第七章 帰省
「申し訳ございません、こんな大事な時に」ローランス曹長は、実家からの手紙を前に頭を抱えていた。
「……参ったな、今回、父上は本気のようです」
ミラー課長がコーヒーを啜りながら尋ねる。
「実家の『海軍一家』がお呼びか?」
「ええ。『海軍の恥さらしは辞めて、直ちにダスクポートへ戻り、将校としての職務に就け』と。……今週末、また親族会議ですよ」
ローランス家は、代々海軍の提督や艦長を輩出してきた名門。
彼らにとって、泥棒を追いかける警察官など下賤な仕事であり、一族の面汚しだった。
ミラーは手紙を覗き込み、ニヤリと笑った。
「いい機会だ。行ってこい、ローランス。ただし、護衛をつける」
「護衛? 私にですか?」
「ええ、イライアス、君が行け」
「はっ」
「待って、護衛なんか、必要ではないです」
「ああ。お前が海軍に連れ戻されないように、そして……我々警察という仕事が、軍隊ごっこよりも鋭い牙を持っていることを、その高慢なご家族に教えてやるためにな」
「はあ……」
軍港都市ダスクポートは、巨大なクレーンと灰色の軍艦、そして造船所の溶接の火花に包まれた街だった。
駅に降り立ったイライアスは、潮の匂いに顔をしかめる。
「で、我々はどう曹長の家に着く?」
「あれで」
彼等を迎えに来たのは、黒塗りの高級蒸気車。運転手は直立不動の軍人だ。
イライアスはジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、ローランスの隣に乗り込んだ。
車はダスクポートの東側、貴族街のある半島へと滑り出す。ゲートをくぐってから、さらに車で十分ほど。丘の上に鎮座するのは、要塞のごとき威圧感を放つローランス家の本邸だった。
ダイニングルームでの夕食会は、まるで軍事法廷の尋問室のような緊張感に包まれていた。
磨き上げられた銀食器の触れ合う音だけが、冷たく響く。
長テーブルの上座には、ローランス家の当主である現役海軍中将。その左右には、ウィリアムの兄たち(全員が海軍将校)が並んでいる。
「……で、まだあの薄汚い『泥棒捕まえ』を続けているのか、ウィリアム」
中将は、貴族らしからぬ粗暴な所作で、分厚いステーキを大口で頬張りながら言った。
「ローランス家の男は海軍に入り、赫々たる武功を立てるのが定めだ。どうだ、明日にでも辞表を出せ。今すぐ士官学校へ入れ。一年ほど泥にまみれて下士官をし、適当な功績をでっち上げれば、我が女王陛下に進言してやる。お前を中佐ぐらいに引き上げるのは造作もないことだ」
ウィリアム(ローランス)は、視線を皿に落としたまま、静かに反論する。
「父上、警察も市民を守る重要な仕事です……」
「市民? 我々が守っているのは『国家』だ!」
中将の怒声が飛び、ワイングラスが震えた。
「スリや痴話喧嘩の仲裁など、国家の守護者たるローランスの仕事ではない! 恥を知れ!」
兄たちも冷ややかな目でウィリアムを見下している。
その時だった。
「あの、すみません」
イライアスはナプキンで口を拭うと、場違いなほどリラックスした様子で口を挟んだ。
「肉も食い終わったんで、俺からも少し話していっすか?」
中将が、虫でも見るような目でイライアスを睨みつけた。
「……なんだ、貴様は。ウィリアムの同僚だと言ったな。平民が口を挟む場面ではない」
イライアスは悪びれもせず、背もたれに深く寄りかかり、懐から煙草を取り出してくわえた。(給仕長が慌てて止めようとしたが、彼はそれを手で制した)。
「いやあ、あんまり話が退屈だったもんでね、将軍閣下。
国家、国家って言いますけどね。あんた等の言う『国家』ってのは、地図の上の線のことか? それとも、その胸についてるピカピカの勲章のことか?」
「貴様ッ……!」
長男が立ち上がろうとするが、イライアスは冷徹な眼光だけでそれを射すくめた。その目には、戦場を知る者特有の、昏い光が宿っていた。
「俺たちが毎日相手にしてんのは、あんたが馬鹿にした『スリや痴話喧嘩』だけじゃねえんだよ。
