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光芒のスタジアムと、傲慢なる星(スター)

ネオ・ブライト・アリーナ。

 世界規模の公式カードバトル『NBC』の会場として選ばれたその巨大スタジアムは、まさに表の世界の「光」と「資本」の象徴だった。


ドーム型の天井には、数千万円は下らない最新のホログラムプロジェクターがズラリと並び、実物と見紛うほどの巨大なドラゴンや天使が、スタジアムの空中を優雅に舞っている。色とりどりのレーザー照明が観客席を照らし、鼓膜を揺らすような重低音のBGMが会場の熱気を限界まで引き上げていた。


「す、すごい……! 師匠、あそこに浮いてる広告、最新の光粒子技術ですよ! うちの店の機材の何世代先なんだろう……」

 ルカは目を輝かせながら、スタジアムの設備を食い入るように見つめている。


彼らが歩くエントランスのメインストリートには、試合会場とは別の熱気が渦巻いていた。

 ずらりと並んでいるのは、何十台もの「大会公式・最新型生成器ジェネレーター」である。その周囲には、未鑑定の『記憶結晶メモリーコア』をはじめとする高価な生成素材を売る商人たちのブースがひしめき合い、多額のゼニーが飛び交っていた。


「へえ、すごい商売してるわね! ここで素材を買って、その場でカードを顕現させるってわけね」

 スズが感心したように見回す。さらに彼女の目を引いたのは、それらの最新型生成器の傍に陣取る、公式の腕章をつけた者たちだった。


「あれは……大会から認可を受けた『公認技師』たちですよ」

 ルカが解説する。

 「素材をカード化するのには、出力の調整や記憶の定着など、専門的な技術がいりますからね。お金を持ってるプレイヤーは、ああいう凄腕の技師に高額な依頼料を払って、最高純度のカードを引き出してもらうんです。ほら、あの中央のブースにいる人……!」


ルカが指差した先には、洗練された白衣を着て、取り巻きに囲まれながら華麗に生成器の操作パネルを叩く若い男がいた。

 「『トップクリエイター』の異名を持つ天才技師、ヴィクトルですよ! 彼に生成を依頼するだけで、数百万ゼニーは飛ぶって噂です!」

 「す、数百万!? ……店長! なんでうちもああやって出張工房を出さなかったのよ! この数週間、あなたがコモンばっかり作ってた時間があれば、今頃うちの店も大金持ちだったのに!」

 スズが悔しそうにクロムの背中をバシバシと叩く。


「……うるさい、少しは落ち着け。俺はあんな見世物みたいなマネはしない」

 クロムは叩くスズの手を鬱陶しそうに払いながら、深く眉をひそめていた。

 確かに技術は凄まじい。機材も一流だ。だが、ここに満ちているのは「カードへの敬意」ではなく、ただの「マネーゲーム」と「見世物としての熱狂」だ。静かに素材の『記憶』と向き合う職人であるクロムにとって、それはひどく居心地の悪い空間だった。


「きゃああああっ! カイト様よ!!」

 「こっち向いてー!!」


突如、エントランスの特設ステージ周辺から、耳をつんざくような黄色い歓声が上がった。

 人だかりの中心にいたのは、輝くような白い特注のデュエルスーツに身を包んだ、銀髪の若い男だった。整った顔立ちには、周囲を見下すような絶対的な自信――あるいは傲慢さが貼り付いている。


「あいつ……今大会の優勝候補筆頭、『カイト』ですよ。メディアでも毎日のように取り上げられてる、超有名なエリートプレイヤーです」

 ルカが顔を引き締める。


ステージ上のカイトは、無数のカメラフラッシュを浴びながら、マイクに向かって優雅に微笑んだ。

 「皆、応援ありがとう。今大会も、僕が選び抜かれたURウルトラレアたちと共に、最高のエンターテインメントを見せることを約束しよう。……さて、景気づけに少し運試しといこうか」

 

 カイトは取り巻きから、淡く発光するガラス玉のような物体――未鑑定の『記憶結晶メモリーコア』の束を受け取った。

 「す、すげえ……。あんな高純度のコア、一つで数百万ゼニーは下らないぞ……!」

 観客の一人が息を呑む。そんな希少な事象の結晶十数個を、カイトはステージ中央に鎮座する最新型生成器ジェネレーターのスロットへと無造作に放り込んだ。


クロムの工房にある年季の入った機械とはまるで違う。カイトが自身のデバイスから莫大な魔力を注ぎ込むと、最新鋭のジェネレーターは記憶の緻密な定着プロセスなど無視して、圧倒的な出力で強引に事象を固定化し、一瞬にして十数枚のカードを「顕現ジェネレート」させてみせた。


