何故?《34》
嗚呼、忌々しいっ!!
奴隷の分際で主に“呪い”をかけるとはっ!
お陰で奴を殺してからのこの一年間、呪いを解く為に屋敷に籠る事が多くなった。まぁ、別に外に出て大してやることはないが、あのニヤケ顔(ロネス博士)の所に細々な報告や新しく入ってきた眷属達のリストを渡す為、たまに屋敷から出なくてはならない。少しくらいすっぽかしても問題ないか。あのニヤケ顔に会わなくて済む。
そもそも“奴ら”さえ来なければ、私はこの屋敷で静かに暮らしていたんだっ。
クソッ……“ヤツ”に負けてさえいなければっ、まさかあれ程強い奴だと思わず、油断した事が仇になった。チッ、自分の力を過信しすぎた。もうどんな相手にも油断はしない。例え自分の眷属であってもだ。鍛える事に力を抜かない。反省点はいくらでもあるが、それでも“奴ら”二人のニヤついた顔が頭に浮かんでくる度、腹の立つことこの上ないっ!負けたことを良いことに此方に”面倒事ばかり押し付けてくれるっ……。
★
【おやおや~?さっきの威勢はどうしたのかな~?アッサリ負けちゃったね~?クフフッ、“ボク”に負けて悔しい?ねえ?悔しい?ねえねえねえっ??】
★
チッ…余計な事を思い出した。あの軽薄そうな声を思い出すだけでぶち殺したくなるっ!
「……ハァーッ………」
落ち着け、今は落ち着くんだ。あんな奴らのことなんか思い出すだけ時間の無駄だ。忘れよう。そして定期連絡をいれるのを今日はすっぽかしてやろう。そうしよう。
まあ他に外に出る用があるとすれば、野生の魔物を倒して力をつけることぐらいか……。いや、アイツ(眷属)らは明日には居なくなるから、もう鍛えなくて良いのか…。いや油断はせず鍛えるのは続けよう。いつか“アイツら”を葬ってやる為にも。
新しく入ってきた新人の眷属共を、教育係として眷属達に慕われていた白髪の優男と赤髪の気の強そうな女をリーダーとして指名して任せていたが、奴らは思った以上に強くなっている。油断すると危険なのは確かだ。まあ私がそんなヘマはしないが、用心することに越したことはない。それに最近、新しく入ってきた子供の眷属、奴は今までの眷属達の中でも群を抜いて成長のスピードが早く、此処に来て一年で早くも上位に進化を遂げかねないと言われいるガキだ。アイツも油断ならない。
無能からヤツ(フィース)の情報は逐一報告するように伝えてある。しかしあの無能、新人の眷属達の成長記録係を任せたのは良いのだが、いつも記録の締め括りの最後に一言二言添えられている。そんなもの頼んだ覚えはないんだが、伝えるのも面倒なので言わないでいた。そうしたらほぼ全ての記録に一言二言添えられるようになった。
[フィース君の成長は目覚ましいものを感じます。末恐ろしいですね(^-^)]
確かに奴の急成長ぶりは私も驚いていたが、何故わざわざ最後にコレを書く?眷属達の成長記録だけで十分なのだが…。
[バイカ少年は身体強化が得意みたいです!筋肉バカなのでしょうか?]
知るか…。何故私に聞く?あと地味にソイツのこと馬鹿にしてないか?
[フィース君の固有能力は“創造”みたいです!創造の能力でアイスって錬成出来ませんかね?私アイス好きなので今度フィース君に出来るか頼んでみます!(^q^)]
創造の能力を何だと思っているんだコイツは?それと最後のこの絵文字はなんだ?ちょいちょいコイツの書く記録の中に出てくるが…地味に腹立つな…。
[バイカ少年に牛乳飲めば成長も早まるかもよ?とアドバイスして、バイカ少年に牛乳をあげたのですが、後からヒルダ先輩から聞いた話なのですが、その牛乳どうやら1ヶ月ぐらい賞味期限が過ぎたものだったらしく、それを聞いて思わずバイカ少年の方へ目を向けたら、調度バイカ少年の口から牛乳を吹き出している所を見かけ、バイカ少年の瞳は私をギロリッと捉えた後、殺意をギラギラに宿して私の方へ走って来ました。私は全力で逃げましたが直ぐに捕まり私も賞味期限切れの牛乳を無理やり飲まされました。
知っていますか……腐った牛乳って恐ろしく不味いんですよ……もう、口に入れた瞬間飲み込めないんですよ……喉がコイツをココから先に行かせちゃならねえ!って拒否反応を起こしていました…(゜д゜)]
何をやっているんだ…?コイツは?アホなのか?無駄に長いし、もう成長記録と言うかコイツの日記なってないか?
[フィース君は今日も可愛いかったです(*´∇`*)]
何の報告だ…?もう記録の最後の文、コイツの私物化してないか?
[バイカ少年が牛乳の件以来私を無視します…。一応何度も謝ったのですが、口を聞いてくれません…。自業自得故、何にも言えません…。ちょっぴり寂しいです…(*T^T)]
それはそうだろう。私だってそんなことされたら暫くは怒る。
[フィース君が私を慰めに来てくれて、ついでに創造の能力でアイスを作ってくれました!美味しかったです!少し元気が出ました(*´∇`*)]
アイス本当に創れたのかっ!?えっ?創造の能力ってそこまで出来たか?そうだったか?そう…だった…か??
