12.年末年始に贈り物をするのが風習ですわ
あれからつつがなく、冬になりました。
もう、冬の初めと呼ぶには遅いでしょうか。
ヒルダ様はたまに東の森に応援に行かれるそうです。
そして、ごくたまに二人で練習するそうで、仲睦まじくて、その時の二人に差し入れするのが狙いの方も出ているそうです。
ミリアナ嬢は東の森にも妖精の森にも図書室にも出現していません。
このまま行って欲しいものですわ。
図書室ではお兄様にたまに教えていただいてます。
10分を計るために砂時計をいくつか並べましたら、お兄様に呆れられました。
そして、なんと、席がお兄様の隣になりました。
わからないときに、問題を持ってお兄様の側に行っておりましたら、席が隣のほうがいちいち移動しなくて済むだろうとおっしゃられましたの。問題によっては、参考資料も開いたまま抱えていましたので、楽になりましたわ。
アレクサンドル殿下とのお茶会はあれからぱったりなくなりました。
無理やり話しかけるのも大変なのでこちらとしては助かりますけど、あれは婚約者としての礼儀だったのですけれど良かったのでしょうか。
お父様は、アレクサンドル殿下の瑕疵が増えたと喜んで交渉の材料にしていますが、王家側の反応が相変わらずだそうです。もう最近では我が夕飯でのちょっとした話のタネになってますわ。
◇◇◇◇◇
そして今は、いつものお昼の雑談の途中ですわ。
「最近寒くなって、東の森に応援にいらっしゃる方が少なくなりましたの。根性が足りませんわ。」
「以前は次の差し入れまで一週間ほどかかりましたけれど、今は4日ほどで次の差し入れが出来ますわねぇ。」
「ですわ。本当にこのくらいの寒さでねを上げるなんて。」
「ですが、寒い中に長いこと居ることで体を壊す方もいらっしゃいますわ。それで倒れたりすると、応援されている騎士様も心配されますわ。」
「騎士様が心配するのは心が痛みますわ。」
「そうですわね、無理されるのも困りますわね。」
「私と一緒にエーリク様を応援される方も1人倒れてしまいましたの。」
「あら、あなたの所は3人でそれぞれタオルと差し入れと飲み物を分担されていたのではなくて?」
「ええ、倒れた方はタオルを担当していたイラナ様なので、二人で交互にタオルも差し入れてますが、早く治って戻っていらして欲しいですわ。」
「やはり、いつもより一人減ると寂しいですか?」
「それもですが、やはりイラナ様のタオルの方が良いのですわ。」
「イラナ様と言うと、あの雑貨商をやってらっしゃる?」
「ええ、その中から汗を良く吸って肌触りの良いものを厳選されていましたの。とてもかないませんわ。」
「タオルといえど、侮れない物ですのね。」
「ええ、そうですわ。自分で差し入れて良く分かりましたの。」
毎回差し入れは話題によく上りますけれど、奥が深いのですわね。話題もいろいろと出ますし、聞いていても飽きませんわ。
あら、これは不謹慎でしたわね、皆さん本気で話していますのに。
「そういえば、騎士の皆様に年始の贈り物はされますの?」
年始の贈り物ですか。もうそろそろ考えないといけませんわね。
年始の贈り物は、年の始まりの慣習の事ですわ。
この国では毎年の初めに家族に贈り物をしますの。それで年始に領地の家に帰れるように、学園も年始の前後1週間は休みになりますの。
流石に1週間以上かかる者や、北方で道が雪に埋もれる方々は、あきらめて寮で過ごすそうですわ。もちろん帰りたくない者も同様です。
それで、親しい方には学園が休みになる前日に配るのですが、この、休みになる前日が12月24日で贈り物の日とよばれます。
さすが日本のゲームそこは考えていますのね。殆どイベントが無いゲームでも1つくらいは考えていたようですわ。
なお、贈り物を邪魔するのは忌むべきこととされていまして、見つかると社会的に死にますので、妨害はやめておきますわ。
「贈り物の日に贈り物を持って東の森に行ってみますわ。もし出会えたら贈り物と袋を渡そうと思いますの。」
「贈り物はともかく袋は何故ですの?」
「あら、贈り物をするのが私だけのはずがありませんわ。ですからたくさんのものを持ちやすいように大きな袋も用意しますの。」
「まあ、さすがですわ。私も袋をもっていきますわ。」
「私も!」
「贈り物にできる袋を考えますわ。」
今年は、袋の贈り物が流行りそうですわね。
◇◇◇◇◇
「よう。」
イエンセ様が飲み物を持って、向かいの席へやって来ました。
「これは先月の分な。」
そのまま宝石の入った袋を投げられますわ。
「あら、また増えていますわね。」
「おお、植物帳の売れ行きが良くてな。それで貴族用に装丁した植物帳を売ることにしたぜ。『上級植物帳』と名付けた。見本を一つ、やろうか。」
「それでしたら、お兄様の贈り物用に1冊買いたいですわ。」
お兄様、図書室で植物帳を使ってらしたもの。それにしても、上級植物帳、ネーミングセンスは私と似たり寄ったりですわね。
「おうよ、贈り物用にラッピングした奴を1冊用意するぜ。代金は今月の分から引いとくな。」
「それでお願いしますわ。」
これでお兄様の贈り物も準備出来ましたわ。でも……
「貴族用の植物帳が出るのでしたら、下敷きもあった方が良いのかしら。」
「下敷き?なんだそりゃ。」
あら、思ったことがこちに出てしまいましたわ。
「これですわ。」
そのまま使っていた下敷きを引き抜きました。
「ただの革か?」
「ええ、でもこれを紙の下に敷くと、書きやすいですし、下の紙に上の紙の後が写りませんの。」
下敷きを引き抜いた後の紙の端に強く文字を書き、下の紙に文字の跡が写っているのを見せます。
「なるほどな。でもこんなの気にしないだろ。」
紙を覗き込みながらイエンセ様がおっしゃいます。
「ええ、気にならない人は気になりませんわ。ただなんでも気にする方はいますわ。」
と言いながら、跡の上に線を引き、跡が白く残ることを見せます。
「なるほど、気にならない奴は気にしないが、お貴族様なんかは気にするやつもいると。」
「ええ、そういう方は、綺麗に使いたいでしょうね。1%でいかが?」
「初めから1%って、儲ける気もないな。」
「ええ、ただの固くなめした薄い革ですもの。」
言いながら下敷きを90度回転させます。イエンセ様に革の厚みが見えるようにするためです。
「厚いと紙の下には挟まりませんが、薄い鉄板でも少し滑りますが使えますし、表にデコボコが無ければなんでも良いのですわ。薄く絵を描くくらいしか飾りは難しいですわね。もし箔押しなどをするなら、少し大きめに作って、はみ出した部分にすることですわ。」
「なるほど……。じゃあ3%でどうだ。」
「あら、ありがとうございます。3%で。」
そのまま握手しました。なんでか増えてしまいましたわ。
「おしっじゃあまたな。」
イエンセ様はそのまま去って行きましたわ。
忙しい方ですわね。もうちょっとお話していっても宜しいのに。
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