10.鉛筆を売りたいそうですわ
今日も良い天気ですわね。
影からの知らせに新しい事は有りませんでしたわ。
そしてまた時間が空いたのでカフェで予習ですわ。
「よっ」
あら、イエンセ様。そのまま向かいの席へ座りましたわ。
今日は初めから飲み物を買ってきてますわね。
「イエンセ様、こんにちは。どうかなさいましたの?」
「先月の取り分だな。ほら。」
そのまま包みを渡されました。思ったより大金ですわね。
「ありがとうございます。結構売れましたのね。」
「貴族の奴らまで買っていったからな。来月からはもっと多くなるぞ。それから、取り分は現金と宝石どっちが良いか。」
「宝石の方が助かりますわ。来月からお願いできますかしら。」
国を越えて持ち出すなら、宝石の方が都合が良いのですわ。
「おう分かった。ま、お前さんが普段見るような上物の宝石とは行かないがな。」
「それはもちろん。値段が値段ですもの。」
値段相応の宝石で十分ですわ。
「それはそうと、また変わった筆記用具だな。」
目が鉛筆にくぎ付けになっていますわね。
「鉛筆の事ですか?ここでインクを零すと大変なのでこちらを使ってますの。」
「ふうん、インクをつけなくても良いのか。それ、売ってみないか。」
あら、目がキラキラしていますわね。商品を見つけるとそうなるのかしら。
「相変わらずですわね、では売り上げの20%なら。」
「強気だな。1%」
頬杖をついてにやりとしてます。癪ですがかっこいいですわ。さすが攻略対象。
「こちらはインクを用意する必要がありませんもの。先生方でも好まれる方はいますわ。19%」
「だがこれで正式書類にはできない。2%」
「下書きには使えますわ。インクをつけないのは思う以上に助かりますわよ18%」
「思う以上に使ってみようとする奴がいるかな。3%」
ううん、表情が変わりませんわね。想定内ですのね。
「いるかもしれませんわよ、持ち運ぶにはこれと植物帳の方が手軽ですし。17%」
そうそう、メモ帳の名前が植物帳になりましたの。植物紙の帳面ですわね。
「それはそれとして、別に木で巻かなくても真ん中だけで良くないか。4%」
そう思いますわよね、私も初めはそう思いましたし。
「巻かないと、ぽきぽき折れますわよ。16%」
それはもうぽっきぽきに。持っただけで折れましたもの。
「折れるなら折れるなりに、みんな工夫して使うぜ。5%」
そうなのですね、さっさと木で巻く方に行きましたわ。
「運ぶ時にもいろいろ工夫しそうですわね。15%」
「お、おう、どうにかすらあ。」
あら、お顔が引き攣ってますわ。商人なら運ぶノウハウとか有りそうなものですけれど。
「あと、植物紙で巻かないと真っ黒に汚れますわよ。」
そこらじゅうが汚れました。
「じゃあ巻いて使うだろ。」
「植物紙が家にあるとも思えませんけれど。」
普通に紙が置いてある家って、どんな家でしょう。
前世ならどこにでもありましたけれど。
「それに、汚れとか気にしないと思うぞ。」
そうなのですか?
「手だけでなく、服や、入れている物や中身も汚れてしまいますわ。」
「いや、それも気にしないと思うぞ。」
「一緒に入れているメモが汚れて読めなくなっても?」
横の面で塗ったようになりましたからね。
あらちょっとしかめっ面ですわね。読めないのはさすがに気にしますかしら。
「木で巻いていれば汚れないのか?」
「キャップもつければまず大丈夫ですわ。」
キャップをつけた鉛筆を見せます。
「なるほどな、安さ重視の奴ら用に真ん中だけの奴を売り出すか。」
「普通の炭よりは使いやすそうですわね。」
普通の炭だと上手く書けませんでしたし。
「なんだただの炭じゃないのか。なら1%」
まあ、手数料を下さるの?
「一応加工品ですわ、手間はどうかしら。5%」
鉛筆の芯を作っただけですものね。
「いろいろかかるのか? 2%」
「粉にして、混ぜて、焼きますわ。4%」
「そりゃ立派な加工品だな、手間もかかってる。3%」
「ではそれで。3%」
そのまま二人で握手をしましたわ。決定ですわね。
「そういや『鉛筆』って言ってたが、鉛と混ぜるのか?」
首をかしげながら不思議そうな顔をしていますわね。
「鉛は入ってませんわね。」
首がより傾いて不思議そうな顔が歪みましたわ。
「『筆』ってなんだ?」
「ペンの事かしら?」
あら、首が90度で不可思議ってお顔になりましたわ。
「変な名前だな。」
「そうですわね。『炭ペン』では落ち着きませんわね。」
全体を炭化させたくなりますわ。
「どっちかって言うと木だしな。」
「『木ペン』でいかが?」
「それでいいな。真ん中だけのは『炭ペン』か?」
お顔が普通に戻りましたわ。ちょっと上の方を見ています。
「『ペン』と言うより『棒』かと。」
「『炭棒』でいいか。」
「ですわね。」
木ペンに炭棒。私にネーミングセンスが無いのは良く分かりましたわ。解りやすいから良いですわね。
「で、木ペンと植物帳を持ち運んで何を書くんだ?」
「いろいろですわね。先生方なら思いついた論文のアイデアを書いたり、注意すべき生徒を書いたりできますわね。」
「生徒としてはありがたくないな。」
顔を歪めています。何か嫌なことを思い出してますわね。
「後は、話している途中でした約束を忘れないようにメモしたりできますわね。スケジュールを書いて置けば、新しい用事が出来た時にいつなら空いているか分かりますわ。」
「忙しい奴には便利か。」
「ええ、植物帳の背にコイル状の針金をつける。ではなくてコイル状の針金でとじてそのコイルに木ペンを挿しておけば一緒に取り出せますし、しおり代わりのひももつけておけば、開くのも楽ですわ。そうやっておけばとっさに書くのも楽なのですが、まずはその便利さを知ってもらわないといけませんわね。」
前世でも背中に鉛筆が付いてるメモが有りましたし、あれって便利なんですわよね。
「知ってもらえば……か。イザベラはそれを持って回ったら何を書くつもりだ?」
「私は、……持って回れませんわね。」
「何でだ?」
「何かを書いていると。『書いた』ということが影響を与えてしまうからですわ。約束を書いても『誰の』約束を書いたかが問題になりますし。些細なことを書いても『何を』書いたかが注目されてしまいます。」
「めんどくさいな。」
「ええ本当に。」
影響を考えずに何もできないのは、侯爵家に生まれた対価ですわね。
「ま、木ペンは10%だな。」
「あら、9%や8%ではございませんの?」
「10%でいい。ただ、コイル状で止めた植物帳に木ペンをセットした物も売っていいだろ。5%で」
「木ペンだから10%で」
植物帳だけで考えられたら困りますわ。
「いいぜ10%だな。今日は楽しかったぜ。」
「ではまた。」
私も楽しい時間でしたわ。
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