第二章 囚人
白鳥孤児院から二ブロックほど離れた場所に位置する「ハーカー&サンズ公認質商(Harker & Sons, Licensed Pawnbrokers)」の店内は、今日に限って妙に混み合っていた。
煤けた真鍮のランプが照らす薄暗い空間に、生活に困窮した下層階級の住民たちがせわしなくひしめき合っている。
その人混みをかき分けるようにして、二人の男がカウンターの前に現れた。一人は季節外れのカーキ色のウールコートを羽織った、灰色の髪の男――グレイだ。
「すまない、手が空いている者はいるか?」
カウンターの奥でベテラン店員のミキーが、頭を上げぬまま手元の分厚い台帳に素早くペンを走らせ、事務的な声で応じた。
「申し訳ありませんが、現在は店長も息子さんも不在にしておりましてね。五ポンドを超える品物は、こちらの判断で質に取るわけには参りません。一般の質入れでしたら、恐れ入りますが列の後ろに並んで――」
「悪いが、列に並んでいる時間はなさそうだ。こういう者でね」
ミキーがようやく顔を上げると、灰色髪の男がコートの合わせ目から、鈍く光る銀色の警察徽章を覗かせ、指先で軽く叩いているのが見えた。その隣には、冷徹な目から店内の様子を観察しているイライアスが静かに立っている。
店員はあからさまに嫌そうな顔をして、手に持っていたペンを放り出した。
「……またあの孤児院の、銀器の盗難事件ですか? 先日いらした一課の旦那方にもお伝えしたはずですが。うちの店長はあの白鳥孤児院の院長と昔から面識がありましてね。店長自身もよく施設を訪れていたからこそ、あの泥棒が銀器を持ち込んできた際、一目でそれが孤児院の所有物(盗難品)だと気づいて通報できたんですよ」
「その経緯はこちらも把握している。だがな、俺たちが知りたいのは、その日のもう少し細かい事情だ」
グレイが低く応じた、その時だった。
店の真鍮製のドアベルがカランと鳴り、外から入ってきたのは、よく似た面構えをした親子らしき二人組だった。
「ああ、店長! ちょうど今、警察の方がまた……」
ミキーの声に、先頭を歩いていた頑固そうな初老の店長がカウンターの中を見やり、大袈裟なため息を漏らした。
「おいおい、もう何回目だ? 偉い警察の旦那方は、さぞかし暇を持て余していると見えるな」
グレイは何を言い返しをするのが、イライアスは彼が口出しする前にその店長に「突然の訪問、失礼いたします」
イライアスが一歩前に出て、下町の商人の無礼を咎めることもなく、極めて事務的に、しかし有無を言わせぬ調子で頭を下げた。
「僕たちはケーイン議員の要請を受け、一連の事件の再調査を行っている第五課の者です。お忙しいところ恐縮ですが、少々お話を伺いたい」
「議員様の要求だからって、俺たちみたいな零細企業を好き放題に振り回せると思考えちゃ困る。官員様の助けなんてハナから期待しちゃいないがね、せめて商売の邪魔だけはしないでほしいもんだ。……まあいい、聞きたいことがあるなら早速言いなさい」
「ありがとうございます。あの日、銀器を持ち込んできた泥棒――ルークという男ですが、彼の様子に何かおかしな点は元々ありませんでしたか?」
イライアスが淡々と問いかける。
「様子だと? 警察に捕まるようなやましい真似をした人間の顔なんざ、この街の質屋をやっていりゃ見飽きている。特別変わった挙動はしていなかったさ。……ああ、いや、強いて言うなら、あの男は怪我をしていたな」
グレイの目が、わずかに細められた。
「怪我、だと?」
「そうだ。かなり酷くやられていたようでね、流れ出る血が、着ていたボロ服のあちこちに黒々と滲み出していた。あれはちょっとした擦り傷なんかじゃねえ。……ま、俺たちが気づいたのはそのくらいだ」
「なるほど。他に何か、気になる不審な点はありませんでしたか?」
「……これ以上は何もねえよ。さあ、聞いたならさっさと出ていってくれ。これ以上、商売の邪魔をされてたまるか」
店長はそう吐き捨てると、五課の二人から顔を背け、息子を促して奥の作業場へと引っ込んでしまった。
