第三章 難航
「課長、新人たちを連れてきました」
「うん。イライアスとグレイ、君らに新人教育をする。今は伍長となり、巡査の新人たちの育ちは大事なことだ。新人たち、自分を紹介して」
「っは!」黄色髪の男性が敬礼をして、真面目て答えた「自分はラクラン・クリン(Lachlan Clint)トと申します!二十歳、元北部大八軍団所属」
黒色の女性もすその直後に自己紹介をして「自分はヴィヴィアン・ノックス(Vivian Knox)、二十一歳、同じく元北部大八軍団所属」
「第八軍団で、高地の出身が主な者でしょう?」グレイはコソコソイライアスに聞く。
「そうだったな……」
「えへん!」曹長はわざと大声で咳して「では、今回の現地捜査は自分とこのよんにんでよろしい?」
「いえ、イライアスは別の任務。あの溺死した少年の写真の出所を探せ。曹長、彼を」
「はい!」曹長はその写真をイライアスに預けた。
「っはい!」
「一つ質問してもいい?」
「何?」
「彼らは、我々と違って、二級巡査で、試験でクリアしたものではないか?」
「ええ、軍から転職したものは、一年、二年の経験者は普通二級巡査で、一週間の訓練でよしとする」
「ああ、なるほど」
第七倉庫は、南埠頭の奥にいる。この町の倉庫貿易繁栄の為に、一般的に港の倉庫は繁忙を極めている。しかし、この南埠頭だけは、なぜ、犯罪組織の影響に徐々侵食され、やがて廃棄となり、違法取引先となった。
五課の者は目立たないように、普段着で、南埠頭に潜入。それでも、曹長が二人の元軍人の歩き方や姿勢で彼らの正体がバレることに恐れて、注意の言葉をたくさん二人の耳に詰め込んだ。
「へえ、扉も壊れたか」
日差しが木漏れ日のように、ボロボロの倉庫の天井から降り、照らした地面にも、居残された建築材料と落とした天井の部分しかいなかった。
グレイはこの有様を見て、ふっとため息をした。そして、すぐに新人の二人に事前聞き込み、マーナ充填済みの探索術が描かれたの魔導紙を倉庫の各点にばら撒く。
「ああ、わかない!」グレイは院長からもらったマルティンの服のマーナを感じし、相次いて紙が置いた場所に術を発動した、その痕跡と比較する。
「何んだ、痕跡がないか?」曹長は失望した顔で聞く。
「いえ、むしろその逆。痕跡があり過ぎ。例えの話なら、一箇所の泥地に一台の馬車の痕跡を特定すると、でも、その一帯は、数百、いや、数千台の馬車の輪が通った痕跡が見える。ここはまさにそいなんだ。どうやら、ここはよくマーナ持ちの子の人身売買をするのか、あるいは違法精錬マーナ薬品の転売をするとか」
「ならしがたかがない、張り込みだ!」
「ええ!もし今日で何の取引もないなら、どうする?」
「その時はその時だ!さ、車で張り込みを!」
一方、イライアスは戻ったDr.マッコイに話を掛けた。
「先生、戻りましたね!」
「ええ、君たちが作った事件現場から。あの紐の締め型がいいね、普段、よく偽装首吊り自殺の事件で容疑者が方向を間違った」
「恐縮です。先生は、この被害者が知っているんですか?」イライアスはその偽マルティンの写真をマッコイに示した「まあ、十年前以上のことで、覚えてなくても……」
「うん、少々見覚えがあるかもしれぬ。ついてきな」
二人はマッコイが彼の事務室に入った、部屋の床に横になって、グレイの術に縛ったのはまさにカーモンだった。
「へい、これは君たちが持ち帰ったお土産か?」しかし、マッコイはその「お土産に」あまりに不関心の顔をして、事件ファイルの山積みを掘り始めた。
数分後「あゝ、あった!こいつだ。どれどれ、うん、十年前、川で泳いた十三歳の男性が溺死、『死亡検査の結果によると、遺体の肺に含まれたの水量が、溺死としてはあまりにも少ななすぎた。他殺の可能性は考えるべし』と記録したのだ」
