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濃霧の守り人 ~失業した魔物狩りたちは第五課の刑事になる~  作者: 朝飯の秋刀魚
第四部 異国編

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第四十章  沈静

「それで、待つだけなんですか?」リアンは不安げに問うた。


「ええ、これ以上焦っても仕方がないの」グレイは突然あちこち机とその周辺、何かを探している。


「ないね。あの、すみません」彼は声をあげて電信局の職員を呼んだ


「トランプカードやチェスはあるの?」


「トランプならあります」


「いい、それを持ってきて」


「はい」男は慌ててトランプを持って来た。


 グレイはニヤリと笑った。


「これで暇つぶしだ」


「大丈夫なの?州兵とかは追ってこない?」リアンはまだ相当緊張していた。


「平気、平気。俺は前からずっと探索の術をかけている。万が一の時は、イライアスが俺らを守るから、ね?」


「はあ、人使いが荒いな。うん、でもその通り、だから心配しないで、遊びながら待とう」イライアスはすぐ扉の近くに座り、いつでも応戦できるように、銃を構えている。


「はあ」リアンはまだ迷っているが、それでもグレイの向かいの椅子に座って。


 そして、自分の一族が存亡の危機にある中、彼はグレイ、キャメロンとサイモンの三人とトランプで遊び始めた。


 五時間後、全員が眠くなり、うち三人は既に爆睡している。


 カタ、カタ、カタ……


 その声を聞き、リアンは椅子から飛び上がるように立ち上がり、電報機へ駆け寄った。


 しかし、自分がニフランド語の文字を読めないことを思い出し、そこで寝ているグレイの肩を揺さぶった。


「起きてください。返電が来ました。私は読めないから、読めください!」リアンはグレイの行動を促した。


「……ん?おう!来たのか。どれどれ」グレイは返電を手に取り、読み上げを始めた。


「報告を確認した。事態は把握した。連邦軍を派遣する。以後の行動には十分注意せよ」


「それだけ?」リアンは信じられないという表情で、グレイの手にある返電を見つめた。


「ええ、この一行だけ。別に長文であるわけがないよ」。


 その騒ぎで、他の者たちも目を覚ました。電信機の音を聞いた職員も部屋へ顔を出した。


 職員は返電に記された宛先を見て、顔から血の気が引いた。グレイは相手を落ち着かせるように、『大丈夫、大丈夫。こちらの事情から、あなたには迷惑をかけないから』と言いながら、職員を部屋から外へ促し、扉を閉めた。


「まあ、これで少なとも向こうには伝わったようだな」


「でも、これで父上の助けになれるでしょう?」


「分からない。大統領は連邦軍を動かして、州長に圧力をかけるなら、それは君の一族に一番有利な行動だと思う;だが、その可能性がどれほどあるかは、俺にはよく言えない」


「じゃ、自分は帰る」リアンは自分の荷物を取り、部屋を出たい。


「待って。君の父は俺に頼んだ。この騒ぎが治らない以上、君を我々の元に置く。君の父親が最後に託した願いを逆らうつもり?」


 リアンはその言葉を聞き、ぼんやりとした。


「でも、でも……」彼の声は段々小さくなった。


「まあ、俺たちについて、損はない」グレイはリアンの肩を慰めように揉んだ。


 サラーは急にこの時で立って、口を挟む「しかし、もし高原が血に染まれば、彼が逃亡犯として指名手配される可能性もあるだろ」


「うん州政府から狙われるなら、連邦側へ避難するという手もあるんじゃないか?」イライアスはそう提案をした。


 グレイはそれを聞き、頷いた。


「でも、連邦側とはいえ、具体的にどこに行けばいいの?」サラーは続けて質問を出す。


「うん……」グレイは周囲を見回り、机に乗せた新聞を見かけた「これだ!」


 彼が新聞を折り、示したニュースはこう書いた『連邦司法部・カーラン臨時調査局が設置されて二週間、地下武器を大量押収』。そこにカーラン臨時調査局の住所も書いてある。


「これはどう?」


「いいだと思う」


 こうやって、一行は行先を決めた。




 二日後・白角高原入口


 今日のフィッツジェラルド准将の機嫌は至って良かった。彼はやっと自分が劣等種と思っている原住民を一掃できることを喜び、そのうえ州長へ忠誠を示す絶好の機会だと考えている。