路地裏で産業廃棄物を垂れ流す工場、貧民街で出回る違法魔導具、そして……あんた等の海軍が横流しした武器を使ったテロリストだ」
イライアスは煙を天井へと吐き出し、中将を指差した。
「ウィリアムはな、あんたが暖炉の前でステーキ食ってる間に、爆弾の信管を素手で抜いてるんだよ。
親父のコネで中佐になる? 笑わせるな。
こいつは、自分の力だけで街を守ってる。その辺の飾り物の将校より、よっぽど『守護者』やってるぜ」
部屋中が凍りついたような静寂に包まれた。
中将の顔が怒りで赤黒く変色していく。
「……出て行け。二度と我が家の敷居を跨ぐな」
「おう、願ったりだ。ここは飯は美味いが、空気が不味くていけねえ」
イライアスは立ち上がり、呆然としているウィリアムの肩をバンと叩いた。
「行くぞ、曹長。ここにあんたの居場所はねえよ。帰ろうぜ、俺たちの汚くて騒がしい事務所へ」
曹長は一瞬、父と兄たちを見渡し、そして深く息を吐いた。何かが吹っ切れたような顔だった。
彼は静かにナプキンをテーブルに置いた。
「……失礼します、父上。食事には感謝します」
二人は背後で怒鳴り散らす中将の声を無視し、重厚な扉を開けて廊下へと出た。
屋敷の外に出ると、夜風が冷たかった。
二人は一刻も早くこの場を離れようとしていた。そのとき、曹長の
兄の一人が突然追いかけてきた。
「……その、少し待たれよ」
兄は息を整えながら、切れ切れに言葉を継いだ。
「先ほどはいささか不快な思いをさせてしまったが、せめて今宵だけでも逗留してはもらえないだろうか。私が住んでいる別館がある。後ほど、この件は父上に私から申し上げる」
イライアスは何を言おうとしていたが、曹長は先に「それは助かります。どうか兄上には、父上のご機嫌をうまく取りなしていただけるとありがたい」
翌日朝、曹長は父に謝るとしようが、相手は早々何も言い残さず公務へと出かけていった。
ウィリアムは少し安堵したような、それでいてどこか諦めたような顔でコーヒーを飲み干すと、イライアスに向き直った。
「どうしようか、曹長?」
イライアスが尋ねると、ウィリアムは苦笑して首を振った。
「まあ、こうなった今だ。せっかくだから君を連れ、この私の生まれ育った街を案内しよう」
二人は兄に礼を告げ、屋敷を出た。
ダスクポートの東側、「海軍街」と呼ばれるこの地区は、イライアスたちが普段活動する煤けた下町とは別世界だった。
ゴミ一つ落ちていない石畳。白亜の壁に整えられた将校たちの邸宅。行き交う人々も、糊の効いた制服を着た軍人や、日傘を差した貴婦人ばかりだ。
二人は坂道を下り、港を一望できる見晴らし台に立った。
「……へえ。こいつは壮観だな」
イライアスが口笛を吹く。
眼下に広がる軍港には、ニルフヘイヴン海軍が誇る最新鋭の「鉄甲船」がずらりと並んでいた。
朝日を浴びて輝く無数の砲塔、空を衝くように伸びるマストと煙突。それは圧倒的な暴力の視覚化であり、同時に工業技術の結晶でもあった。
「あれが旗艦『ヴィクトリア』だ。その隣が巡洋艦『不屈』……。
子供の頃は、あの甲板に立つのが世界の全てだと思っていたよ」
ウィリアムが手摺に手をかけ、遠い目をする。
イライアスは隣で肩をすくめた。
「ピカピカの檻だな。俺には息が詰まりそうだ」
「否定はしないさ」
二人は見晴らし台を後にし、街の中心部へと歩き出した。
市場もまた上品だった。威勢のいい怒号はなく、静かな商談と挨拶だけが交わされている。
だが、その平和な空気が、突如として乱れた。
「――おい、あれを見ろ!」
「なんだあの煙は!?」
通りの向こうで、誰かが叫んだ。
人々が足を止め、港の方角を指差してざわめき始める。
「火事か? ……いや、ただのボヤじゃねえな」
イライアスが鋭い目つきで空を見上げる。
港の一角から、ねっとりとした黒い煙が立ち上っていた。
それは工場の煙突から出る蒸気ではない。重油や火薬が燃える、不吉で濃密な暗雲だった。
煙は瞬く間に太くなり、青空をどす黒く侵食していく。
ウゥゥゥゥゥ――ッ!!