店を追い出され、騒がしい二ブロック先の通りへと戻ってきたイライアスとグレイ。
「……ビンゴだな、グレイ」
イライアスは人混みの影でパイプに火をつけ、紫煙を吐き出した。
「あの泥棒ルークは、孤児院を襲った時に怪我をしたんじゃない。組織から口封じ(暗殺)を仕掛けられ、すでに血を流しながらあの質屋へ逃げ込んできたんだ」
「ええ。やはり、あの質屋の場所が孤児院の目と鼻の先だろうと、彼には選んでいる余裕がなかったわけです。一刻も早く路銀を作り、王都を脱出するために駆け込んだ。……そして、一課に逮捕されることで、皮肉にも組織の暗殺者から身を守る盾を手に入れた」
グレイは通りに面した色褪せたレンガ壁に背を預け、冷たい笑みを浮かべた。
「ですが、組織の本当の狙いは、ルークの『しくじり』を隠蔽することと同時に、その日に本命であるマナ持ちの子供をさらうことだった。……イライアス、次は監獄にいるルークの口を開かせる番だね」
二人は一度、警視庁の庁舎へと戻り、ハリー・ミラー課長に状況を報告した。だが、返ってきたのは渋い顔と、役所特有の冷酷な現実だった。
「ルークへの公式な面会は不可能だ」
ミラー課長は書類から目を上げずに言った。
「あの泥棒との接見には、担当判事の許可証がいる。だが、一課の連中が上層部へ手を回し、身内の不祥事を早く埋めるために裁判を異常な速度で進めてやがる。正規の手続きを踏んでいては、男が絞首台に吊るされるまでに令状が間に合わん。執行は間近だ」
令状を待っていれば、手がかりは永遠に闇に葬られる。五課に残された手段は、最初から一つしかなかった。
深夜、王都の騒がしさから遠く離れた郊外。荒野の中に孤立するように建つ、重罪犯のための隔離監獄。
真っ暗な外壁の影に、イライアスとグレイの二人の姿があった。
裏口の鉄扉の前で、グレイが細い指先を鍵穴にかざす。彼の瞳が魔導の光を帯び、内部の金属構造を直接干渉して歪ませにかかった。しかし、ここは国家の最高警戒区域だ。扉には微弱な妨害術式が施されており、グレイの術も100%の精度を保つことはできなかった。
——ギギ、ィ……。
静寂の底で、不自然に鋭い金属のきしみ音が響いてしまった。
「誰だ!」
建物の中から、鋭い声とともに看守の重い足音がこちらへ近づいてくる。
グレイは即座に壁の死角へと身を隠し、迫る看守を強制的に眠らせる精神術式の構築を始めた。だが、術が完成するよりも早く、隣のイライアスが動いた。
「……フゥー、オゥ、オゥ」
イライアスは手で口元を覆い、驚くほど生々しい夜鳥の不気味な鳴き真似を、暗闇の奥へ向かって泥臭く響かせたのだ。
近づいてきた看守の足音がぴたりと止まる。
「……ちっ、ただの野鳥か。気味の悪い鳴き声をしやがって」
看守は忌々しげに悪態をつくと、そのまま奥の通路へと引き返していった。
グレイは構築しかけた術を静かに霧散させ、呆れたような視線をイライアスに向けたが、イライアスはただニヤリと不敵に笑うだけだった。
二人は音もなく内部へ侵入し、イライアスが重そうな袋を引き摺れ前進して、地下深くの死刑囚房へと辿り着いた。
鉄格子の奥、湿った藁の上に丸まり、いつ忍び寄るか分からない組織の刺客に怯えていたルークは、突如暗闇から現れた二人を見て短い悲鳴を上げた。
「ひっ……! 何者だ!死にかける人に何をす——」
「静かにしな、泥棒猫」
イライアスが鉄格子の隙間から、冷たい銃口をルークの額に突きつける。ルークはガタガタと震えながら、二人を睨みつけた。
「……警察の犬か。何をしに来やがった。どうせ俺はもうすぐ処刑されるんだ。いまさらお前らに何をお喋りしろってんだ? 言うわけねえだろ!」
死を目前にした男の投げやりな抵抗。そこへ、壁に寄りかかったグレイが、抑揚のない冷徹な声を投げかけた。
「自分をトカゲの尻尾にして、安全な場所から見捨てた組織の人間たちが憎くないのですか?」
グレイの鋭い瞳が、ルークの剥き出しの恐怖を射抜く。