 三千人の州兵はこの高原を包囲して二週間。兵士たちの不満が高まる中、南方との戦争再開によって、ついに侵攻の好機が訪れた。


「明日二十時、総攻撃を開始する」の命令を下した後、准将は呑気にブラックコーヒーを飲みながら、小説を読み始めた。


 その小説は、将軍と原住民の族長の長女と恋に落ちて、やがて州政府の命令を逆らって、その一族の命を救った物語である。


「馬鹿馬鹿しい。国はなんでこんなものの出版を許すの?」とそう囁いた准将はその小説を机に放り投げて、そして目を閉じた。


「准将、大変だ!」准将の右耳から耳障りな声が響いた。


「なんだ」准将は目を閉じたまま返事した。


「西方から連邦軍が接近しています」



「なんだと!?」准将は椅子から立ち上がり、双眼鏡を使って、西を観察する。


 塵土は舞い上がり、数百の騎兵と軍用トラックに乗った陸兵が物凄く速度で接近する。合衆国と連邦軍の旗を翳している。


「伍長、向こう何人だと思う?」


「准将、まさか、連邦軍と戦うつもり?」


「バカもん、州長への報告のために決まっている!さっさと言え、お前の判断を」


「は、はい!五百人くらいと思います」


「うん、同じ判断だ。通信兵、州長に電報を送るのだ!」


 フィッツジェラルドは歯を食いしばった。彼はよく知っている、ここで連邦軍に刃向かえば、自分が守ろうとしている州政府そのものが崩壊する。




 州政府・州長事務室


 ドイル州長はビクビクする。彼は准将からの電報を読だ。どうやら、連邦軍はなんの予兆もなく、水平線から現れ、その代表も「大統領命令により、本地域における軍事行動の停止を要求する」と州兵に命じた。


 無論、その命令を公然に違反する愚か者はいない。州長自身は原住民の死活には無関心でありながら、鉄道会社の選挙資金が欲しがっている。それに、この州の多くの選民ー特に原住民による略奪の被害を受けた農民と農場主ー原住民の排除あるい移住を望んでいる。


 彼は自分の政治的な打算がこんな早いに裏目が出ることは予想されていない。そして、幕僚から聞いた伝言は『大統領は間も無く電話する、大人しく待て』。彼は凄く不安になり、ただ電話の受話器をじっと見ている。


 ジリ、ジリ、ジリ。


 州長は震える手で受話器を耳元に置き、大統領の声がした。


「ヴィンセント、それはいかんな。我々が敵国へ対応に追われているというのに、余計な真似をしてくれたものだな」


「これは誤解です。我々は……」


「では、なぜあなたの州兵が高原と山を包囲しているの?」


「それはあくまで治安維持のためです」


「治安維持で魔導大砲も設置する?」


「それは……]


「ヴィンセント、我国は二十載(にじゅうさい)の内戦を経て、なお生き残った。そして、回復の途上にあるこの国、南部も我々の領土を覬覦(きゆ)する。これ以上の内部紛争は避けるべし。いい、撤兵して、それなら、戦争支援の口実でカーラン州に資金を送る。それに、ワシは次の任期を終えれば政界を去る、君は党内選挙の時、ワシの支持が必要だろ」


 州長は言葉をうした。大統領は彼を慰めるようなことを言いながら、実はかなりの威嚇をしていた。連邦を引いて、内戦に勝った彼は、党内の威信は莫大。その支持がいない選挙候補は党内選挙を勝利する希望はない、微塵もない。


