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ガラクタの逆襲と、無限の解体証明

スタジアムを揺るがす爆発音が収まると、そこには残酷なまでの現実が広がっていた。

 クロムが放った決死の自爆特攻カウンター。しかし、煙が晴れたフィールドには、一切の傷を負わずにそびえ立つ純白の機械竜――『三頭の魔装機』の姿があった。

 クロムの『解体用カッター』は無惨に散り、彼を守る魔導体はもう一体も存在しない。


「アハハハハ! 無駄だと言っただろう! 手札がある限り、僕の魔装機は無敵なんだよ!」

 ザックは歓喜の叫びを上げ、三頭の魔装機に無慈悲な命令を下した。

「邪魔な鉄屑は消えた! 『三頭の魔装機』、プレイヤーへ直接攻撃ダイレクトアタック!」


三つの首がそれぞれ極太のエネルギーをチャージし、クロムへと向けて一斉に解き放つ。

 基礎攻撃力2000に、『広域殲滅波動』のバフ1500が乗った、合計3500という暴力的な火線。それがクロムの身体を情け容赦なく貫いた。

 激しいノイズと共にシステムがダメージを算出される。


クロムライフ

8000→4500


「ちっ……」

 クロムは眩い光に目を細め、明滅する自らのライフゲージを見上げて微かに顔をしかめた。

「……これで僕のターンは終了だ。さあ、絶望のターンを始めようか、底辺」

 ザックが優雅に腕を広げ、ターンエンドを宣言する。


攻守が交替し、無機質なシステム音声がクロムのターン開始を告げる。

 クロムのドロースロットから二枚のカードが押し出される。

 クロムは静かにカードを引き抜いた。

 視線を落とした先、指に挟まれた一枚のカードを見て、クロムの瞳の奥で小さな火が灯る。


(……来たか。カイトが『ゴミ』だと吐き捨てた、あのカード)

 それは以前、ジャンク市でエリート候補生のカイトが足蹴にしていた『量産型・歩兵機巧』だった。

(このカードを引けたなら……あとは『あのカード』さえ引き込めば……)


「チャージ」

 クロムは手札から不要なカードを一枚デバイスに滑り込ませ、1マナを生成した。

「俺は手札から魔導グリモワールカード、『残滓の再精製リメインズ・リファイン』を発動する。自分の墓地にある『残滓』カード三枚をゲームから除外することで、デッキから二枚のカードをドローする」


これまでの激戦で破壊され、墓地に眠っていた『通信兵』『馬兵』『機雷』のデータが光の粒子となって砕け散り、新たなエネルギーとなってクロムのデバイスに還元される。

 スロットから勢いよく飛び出した二枚のカード。それを一瞥した瞬間、クロムの口角がわずかに上がった。


(最後のピースが、揃った)


「アハハ! 今更たった二枚引いたところで何が変わる!」

 ザックがフェンス越しに嘲笑う。

「君のフィールドは空っぽ! 僕の場には攻撃力3500の破壊されない魔装機がいる! 手札を回したところで、もう君に逆転の目なんてないんだよ!」

「……どうかな。エリート様の『完璧な盤面』の欠陥を、今から証明してやる」


クロムはドローしたばかりのカードを立て続けにデバイスへ押し込んだ。

「チャージ。さらに2マナを追加生成。そして、1マナを支払い魔導体を召喚する」

 フィールドに、古びたキャタピラとマジックアームを備えた小型のドローンが現れた。

「来い、『残滓の回収機リメインズ・リトリーバー』。――こいつの攻撃力は0だ」


「攻撃力0!? アハハハハ! ついに頭がおかしくなったか!」

「俺はさらに1マナを支払い、もう一体召喚する。――目覚めろ、『量産型・歩兵機巧』」

 回収機の隣に、塗装もされていないのっぺらぼうの人型機械が、ギギギ……と不器用な音を立てて立ち上がった。


そのユニットを見た瞬間、ザックは腹を抱えて吹き出した。

「ぷっ……アハハハハ! 嘘だろう!? 本当にそんなゴミカードを使っているのか!」

「……知っているのか」

「当然だ! そいつは場の1コストの『魔導体』の効果をコピーするだけの無能カードだ! コピーしたところで大したステータスにもならず、相打ちしか取れない雑魚中の雑魚! エリートの間じゃ、ハズレ枠の代名詞として有名だからね!」