遅れて、空襲警報のようなサイレンが街中に響き渡った。
「あの場所は……まさか」
ウィリアムの顔色が変わる。彼は眼鏡の位置を直し、煙の発生源を凝視した。
「『第三造船所』……!
新型エンジンの換装を行っているドックだぞ!?」
「造船所だと? 海軍の心臓部じゃねえか」
群衆がパニックを起こし、逃げ惑い始める。
「爆発するぞ!」「テロだ! 北地の連中だ!」という悲鳴が聞こえる。
ズドォォォォン!!
言葉を裏付けるように、腹に響く爆発音が轟いた。
黒煙の中に紅蓮の炎が混じり、巨大な鉄骨が吹き飛ぶのが遠目にも見えた。
イライアスは反射的に走り出していた。
「おいウィリアム! 行くぞ!」
「行くって、どこへ!?」
「決まってんだろ! 特等席(現場)だ!
海軍のお偉いさんが腰を抜かしてる間に、俺たちがボヤを消し止めてやる!」
「……やれやれ、結局こうなるのか!」
ウィリアムは舌打ちしながらも、イライアスの背中を追って走り出した。
静寂と規律の街・ダスクポートは今、黒煙と混沌に飲み込まれようとしていた。
二人は人波を逆走し、造船所の通用門付近に到達した。
そこは地獄絵図だった。黒煙が視界を遮り、負傷した工員たちが運び出されている。憲兵隊(MP)が封鎖線を張ろうと怒鳴り散らしている最中だった。
「止まれ! ここは海軍の管轄だ! 民間人は下がれ!」
若い憲兵が二人を止めようとするが、イライアスは警察手帳(RISのバッジ)を目の前に突き出した。
「王都警察、第五課だ。状況確認に来た」
「け、警察? 管轄違いだ! 帰れ!」
その隙に、ウィリアム(曹長)は眼鏡のブリッジに触れ、魔力感知機能を最大にして現場を見渡していた。
彼の表情が険しくなる。
「……イライアス、妙だ」
「ああ? 何がだよ」
「爆薬の匂いがしない。
これだけの規模の爆発なら、大量の火薬が必要だ。だが、この厳重な軍港にドラム缶何本分もの火薬を持ち込むのは不可能だ。ゲートの魔導センサーに引っかかる」
「じゃあ、なんだってんだ? 空から降ってきたとでも言うのか?」
「いいえ。……『燃料』です」
ウィリアムは地面に散らばっていた、焼け焦げた黒い破片をハンカチで拾い上げた。
「これは『精製魔炭』の破片だ。
通常なら安定したエネルギー源ですが……『遅延式の術式』が組み込まれている痕跡がある。
おそらく、納入された石炭や燃料そのものが、一定の熱量に達すると爆発するように『変質』させられていた」
「なるほどな。
爆弾を持ち込んだんじゃねえ。『燃料そのものを爆弾に変えた』ってわけか。
それなら検査もすり抜ける。……手が込んでやがる」
通信:第五課長へのホットライン
イライアスは懐から携帯魔導通信機を取り出した。
暗号化回線を繋ぐ。相手は王都にいるはずの第五課長だ。
『……イライアスか。何事だ。ダスクポートの方角で高魔力反応を感知したぞ』
「話が早くて助かるぜ、ボス。
海軍の第三造船所が吹っ飛んだ。原因は魔導工作による燃料爆発の線が濃厚だ。
これだけの工作、ただのテロリストじゃねえ。プロの犯行だ」
『……被害状況は?』
「新型艦のエンジンがオシャカになっただろうな。人的被害は不明だが、相当数だ」
『了解した。
現地海軍はメンツにかけて情報を隠蔽するだろう。だが、これは国家安全保障に関わる事案だ。
海軍情報部(ONI)と連携……いや、奴らが証拠を隠滅する前に真実を暴け。
正式な捜査権は私がねじ込む。現場を確保しろ』
