表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
濃霧の守り人  作者: 朝飯の秋刀魚
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/26

第一章 復帰

 ソルテラで遭遇した一連の事件の後で、目の前の日常は嘘みたい。国家議事堂政変事件での罰は全部なかったにした、仕事に復帰した直後、四人は忽ち伍長に昇進した。


 頭上の扇風機の機械音、書類の擦り音、警察靴が地面を打つ音。


 イライアスは万年筆を回しながら、足を繰り返して床を叩く。『何もしたくない』とい気持ちが彼の脳を乗っ取られ、その同時に、この倦怠感への不安が湧いてくる。


「イライ、課長が呼び掛け」


 ややびっくりしたイライアスは冷静さを取り戻し、グレイの後をついて、課長室に向かった。


 612号室の前に立つと、グレイは軽く扉を叩いた。やがて中から「入れ」と短い声が返り、彼はそっと扉を開けた。


「来たか。」ミラーは頭をあげず、視線を書類に落としたまま、ただ一言だけそう言った。


 イライアスはしばし恍惚としたように、初めてこの部屋で課長と対面した日の光景を思い返した。机の向こうにピーターとサラーが立っていなければ、時間だけが巻き戻り、自分はあの日に戻ったのだと信じてしまったかもしれない。


「二週間の休暇、どう?職場に久々に戻って、慣れているかい?」隣でたつ曹長は、慈愛深く老父のように、四人に親切な挨拶を。


「はい。我々はたっぷり休みを取れました、曹長」グレイは莞爾して、答えた。


「良かろう、君達を呼んだのは他ならぬ、この一課と君らの未来だ」課長は会議の主役を取り、主題を入る。


「枢機卿醜聞の一件で、政府の威信は大きく傷ついた。さらに植民地での一時的な混乱が、それに追い打ちをかけている。そこで、この部門を復帰させるにあたり、議会からは予算を増やす代わりに、我々をより積極的に活用したいという話があった」


「『積極的に活用』と言いますと?』


「なんだろう、相当曖昧なはなしが、凡そ議会の特別委員会の調査協力、首都以外資源が足りない地域の案件調査、軍からの特別借り出し要請……」


「軍の頼みも?」


「何、多分戦争絡みのことであらず、ただ人手不足の時、災難救援云々のことを手伝いの類だろう。我々は、さらなる予算を受け取り以上、人民の福祉のためにもっとやるべきだと、下議院院長兼ね予算特別委員会の会長の発言だ。まあ、実際はどう思ったのは知らないが、でも、以後、君達の役目は大きく変わるんだろう。曹長、今回の任務を彼等に伝えて、私は十本後、警視庁の会議がある」


「はい」


「私について」曹長はイライアス達に指図していた。


「今回は、院長政治的の弟子であるケーイン議員からの要求」彼は事件を昇降機で朗読始めた「事件の被害者は男性、十二歳、名はロビンソン、苗字は不明、三区の白鳥孤児院(White Swan Orphanage)の一員。一ヶ月前の十一時、盗賊が孤児院に侵入、その音に気ついた被害者は侵入者に殺害、翌日丸五丸々清掃者に発見、そのすぐに事件が通報された」


 曹長が昇降機の扉を引いて開いて、五人は一階についた。


「同時、一課の者が二週間で調査完了、普通の強盗殺人として結案。そして、殺人者の方は絞首刑後三日後実行する予定。その賊人の名は、ルーク・カーモン(Luke Carmon)。彼は孤児院地の一帯で活動した、結構普通のチンピラ。どうやら、彼は盗難事件三日後、孤児院付近の質店で銀器を転売して、その質店の主に盗難品を売ると気付き、やがて逮捕された。一課が入手した情報により、その者はよく詐欺、窃盗などの犯罪によく関わっている。議員さんは、あの子に潜在後継者とし援助している、警察側の結論に納得しなかった。故に、我々に頼んだ。いま、国会議事堂(Parliament)に行く。議員の車は外で待っている」


「へえ、早速なんですね。でも、潜在後継者とは?どこで見つけられる孤児?」グレイは疑問をした。


「あゝ、あの黒い車だ」曹長は皆を対象車に導き、衆人はそれに乗った。


「でも、なんで、そんな偉大なる議員さんは、至る所みられる強盗殺人に関心してるの?」


「グレイ、王都の特権階級がこぞって行う後援パトロネージュ制度、知っているか?」


「いえ、初耳です」


「まあ、簡単にいうと、世継ぎのいない、あるいは実子が揃いも揃って無能な議員や豪商どもが、孤児院に金を出す制度だ。複数のガキを後援して競わせ、その中で一番有能な者を合法的に養子にして跡継ぎに据える。残りの子供も、優秀なら自分の右腕や私兵として囲い込めるというシステム」