排出された真新しいカードの束を一瞥し、カイトはわざとらしくため息をついた。


「……ああ、ダメだ。定着した記憶が浅すぎる。全部『ハズレ(コモン)』だ」


カイトは、全く興味なさそうに、生成されたばかりのカードの束を放り投げた。

 ひらひらと宙を舞った十数枚のコモンカードは、そのままステージ脇に設置された『不要カード回収BOX』という名の透明なゴミ箱へと吸い込まれていく。

 ファンからは「もったいない」という声すら上がらない。ただ、最高レアリティ以外には見向きもしないカイトの徹底したエリートっぷりに、周囲は一層の熱狂的な歓声を上げていた。


「……なんだと?」

 クロムの足が、ピタリと止まった。

 スズとルカが止める間もなく、クロムは無言のまま人だかりをかき分け、ステージ脇の回収BOXへと歩み寄った。


透明な箱の中には、先ほど捨てられたばかりの真新しいカードたちが、折り重なるように無造作に放り込まれている。

 クロムは無言で手を伸ばし、一番上にあった一枚のコモンカード――『量産型・歩兵機巧』――を拾い上げた。

 圧倒的な出力で無理やり顕現させられたせいか、記憶の定着が甘く、カードの表面には微かなノイズが走っている。しかし、誰も見向きもしないというだけで「ゴミ」として扱われたカード。

 クロムの指先を通して、行き場を失った記憶の微かな震えが伝わってくるような気がした。


「……まだ、十分動けるじゃないか」


「おい。汚い手で僕のステージに触るな」

 頭上から降ってきたのは、氷のように冷たく、見下すような声だった。

 顔を上げると、ステージの端からカイトが不愉快そうにクロムを見下ろしていた。その視線は、クロムの着古した作業着と、手に握られたコモンカードへと向けられている。


「何をしているのかと思えば……ゴミ拾いかい? 悪いけど、ここは『選ばれた者』の舞台だ。スラムの住人が来る場所じゃない」

 「……ゴミ、か。あんたにとっては、これがゴミに見えるのか」

 クロムはカードを拾い上げたまま、ゆっくりと立ち上がった。


「当然だ。レアリティの低さは、そのままカードの性能と価値の低さに直結する。URウルトラレアが持つ絶対的な強さの前に、そんな泥のようなカード(コモン)はただの邪魔なノイズだ。顕現させるだけ魔力の無駄なんだよ」

 カイトは己の胸元に輝く、特注のカードケースを指で弾いた。そこからは、微かだが尋常ではない高純度の魔力の波動が漏れ出ている。


「カードはレアリティが全てだ。それ以外に価値などない」


その言葉は、クロムがこれまでカード一枚一枚の生成に傾けてきた情熱と、誰にも見向きされない底辺のカード(コモン)たちと真摯に向き合ってきた日々を、根底から否定するものだった。


「……カードは、ただの数字の束じゃない」

 クロムは低く、地を這うような声で言った。

 「あんたのURも、こいつらと同じように記憶を刻んで生まれてきたはずだ。それを、ただ数字が低いってだけで捨てるような奴には……『本当の音』は聞こえない」


「ハッ、底辺の遠吠えは聞き飽きたよ」

 カイトは鼻で笑うと、興味を失ったように背を向けた。

 「せいぜいそのゴミ束と一緒に、予選の第一回戦で散ってくれ。君のような存在は、この美しい大会の『ノイズ』だからね」

 取り巻きたちを連れ、カイトは歓声の中へと消えていった。


「な、なんなのよあいつ! ムカつくー!!」

 駆け寄ってきたスズが地団駄を踏み、ルカも悔しそうに拳を握りしめている。

 だが、クロムは怒鳴ることもせず、拾い上げたコモンカードを静かに自分の懐へと収めた。そして、胸ポケットで沈黙を続ける『残滓竜』の硬い感触を確かめる。


「……スズ、ルカ」

 「なによ、店長。まさか怖気づいたんじゃないでしょうね!?」

 「……いや。予定変更だ」


クロムは、圧倒的な光に包まれたスタジアムの天井を睨みつけた。その瞳には、かつてないほど冷たく、鋭い職人の炎が宿っていた。


「賞品をもらって宣伝するだけじゃ、気が済まなくなった。……あいつのその薄っぺらい『絶対』を、俺のガラクタで根底から叩き潰す」


その時、スタジアムのメインモニターに、予選第一回戦の対戦表がデカデカと映し出された。

 職人とエリート。全く異なる価値観が激突する表舞台の戦いが、今、静かに幕を開けようとしていた

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