「了解。……聞いたか、ウィリアム?」
通信を切ると、ウィリアムは溜息をついた。
「ええ。『海軍の横っ面を張り倒してでも現場に入れ』ということですね」
接触:海軍情報部の影
その時、封鎖線の向こうから、黒いロングコートを着た一団が現れた。
制服組とは違う、冷たく鋭利な雰囲気。海軍情報部(ONI)の捜査官たちだ。
その先頭にいたのは、なんとウィリアムの次兄、ヘンリー・ローランスだった。
「……誰かと思えば。
家出した弟と、その飼い犬じゃないか」
ヘンリーは冷酷な目で二人を見下ろした。
「兄上……いえ、ローランス少佐」
ウィリアムが背筋を伸ばす。
「ここは我々情報部の現場だ。警察ごときが鼻を突っ込む場所ではない。
即刻立ち去れ。それとも、機密漏洩罪で拘束されたいか?」
イライアスが一歩前に出る。
「おっかないねえ。
だがな、少佐殿。あんた等の検査をすり抜けて、ドックが火の車になったんだ。
今さら『我々に任せろ』なんて言われても、説得力がねえんだよ」
「貴様……!」
「RIS第五課は、本件の捜査介入を決定した。
課長からの命令だ。文句があるなら王都の本部に言え。
……それとも、ここで俺たちとやり合うか? 爆発の後始末より面倒なことになるぜ?」
イライアスはニヤリと笑ったが、その目は笑っていなかった。
現場には、黒煙よりも濃い、組織同士の対立の火花が散っていた。
「魔力の痕跡がある以上、これはテロではなく『魔導犯罪』だ。我々RIS第五課の管轄内だ」
イライアスは一歩も引かなかった。
次兄ヘンリー少佐が青筋を立てて怒鳴ろうとしたその時、背後から重々しい足音が響いた。
「……騒がしいぞ」
現れたのは、ウィリアムの父、ローランス中将だった。
彼は焦げ臭い風の中、直立不動で部下たちを睥睨した。
「父上、こいつらが捜査の邪魔を……」ヘンリーが言い訳をしようとするが、中将は手を挙げて制した。
中将は、厳しい視線をウィリアムに向けた。
「ウィリアム。お前は、警察側の人間として、ここで何ができると言うのだ」
「真相の解明です、提督」
ウィリアムは父の目を見て、怯まずに答えた。
「海軍の面子を守るための隠蔽ではなく、二度と同じ過ちを繰り返さないための、真実の追求です」
中将は鼻を鳴らした。だが、その目には昨夜のような侮蔑の色はなかった。
「……よかろう。ヘンリー、道を開けろ。
RISの手並みとやら、拝見させてもらおうではないか」
それは、不器用な父なりの「機会の提供」だった。
許可を得た二人は、黒焦げになった新鋭戦列艦の残骸に近づいた。
数億ゴールドをかけた鉄の巨塊が、無惨な鉄屑と化している。
「うわぁ……こいつは痛いな」
イライアスが顔をしかめる。「税金の無駄遣いどころじゃねえ」
ウィリアムは、瓦礫の山で魔力探知を行っていた。
「……妙ですね。魔力の残滓が、海の方角へ一直線に伸びています」
ヘンリー少佐が横から口を挟む。
「フン、やはりな。犯人は爆破後、海へ飛び込んで逃走したのだ。すでに水中部隊を手配した。貴様らの出る幕はない」
だが、イライアスは首を横に振った。
「いや、あからさま過ぎる。
なあウィリアム。さっきお前、爆発が『想定より大きかった』って言ったよな?」
「ええ。燃料への細工にしては、火力が強すぎました。
おそらく、爆発の衝撃で隣接していた予備弾薬庫の砲弾に引火したんです。
……あっ!」
ウィリアムは眼鏡を光らせ、ハッとした顔をした。
「犯人の誤算だ!