「なるほど」


「とにかく、これは事件の詳細」曹長は四人に配った「完全に読んで、理解してください。そして、私が議員に会話する、君たちは聞いていない場合は、一言も言わずに」


 ケーイン議員の事務室は二階に、議会室の真上にあった。西翼の奥にあるその部屋は、議員の私室というより、小さな役所のようだった。書類箱が壁際に積まれ、机の上には法案の草稿と封蝋の押された書簡がいくつも並んでいる。


「どぞ」議員は五課の者を座ると、秘書は紅茶を出した。


 イライアスは事務室の内部を見回して、ふっと既視感を感じた。ケーイン議員は鋭くその動作の意図を捕獲し、まるで先手を打つように、イライアスが既視感の原因を指摘した「ここは議会室の真上だ、君達の活動で一度貫いた場所であった」


 事務室の空気を一気に冷めた。イライアスは顔を逸らす、グレイスに目配せして、「何を言え」と。曹長も凝ったに見えている、何にも言わずに気まずく苦笑している。


 しかし、空気を凍ったその議員は、先に口を開いた「何、君たちはなすべきことをしたに過ぎん。あのまま、パトリックの任意にしたはいけない。それに、幸い、ここで死傷者は出ずに済んだ。あんに、本当に気にしたなら、君たちは呼ばない。わしも悪魔ではないから。ハッハッ」議員は急に朗らかに大笑いした。


「ご理解いただき、感謝します」曹長はやっと回転した「パトリックか、先生は元首相の知人なんでしょう?」


「はっ!あやつとは腐れ縁だった。同じく貴族高校にいって、いつも先生達に悪戯をしていた共犯。まあ、あやつがやらかしたことに考えと、共犯はちょっと不適切な言葉選びかな。いい、本題に入りましょう。諸君は、既に事件を身につけたか?」


「はい。先生はそのロビンソンという子を、後継者として、後援していたんですか?」


「まあ、そこまで明白なことではない。ただし、あの子は実に賢いい、いや、まさに天才だ。一般的な、大人複雑な事情―歴史、政治、経済は無論、彼は数学にも優れた才能もあった」


 議員は深く嘆いた。目の前にいたはずの、あれほど類いまれな才を持つ子供を、自分は救い損ねたのだ。もっと早く孤児院から引き取る決断をしていれば、あの命は失われずに済んだかもしれない。その思いが、消えない悔恨となって彼の胸に残っていた。


「では先生、何故警察の調査に不満を感じていたんです?我々が報告書で読み掛けた内容によりますと、一課は一般的なすべく調査を真っ当したまた。一体どんな点に欠けないどうしょうか?」


「へっ、あの無能な輩、特にその課長、軍から転職して、植民地の原住民を虐めって立った功績で、偉そうに。貴課はそれをよく味見していたんでしょう。君達はいつも一課の尻拭いをするんで」議員は半分紅茶残った茶碗を揺らし、飲まずに「彼等はわしに関わっていない者を気にしていない。孤児院の職員共の証言を読んだでしょう?」


「はい、特に不審な点……」


「そう、院長や多くの職員は何の特別な事を言わなかった。しかし、もう一人の清掃者から盗難された当日、もう一人の子が失踪した。が、その子はわしや他の後援者があらず、警察側はその実在すら認められていないし、孤児院はそのこの記録はなかった。それ以外、孤児院側の記録上では「奉公」「徒弟入り」「養子」「病院移送」と処理されていたが、部下に少し調べて、その記録に偽造された部分は山程ある」議員は突然話の流れを中断、サラーの存在に気が付けた、彼女にみつめった。


「君、議会の騒ぎの日、そこにはいなかった?」


「は、はい。私は狙撃が得意のんで、議会の向こうで待機していました」サラーはいきなりの話しかけで少し乱した。


「なるほど、本題に戻ろう。その賊人もかなり怪しい」


「と言いますと?」


「あれは典型的なごろつき、が、ごろつきでも自分の処世術があるの。少なくても、十数年同じ役を演じて、犯罪現場の近くで盗難品を転売することはないでしょう」議員はようやくとっくに冷めた紅茶を飲み干した。


