16.お兄様とミリアナ嬢の会合を見てしまいましたわ
「よっ新年おめでとう。」
「イエンセ様、新年おめでとうございます。」
相変わらずですわね。
と思いましたら私の方を見て顔をしかめましたわ。
「ショール気に入らなかったのかよ。」
あ、そちらでしたか。
「ショールは気に入りましたわ。新年の初めの日は纏ってましたわ。ただ、授業のある日も使うにはもう少し寒くないと難しいのですわ。」
おしゃれとしてならともかく、今だと少し熱いのですわ。
「あーそっかー。」
机にまた突っ伏してます。
そちらに胸につけているブローチを見せますわ。
「このくらいでしたら、毎日つけられましてよ。」
私の方をちらっと見てまたうつむきます。
「それも誰かからの贈り物か?」
「広告目的ではないものですけれどね、大きさ的にもつけやすかったので。」
「そのくらいのだったら俺の方をつけてくれたのか?」
こっちに顔を向けましたわ。まだむくれていますけれど。
「交互ですわね。これ、着けているととても喜んでくれますの。」
ヒルダ様、これを見つけるとにっこりと笑われるのですよ。眼福ですわ。
「交互だと、広告目的の物とでも、それくれたやつが嫉妬したりするぜ。」
「あり得ませんわ。女の方ですし。」
がばっと起き上がりましたわ。そんなに驚くことかしら。
「は?その意匠で?どう見ても男が選んだもんだぜ。」
「騎士科のかたで、女性が好みそうな物は選んだことが無いのですって。それでこれをつけているととても喜んでくださるの。」
騎士科の女性の方って、皆さんかっこいいものをつけてらっしゃるのよね。それで女の子らしいものは良く分からないみたい。
「あーそういう、そっかそっか。あーこれ忘れてたわ。先月の分な。上級植物帳の代金は引いて置いたぜ。」
そういって宝石の入った袋を下さいます。これを最初に下さらないのも珍しいですわね。
「ありがとうございます。上級植物帳を使ってみた感想なんですけれど、とても書きやすかったのですわ。紙も上質なものが使って有りましたし、薄くて滑らかでした。
ただ、これは兄も同意見だったのですが、装丁が仰々しすぎまして、まるで本の様に見えるのが残念でした。」
「あー装丁かー。何人かに言われたんだよな。写してる本より立派だとか。羊皮紙挟んでるみたいだとか。」
「私の個人的な見解ですけれど、芯を取ってペラペラの革で包むのはいかが?」
「革をやめろとは言わないんだな。」
「布とか紙とかだと今度は高級感が無くなりそうですもの。」
「だよな。それで作ってみるわ。それと、お前、なんか教室でまた変な筆記用具使ってるんだって?」
「ああこちらですか? 私が勉強に使用した物を長く保存したいとかで、木ペンで書くのをお父様に嫌がられてしまって。」
そういって、メタルホークを取り出して、イエンセ様に渡しました。
カフェで書くときはやっぱり木ペンですもの。ここでインクを零すと大変ですからね。
「なんか変わった形だな。」
メタルホークを不思議そうに見ています。
以前のペン先に円柱状の木の軸をつけたものと違い、ペン先側が瘤のように太くなっていて瘤の下側になる部分が少し平らになっています。
折角ホークとつけるなら、鳥の頭に近くしてみようと形を変えたら、握りやすくなりました。
「ちょっと試作中のペン先ですの。一度インクに付けると羽ペンよりも多くの文字が書けますのよ。」
「それだけか?」
こちらをじっと見ています。
「だけですわ。あ、名前は『メタルホーク』と言います。」
「メタルペンじゃないのか。」
あら驚いていますわ。
「お父様命名ですから。」
「そうか。メタルホーク一個調達できないか? 使ってみたいんだが。」
納得の顔が癪ですが、予備の分を取り出して、イエンセ様に渡します。
「どうぞ、使ってみて売りたくなったらその分上乗せしてくださいな。」
「試用コスト分引きたいところだよ。」
そう言いつつ先に渡したメタルホークを返して去って行きました。
相変わらず忙しいのですわ。
◇◇◇◇◇
いつもと違う廊下を歩いております。
ちょっと先生に呼ばれたので、いつもと違う道順になったのですわ。
遠くにお兄様が見えます。
こんなところに出てくるイベントは無かったのですが、ゲームではないので普段いない場所に居ることも有りますわよね、私も居ますし。
「お兄……」
「シュテファン様!」
「ラング嬢ですか。」
声をかけようとしたら、ミリアナ嬢が先に声をかけていました。
何やら親しげで、今日初めて出会うような雰囲気では有りません。
「シュテファン様、わたし、わたしシュテファン様の妹のイザベル様にいじめられているんです。」
紫色の大きな瞳から、涙をぽろぽろ零しながら、上目遣いにお兄様を見上げています。
お兄様はこちらに背中を向けているのでどんなお顔なのか分かりません。
「イザベルがあなたを虐めていると言うのですか。」
お兄様が、眼鏡をクイッと持ち上げながら問いかけると、こくんと一つ頷き、また上目遣いでお兄様を見上げながら言います。
「こんなことをシュテファン様に言っていいのか悩んだんですけど、やっぱり言います。初めは罵られたり、ちょっとした嫌がらせだったんですけど、だんだんひどくなって、校舎裏に呼び出されて、突き飛ばされたり、教科書や植物帳を噴水の中に放り込まれたり、せっかく勉強した結果が全部なくなっちゃって、わたし、わたしっ。」
そのまま目を瞑ってうつむくと、涙をぽろぽろと流します。
お兄様はそっと、ピンクの頭をなでながら、宥めるように言いましたわ。
「落ち着いて、ゆっくりと思い出して、もっとちゃんと詳しく話してくれませんか。」
ミリアナ嬢は頭をあげて、うるんだ瞳でお兄様を見上げながら言います。
「信じて、くれますか。」
「そのためにももっと詳細に話してくれませんか。それから検討しましょう。」
私はそっと後ずさって逆の方向へと駆けだしましたわ。
これ以上聞いてられませんでしたもの。
今日は、図書室へは行けそうにありませんわ。
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