名もなき残滓の竜
「さあ、刑の執行だ」
九条の背後にそびえ立つ『終焉の執行神:セフィロト』が、圧倒的な威圧感を放ちながらその巨大な腕を振り上げる。
(セフィロトの攻撃力は4500。そして『鉄槌の従者』の攻撃力が2100……合計6600のダメージ。対する俺のライフは6700。マナはゼロで防御ユニットもいないが……このターンさえ凌げば、ライフ100で生き残れる……!)
クロムは迫り来る死のプレッシャーに脂汗を流しながらも、必死にダメージ計算を弾き出していた。
だが、盤面を見下ろす九条の口元に、残酷な笑みが浮かぶ。
「その顔……自分のライフが100残るとでも計算したか? だとすれば、エリートの神算を舐めすぎだ」
「……なに!?」
「『終焉の執行神:セフィロト』の効果を発動。自分の場にいる他の魔導体一体を破壊することで、このターン、セフィロトは『二回攻撃』さらに『魔導体からの破壊耐性』を得る」
九条が指を鳴らすと、神の光輪から放たれた光線が、味方であるはずの『鉄槌の従者』を無慈悲に貫き、粉砕した。
「神の威光の前では、従者すらも贄にすぎない。これでセフィロトの攻撃回数は二回……合計9000のダメージだ。マナも尽きた貴様に、もはや防ぐ手立てはない」
「くっ……!」
「消えろ。セフィロトの第一撃」
絶対神の巨大な拳が、クロムの身体を容赦なく叩き潰す。
「が、あああああぁぁぁッ!!」
これまでの『リアル・インパクト』とは次元の違う、全身の神経を直接力任せに握り潰されるような激痛。外傷はない。吹き飛びもしない。だが、脳が「身体を破壊された」という致死量の錯覚を強制的に受信し、クロムは糸が切れたようにその場へ崩れ落ちた。
クロムライフ:6700 → 2200
「ほう、まだ意識があるか。だが、次で終わりだ。セフィロトの第二撃……これで終焉だ」
再び神の腕が振り上げられ、意識が飛びかけるクロムにトドメを刺すべく振り下ろされる。
「終わりだ、ガラクタ使い」
九条が勝利を確信した、その瞬間だった。
「……誰が、ガラクタだ……!!」
膝をつき、激しい耳鳴りに顔を歪ませるクロムが、絞り出すような声で叫び、デバイスに手を伸ばした。
「場にある『残滓トークン』の効果発動! このトークンを破壊することで、『残滓』カードを発動するための1マナとして代用できる!」
クロムの背後に転がっていた二つのガラクタのうち、一つが自ら砕け散り、微かな魔力の光となってデバイスに吸い込まれた。
「なに……!? トークンをマナに変換しただと!?」
「俺たちのガラクタは、ただの壁じゃねえ……! 絞り出した1マナで、瞬刻カード『残滓の走馬灯』を発動!」
クロムの前に、砕け散った残滓たちのホログラムが走馬灯のように浮かび上がる。
「相手の魔導体が攻撃してきた時、その攻撃を無効にする!!」
振り下ろされたセフィロトの拳を、ガラクタたちの幻影が文字通り「身を挺して」受け止め、霧散した。
「……チッ。忌々しいドブネズミの悪あがきを。だが、マナもなく手札も枯渇した貴様に、次はない。ターンエンドだ」
九条は不愉快そうに眉をひそめた。
「ハァ、ハァ……ハァ……!」
クロムは全身を駆け巡る深刻なエラー信号のような痺れを堪え、震える手でデバイスを握りしめる。
(生き残った……だが、あいつの場には破壊耐性を持った攻撃力4500のバケモノがいる。今の俺のデッキに、あいつを越えられるカードは……)
いや、考えるな。ガラクタの声を信じろ。
「俺の、ターンッ……! ドロォォォォォオ!!」
クロムは渾身の力でカードを引き抜いた。
その瞬間、引いたカードから、微かな――だが確かな魔力の波長を感じた。
「……これは……?」
カード名:『残滓竜』。
レアリティは最低のC。だが、召喚コストは「5」と異様に重く、その上、攻撃力は「0」。さらに効果テキストは文字化けしたように擦り切れており、何が起きるのか全く分からない。
(攻撃力0で5コスト……普通なら使い物にならない紙屑だ。でも……)
カードが、クロムの掌の中で脈打っている気がした。
『我を出せ』。
言葉ではない。だが、長年ガラクタと向き合ってきた職人の直感が、そう告げていた。
クロムは顔を上げ、九条を真っ直ぐに睨みつけた。
「ターン開始時、構築『残滓の貯蔵庫』の効果で『残滓トークン』を一体生成! これで場には二体のトークンが揃う!」
再び背後にガラクタが積み上がる。
「そして、残った手札をすべて魔力変換! 3マナを獲得!」
「手札をすべて捨てただと? 自ら選択肢をなくすとは、狂ったか」
「狂ってねえよ。これが俺の、全霊の選択だ!」
クロムは、場にいる二体の残滓トークンを指差した。
「場にある二体の『残滓トークン』を破壊し、2マナ分として代用! 魔力変換した3マナと合わせ、合計5マナを支払う!」
クロムは手元のカードを、デバイスのメインスロットへ力強く叩き込んだ。
「呼び覚ませ、ガラクタの魂! 召喚!! 『残滓竜』!!!」
戦場に、けたたましい金属の軋み音が鳴り響く。
現れたのは、これまでの残滓たちをすべて繋ぎ合わせたような、醜くも神々しい、鉄屑の巨大な竜だった。ステータスモニターに表示された攻撃力は――「0」。
「攻撃力0のコモンカード? それが貴様の限界か」
九条が鼻で笑う。
だが、クロムは不敵に笑い返した。
「……さあな。だが、こいつは、お前の神様すら溶かすぜ」




