傲慢な黄金
平和な昼下がりを破ったのは、腹に響くような重低音を響かせるスポーツカーの排気音だった。
商店街の石畳を震わせ、店の前に止まった黄金色の車から降りてきたのは、仕立てのいい高級スーツに身を包んだ青年、レオン。眩いばかりの金髪を完璧に整え、高級スーツをスマートに着こなしたその体躯は、クロムよりも頭一つ分は大柄だ。周囲を見下ろすような高い視線と、育ちの良さを感じさせる優雅な立ち振る舞いは、それだけで周囲を圧倒するようなオーラを放っていた。彼はこの界隈で急成長している大手チェーン『黄金の天秤』のオーナー技師であり、次期世界大会の有力候補とも目される、この街のエリートだった。
レオンは取り巻きを連れて店内に踏み込むと、わざとらしく鼻を鳴らして周囲を見渡した。
「相変わらずだな、クロム。こんな埃っぽい店で、ゴミカードを量産して楽しいか。子供相手に三流の理屈を並べるのも大概にしろ」
レオンはカウンターの横にある棚に歩み寄り、陳列されていたCカードの一枚を汚物でも見るかのように指先で弾いた。
「勧告に来てやったんだ。この商店街一帯の再開発が決まった。大手資本が入り、最新鋭のデュエルスタジアムが建つ。当然、お前の店も立ち退き対象だ。……まあ、お前のようなC専門の技師がいなくなっても、この街のデュエルレベルが下がることはないがな」
クロムはカードのメンテナンスをしていた手を止め、静かにレオンを見据えた。
「立ち退きの話は市の方から聞いている。だが、俺はまだ納得していないはずだ」
「納得など必要ない。これは効率の問題だ」
レオンは冷笑を浮かべ、背後に隠れるように立っていた人影を前へ突き出した。それは、先ほどクロムの店で『竜の煤煙』を生成したばかりのあの少年だった。少年の目には涙が溜まっており、その手には、先ほどクロムが渡したカードが無惨に折れ曲がった状態で握られていた。
「このボウズ、攻撃力0のカードを宝物のように抱えていやがった。マナを生む以外に能がないカードに、一体何の価値がある。強さこそが正義。高レアリティの暴力こそが、レゾナンスの本質だろうが。こんな欠陥品を子供に売りつけるとは、技師として恥を知れ」
少年は震える声で、「ごめんね、クロムさん……。僕が、弱いから……」と呟いた。
その瞬間、店内の空気が一変した。
クロムが静かに立ち上がる。いつも眠たげだった瞳の奥に、鉄のような鋭い光が宿っていた。
「……その子が大切に持ってきた素材だ。それを形にしたのは俺だ。自分の無知を棚に上げて、他人の相棒をゴミ呼ばわりするのはやめてもらおうか」
クロムの放つ威圧感に、レオンは一瞬だけ気圧されたように顔を歪めたが、すぐに鼻で笑い飛ばした。
「無知だと? 面白い。ならば、そのゴミが役に立つことを証明してみせろ。お前のガラクタデッキでな。俺が勝てば、今すぐ立ち退き書類にサインしてもらう。端金の立ち退き料で、どこへでも消えるがいい。」
「いいだろう。……ただし、俺が勝ったら、その子に謝ってもらう。カードと、その素材に敬意を払え」
「ハッ、後悔するなよ。本物の輝きが、ガラクタを焼き尽くす様を見せてやる」
二人の視線がぶつかり合い、工房の中に火花が散る。少年の涙を拭うため、そして「コモン」に込められた真の理を証明するため、クロムは使い込まれたデッキを手に取った。