「あなたがここでただ惨めに首を吊られる間も、彼らはあなたを身代わりにしたおかげで、のうのうと王都のガキどもを売りさばき、大金を手に入れている。……このまま黙って死ぬか、それとも奴らの足元をすくい上げて一矢報いるか。どちらがマシか、選ぶ権利はまだあなたにあるんだよ」
「裏切り、ね。へっ、ハナからあの連中に期待なんかしてねえよ」
ルークは自嘲気味に鼻で笑い、虚ろな目を鉄格子に向けた。
「俺だって元は十三区の孤児だ。人攫いに拉致されて、この泥溜めみたいな王都へ連れてこられた。あの悪党どもの汚い手口なら、お前ら以上に骨の髄まで知っているさ。……だがな、だからって警察に協力する義理もねえ」
ルークの瞳に、深い絶望と、過去の怨嗟がどろりと過る。
「俺たちが拐われた時、お前ら警察はどこで何をしていた? 助けてくれなかったくせに、今更正義の味方ぶって何を聞き出そうっていんだ。……俺にとって、死は最後の解放なんだよ。お前ら、俺の解放への道を邪魔するな。さもないと大声で看守を呼ぶぞ。今度はあの野鳥の鳴き真似じゃあ、絶対に誤魔化されないからな!」
自分の不条理な運命を見定めた囚人は、それきり口を閉じ、平然とした態度で湿った藁の上に横たわった。顔を冷たい壁へと背け、まるで最初から二人がそこに存在しないかのように、深く目を閉じて寝入ろうとする。
「……殺人犯の分際で、随分と偉そうな口を叩く」
グレイの銀髪が激しい怒りで微かに揺れた。次の瞬間、彼は音もなく鉄格子の隙間から滑り込み、一気に対象へ襲いかかった。
ルークが悲鳴を上げるよりも早く、グレイはその口を容赦なく手で塞ぎ、懐から引き出した数枚の魔導紙を男の首元へ貼り付ける。一瞬にして空気の振動を奪う消音の術式が構築され、ルークは喉をいくら鳴らしても、押し殺した息の音すら外へ出せなくなった。
「では、少し痛いお仕置きの時間です」
グレイの容赦のない尋問が始まった。彼は横たわるルークの腹の上に片膝を乗せ、冷徹な瞳で見下ろしながら、己の体重をじわじわと肉体へ沈み込ませていく。内臓を圧迫される凄まじい苦しみに、ルークの顔が土色に歪み、四肢が痙攣するように強張った。
さらにグレイは、魔導紙を通じて微弱な痛覚神経への刺激を流し込み、男の爪の隙間を抉るような鋭い激痛を強制的に与えた。容赦のない揺さぶりをかけながら、耳元で「組織のアジトはどこだ」「子供たちはどこへ運ばれた」と冷たく問いかけ続ける。
しかし、ルークは激痛に涙と脂汗を流しながらも、ただ狂ったように首を横に振るだけだった。その瞳には、拷問への恐怖よりも、現世への完全な諦絶が勝っていた。どれほど肉体を痛めつけようと、死を解放と信じ込む人間の口を開かせることは、グレイのいかなる手段をもってしても不可能だった。
「チッ……」
グレイがさらに魔導の出力を上げようとした、その時だった。
暗闇から伸びてきた無骨な手が、グレイの細い手首をガシッと力強く掴んで制止した。
「もういい、グレイ。手を離しな」
イライアスがパイプを咥えたまま、静かに首を振った。
「こいつの目は本物だ。死にたがってるドブネズミをどれだけ小突いたところで、これ以上は何も引き出せねえ。……時間の無駄だ、あの計画へ進むぞ」
イライアスは、暗闇の中に持ち込んでいた不気味な大きな袋を指差しながらそう言った。
「……分かりました。ですが、ここへ運び込んだ時と同じように、帰りはあんたがこいつを担いでいってくださいね」
グレイが不満げに告げる。
「当然だ」
イライアスは低く応じると、物言わぬ、しかし圧倒的な威圧感を放ちながら、横たわる囚人へと歩み寄った。その哀れな男――強盗のどさくさで十二歳の子供を殺害した大悪党であり、本来なら同情の余地など微塵もないはずだが――は、いまや目に見えてガタガタと震えていた。先ほどまで漂わせていた、死を『最後の解放』と嘯くあの達観した空気など、とうに霧散している。
だが、イライアスは容赦なく息の根を止める代わりに、電光石火の手刀を男の頸へと叩き込んだ。