「そうなんですか?一課がそれを事故として結案したまた」
「それは妙だな。わしはその疑点をきちんと報告書に書いておりた。それ以上は知らん」
「ありがとうございます!」
イライアスは「先生の記憶力が半端じゃない」と内心、ひどく感服していた。だが、次の瞬間、別の考えが彼の脳裏をかすめた。事件がこのまま進めば、いずれ一課と話をつけねばならない。その事実に思い至った途端、彼の心に鈍い憂鬱が沈み込んだ。
「いいんじゃない、君が一人で一課と話し合いばいいじゃない。丁度そなん経験が少ないだどう」五課に居残ったのは、同じく伍長ランクで先輩でもあったマイケル・スプリンガがニヤににやして、事の前後をすべて聞き終えると、彼はしばし考え、やがてこう提案した。
「……課長トロランス曹長は?」
「課長は会議中で、曹長はまだ任務中だ。何だ、怖気づいた?」
イライアスの狼狽は決してナンセンスではない。一課は警視庁創立最初の部署で、刑事部であり、庁内で最も権威を持つ部署でもあった。いつでも五課と管轄権で争いしーそして殆どの紛争で勝ったーでもいざとなると、五課を尻拭いの役割を強引に託す。でも、その上に、一課は視庁内でも出世筋で、貴族・議員・高級官僚の縁者が少なくない。一課が貴族や有力者の関係者で固められているのに対し、五課で貴族筋と呼べる者は、課長と曹長の二人くらいのものだった。残りは軍上がり、孤児院育ち、地方警察からの流れ者、あるいは他課で持て余された者たちである。
「そんな複雑なことを考えずに、己の仕事を一筋と果たすべきのみ」先輩がは優しく両手を相手の肩に置き、励ますようにうなずいた。
五課の先輩からの「一課の奴らに気後れするな」という手荒い励ましを受け、イライアスは二〇一号室の一課業務室へと足を踏み入れた。
数十の机が雑然と並び、怒号と書類の山が飛び交う喧騒の中、彼は目指す「ルイス・F・アンダーソン」の名前札を探し当てた。
「すみません、アンダーソン曹長ですか?」
声をかけられたアンダーソンは、怪訝そうに顔を上げた。
「ええ、何の用件だ?」
「曹長は、十年前のこの男児溺死事件に見覚えはありますか?」
イライアスはアンダーソンの記憶を喚起するように、持参した古い事件ファイルを彼の机の上に容赦なく広げた。アンダーソンは不快そうに眉をひそめ、イライアスを値踏みするように睨む。
「君はどの部署だ? ランクは?」
「五課、イライアス・ヴァンス。最近昇進した伍長です」
「五課だと?」
アンダーソンは鼻で笑った。
「なんで五課が、魔力も魔物も一切関係のない、ただの男児一人の溺死事件に関わるんだ? 随分と暇なようだな。十年前の終わった事件を今さら蒸し返すなんて、何のつもりだ」
「本当に申し訳ございません。曹長の捜査に口出しする気は毛頭ないんですが……」
イライアスはわざとらしく声を潜め、周囲を気にする素振りを見せた。
「これは、とある議員からの『請求』――いや、上の人間からの事実上の『要求』と言ってもいい案件でしてね。曹長もよくご存知でしょう? 上からの無理難題に振り回されるのは、我々現場の下っ端にとっては日常茶飯事ですから」
同じく平民出身であるアンダーソン曹長は、その「下っ端の苦労」という共通の陳情にわずかに対抗心を削がれ、少し口調を緩めた。
「はっ! 馴れ馴れしい奴だ。まあいい、何を聞きたい?」
「ありがとうございます。自分は、軍医のマッコイ先生から当時の検死結果を伺いまして。先生の報告書には……」
「死に方が怪しい、だろ? ええ、それは分かっている。当時、私も上層部にはそう伝えた」
アンダーソンは苦々しく吐き捨てた。
「だが、あまりにも手がかりがなさすぎる事件だったんだ。だから、事故として結案(処理)された」
「なるほど。では、アンダーソン曹長」