ザックの言葉に、観客席からも呆れたようなざわめきが広がる。

「マジかよ、あんなカード大会で出す奴初めて見たぞ」

「いくらコモンデッキでも、もっとマシなカードあるだろ……完全に打つ手なしのヤケクソだな」

 誰もがクロムの敗北を確信した。ただ一人、盤面を操る職人クロムを除いて。



「確かに、このカードの元の仕様は『場のコスト1の魔導体の効果をコピーする』というだけのものだ」

 クロムの宣言と共に、『量産型・歩兵機巧』のホログラムが微かなノイズを放ち、その輪郭を変容させ始める。

「だがな、お前らはこいつの『成り立ち』を知らない。このカードは元々、あんな高純度な記憶結晶メモリーコアを素材にして作られたものだ。生成に失敗してコモンに成り下がったとはいえ……戦いの前に俺が少し『調整』してやるだけで、本来の出力を容易く引き出せる」


「ば、馬鹿な! 調整だ!? 公式のシステムがそんな不正なパラメータを認識するわけが……」


「不正じゃない。カードに眠っていた『本当の記憶』を呼び覚ましただけだ。『量産型・歩兵機巧』の効果発動。俺がコピー対象に選ぶのは――お前の場にあるコスト1の【付与アタッチ】カード、『魔装・絶対防護フィールド』だ!!」


クロムの宣言と共に、のっぺらぼうの歩兵機巧の身体が眩い光に包まれ、強固な光の盾へとその姿を変換させた。

「ば、馬鹿な!? 魔導体をコピーするカードで、付与カードをコピーしただと!?」

 ザックが目を見開いて叫ぶ。

 観客席も一斉にどよめいた。

「おい、システムエラーか!?」

「システムエラーじゃない、完全に正規の処理として通ってる! あいつ、あのカードの隠された裏設定を完全に自前で解放して組み込んできやがったのか!」


「驚くのはまだ早いぞ。俺は今『絶対防護フィールド』へと変質した歩兵機巧を、『残滓の回収機』に装備する!」

 クロムの指示に従い、攻撃力0の小型ドローンが、自身の身の丈以上の巨大な光の盾を構えた。

「だが、それがどうした!」

 ザックが必死に虚勢を張る。

「盾を持たせたところで、そいつの攻撃力は0だ! 僕の魔装機は3500! 傷一つつけられないぞ!」

「なら、試してみるか。――バトルフェイズだ。俺は攻撃力0の『残滓の回収機』で、お前の『三頭の魔装機』を攻撃する!」


「はぁっ!? また自爆特攻か! 何度やっても無駄なものは無駄だ! 返り討ちにしてやれ!」

 三頭の魔装機から放たれたレーザーが、突撃してきた回収機を容赦なく飲み込み、大爆発を起こす。

「アハハハ! そして僕の『魔装の略奪回路』の効果が発動する! 相手ユニットを破壊した時、僕はデッキからカードを一枚ドローする!」

 ザックのデバイスに新たな手札が追加される。

「言ったはずだ、どんな効果を持っていようと、手札がある限り僕の魔装機は倒れないし、君の盤面は一生更地のままだ!」


「……本当にそうか? よく盤面を見てみろ」

 爆炎が晴れたフィールド。そこには、光の盾に守られ、無傷で浮遊し続ける『残滓の回収機』の姿があった。

「なっ……なぜ破壊されていない!」

「『残滓の回収機』が破壊判定を受けた瞬間、二つの効果が同時に誘発したからだ」

 クロムは淡々と、しかし残酷なほど正確にロジックを解説する。


「一つ。破壊された『残滓の回収機』自身の効果により、俺は墓地の『残滓』魔導体を一枚手札に加える。そして二つ。装備している『絶対防護フィールド』の効果により、手札を一枚捨てることで、回収機の破壊を無効化しフィールドに留める」