短い肉声が漏れる暇すらなく、ルークは一瞬で意識を失い、湿った藁の上に泥のようにへたり込んだ。
イライアスは足元に置いた袋に巻き付けられていた縄を素早く解き、その暗い口から、ずしりと重い中身を外へと引きずり出した。
現れたのは、一つの人間の死体だった。その顔立ちは、首の周りに深く、どす黒く刻まれた機械的な絞殺痕を除けば、いま気絶したばかりのルークの容姿に不気味なほど酷似していた。
「どう、先生の作品は?二人の類似度は高いか?」
「作品なんで、変わった言い方ね……まあ、ちょいと見て……」
時は四時間前、プリズ・プラザの地下室二階
「もしくあの死囚は我々の言うとこを聞くまいなら、どうする?」イライアスは地下二階の階段から降り、振り向かし、グレイに問う。
「だから、ハハ、なんで……此処に?」グレイは普段のある速度より速いイライアスをぎりぎりついて、非理解な顔で疑問を出した。
イライアスは何も答えなかった。ただ、階段の突き当たりにある部屋へ向かい、迷いのない足取りで堂々と踏み込んだ。
その部屋は、検死医であるマッコイの勤務先、この数百万人の街唯一長期的に死体を保存できる死体安置所。大量な低温、微生物や虫成長を抑える術が持って、それを維持するために日々のマーナ注入量が凄まじき、故にこんな条件がある死体安置所はこの高マーナ持ちが多い警視庁本部しかいない。その上に、この安置所はばかでかいで、死体保存棺と検屍台にたどり着くのは、その途中幾つ並んでいる標本棚を通らなきゃいけない。その数々の標本棚には、普通の番号つけた証拠品以外には、Dr.マッコイ個人の収集品もある。歯と髪が生じた癌、不明な病気あるいは術で冠状動脈全部破裂された心臓、藤蔓が芽生えた大脳。これらは全てDr.マッコイ自慢な収集品。
「マッコイ先生、いいもんあるの?」イライアスは興奮して、マッコイに聞く。
「うん、あまりないか」検死医は一枚の肖像画を持って、繰り返して、視線が死体とその手の中の紙で切り替え「でも、こやつは死にばかりで、その身長、体つきや肌色は我々の標的と大分同じ。これでよし!」そして、マッコイは術を書き始めて、小声で唱えていた、そうして同時に油絵ブラシでその死体に線を描く。
「おい、同じだって、まさか、その死囚をすり替えると?正気か?ただの議員の頼みをために、こうする必要あるの?!」グレイは驚きで、髪を凄く速さて揉める。
「議員?あれは関係とはない、こんなことをするのは、面白いじゃん?ね?マッコイ先生!」
「へえへえ」彼は最後のチェックを完了し、術を発動した「できた!よくみてみろ!これは人体改造術の魅力さ!」彼はそれを羽ばたくような鳥のごとき、両手を開いてあげた。
言葉の余韻も消えぬうちに、死体がぎぃぎぃの音が出し、顔の肉とその下の骨格が動き始めた、その肉もまるで千万の虫が同時別々の方向を走っているのように動かしている。そして、その死体の顔も、段々肖像絵の顔、すなわち盗賊であったルークの顔、になる。
「へええ!気持ち悪い!おい!イライ!貴様は先食堂で本気切り玉作戦を言うた?!ああ、もう何があても知らん!」グレイは憤然として去った。
「あいつ、怒った頃も可愛い」イライアスは呟いた。
それで、牢獄の中、イライアス死体と失神した囚人を月光の下に照らし比べて、数分の沈黙で言った「大抵はあっているが、あゝ、右顔のほくろがない」
「ええ、本当だ!全く、署のやつはどうなって、こんな重要な点を忘れた。無理、マッコイのやつがやった術、俺は無理……」
「マッコイ先生のことを、そんなふうに言わないで……とにかく、ここには術が書かれた魔導紙、万が一のことで、俺が先生を用意しようと……
「ちぇ!『人体改造の術』発動」グレイは助力されてでも、渋々に術を唱えて、小さなほくろが、あっさりと浮かび上がった。
「……なあ、ちょっと大きくないか?」
「もういいから、さっさと出るぞ!」グレイはそう言って、イライアスの袖を引いた。
「わかった、わかった」彼は、迅速に改造された死体に縄を巻きつきー首吊り自殺の
