお兄様の味方なんです。
「デビュー前の未婚の女性をエスコート無しでパーティへ出すなどと、そんな非常識なことをさせるわけがないでしょう。」
言い放ったお兄様にうんうんと頷く周りの学生達。
「だいたいアレクサンドル殿下、最近のあなたはおかしい。毎月の婚約者同士の茶会をやめたのも礼儀として問題があるが、新年の贈り物すら送らないとは、あなたは婚約者を、いえ婚約を何だと思っているのですか。」
周りから驚きと非難の視線が集まります。アレクサンドル殿下が私を嫌いぬいているのは周知の事実ですが、それでも最低限守らねばならぬ仕来りも有ります。
親しいものに新年の贈り物を送らない事は、この世界では最大限の非常識に当たります。婚約者に送らないなどと婚約者も婚約者の家も否定するのと同じことで、絶対にやってはならない事です。そのようなことをすれば、した者の名声は地に落ち、場合によっては社交界から抹殺される行為です。
「そのくせ婚約は継続させようとするなんて、アレクサンドル殿下、あなたの正気を疑います。」
え?
「なんだと! 婚約を解消しなかったのはそっちではないか!」
激昂するアレクサンドル殿下。継続させたいと思ってなかったのは良く知ってますよ。お兄様も知っていると思っていたのですが。
「婚約を解消したければ爵位も金に換えて全財産をよこせ。娘も売ってその資金もよこせ。これが婚約を解消したい者の条件ですか。こっちが飲めない条件を付けて断らざるを得ないようにしているではないですか。それとも何ですか、アレクサンドル殿下はこの条件なら簡単に飲めるとでも思っているのですか。」
周りが引きながらアレクサンドル殿下を非難の目で見ています。ですよね。こんな条件を付けられて頷く家はこの国中探しても無いでしょう。
アレクサンドル殿下や側近たちは驚いていますね。
「いや、そんな条件を付けていたとは知らなかったんだ。ただ絶対に頷かないとだけ聞いていたんだ。」
「知らなかった? 知ろうとしなかったのでしょう? あなたの婚約相手が婚約解消を望みながら、断らざるを得ない理由があるなどと考えても見ず、『相手が別れようとしない』と言う言葉を盲目的に信じ、詳細を聞いてみる事すらしなかったのでしょう。」
アレクサンドル殿下が言葉を飲みます。心当たりがあるのでしょう。
「『なぜ、相手は別れようとしないのか』と婚約を解消しないと報告した者に聞いてみたことが有りますか? どうすれば婚約解消を相手が飲むか考えたことが有りますか?本気で解消したいと思えば、一度はやってみる行動です。殿下は一度でもやってみましたか?
それなのに『イザベルが婚約にしがみついてる』などと戯言をおっしゃって、婚約解消にならない理由をわが家に押し付けて満足してしまっていた。」
周りの視線が痛くなって来ました。あれだけ他の女と一緒に居て婚約者を疎みながら自分の行動不足のせいで婚約したままだったのですものね。ミリアナ嬢も冷たい瞳で見ています。ウルリケ皇子も私に使うはずの絶対零度の視線をアレクサンドル殿下に向けています。殿下の側近たちはため息をついたり頭を抱えたりしています。
「我が侯爵家はこの秋から解消の申し出をしていました。なのにずっとこの調子で断られていました。妹はお茶会でアレクサンドル殿下、あなたにも解消の協力をお願いしたそうですね。それを嘘だと決めつけて、詳しく調べようともしなかった。」
ええ、表立って嫌いなことを隠さなくなって、礼儀も忘れるようになっただけです。
「ちゃんと調べていれば、冬の初めには円満に婚約解消できていたはずです。それをここまで長引かせて、そんなに婚約を解消したくなかったのですか? それとも条件に有った様にわが家の金も欲しかったのですか?」
「金など要らん! 婚約も解消したかった!」
「ならば婚約解消成立ですね。無駄なやり取りもいらないよう、お互い何も要求しない事を条件に、今この場で婚約解消いたしましょう。」
「ああわかった。アレクサンドル=オルトアーノの名のもとに、お互いに何も要求せず、我、アレクサンドル=オルトアーノとイザベル=アルフィオーネの婚約の解消を宣言する!」
パチ パチ パチ
パチ パチ パチ パチ パチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ
周囲が拍手に包まれます。バルコニーの上のミリアナ嬢やウルリケ皇子側近の皆様も拍手しています。
両家条件なしの婚約解消をしてしまうなんて、さすがお兄様。私では絶対できませんでした。
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