20.お兄様が側近を外された話が噂になってますわ
あの後、お母様の影が学園で仕事をしたそうです。
実行者たちは学園を追われました。
噂を流していた者たちは、王子に近すぎて手を出せなかったもの以外は学園から消えたそうです。
忠告で済ますには、手を出せない者がいる分効果が無くなる言う事で、こちらも実力行使に出たそうです。
お兄様は取り巻きを外されたそうです。
私がミリアナ嬢を虐めている話について、矛盾点を指摘したら、妹の味方をしているだろうと一方的に決めつけられての取り巻き追放だそうです。
せいせいしたと言っていました。
「よう、元気か。」
イエンセ様がやって来ましたわ。両手に飲み物を持っていて、片方を私の近くにおいて下さいます。あら、私が良く飲んでいる物ですわ。
「この通り、元気ですわよ。」
いつも通り予習をしていますわ。このカフェでの予習も日常になっていますわね。
「お前の兄貴、側近外されたんだって?」
流石イエンセ様ですわ。もう情報をつかんでます。
「ええ、お兄様が注意したら殿下が怒って側近から外したんですって。」
こういうようにお兄様とお母様から言われています。最初はお兄様が、言って良い事と、いけない事を教えてくださっていたんですけど、途中からお母様も加わって色々教えて下さったんですわ。
自分からこの話を振ってはいけないとか。影の事は絶対言ってはいけないとか。私からいろいろ秘密がばれると思われているんですわ。お兄様と比べればそうでしょうけれど。
「ま、そんなところだろうな。もう側近に戻る気もないんだろ?」
「ええ、さっぱりしてましたわ。」
もうお守りをしなくていいとかなんとか。こっちは言ってはいけない事と。
「後はお前が王子と縁を切れ……文字が消えた?」
開発した消しゴムで字を消したところで、とても驚いて下さってますわ。驚いた顔も楽しいですわね。
「これでこすると木ペンや炭棒で書いた文字が消えますの。」
消しゴム……というか練り消しの予備を渡しながら言いますわ。
「羽ペンやメタルホークの文字は無理か?」
イエンセ様が練り消しをあらゆる方向から眺めながら聞いて来ます。
「無理ですわね。」
インクは消えませんから。
「とすると木ペンと炭棒用か。」
「ですわね。」
言いながら、消しゴムを練ります。ゴムは無いので樹液で作った練り消しです。
「何してるんだ?」
「文字を消した所が黒くなるので、そこを練り込んでまた消せるようにしました。」
黒いままだと黒さを移すだけですもの。
「そうやって使う物なのか。」
イエンセ様が私の手元を眺めながら聞いて来ます。そんなに練る様子が不思議ですか?
「ですから、売るつもりなら少し説明が必要になりますわ。あ、全体が黒くなったら買い替え時ですわよ。」
「そうか、良く分かっているな、1%」
そう言ってにっこり笑っています。この笑顔が一番魅力的ですわね。
「ええ、売れそうでしょ? 30%」
「高くつけて来たな。2%」
「作り出すのに苦労しましたもの。山中の樹液を調べましたのよ。29%」
どの樹液がどうやったら固まるかとか、その中から文字を消す特性を持つのはどれかとか、探すのも大変でしたわ。
「手間は金に関係ないぜ。3%」
「その分真似しづらいと思いません? 28%」
「山まで尾行すればどの木の樹液かは分かるな4%」
「他にもいろいろ開発する為に多数の樹液を採取していますわ。27%」
固めるのに熱したり、酸を混ぜたり、いろいろ加工していたら、いろいろな性質のものが出来たのですよね。おかげで研究も楽しくて。
「うちで作り始めれば簡単にばれるぜ。5%」
「樹液そのままではなく加工していますわ。26%」
樹液なんてそのままではドロドロですもの。使い易い固さに固めたり、べたべたせずに文字が消える様に加工することも必要ですわ。
「工房を覗けば加工工程もばれる。6%」
「採取先を尾行したり、工房を覗けばなんでもわかるでしょう? そうできないようにするのはそちらの工夫では? 25%」
