粛清の神騎
「――先行は僕だ。ドロー」
九条は一切の無駄がない動作でカードを引き抜いた。
「魔力変換。……そして2マナを支払い、魔導体『粛清の神騎:断罪の秤』を召喚する」
戦場に黄金の天秤を掲げた、無機質な白銀の騎士が降り立つ。その姿は冷酷な法の執行者そのものだ。
「先行1ターン目は攻撃できない。……ターンを終了する。さあ、その無価値なガラクタを並べてみるがいい」
「俺のターン……ドロー!」
クロムは引き当てたカードを力強く確認し、即座にデバイスへ叩きつけた。
「手札の『竜の煤煙』を魔力変換! これで2マナを獲得する。さらに2マナを支払い、構築『残滓の貯蔵庫』を設置!」
クロムの背後に、錆びた鉄屑や廃材が山積みにされた巨大なコンテナが現れる。
「さらに手札をもう一枚魔力変換! 来い、魔導体『残滓の歩兵』!」
ガシャン、と古びた甲冑の音を立て、錆びた鉄パイプを握った歩兵が這い出してくる。
「行くぞ、攻撃力300の歩兵で九条へ直接攻撃だ!」
「無駄だ。『断罪の秤』で防御する」
九条の騎士が天秤を盾として構えるが、クロムは不敵に笑った。
「無駄なのはそっちだ。 『残滓の歩兵』の効果発動。このカードは相手の魔導体による防御を無視する!」
「……なに?」
歩兵は天秤の死角を泥臭く潜り抜け、最短距離で九条のボディへ鉄パイプを叩き込んだ。
九条ライフ
10000→9700
「チッ……!」
九条の肉体に『リアル・インパクト』が走る。
「さらに『残滓の歩兵』の効果。プレイヤーにダメージを与えたことで、俺は1マナを得る。……俺は1マナを残したまま、ターンエンドだ!」
「……不愉快な手応えだ。ゴミが僕に触れるなと言ったはずだぞ」
九条は冷たく吐き捨て、カードをドローした。
「僕のターン、ドロー。……魔力変換。召喚、魔導体『粛清の神騎:法告の鳥』」
ステンドグラスのような翼を持つ機械鳥が、甲高い音を立てて飛翔した。その瞬間、戦場の空気が一変する。
「『法告の鳥』の常時効果発動。このカードが場にある限り、貴様のような弱者に攻撃の権利はない。攻撃力1000以下の魔導体は、すべて攻撃宣言を禁止する」
鳥が放つ神々しい波動がクロムの陣営を包み込む。鉄パイプを構えていた『残滓の歩兵』の腕が、まるで見えない重圧に押さえつけられるように動かなくなった。
「バトルだ。攻撃力1400の『断罪の秤』と攻撃力1200の『法告の鳥』の2体で攻撃を仕掛ける」
「くっ……攻撃は封じられたが、防御ならできる! 『残滓の歩兵』で『断罪の秤』を防御だ!」
動かない身体を無理やり突き出し、歩兵は天秤の重い打撃を受け止めて粉々に砕け散った。だが、上空からの追撃は防げない。
「『法告の鳥』の攻撃だ。……墜ちろ」
機械鳥の鋭い羽がクロムの身体を切り裂く。
「ぐああっ……!」
痛烈なリアル・インパクトがクロムを吹き飛ばす。全身を焼くような激痛に、膝が折れそうになる。
「が、はっ……あ……ッ!!」
その瞬間、クロムを襲ったのは、これまでの人生で一度も経験したことのない「暴力」だった。
脳を直接焼かれるような熱さと、内臓を素手で掴み上げられたような悍ましい感覚。リアル・インパクトによる激痛が、全身の神経を逆撫でする。
「……クロム!!」
カウンターの奥でモニターを見守っていたスズが、悲鳴に近い声を上げた。
(――気にするな)
声は出ない。だが、親指を立て、ぐっと拳を握りしめるその仕草は、彼女の心配を撥ね退けるには十分な意志が宿っていた。まだ折れていない。その沈黙のジェスチャーが、かえってクロムの覚悟を物語っていた。
クロムライフ
10000→8800
「僕はこれでターンを終了する。……せいぜい、その檻の中で絶望に震えているがいい」
「ハァ……ハァ……まだだ……! 俺のターン、ドロー!」
クロムは痛みに顔を歪めながらも、ふらつく足で立ち上がった。
「開始時、場にある『残滓の貯蔵庫』の効果発動! 残滓トークンを1体生成する!」
貯蔵庫からガラクタがひとりでに寄り集まり、奇妙な形をした鉄屑の塊がフィールドに固定される。それは自ら動くことはないが、クロムの背後で不気味な存在感を放っていた。
だが、九条の『法告の鳥』による「法の縛り」はあまりに重い。クロムの場にいる攻撃力1000以下の魔導体たちは、指一本動かすことすら許されない。
(今は、耐えて機を窺うしかない……!)
クロムは唇を噛み、震える指で手札をデバイスに叩き込んだ。
「魔力変換! そして『残滓の馬兵』と、2体目の『残滓の歩兵』を召喚!」
首の折れた木馬に跨る騎士の亡霊と、新たな歩兵が戦線に並ぶ。
「俺は……これでターン終了だ」
泥臭く身を寄せ合う残滓たちを盾に、クロムは必死の防御陣形を敷く。九条の冷ややかな視線は、その泥臭い抵抗さえも「非効率な無駄足」として切り捨てていた。
【用語解説】
構築: 自分のターンにのみ発動(設置)できる魔導カードの一種。使い切りの「魔導」とは異なり、発動後もフィールドに残り続け、継続的な効果を発揮する。