 数分の沈黙の後、州長は答えた「わかりました。直ちに撤兵しいたます」


 そしてなんの返事もなく、相手は電話を切った。


「くそ!」彼は両手で机を強く叩いた。彼は怒りよりも、自分が利用されたことへの屈辱を感じていた。




 数日後


 グレイたちは臨時調査局の保護から解放された。そこの職員からの解釈も極めて簡潔。


『事態は収束しました。もう、ここを離れても問題ありません』


 リアンは出発の許可が出たと知るや、まだ清晨(せいしん)であることも構わず、高原へ向かおうとした。


「なんだよ、これまで頑張ったら、一言の感謝と説明もないか?」グレイはいつも通り文句を言う。


「まあ、一命は取り止めった、それでいい」イライアスはグレイの灰色の髪をくしゃくしゃに撫でながら、彼を労る。


 しかし、一行の想定外のは、大門で一人の知り合いが蒸気車にそばに彼らを待っている。


「エリック、what a pleasant surprise!」


 彼は少々照れ臭く、全員と挨拶をする。


「まあ、州長は直々に君らに謝罪と感謝をするために、私をここで君たちを待つ」


「へい、もういい、あの州長に会いたくない」グレイは全員の心の声を言った。


「悪い、この一回だけ。本当にごめん。任務を果たせなければ、私は……とにかく、いいものを奢るから、お願い」


「はあ」イライアスは思わずため息をつく「彼に応じたらどう?エリックもきっと困っている」


「ああ、もうどうでもいい」グレイはそういいながら、車に乗せた。


「うちの州長が、本当に迷惑をつけしましたね」五分くらい運転して、エリックは突然話をかける。


「まあ、でも、あれは君をせいではない」


「ハハ、そう理解させてありがたいの限りですね」エリックは恥ずかしいと思い、帽子を歪む。


「でも、厄介事はこれで終わらないと思います」彼は低い声で話す。


「それはどういう意味?」グレイは不可解な表情で問う。


「ヶッヶッ」エリックは少しの咳払いをして続く「どうやら、先日大統領が乗せた汽車の襲撃事件、生き残った犯罪者はまだいる。そして、あれは『綿花社会』と呼ばれている裏組織が関わっているらしい。まあ、この先、君たちは鉄道会社の手伝いはこれで終わるだと思う、次はカーランの治安に手をくむすることになるだろ。この裏組織は治安にきっと巨大の圧力を与えるから」


 州政府への道一行はこれ以上何も言わずに過ごした。それは単なる疲れなのか。あるいは、遠い故郷から未だ届かぬ知らせへの焦りだったのか。それとも未来への不安?誰にもよく言えない。




これは、大洋を渡って、グレイたちに届いた手紙だ。


To Grey, Elias, Peter, Sarah, and the members of the 3rd Branch

(グレイ、イライアス、ピーター、サラーと三課の皆さんへ)


久しぶりだ。


君たちが国外へ向かってから、すでにかなりの時間が経った。


こちらでは、議会との交渉が未だ難航している。


Nordenland(ノルデンランド)*への政策方針、警察庁の予算、さらには合衆国への派遣範囲に至るまで、議論は堂々巡りを続けている。


だが、最近になって、私自身の海軍関係者との繋がりや司法側の協力を得ることで、ようやく解決への道筋が見え始めた。


だから、焦る必要はない。あと数ヶ月待てば、再びこちらへ戻れるかもしれない。


ただし、世界が平穏になったわけではない。


君たちが滞在している合衆国では、再び南部共和国との戦争が始まった。


一方、ノルデンランドでは、副王暗殺という衝撃的な事件が発生した。


現地からの報告によれば、国内情勢も決して安定しているとは言えない。そして、旧大陸の辺境では、国家間の緊張も再び高まりつつある。


だからこそ、無事に帰ってこい。


それが今、私が一番望むことだ。


Lawrence and Miller,

Eagerly awaits your safe return.

(ローレンス、ミラーより

君たちの安全な帰還を心から願っている。)


*ノルデンランド:ニフランド北部に位置する自治領。

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