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残滓の夜明け

黄金の光が完全に霧散し、静寂が戦場を支配した。

 デバイスのホログラムが消え、無機質な鉄筋コンクリートの床が露わになる。クロムは激しい虚脱感に襲われながらも、壁に手をついて辛うじてその場に立ち続けていた。


対する九条は、床に仰向けのままピクリとも動けない。

 『リアル・インパクト』による神経への過負荷で、脳が身体へ強烈なエラー信号を送り続けており、立ち上がることすら拒絶していた。


「……は、あ……っ……。バカな……あり得ない……」

 九条は脂汗を流し、血走った目で虚空を睨んだ。

 「僕が……完璧な法を操るこの僕が……あんな、データの残骸のようなゴミごときに……!!」


その言葉を聞いて、クロムはふっと短く息を吐いた。

 「……お前がゴミだって捨てたもんに足元をすくわれた気分は、どうだ?」

 「貴様……ッ!!」


九条が屈辱に顔を歪めたその時、工場の入り口から重々しい足音が響いた。

 現れたのは、全身を闇に溶けるような黒いローブで包んだ影だった。深く被ったフードのせいで顔は一切見えないが、九条よりも一回り以上大きく、その体格から屈強な男であることがわかる。


「……そこまでだ、九条。醜態を晒しすぎたな」

 ローブの奥から響いたのは、地を這うような低い男の声だった。

 「……っ。回収に来たのか……」


九条は男の登場に不服そうに顔をしかめたが、今の自分が身動き一つ取れない状態であることは痛いほど理解している。悔しげに唇を噛み締めると、それ以上は何も言わなかった。

 男は動けない九条を軽々と担ぎ上げると、去り際に一度だけクロムの方を振り返った。


「……記憶に留めておこう。我々はまた、いずれ会うことになる」

 男はそれだけ言い残すと、九条と共に闇の中へと消えていった。


気配が完全に消えたのを確認した瞬間、クロムの張り詰めていた糸が切れ、視界が大きく揺らいだ。

 「おっと……!」

 膝から崩れ落ちそうになったクロムの身体を、駆け寄ってきたスズが慌てて両腕で支え込む。

 「ちょっと、大丈夫!? もう、無茶ばっかりするんだから……。ボロボロのカードを直すのが店長の仕事なのに、自分がスクラップになってどうすんのよ」

 「……わりぃ。……でも、なんとか守り切れたな」

 「はいはい、わかったから。とにかく今は休みなさい」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

世間の喧騒とは無縁の、地図にないどこかの薄暗い空間。

 巨大な円卓を囲むように設置された空中のホログラムモニターには、昨夜の廃工場でのデュエルデータが乱数と共にとめどなく流れ続けている。特に、『終焉の執行神:セフィロト』の圧倒的な金色の波形と、それに対する『残滓竜』の赤黒いノイズのような波形が何度もループ再生されていた。

 冷徹な静寂が満ちた一室に、五つの影が集まっていた。


「本当に信じられないわね。強大なエネルギーを秘めたカードを回収するのが私たちの役目なのに、それを執行する側が負けて帰ってくるなんて」

 静寂を破ったのは、呆れたようなトーンの艶やかな女の声だった。彼女はモニターのグラフを長い指でなぞる。

 「ええ、本当よ。しかも相手はただの技師しかもC(コモン)カードばかり生成している変わり者でしょ? エリートの名が泣くわね。」

 それに同調するように、もう一人の女がクスクスと意地悪く笑う。

 「フン、セフィロトを出してまでC(コモン)カードごときに敗北するとはな。間抜けにも程がある。あの街ごと灰にしていれば済む話だったものを」

 腕を組みながら冷たく吐き捨てたのは、嫌味な響きを持つ別の男だった。


「責めるな。あの場には確かな異常値があった」

 低い声で彼らを制したのは、九条を回収しに行ったあの黒ローブの男だ。

 四人からの冷ややかな視線を浴びながら、円卓の端に立たされた九条は焦ったように声を張り上げた。

 「違う! あの時、一時的な魔力濃度が異常値を示したのは確かだが、あれは所詮ただのコモンカードだ! あれは計算外のノイズで、我々の収集対象となるような純度の高いエネルギー体では断じて――」


「言い訳は見苦しいぞ、九条」


部屋の奥、一段高くなった闇の中から、静かだが絶対的な支配力を持つ声が響いた。

 その声の主である「リーダー」と呼ばれる男が姿を現すと、部屋の空気が一瞬にして凍りついたように重くなる。まるで重力が倍になったかのような錯覚。五人は一斉に口を閉ざし、深く居住まいを正した。

 リーダーはホログラムモニターを一瞥し、淡々と告げた。

 「確かにあれはC(コモン)カードだ。だが、逆に言えば、C(コモン)カード風情が一時的とはいえ、あのような超高濃度魔力値を示すこと自体がおかしいのだ。我々の計画は、あらゆるイレギュラーを排除した絶対的な支配。あの竜が発した熱……無視するにはあまりに不気味だ。……当面の間、あのクロムという職人の周りを警戒し、監視しておけ」

 「……はっ」

 黒ローブの男が短く首を垂れる。


「そして九条」

 「……っ!」

 「お前の処分は、追って通達する。それまで、せいぜい己の無能を噛み締めておくことだ」

 「……承知、いたしました」

 九条は深く頭を下げながら、ギリッと奥歯を噛み締め、屈辱に満ちた苦い顔を床に向けた。握りしめた拳からは、今にも血が滲みそうだった。


世間に知られることのない、カードの「エネルギー」を巡る暗躍。

 裏路地のカードショップで、ただ実直に傷ついたカードを修復し続けてきた一人の技師。その静かな日常を飲み込むように、世界の裏側で蠢く巨大な闇の歯車が、音もなく、確実に回り始めていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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