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ガラクタたちの咆哮

「攻撃力0の魔導体だと……? それが貴様の辿り着いた、最後の『ゴミ山』というわけか」

 九条の冷徹な声が、黄金の光に包まれた戦場に響く。

 絶対神『終焉の執行神:セフィロト』の足元に現れたのは、全身が錆びついた鉄屑と歯車で構成された、不格好な竜の骸――『残滓竜レゾナンス・リメインズ・ドラグーン』。九条の目には、それはもはや魔導体とすら呼べない、崩壊を待つだけの粗大ゴミにしか見えていなかった。


だが、クロムがそのカードをスロットに押し込んだ瞬間、デバイスのモニターが激しく明滅した。

 「……聞こえる……! こいつの『声』が……本当の効果が!」

 文字化けしていたテキストが、クロムの闘志に呼応するように鮮明な文字へと書き換わっていく。

 「『残滓竜』の効果発動! このユニットが召喚に成功した時、自分の墓地にある『残滓』の名を冠するコモンカードを最大三枚まで、コストを無視して場に出す!」


「なんだと……!? 墓地からの再構築だと!」

 「蘇れ、俺の仲間たち! 『残滓の歩兵リメインズ・ソルジャー』二体、そして付与アタッチカード『残滓の継ぎ接ぎ駆動リメインズ・パッチワーク』をフィールドに展開!」


鉄屑の竜が咆哮を上げると、その体内から打ち捨てられたはずの歩兵たちが這い出し、さらに異様な駆動音を立てるエンジンが具現化した。

 それを見た九条は、呆れたように肩をすくめた。

 「墓地からゴミを掘り返して何になる。攻撃力300の歩兵が二体……。哀れだな。死の間際に見る夢にしては、あまりに惨めで、非効率な光景だ」


「……効率、効率って、うるせえんだよ」

 クロムは九条の嘲笑を冷たく受け流し、静かにデバイスを操作した。

 「付与アタッチカード『残滓の継ぎ接ぎ駆動』を、一体目の『残滓の歩兵』に装着。……そして、本命はここからだ」

 クロムが『残滓竜』を指差す。その鉄の翼が赤熱し、フィールド全体を焦がすような熱波が吹き荒れた。

 「『残滓竜』の第二の効果……! こいつが場にいる限り、自分フィールドの『残滓竜』以外の全C(コモン)カードの攻撃力は――3000上昇する!!」


「――なっ!? 3000だと!?」

 九条の顔から、初めて余裕が消えた。

 神の如き威厳を放っていたセフィロトの影で、震えていたはずの小っぽけな歩兵たちが、太陽のような赤熱したオーラを纏い始める。


【残滓の歩兵A:ATK 300 → 3300】

【残滓の歩兵B:ATK 300 → 3300】


「バカな……あり得ん! 3000もの底上げだと!? だがC(コモン)カードが一時的に跳ね上がったところで、僕のセフィロトの攻撃力は4500だ! 届きはしない! 特攻して自滅するのが関の山だ!」

 九条が声を荒らげる。エリートの計算が、目の前の「非効率な暴力」を否定しようと必死に叫んでいた。


「……九条。お前、さっきからこの歩兵たちのことを『ゴミ』だの『弱小』だの言ってたよな。弱すぎて、効果すらまともに見てなかったんじゃねえか?」

 クロムは低く、地を這うような声で告げる。

 「『残滓の歩兵』の効果を、まさか忘れたわけじゃねえだろ?」


「……歩兵の、効果……?」

 九条の脳裏に、これまでの戦いの断片がよぎる。

 攻撃力300。脆く、頼りない「ガラクタ」。だが、それゆえに持っていた、あまりに弱小すぎるがゆえの特異な能力。


「まさか……『防御不可』か……!?」

 「正解だ。こいつはあまりに小さすぎて、お前の立派な『神様』じゃ、足元をすり抜けるこいつを止められねえんだよ!!」


九条の顔が驚愕に染まる。

 「攻撃力3300の直接攻撃が……二体……!?」

 「行け! 一体目の『残滓の歩兵』、ダイレクトアタック!!」

 小さな影が、巨大なセフィロトの股下を猛烈な速さで駆け抜ける。赤熱した剣が、九条の懐へと突き立てられた。


「ぐ、あああああッ!!」

 リアル・インパクト。外傷こそないが、九条の全身を凄まじい衝撃が突き抜ける。プライドという名の防壁が、初めて物理的な痛みによって砕かれた。


九条ライフ

8900 → 5600


「二体目だ! 行けッ!!」

 もう一人の歩兵が、黄金の光を切り裂き、再び九条の胸元を撃ち抜く。


「は、あ……っ……!!」

 膝をつく九条。エリートとしての端正な顔が苦痛に歪み、息が乱れる。


九条ライフ

5600 → 2300


「……ハハ、ハ……耐えた。耐えたぞ……!」

 九条は荒い息を吐きながら、執念深くクロムを睨みつけた。

 「ライフはまだ残っている……。攻撃を終えた歩兵に、もはや手立てはあるまい。次のターン、セフィロトで貴様を塵にする……僕の勝利は、揺るがない……!」


だが、クロムは動じなかった。

 その視線は、まだ「終わっていない」ことを確信していた。

 「……九条。お前、さっき自分で言ったよな。こいつは『自壊を前提とした欠陥品』だって」


クロムが指し示したのは、一体目の歩兵に付与された『残滓の継ぎ接ぎ駆動』。

 エンジンの回転数は限界を超え、今にも爆発せんばかりに火花を散らしている。

 「欠陥品だからこそ、一回じゃ止まれねえんだよ。……『継ぎ接ぎ駆動』の追加効果、二回攻撃だ!!」


「……何っ!? まだ、攻撃が……!?」

 九条が目を見開く。その視線の先で、役目を終えたはずの歩兵が、軋む音を立てて強引にその身を翻した。


「これで、トドメだ。……ガラクタの意地、焼き付けな!!」

 クロムの咆哮と共に、限界を超えた歩兵が三度目の、そして最後の一撃を放つ。

 赤熱した鋼鉄の刃が、九条のライフを完全に刈り取った。


「あ……あああああああああぁぁぁぁッ!!!」


凄まじい衝撃が九条を襲い、彼の完璧だった「システム」が崩壊していく。

 黄金の光が霧散し、戦場に静寂が戻る。


九条ライフ

2300 → 0


デバイスに表示された『WINNER:CHROME』の文字。

 クロムは、限界まで酷使した右手をゆっくりと下ろした。

 目の前には、膝をついたまま動けない九条と、砕け散ったガラクタたちの粒子が、夜明けの光のように美しく舞っていた。


「……勝ったぞ。お前らの……勝ちだ」

 クロムはそう呟くと、静かに目を閉じた。

 それは、最底辺のコモンカードたちが、神を打ち倒した瞬間だった。

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