終焉を告げる神
「――僕のターン。ドロー」
九条は冷徹な眼差しのままカードを引き抜いた。
「魔力変換。……そしてマナを支払い、新たなる法を執行する。召喚、魔導体『粛清の神騎:鉄槌の従者』」
戦場に重々しい足音が響く。新たに現れたのは、身の丈を越える巨大な白銀のメイスを引きずる屈強な神騎だった。その威圧感は、これまでの二体とは比べ物にならない。
「バトルだ。『断罪の秤』、『法告の鳥』、そして『鉄槌の従者』。三体すべてで攻撃を仕掛ける。塵一つ残さず消え去るがいい」
「くっ……! そうはさせるか!」
クロムは痛む身体に鞭を打ち、デバイスに向かって叫ぶ。
「攻撃力1400の『断罪の秤』を『残滓の歩兵』で防御! 攻撃力1200の『法告の鳥』を『残滓の馬兵』で防御だ!」
クロムの指示に従い、二体の残滓が立ち塞がる。だが、ステータスの差は歴然だった。黄金の天秤の一撃が歩兵を叩き潰し、機械鳥の鋭利な翼が馬兵を真っ二つに切り裂く。
「……だが、タダじゃやられない! 破壊された『残滓の馬兵』の効果発動! こいつが破壊された時、墓地から『残滓の歩兵』を一体、場に蘇生する!」
砕け散った木馬の残骸の中から、執念深く這い出すように歩兵が再び姿を現す。
「蘇生した『残滓の歩兵』で、三体目の『鉄槌の従者』を防御だ!」
これで凌げる。そう踏んだクロムだったが、九条の口元には嘲りの笑みが浮かんでいた。
「無駄な足掻きを。『鉄槌の従者』の常時効果が発動する。このユニットが攻撃力1000以下の魔導体と戦闘を行う場合、ダメージ計算の前にその魔導体を破壊する」
「――なにっ!?」
鉄槌が振り下ろされるより早く、白銀のメイスから放たれた法の衝撃波が歩兵を内側から爆破した。戦闘すらさせてもらえない絶対的なルール。守り手を完全に失ったクロムへ、巨大なメイスの幻影が容赦なく直撃する。
「がはぁッ……!!」
凄まじい「リアル・インパクト」がクロムの身体を吹き飛ばした。外傷はない。だが、肋骨が軋み、肺の中の空気がすべて弾き出されるような鈍い衝撃が神経を直接叩き潰す。攻撃力2100の直接攻撃。視界が一瞬真っ暗になり、床に叩きつけられたクロムは激しく咳き込んだ。
クロムライフ
8800→6700
「……ゴミをいくら積み上げても、法を止めることはできない。ターンを終了する」
九条は床に這いつくばるクロムを見下ろし、冷酷に告げた。
「ハァ、ハァ……! まだだ……。俺のターン、ドロー!」
クロムは全身の神経を焼くような痺れを強引にねじ伏せ、ふらつく足で立ち上がる。震える指で引き抜いた一枚のカードに、彼の眼光が鋭く光った。
「ターン開始時、構築『残滓の貯蔵庫』の効果発動。二体目の構築『残滓トークン』を生成! さらに手札を魔力変換!」
クロムの背後で、これまで積み上がったガラクタの山が異様な拍動を始める。
「来るぞ……。俺たちの反撃だ。来い! 魔導体『残滓の亡竜』!!」
戦場に、廃棄された巨大な竜の骨格が不気味な紫の炎を纏って這い出してくる。
「攻撃力800のガラクタか。僕の『法告の鳥』がいる限り、攻撃力1000以下は攻撃宣言すらできないルールを忘れたか?」
「忘れてねえよ。『残滓の亡竜』は、自分の墓地にある名前に『残滓』とつくカード一枚につき、攻撃力が300アップする!」
「……なんだと?」
「今、俺の墓地にはさっき破壊された『残滓の歩兵』二枚と『残滓の馬兵』一枚がある。合計三枚だ! 800の基礎攻撃力に900を上乗せし、攻撃力は1700になる!」