「かしこまりました。先生がおっしゃる通り、不審な点が些か気になります。我等は再調査が進展がある場合、改に連絡いたします」


「よかろう。わしも議会で新たな国家安全保障法案提議の準備を。ジョージ、客人のお送りしろ!」


「復帰早々で、こんな難儀な事件か?」グレイは、皆が五課の事務室の門には入れず、文句を言い始めた。


「そんなの?」ピーターはしばし呆然としたまま、事件簿の頁を一枚ずつめくった。どこかに見落とした一文があるような気がして、彼は文字の海を探るように目を走らせた。でも、結局グレイの意見が食い違いで「そんなに複雑な事件ではないと思います。その犯罪者が死した今、我等の一番大事はもう一度孤児院の者の事情聴取……」


「いやいや。俺が言ったのは、ちょいっと他の問題。若しくは、その盗賊はただのバカで、あの子が死んだのはただの不幸としたらどうする?あの議員さんは納得できるの?そして、彼の上司も、いや、師匠?である議会長は我々五課の予算を握っている……あゝ!曹長、何を?」


 曹長は軽くグレイの額を弾いて「政治的な問題は私が考える、君たちはまず事件の内情を探る。ピーターの言った通り、まずは孤児院の再聴取。そこには二十分の歩き、分けて、昼食後、一時丁度プリズ・プラザーの正門で集合?わかったか?」


「ええ、曹長も来るの?」


「無論だ、議長からの頼みは君達新人に任せられない」

 




 第三区に位置するエルムズ・パーク。その広大な敷地に隣接するようにして、白鳥孤児院はひっそりと佇んでいた。


 エルムズ・パークは、かつて王室の猟苑であった歴史を持ち、この孤児院もまた、その敷地内に由来する古い施設だった。白鳥という美しい名は、公園の中心にあるニーヴァ湖(Lake Nyva)に今も生息する白鳥の群れにちなんで付けられたものだという。


 孤児院の建物そのものは、百年前の建築としては比較的ありふれた外観をしていた。もとは、王族が狩猟で得た獲物や魔物を解体するための頑丈な小屋だったらしい。先王リチャード四世が慈善事業の一環として猟苑を公園へ整備した際、その解体小屋が孤児院へと改められ、付属施設から独立した。その後、数代にわたって王室の庇護を受けながら少しずつ増築を重ね、現在では二百名以上の孤児を収容する大規模な施設となっている。


 ローランス曹長を先頭にした五課の一行が到着したとき、すでに院長が門前で彼らを待ち構えていた。


 五十代前半とおぼしきその女性は、薄黄色のレンズが入った眼鏡をかけ、両手を腹の前で几帳面に重ねて恭しく控えている。


「曹長殿、そして皆様。お越しいただき光栄に存じます。ケーイン議員からの要請の件ですね。調査に関するご要望があれば、何なりとお申し付けください」


 院長は五人を促して建物内へと案内した。


 院長室へと続く廊下の途中、いくつかの教室の脇を通りかかる。開け放たれた扉の向こうでは、中等組にあたる九歳から十二歳ほどの子供たちが、静かに算数の授業を受けていた。


「はあ、本当に惜しい子を亡くしました」


 院長は歩みを止めず、が、ヒールが床に叩く音がやや乱れていた、教室の中をちらりと見やりながら、感慨深げにため息をついた。


「殺害されたロビンソンは、わずか六歳の頃には、すでに上の年齢の子たちに算術や地理、歴史を教えられるほどの神童でした。当院は慢性的な人員不足ですから、あの子にはよく教師の代わりを任せていたほどです。……おっと、着きましたね」


 院長は腰に下げた鍵束から一本を選んで回し、色褪せた赤い扉を開いた。


 案内された院長室は、事務室としては十分な広さがあったが、奇妙なことに地下室に位置していた。


「不自然に思われるでしょう。ですが、ここが一番広い部屋なのです。先代の国王様が建てさせた屋敷ですから、当時の設計者が何を考えてここを解体場にしたのか、私どもにはさっぱり分かりませんけれど」


 皮肉な歴史の残骸に、イライアスは小さく鼻を鳴らした。


「院長さん。我々がここへ来た理由は他でもない、例の強盗殺人事件の再調査のためです。しかし、議員から事前に受けた話によると、あの日、もう一人の子供が失踪しているとか?」


