14.1月1日に家族と家の者に贈り物を送りますわ
あっという間に新年になりました。
贈り物の日が終わって、領地の館に帰りました。
別に領地に帰る必要はないのでしょうが、新年は領地に帰るのが慣習の様になっておりますの。家族みんなで帰って来て、年末年始は家族と領地でゆったりするようになっていますわね。
なんと今年はお兄様も帰っていらしてます。ですから今日贈り物が出来ますの。
あ、我が婚約者殿には王都にいる間に城に届けさせましたわ。一応面会の伺いを立てましたが、お断りされましたもの。手渡しは無理でしたわ。
まずは、領地の騎士達にアルフィオーネ家の代表として贈り物を送ります。
これは毎年の決まりの様な物ですわね。騎士達には家を代表して私が贈り物をしますの。帰る前に王都の騎士達にも渡して来ましたわ。
ただ、以前は騎士たち一人一人に手渡しをしていたのですが、王子の婚約者になってしまってから、同年代の異性との接触を避ける為に、代表にまとめて渡す事になりました。言葉のやり取りなど結構楽しかったので残念です。
というわけで、騎士達が鍛錬をする練兵場へやって来ました。
「カルーソ久しぶりね。」
領地の騎士達を纏めているカルーソに挨拶します。彼にまとめて送る事になるのですわ。
「今年も麗しい姫様にお目にかかることができ、何よりです。」
カルーソが、跪いて挨拶してくれます。領地の騎士達は私の事を姫様って呼ぶのよね。王都では、「誰に聞かれるか分からないから。」って矯正出来るんだけど、領土は「我が領土の姫様です。」って直してくれないの。
「カルーソも元気で何よりだわ。いつも領地を護ってくれてありがとう。」
「もったいないお言葉です。我々は、姫様、ひいてはアルフィオーネ家を、そしてこのアルフィオーネ家が治める領地を護ることこそが本懐でございますれば。」
「そう言ってもらえてうれしいわ。これが今年の贈り物よ。剣に付けるチャーム、皆が今年一年無事でありますように。」
そう言って、袋を渡します。一つ一つは小さいチャームだけど、数が多くて一抱えある袋になってしまうの。
「姫様、ありがたく受け取りたいと思います。今年も一段の忠誠を。」
カルーソは一抱えもある袋を受け取ると、膝をついたまま礼をとっていますわ。
「それではまた。」
「ははっ。」
そのままその場を離れました。カルーソ、今年も跪いたままでしたわ。
◇◇◇◇◇
お母様の部屋に向かいますわ。
(コンコン)「お母様失礼いたします。」
「どうぞ。」
(ガチャ)「お母様新年おめでとうございます。」
「あらイザベル、新年おめでとう。」
ゆったりとテーブルに座っています。お茶を飲んでたのですね。
「お母様、贈り物ですわ。」
お母様に贈り物を渡します。刺繍をしたショールですわ。
「あら、暖かそうなショールね、この刺繍はイザベラがしたのかしら。ふふふ、このお花、私の好きなお花なのね。」
「ええ、折角ですから好きなお花の方が良いかと。」
「嬉しいわ。はい、贈り物。」
後ろに控えた侍女から手渡された贈り物を下さいますわ。
「まあ、綺麗な帽子。」
「ええ、街を歩くときに使ってちょうだい。」
「有難うございます。喜んで使いますわ。」
この帽子、この前買ったワンピースに合いそうですわ。今度使いましょう。
◇◇◇◇◇
次はお父様の所ですわ。
(コンコン)「お父様失礼いたします。」
「イザベルか、入りなさい。」
(ガチャ)「お父様新年おめでとうございます。」
「新年おめでとう。」
お父様がこちらの方に向かってきます。暖炉の側に座っていらしたのね、ロッキングチェアが揺れていますわ。
「お父様、贈り物ですわ。」
「有難う、おや二つも有るのかい? 一つはハンカチだね、イザベルが刺繍してくれたのかい、宝物が一つ増えたよ。」
「お父様ったら。」
私が刺繍して渡すと、宝物にしてしまうのですから、困ったものですわ。
「もう一つは、何だい?」
一緒に渡した付ペンをしげしげと眺めています。
万年筆のペン先に、円柱状の木の軸をつけただけのものです。
「ペンですわ。インクをつけなくて良いペンを開発しているのですが、ペン先を試すのに、ペン先だけ軸に付けたところ、思いのほか使い勝手が良かったのでお父様にもどうかと思いましたの。羽ペンほどの優雅な文字は書けませんが、実用的な書類を書かれるときにインクをつけて使って下さい。」