亡竜の骨がけたたましく軋み、全身の炎が燃え上がる。その咆哮が、九条の『法告の鳥』が放っていた「攻撃制限の縛り」を力尽くで跳ね除けた。
「さらに1マナを支払い、付与『残滓の継ぎ接ぎ駆動』を亡竜に装着! こいつはCにしか付与できない欠陥品だが……二連撃を可能にし、さらに敵を倒した時に400ダメージを相手に与える!」
亡竜の骨格に、無骨な歯車やエンジンが無理やり溶接され、黒煙を吹き上げる。
「……自壊を前提とした欠陥品の過負荷か。浅ましい」
「見てな。 行け、亡竜! 『断罪の秤』と『法告の鳥』を食らい尽くせ!」
暴走状態の亡竜が猛スピードで突撃する。二体の神騎はその牙と爪に引き裂かれ、光の粒子となって吹き飛んだ。直接攻撃ではないため九条のライフは減らないが、盤面を支配していた強固な法が、ガラクタの執念によってついに粉砕された。その破壊の余波が、鋭い衝撃となって九条を襲った。
「くっ……!?」
「追加効果だ! 二体撃破で合計800ダメージ受けてもらうぜ!」
九条ライフ:9700 → 8900
九条が初めて顔を顰め、後退した。
「バトル終了時、『継ぎ接ぎ駆動』のデメリットで亡竜は自壊する。……俺は、これでターンエンドだ」
黒煙を上げて崩れ落ちる竜の残骸を見届けながら、クロムは荒い息を整えた。
「……フン。不快な火花を飛ばしてくれる。だが、所詮は場を空けるだけの特攻か」
九条は微塵も揺らぐことなく、静かにカードを引いた。
「僕のターン、ドロー。……魔力変換」
クロムは目を細め、九条の手元を睨みつける。
(九条の手札はもう残り少ない。神騎を二体も失い、盤面もリソースも削り取った。今のあいつに、そこまで強いカードは出せないはずだ……!)
しかし、クロムのその予測を読み透かしていたかのように、九条の口角がわずかに吊り上がった。
「手札が少ないから、大した反撃は来ない……とでも思ったか? 底辺の浅知恵など、法ですべて網羅済みだ」
九条は手札から、ひときわ眩い光を放つカードを掲げた。
「1マナを支払い、SRの魔導カード『神罰:徴税の天秤』を発動。効果は……自分の山札の上から4枚を公開し、その中にある名前に『神罰』または『粛清』とつくカード1枚につき、自分のマナを1回復する。」
空間に巨大な天秤が現れ、九条のデッキから4枚のカードが宙に浮かび上がった。
「公開するカードは……すべて『神罰』と『粛清』だ」
「なっ……! 4枚全部だと!?」
「これが、構築の美しさというものだ。よって、僕は4マナを回復する」
枯渇したはずの九条のデバイスに、膨大なマナが再び充填されていく。
「さらに3マナを支払い、魔導カード『神罰:権限強制』を発動。この効果により、僕が次に出す『神』の名を冠する魔導体の召喚コストを、一律1マナに固定する」
「……コストを1に!? 」
戦場の空気が凍りついた。いや、空間そのものが黄金の光に押し潰されていく。
天井が割れ、巨大な神の影がゆっくりと降臨する。それは神騎などとは次元の違う、神そのものの姿だった。
「ひれ伏せ。本来のコストは8――だが今、権限は行使された。URカード『終焉の執行神:セフィロト』を召喚」
圧倒的な光輪を背負い、戦場に舞い降りた絶対神。
そのステータス画面に表示された数値は――攻撃力4500。
クロムの絶望を具現化したような、デタラメな暴力の結晶がそこに君臨していた。
【用語解説】
付与: 魔導体の強化に使用するカード。場に残り続け、対象の魔導体をパワーアップさせ続ける。