 曹長が本題を切り出すと、院長は小さく頷き、デスクの引き出しから一冊の古い事件記録を取り出した。その中には、痛々しくも川で溺死したという少年の写真が、一枚添えられている。


「ああ、マーティンという子のことですね」


「前の一課の調査の際、貴女は彼の存在を否定していたはずですが?」


「それはこちらの管理不手際です」


 院長は眼鏡の奥の目を伏せ、いかにも申し訳なさそうな声を作った。


「二百人を超える孤児を、今の少ない職員数で管理するのは流石に無理難題というもの。前の調査の段階では書類が紛失しておりまして、その子の行方不明を警察へご報告し損ねていたのです。一課の皆様が出された結論によれば、マーティンはロビンソンが殺害されたあの夜、こっそり施設を抜け出し、近くの川で泳いでいる最中に。したとのことでした。この不幸な事故は、あの痛ましい強盗殺人とは何の関係もない、というのが一課の見解です」


「……不幸な事故、ですか。分かりました。ではこの写真を証拠品とし、貰ってもういいですか?」


「どぞ」院長のは、一瞬の迷いがあったが、でも、断ったるもっと怪しまれるから、結局写真を警察たちにあげった。


「では、さっそく職員の方々に事情聴取を始めさせていただいても?」


「ええ、どうぞ。あの日出勤していた者は、清掃員のパウルを除いて、全員が奥の控え室に揃っております」


「その清掃員は、今日はお休みですか?」


「いえ、辞めました。事件の直後、急に実家へ戻ると言い出しましてね。……おっと、申し訳ありません。そろそろ次の後援希望者パトロンの方々がお見えになる時間です。私はお迎えの準備がありますの……」


「あの、すみません、最後の一件なんです……」グレイが突然院長に話を掛けた。


「何でしょう?」


「そのマルティンという子、遺留品は何処にいます?」


「あゝ、そこ壁の隅にる箱。では、これで失礼させていただきます。調査はどうぞ、ご自由に……」


 院長はそう言い残すと、五課の面々を残して、そそくさと地下の院長室から出て行った。


 パタン、と重い扉が閉まり、地下室に冷たい沈黙が戻る。


「……随分とご立派な言い訳を用意していたな、あのババア」


「二百人の管理が大変だから報告し損ねただと? 議員の跡継ぎ候補になるようなマナ持ちのガキが、同日に都合よく二人も消えて、片方は強盗、片方は溺死か。一課の能無しどもなら騙せても、俺たちの目は誤魔化せねえよ」


「ええ。何より、あの院長の態度には致命的な矛盾があります」


 グレイが、先ほど曹長が机に置いた事件記録のファイルを再び開いた。彼の瞳が魔導演算の青い光を帯び、ファイルに貼られたマーティンという少年の写真をスキャンしていく。


 曹長が眉をひそめる。


「この写真が撮影された印画紙の劣化具合と、魔力の残留痕跡を逆算しました。撮影されたのは少なくとも十年前です。一課の記録にある『十二歳のマーティン』の現在の容姿であるはずがない。さらに言えば、写真の背景に写っている調度品は、この三区のものではなく、さらに格の低いスラム街——十三区の規格のものです」


「十三区だと?」


 イライアスの目が一瞬で険しくなった。


「つまり院長は、本物のマーティンの顔を警察に知られないよう、どこか別の区の、全く関係のない死んだ子供の写真を『マーティンの記録』として一課に提出したんです。一課は死体さえ出れば深く調べない。川から上がった溺死体の顔が判別できないほど損壊していれば、この写真の人物だと偽装するのは容易だったはずです」


 サラーが冷ややかな笑みを浮かべた。


「本物のマーティンは死んでなんかいない。あの強盗騒ぎのドサクサに紛れて、別の場所に売られたってわけね。……じゃあ、急に仕事を辞めて実家に帰ったっていう清掃員のパウルは?」


「そいつが、拉致の実行犯か、あるいは組織の手先だ。議員のガキを殺しちまったルークって男の身内かもしれねえ」


 イライアスは地下室の天井を睨みつける。


「ババアが上に上がって『お上品な後援希望者』とやらを接待している間に、俺たちはそのパウルの足取りを追うぞ。実家に帰ったなんてのが嘘なのは、火を見るより明らかだ」


 偽りの白鳥が泳ぐ濁った湖の底で、五課の容赦のない追跡が始まろうとしていた。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