月明かりの下、二人の警官は無謀な作戦を終えたばかりの顔で、警視庁の厩舎から拝借した馬を走らせていた。五時になって厩舎係が馬の一頭足りないことに気づけば、ただでは済まない。そうなる前に、どうにか戻さなければならなかった。
荷馬車の揺れ。小麦袋のように地面を引きずられるときの擦れる感触。そして、身体を探られる手つき。
囚人は、自分がもはや絞首台へ送られる運命ではないことを悟り、ほんの一瞬だけ安堵した。だがその安堵はすぐに、行く末の見えない不安に呑み込まれた。この先どんな拷問が待っているのか。どこへ連れて行かれ、どこで本当に死ぬことになるのか。
さらに悪いことに、彼は身動きひとつできなかった。喉が裂けるほど叫ぶことも、目を開くことさえできなかった。
そのとき、閉じた瞼の向こうに、強烈な光の気配が差した。彼は恐怖に駆られ、ようやく瞼を開いた。
「あの、なんで彼は喋れないのですか?」
囚人の目の前に座ったのは、子供顔をしている巨漢であった。
「ああ、黙りの術を解い忘れた」グレイは慌てて残した術を解く。
「貴様等!」ルークの怒鳴り声は、増水したダムから水があふれ出すように、いつまでも耳にこびりついて離れなかった「俺をこんな胡散臭い地下室に連れて、何を!この無法者、何……」グレイは手早い丸めた紙で相手の口を塞いた。
「殺人犯が我々を無法者と呼ぶのは、兄さんはが言った事は随分面白いな……まあ、ピーター、お前のお出ましいだ!」
ピーターは不思議な顔で隣のイライアスを見て「あの、なんで君たちが捕まった犯人が俺を自問ですか?」
「君は、その、えっと、尋問経験が少ないからだ。そうそう、こいつは立派な殺人犯だ?そこらの盗賊よりいい経験になれる!」
「なるほど?彼はその盗賊事件の殺人者か。速いですね、監禁重要参考人の引取手続き」
グレイはピータの耳元に彼等一連の行動を教えた。それを聞くと、彼は急に椅子から跳ね上がって、怒鳴った「お二人、気は確かですか?だめ、俺を巻き込むんじゃないです!頼みますから!」イライアスが逃げようとしているピーターを掴み、その一時仲間に拘束された者は抗っていても脱走できず、長年剣士や他の力任せの仕事をしていたイライアスが盾使いの彼に圧倒的な優勢を持っていた。
「何、我々は戦友じゃん?これを知っていた上に、曹長と課長は君の無実を信じまいし……」
「お前が誰だ!これはいつも俺の役なんじゃない!普段はクソ真面目のくせに、いざとなると、脱線した汽車みたいに!」グレイは感嘆をしていた。突然、後ろ首が冷たい手でしっかり掴んだ。
「ご心配を呼ばずに、全部見ていた」課長が標本棚の影から、威圧するように姿を現して、グレイを確保した。
「へええ!」グレイはたしかに、課長から数歩離れた場所にいた。だが、その距離さえ意味をなさぬほど、彼はなお課長の威厳に呑まれていた。
イライアスは更に怯えて、びくとも動けない、口を開けてでも、ろくな話にもなっていない「あの…課長、私は……」
「なんだ、君が提案した作戦なる、君を真っ当してほしい。さ、尋問を始めよう、イライアス!」課長は部下から見ると不気味な微笑みをして、片手でイライアスの肩に載せた。
「Yes, sir!」イライアスは囚人の口から猿轡を取り出し、いつもより硬い口調で尋問を開始した。
「カーモン氏は、事件後誰に襲われた?」
「何で俺は貴様らに答えなきゃいけないんだ?」
「もう少しはやめないか?」課長は変わらず笑っていた。
「どうやら、貴様は己の立場が理解していない」課長命令で、忽然と語調を変化し、片足をルークの両太ももの間の踏み込んで、脅しに腰でつけていた小刀を鞘から持ち出し、刃を頸大動脈の所にのせた「本来は今日で死に人になったはずの貴様は、その命は最早我々のものだ。いい答えが出たら、その賤しき命も救われやもしれぬ!」
「わ、分かった! 話す、ちゃんと話すから! その刃をどけてくれ!」
二人が少々落ち着いた後、イライアスは改めて尋問を始めた。
「で、君はやはり何の集団犯罪組織の一員か?」