イライアスは一歩踏み込み、核心を突いた。
「一体『誰』が、この事件の調査を無理やり終わりにさせたんですか?」
その瞬間、アンダーソンの顔から血の気が引いた。
「さあな、そんなところ、知らぬ存じぬ! 余計な心配はしたくないんでね。さて、まだ次の任務がある。問い合わせはこれで終了だ!」
イライアスの次の質問を完全に遮るつもりで、アンダーソンは放たれた矢のような勢いで椅子から飛び出した。そして、驚くべき俊敏さで一課の業務室の雑踏へと消えていく。
「おい、待てっ!」
イライアスは慌ててその後を追いかけた。しかし、急ぐあまり、通りがかった別の机の頑丈な椅子の足に弁慶の泣き所を激しくぶつけてしまう。
「うぐっ……!?」
あまりの劇痛に一瞬だけ気が取られ、動きを止めてしまったその一秒の間に、アンダーソンの姿は完全に見失われてしまった。イライアスは足をさすりながら、忌々しげに天井を仰いだ。彼の捜査、このおいかけとなじく、難航していた。
同じ頃、冷たい海風が吹き抜ける南埠頭の第七倉庫。
本部から増援として呼ばれた大型トラックの荷台の影に身を潜め、四人はひたすら息を殺していた。
「ローランス曹長、一体いつになったら違法取引の連中が来ると思いますか……?」
新人のラクランが、寒さと緊張で歯をガタガタと鳴らしながら、ビクビクした声で尋ねた。
すでにここで張り込みを始めてから、じっと動かずに四時間が経過している。暗闇の中での終わりの見えない待機は、隊員たちの精神を確実に苛立たせていた。
「おい、泣き言を言うな」
ローランス曹長が低く、しかし威厳のある声でラクランを窘めた。
「君は軍にいた頃、これより更なる過酷な伏撃(待ち伏せ)を経験してこなかったのか? 敵を待つなら根気を込めろ。それに、先の痕跡の密度から見ると、我々はここで数週間、いや、数ヶ月ここに見張りしなきゃいけないだ」
その横で、じっと海図と周囲の魔力残渣を観察していたグレイが、冷淡に口を開いた。
「落ち着いてください。……それに、仮にここに誰かがやって来たとしても、その者が僕たちの追う事件(黒灯商会)に関係があるという保証はありません」
「どういう意味だ、グレイ」
もう一人の新人、ヴィアン・ノックスが鋭い目を向ける。
「一ヶ月も放置された廃倉庫です。ただのコソ泥や、商会とは全く無関係の別の密輸組織が偶然やってくる可能性も十分にあります。ぬか喜びして飛び出せば、本命を逃すことになりかねない。ですから、僕たちが話している途中であっても、冷静に相手の出方を――」
グレイが言葉を紡ぎ終える、まさにその時だった。
倉庫の敷地外から、低く重い蒸気エンジン音が近づいてくるのが聞こえた。ヘッドライトを完全に消した黒い車が2台、まるで見えない幽霊のように、ゆっくりと夜の霧を切り裂いて倉庫の前へと滑り込んできた。
四人の間に、刃物のような緊張が走った。
グレイは口を閉ざし、懐の魔導銃に手をかけた。静かに撃鉄を起こし、安全装置を外す。曹長はすでに拳銃を抜いていた。軍での経験を認められ、入庁早々に拳銃の携行を許された新人二人も、迷いなくレボルバーを構えた。
黒車のドアが開き、両台から合わせて五人が降りた。そのうち、リーダらしき人は、他の者に命令し、彼らは車のブート(トランク)を開き、幾つの粗布の袋を倉庫に運搬始めた。
曹長は双眼鏡をトラックのガラス窓に貼り付けて、しっかりと目の前の状況を観察する。
「あの、曹長、そんなに窓を近けると、その者らに気ついたらどうします?」グレイは曹長の右肩を軽く握りしめて。
「ご心配は無用」彼はに窓の下の角を指して言った「これは取調室と同様、あち側の人間は見えていないぞ」
「おい!その袋、動いているぞ!」ラクランは急に叫んだ。