「おや、インクをつけなくて使えるペンは、開発済みではなかったのかね?」
ペンから目を離してこちらを見ます。
「あれはインクではなく、炭の粉で書くもので、長期間書類を保存できませんの。今開発しているのは、インクで書けるものですわ。」
「インクをつけずにインクで書くとは興味深いね。ところで今学園でイザベルは、その炭の粉で書いているのではないのか? それではお前のノートが長期間保存できないのではないのか?」
「学園で勉強に使ったものなどすぐに廃棄しても構わないではないですか。正式な書類はペンで書いておりますし。」
「いやいや、お前が学ぶために書いたものは宝物だよ。長く保存したいものだ。ちゃんとインクで書いておくれ。」
「お父様がそういうのでしたら、インクで書きますわ。」
相変わらずお父様はなんでも宝物にしてしまいますのね。
「それにしても、ペンと言う名前は味気ないな。鳥のくちばしの様ではあるし、『メタルホーク』と言うのはどうだね?」
「『メタルホーク』、ではそれにしますわ。」
メタルペンのつもりでしたけど、多分こちらの方が良いですわよね。私だって自分のネーミングセンスに疑問を持っていなかったわけでは有りませんのよ。
「そうそう忘れるところだった。イザベル、贈り物だよ。」
「有難うございます、お父様。」
2~30cmくらいの少女の像ですわ。
「可愛らしいですわね、お部屋に飾っておきますわ。」
「そうかそうか、気に入ってくれたようで良かったよ。」
「それでは失礼しますわ。」
「またおいで。」
お父様の部屋から退室いたしましたわ。
◇◇◇◇◇
最後にお兄様の所です。が、緊張してきましたわ。お部屋に入れてもらえるかしら。
(コンコン)「お兄様。」
(ガチャ)「イザベル、どうしました。」
お兄様が扉を開けてくださいました。
お部屋の中ではなくお部屋の前ですわね。会ってもらえるなら十分ですわ。
「お兄様に贈り物ですわ。」
ラッピングした上級植物帳を渡します。
「ありがとうございます。」
お兄様が受け取って下さいます。
ラッピングを外すと、アルバムの様な、芯のある分厚い革に装丁された、本の様な何かが出てきました。
「これは何ですか。」
「上級植物帳と言う、植物帳を貴族向けにしたものです。」
「発売前のものでは有りませんか?」
眼鏡をクイッと持ち上げながら、私に尋ねます。
「貴族用の植物帳を販売すると聞いたので、贈り物用に売っていただけないか頼んだものです。あ、無理やり脅したりはしてませんわ。」
私、良い悪役令嬢。悪い事しませんわよ。
「装丁が仰々しいですね、まるで装丁した書物のようです。」
「そうですわね、販売元に言っておきますわ。」
「知合いなのですか。」
「はい、感想を頼まれているので。」
「なるほど。」
上級植物帳を開いてみようとすると、革が一枚外れました。
「これは?」
外れた革の裏表を眺めています。
「あら、下敷きもついてましたのね。」
外れたのは、平らな一枚の薄い革。上級植物帳と同じ大きさの下敷きでした。
「ちょっとよろしいですか。」
上級植物帳と下敷きを借り受けます。
「このように紙の下に敷いて文字を書くと書きやすく、下の紙に跡が付かないのです。」
「なるほど、そういう物でしたか。ところでイザベル、あなたが無理やり奪ったなどとは考えていませんが。」
「はい。」
やった、誤解をとけたわ。
「買い物をするときには、どういう物か品物を確認して、できれば値段を聞いてから買いなさい。」
そういえば値段を聞いてませんわ。
「それから、これは私からの贈り物です。」
そう言って、机の上からラッピングをした包みを下さいました。
「あら、これは。」
小さな剣ですか?
「ペーパーナイフです。貴方のペーパーナイフは使いにくそうでしたからね。」
薔薇を紙に書いて切り抜いたようなペーパーナイフで綺麗なのですが、よく別の所を切ってましたのを見ていたのですね。
「有難うございます。これからはこちらを使わせていただきますわ。」
そのままお兄様の部屋を辞しました。
今年の新年は良い日でしたわ。
あ、婚約者様からの贈り物は有りませんでした。
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