「は、はい!」
「所属は?」
「……黒灯商会だ」
「十三区の支部か?」
「ああ。俺はその下っ端だ。命令したのは十三区支部の頭目だった」
「命令の内容は?」
「白鳥孤児院から、子供を一人連れ出すことだった」
「なぜその子供だ?」
「マーナの適性が高いと聞いた。それ以上は知らない」
「孤児院にはどうやって入った?」
「裏手の窓だ。鍵は開いていた」
「偶然か?」
「違う。中に手引きした奴がいたんだろう。少なくとも、俺はそう聞かされていた」
「睡眠薬は?」
「それも中の誰かがやったはずだ。子供は深く眠っているから、抱えて出るだけでいいと言われた」
「だが、ロビンソンは目を覚ました」
「俺のせいじゃない。あの夜は風が強かった。窓が急に開いて、棚の花瓶が落ちたんだ。その音であいつが起きた」
「それで殺したのか」
「仕方なかった! あいつは俺を見た。声を上げようとした。俺はただ、黙らせようとしただけだ」
「子供はどうした」
「予定どおり連れ出した。南埠頭の第七倉庫へ運んだ」
グレイが顔を上げた。
「南埠頭の第七倉庫?」
「一か月前の話だぞ。今さら行ったって、いるわけがない。あそこは引き渡し場所で、保管場所じゃない」
「そのあと、商会には何と報告した?」
「何事もなかったと伝えた。子供は予定どおり渡した、問題はない、と」
「殺人は報告しなかったのか」
「するわけがないだろう。しくじったと知られたら、俺が消される。警察が孤児院の件を嗅ぎつけても、上に話が届くまで一日か二日はかかると思った。だから俺は、すぐ家に戻った」
「家に戻った?」
「ああ。だが、部屋の前に二人いた。商会の連中だ。俺の同僚みたいなもんだよ」
「彼らは何と言った」
「普通に挨拶してきた。『お疲れさん、ルーク』ってな。だが目が違った。声もだ。笑っているのに、最初から俺を逃がす気なんてないのが分かった」
「それで逃げたのか」
「逃げるしかなかった。階段へ走った。撃たれた弾が左腕を掠めたが、どうにか振り切った」
「それから?」
「金がなかった。商会から報酬を受け取る前だったし、連中は俺が逃げそうな場所に見張りを置いていた。安宿にも、いつもの酒場にも、顔見知りの質屋にも近づけなかった」
「だから任務中ついでに盗んだ銀器を売った」
「いつも、仕事で、盗まれる者を盗むからだ。銀器を売ったのは、仕方なかったんだ。逃げるにも金がいる。あの銀器だけが手元に残っていた。だから、孤児院の近くの質屋に持ち込んだ」
「よりによって、事件現場の近くの質屋へ?」
「分かってる。馬鹿なことをした。だが、そのときは他にどうしようもなかった」
「今日はこれでいい。カーモン氏にお休みを。グレイ、彼を束縛の術をかかって、マッコイの事務室に置く、そして門を鍵って。用事を済ませた、君とイライアスが私の事務室に。ピーター、君は五課で待機」余計な言葉を言わずに、頭もふりまわずに課長はその場を去った。
「やなばいぞ、これは」
「うん、かなりやばいみた」
612室の門は開けたままに、課長はソーファで座ったDrマッコイと話している。
「先生、次は遊びばかりではなく、あの子たちの嫌がらせを私に一言を言ってね。あ、来たか」
マッコイは山高帽子を被って、出かける時に「じゃ、頑張れ」と言いながら、軽くイライアスの肩を握り締めた。
「入ったら、ドアを閉め」課長は無表情の顔を話したので、イライアスはますます不安を感じた「君たち、調査の次はどうすむべきだと思うん?」
「ええ、えっと、その倉庫のは重要だと思います、課長」イライアスは課長意外に穏やかの声調に驚いて、逆におずおずに答えた「この調査はグレイが一番向いているともいます。特にこんな長時間過ぎたマーナ痕跡の調査」
「何故マーナ痕跡を調べるの?」
「攫われた子はまーな適性がいいと、カーモンさんが言いました。それで、個人の特徴なマーナが漏れます」
「よろし……」課長が話している時に、ノックがした「入れ!」それで目に入ったのは、曹長と若き巡査服着いた男女各一名。