[フィース君に「創造の能力で創ったアイスを持っていってバイカお兄ちゃんと仲直りしておいで」と言われて、アイスをバイカ少年に持って行き、彼に渡しました。バイカ少年は訝しげに私を見ていたので、「フィース君が創ったアイスだよ」と言うと、恐る恐る受けとって食べてくれました。私は再び「ごめんね…」と口にすると、バイカ少年はそっぽを向いてアイスを食べながら「……別に……もう気にしてねえよ…」と言って久々に口を聞いてくれて、私は思わず笑顔が溢れて「そっか…」と言いつつ嬉しかったです。何とか仲直り出来て今日は本当に良かったです(^o^)]
そうか……仲直り出来て良かったな……いや、仲直り出来て良かったな、じゃないっ!
一体何を考えているんだ?私は…?コイツの空気に呑まれかけている…。
いやそれより、一番年下の新人の眷属に気を遣われてどうする…。お前わりと此処の古参株だろ?新人のガキの方が大人なのは何なんだ?異常に高い能力だけではなく、性格まで大人びていると言う訳か?少しあのガキの警戒レベルを上げるか…。
[ガイエル先輩とヒルダ先輩とお茶会しました!楽しかったです(о´∀`о)]
あの“育て”の二人か…。奴らは面倒見が良いからな……コイツの…無能の面倒もちゃんと見ているようだな…。
[すみません…突然ですが、書かせて頂きます。お節介かもしれませんが、最近、私の勘違いではなければ、ご主人様は部屋に居る事が多くなりましたよね?その、具合を悪くなされたのでしょうか?自分に出来る事なら、無能ですが、殆ど失敗に終わる可能性大ですが……でも、自分に出来る事があれば、どうぞ頼って下さい。いつでも駆けつけます。申し訳ありませんっ、奴隷が過ぎた事だと思ったのですが……ここ最近、あまりにも顔を見せる事が減ったような気がして…。ご不快に思われたようなら大変申し訳ありません!もう書きません!それでは!]
「………本当に、変な奴だ……」
何なんだ……アイツは………いつもいつも、失敗ばかりだと言うのに……ヘラヘラと笑っていて、いっぺん殴ってみたら泣くのだろうか?と思い、殴ってみたが、「イテテッ……すみませんっすみませんっ……えへへっ」と言いながらやはり笑っていた。
何故、笑う?何故、泣かない?痛みを感じないのか?
何故、あのような無能に、私は心を動かしている…?
何故、アイツをよく目で追ってしまうんだ…?
何故……。
何故……あの無能は、私の目を、あんなにもしっかりと見つめるのだ……。最初に、出会ったあの日から……アイツは……。
『……綺麗な瞳をしていますね……』
そう言ってジッと此方を真っ直ぐ見つめる子供の女。
『赤い瞳なんて初めて見ました……』
首を傾げなから、私の瞳を物珍しげに眺める子供。
この“私”を見た上で、怖がらず、叫ばず、逃げず、泣くこともなく、不思議そうに自分のことを真っ直ぐに見てくるこの子供に、私は少し、“興味”を持った。
『私は美味しいでしょうか?殺しがいがあるでしょうか?』
礼儀を取るように手を胸に置き、膝を付き、頭を垂れた子供。
一番最初に発した、無能の子供の言葉だ。
自分の命なんて、どうでも良さそうに、何もかも投げ捨て、私を怖がらず、“嘘のない笑顔で屈託なく笑う”この無能な子供は、何故私の前でそんな表情でいつも笑うのか。
何故……そんな………
「♪~♪~♪~♪~♪」
ふと、考え事をしているゼディアスの耳に何か入る。
「………っ!」
なんだ…?何処からか歌声が聞こえてきた。
一体何処から?誰が歌っているんだ?
それに、この歌は………私の知っている曲だ……耳馴染みある歌に、私は少し目を細めた。
何故、この歌が聞こえてくるんだ…?
それに、この声……まさか……いや、そんなわけ……確か、奴らは今日眷属の全員でピクニックに行くとか何とか言ってなかったか?
その中にあの無能も一緒に行っていたような気がするが……
だが、この声、それにこの気配は……
私は耳に入ってきた歌声が気になり、歌声がする方へ向かった。
ドシンッドシンッ…
歌声が聞こえる場所まで歩き、近付く度、歌声がどんどんと鮮明に聞こえ、思わず、聞き惚れていた。
あの者は、あそこまで歌が上手かったのか?
いや、そうだ………そういえば………この時だけではない……あの無能の歌声を……一度だけ……聴いたことがあるような……
そうなると、今回で二回目か?
いや、だが、一度目は何処で聴いたんだか……
ドシンッドシンッ…
歌声が聞こえる玄関の方へ着いた。
玄関に辿り着き、そこに居るであろう存在を瞳に映した。
やはり、“想像通りの者”が歌っていた。
玄関ホールにある、上階にあがるための大きな階段の上で高らかに歌い上げていたのは、長いロングヘアーの深い海のような青い髪、淡い紫色の瞳を持った、そして目元には少し隈が見える、肌は全体的に真っ白な、所々擦りきれたボロさが目立つ、白の淡い色のワンピースを着た、月明かりに照らされ、花冠を被った小さな小さな少女の姿がそこにあった。
少女はゼディアスを見付けると……
「こんばんは、今夜は月が綺麗ですね?
私、真ん丸としたお月様を初めて見ました。
ご主人様は満月をご覧になられたことありますか?」
そういって、少女は微笑んだ。
嗚呼、全く……本当に……
何故……“私”を目の前にして見ながら……
そんなに花ほころぶような“幸せ”そうな笑顔で“此方”を見るんだ……お前は………。