「確かに。君、いい目をしているね、双眼鏡なしに、しっかり見ていたね」曹長は変なところ、後輩を褒めていた。
「今、そんなことをいう……あゝ、袋、動いている!どうします、曹長もしあやつらは取引直後、移動したら」
「ええ、仕方がない、取引の意思を確認次第、逮捕する。皆、今現場を接近し、身柄確保の準備を……」
でも、その正体不明な輩は、袋から中身を取り出せずに、ただ口を少し開け、そこから覗き、「商品」の身元を確認した。
「やばい、も金銭と商品を交換し、トランクも閉めた、どうやら、彼らはもう、取引完了で、曹長どうする?」
「あゝ、やもえない!皆、私の合図で突入」彼は手で「三、二、一」で、四人は「警察だ、お前らは今逮捕、両手をげ」と叫びながら、倉庫に突入した。
しかし、警察の降臨で、あの人たちは平然と手をあげ、『はいはい』と応じて、まるでこの行事に慣れたのようだ。でも、曹長から「貴様らを人身売買罪及び誘拐罪疑惑で逮捕」と宣言した時、五人は言葉を失い、呆然と互いの顔を見合わせた。
気まずく沈黙の後、先見かけたリーダらきしものは、小心な音調で聞く「すみません、警官殿、我々を逮捕してもよろしいですが、罪名を告げる前に、まずは犯罪事実を確認してはいかがでしょうか?」彼は声を出さず、右手側の麻袋へ顎をしゃくった。先に開けろ、という合図だった。
曹長は半信半疑に袋に一番近いヴィヴィアンに「君、袋の中身を確認!」
「はい!」
彼女は慎重に、十歳前後の子供の背丈ほどもある麻袋の一つに近づき、その口を縛っていた縄をほどき始めた。緊迫した状況のせいか、その手つきはひどく遅く感じられた。残る三人は、銃口を容疑者たちに向けたまま、硬い表情で周囲を警戒していた。
ヴィヴィアンは「あゝ」と小声で囁いて、両手をその袋に伸ばして、手を出したら、その掌に置いたは、小型で、ヒグマみたい、翼が付いた魔物。
「可愛い!!」新人二人のヴィヴィアンとラクランは思わずにその台詞を口から出した。
それは可憐な生き物のは確かだ、噂によると、遠い東の国では、「飛熊入夢」は君主がよき補佐が得られることを比喩し、でも、今の五課の者にとってこれは事件の難航を象徴するに過ぎない。
五人の容疑者を「魔物違法取引」で臨時留置場に収容して、曹長たちは地下室にいった五課の事務室に戻って、そこにはイライアスが待っていた。
「お前のその顔を見て、手が掛かり探しの任も同じく難航しているな?」
「同じく?」
「ええ、間違って違法魔物取引人員を誘拐犯と勘違えって、あの見張りの計画もぱになった」
「ええ、またその場で張り込みすればいいじゃないですか、曹長?」
「そりゃもう無理」
「あゝ、我々の逮捕を一部目撃した者があるからですか?」
「それもあるが、でも曹長は言いたのは、恐らく、今夜の件で、南埠頭じゅうに警察が嗅ぎ回っていると知れ渡りましました。そうでしょう、曹長」グレイは鋭く上司の真意を悟る。
「ビンゴ!で、イライちゃんは?」
「なんですか、その不気味な呼び方。俺はもうグレイがいる」
「わかった、わかった、もう言わん。惚気をしないで」
「うん。ま、事件のことは、一課のアンダーソン曹長に『上の命令で溺死事件の不審死因を見逃す』という情報は確実に取られた、が、それ以上の内情は聞く前に、相手に逃れた。この一線は確かに躓いた」
「原点に戻ったか?どうする……」
「じゃ、本当の原点に戻したらどうですか?」
「とい言うと?」
「事件現場、即ちあの孤児院。我々は院長にまだ正規の事情聴取をしてない、一課の記録によれば、彼らも本気にその院長に尋問してないでした。さらに、何者が内通者として、窓を開け、カーモンの侵入を可能とするも、今も分からずじまい」
「そうね、そうする!でも、明日で孤児院に行く、今夜はちゃんと休むのだ」