「……あっ」

「俺は、今回収したばかりのカードをそのまま捨てて、破壊を無効化した。つまり、俺の手札消費はゼロで、こいつは何度でも蘇る」


「何を……何をしたいんだ! そんなことをして生き延びたところで、君に勝ち目なんて……」

 ザックの言葉が、震え始めていた。

「俺のバトルフェイズはまだ終わっていない。『残滓の回収機』で、再度『三頭の魔装機』へ攻撃」


「や、やめろ……! そんな意味のない攻撃……」

 だが、システムはクロムの攻撃宣言を冷酷に受理する。

 回収機が突っ込み、再びレーザーで吹き飛ばされる。

『――条件達成。「魔装の略奪回路」の効果により、プレイヤー・ザックはカードを一枚ドローしてください』

 無機質なシステム音声と共に、ザックのデバイスから強制的にカードが押し出される。

「ひっ……!」


「回収機の効果で墓地から手札へ。防護フィールドの効果で手札から墓地へ。回収機はフィールドに留まる。……さあ、三度目の攻撃だ」

 ドォォォンッ!

『――プレイヤー・ザックはカードを一枚ドローしてください』

「四度目の攻撃」

 ドォォォンッ!

『――プレイヤー・ザックはカードを一枚ドローしてください』


永遠に続くかのような自爆攻撃と、それを無傷で耐え抜く絶対防護のループ。

 そして、その度にザックのデバイスから吐き出され続ける手札。

 スタジアムを支配していた喧騒は、いつしか水を打ったような静まり返りへと変わっていた。誰もが、目の前で起きている「異常事態」の正体に気づき始めたのだ。


「おい……まさか……」

「ザックの装備している『略奪回路』は、強制ドロー効果だ。そしてクロムのユニットは、無限に『破壊されては復活』を繰り返している……」

「クロムの狙いは、モンスターの撃破じゃない。ザックの……『ライブラリアウト』だ……!!」


観客の一人が発したその言葉に、スタジアムが戦慄に包まれる。

「ようやく気付いたか」

 クロムはデバイスのホログラム越しに、顔面蒼白で立ち尽くすザックを見据えた。

「お前が自慢していた『豊富な手札』も、『絶対の防護盾』も、『強制ドローの略奪回路』も。すべてがお前の首を絞めるための完璧な絞首台ループだ。……エリート様の自慢のパーツ、いい働きをしてくれているぞ」


「や、やめろ……! やめてくれ!!」

 ザックは悲鳴を上げながらデバイスを覆い隠そうとするが、システムは無情にもドローを強制し続ける。

「五度目。六度目。七度目――」

 クロムの冷徹なカウントダウンと共に、回収機の突撃が繰り返される。

 ザックのデッキの残量が、10枚、5枚、3枚と、恐ろしいスピードで削り取られていく。


「やめろォォォォォッ!!」

 ザックの絶叫が響き渡った瞬間。

『――エラー。デッキの残枚数が0枚です』

 スタジアム全体に、ひときわ冷たいシステム音声が鳴り響いた。


『――敗北条件ライブラリアウトを達成。勝者、クロム』


そのアナウンスと共に、無敵を誇っていた『三頭の魔装機』が、ノイズまみれになって崩れ落ち、光の塵となって消滅した。

 膝から崩れ落ち、虚ろな目で空になったデバイスを見つめるザック。

 クロムはそんなエリートの無惨な姿を一瞥し、静かにデバイスの電源を落とした。


「……金で膨らませただけの器は、中身が空っぽになればただの鉄屑だ。ガラクタ好きの俺に言わせれば、いい解体ショーだったよ」

スタジアムは一瞬の静寂の後、底辺の職人がエリートを完全なロジックで打ち倒したという事実に、割れんばかりの大歓声に包まれたのだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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