本来はボヤ騒ぎを起こして、その混乱に乗じて海へ逃げるつもりだった。
だが、予想外の大爆発で、海軍の緊急封鎖システム(隔壁閉鎖)が想定より早く作動してしまった」
イライアスがニヤリと笑う。
「つまり、海への痕跡は、捜査を撹乱するための『ブラフ(偽装)』だ。
犯人は海へ逃げ遅れた。まだ、このエリアの中にいる」
「逃げ場を失った鼠が隠れる場所なんざ、一つしかねえ」
二人の視線は、ドックのすぐ横にある「資材搬入用倉庫」に向けられた。
イライアスがハンドサインを送り、ウィリアムが頷く。
二人は音もなく倉庫へ接近した。
扉を蹴破る――と同時に、暗闇から発砲音!
「うわっ!」
犯人が潜んでいた。作業員の服を着た男だ。魔導銃を乱射してくる。
「ウィリアム、右だ!」
「了解!」
ウィリアムが防御魔法を展開して弾き飛ばし、その隙にイライアスが低い姿勢から突っ込む。
「往生際が悪いんだよ!」
強烈なタックルが男の鳩尾に入り、男は呻き声を上げて昏倒した。
犯人の懐からは、海軍の機密設計図が入った魔導メモリが転がり落ちた。
大手柄である。
騒ぎを聞きつけた憲兵隊と、中将たちが倉庫へ駆けつけた。
床に転がるスパイと、無傷の二人を見て、現場は静まり返った。
「……まさか、本当に内部にいたとは」
ヘンリー少佐は言葉を失い、悔しそうに唇を噛んだ。
ウィリアムは、確保したスパイと証拠品を憲兵に引き渡すと、父の前で敬礼した。
「犯人確保、完了しました。これよりRIS第五課は撤収します」
中将は、捕縛されたスパイを一瞥し、そして息子の顔を見た。
長い沈黙があった。
「……フン。海軍に入っていれば、これくらいの功績、すぐに勲章ものだったものを」
憎まれ口だった。だが、その声のトーンは明らかに柔らかかった。
中将は背を向け、去り際に一言だけ投げかけた。
「……ウィリアム。
たまには顔を見せに来い。母さんも……気にしている」
ウィリアムの目が見開かれる。
それは、頑固な父からの、精一杯の「認め」の言葉だった。
「……はい! ありがとうございます、父上!」
夕暮れ。
ダスクポートを後にする車の窓から、海が見えた。
「やったな、相棒。親父さんに認めてもらえて」
ハンドルを握りながらイライアスがからかう。
ウィリアムは助手席で、疲れ切ったように、しかし晴れやかな顔でシートに沈み込んでいた。
「認めてもらったわけではありませんよ。ただ……『理解』はしてもらえた気がします」
「それで十分だろ。
しっかし、あの親父さんの前で啖呵を切るとはな。お前も立派な不良(RIS)になっちまったもんだ」
「誰のせいだと思っているんですか」
二人は笑い合った。
背後の街では、まだ黒煙が微かに上がっていたが、二人の心にかかっていた霧はすっかり晴れていた。
車はアクセルを上げ、自分たちの居場所――王都の薄汚くて騒がしい「第五課」へと向かって走り去っていった。