「ばれたか。独特の材料と複雑な工程は金に関係するな。8%」
そのいたずらっ子の顔は憎めませんわね。
「でしょう?ちゃんと価値は有りますわよ。24%」
「ただ木ペンの文字しか消せない以上木ペン並みの値段にしかならない。9%」
「それは、仕方ありませんわね。19%」
木ペンは高めとはいえそれなりですものね。
「それから、売る際に説明が必要なのもコストに響く。10%」
「コストってそんなにかかりますの? 16%」
「説明するだけで時間と言うコストがかかるし、売り手にいろいろ覚えてもらわないといけないからな。11%」
「折角こんなに綺麗に出来ましたのに。15%」
半透明で琥珀色の練り消しを空にかざします。
「この色は加工しているのか? 12%」
イエンセ様も空にかざしています。
「色はそのままですが、透明感が出る様に加工するのに苦労しましたの。14%」
濁るとなんとなく好みではなくて。
「加工しない方がコストが下がりそうだがまあいいか。名前は?13%」
「そのまま『文字消し』で。13%」
「じゃあ『文字消し』で決まりだな。13%」
手を出して来たので握手しました。
「ちょっと高くなるが仕方がないか。」
頭に手を当てながら不満そうです。
「そこまで買い替えるものではないと納得してもらうしかないかしら。」
「納得できる値段にするしかないか。」
「詳細はいつも通り後で渡しますわ。」
開発者に仕様を書いてもらいます。
「おう、頼むわ。」
練り消しを私に返して、そのまま去って行きました。
◇◇◇◇◇
今日もお昼の雑談タイムですが、なんとなくいつもと違います。
言いたいことが有るのに言えないような、すぐに話が止まります。
これでは楽しい雑談タイムになりませんわね。
「どなたかと同格に見られるような品の無い騒ぎは困りますが、別に言いたいことは有る程度口に出して構わないですわよ。」
「シュテファン様が側近を外されたと聞きまして。」
やはりその事でしたのね。
「なんでもシュテファン様がラング嬢に横恋慕して、アレクサンドル殿下が怒って側近から外したと。」
え?
「シュテファン様とアレクサンドル殿下がラング嬢を巡って戦ったとか。」
なんですの?
「シュテファン様が愛の詩の独演会を開いて、呆れたアレクサンドル殿下が側近を追放したと聞いたのですが。」
お兄様、お母様、想定問答に無い話が出てますわよ。
「私、シュテファン様とラング嬢がアレクサンドル殿下を奪い合ったと聞いたのですが。」
「以前からひそかに慕っていたというあれですわね。」
「お兄様がお好きなのは女性ですわ。」
これは訂正しても良いですわよね、いえ、訂正しないと怒られますわ。
「あら、ラング嬢の取り合いのほうかしら。」
「そういえば他の側近も……」
「いえ、それなら……」
「お兄様はラング嬢にも興味が無さそうでしたわ。」
こちらも訂正してもよろしいわよね、多分。
「じゃあ、ラング嬢に興味が無いから外されたのかしら。」
「では、他の方々はラング嬢に気が有ると。」
「皆で一人を共有しているのかしら。」
ちょ、ちょっと、そうかもしれないけどまずいですわ。
「皆さん。ある程度は楽しくてよろしいと思いますけれども、あまりに不敬が過ぎると、いくら内輪の戯言であっても問題になりますわよ。」
ここは食堂の一角で、周りに他の皆さんも居ますからね。
「「「「「はい、申し訳ありませんでした。」」」」」
「いえ、分かっていただければ良いのですわ。楽しく過ごしましょう?」
「「「「「はい。」」」」」
「そういえば、この前、街のカフェでとてもキラキラしい方が一人でスイーツを食べていらして。」
「まあ、どちらのカフェですの?」
「それは……」
皆さん大変素直でよろしいのですが、やけに足並みが揃っていますのね、ちょっぴり怖いですわ。
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