戦争の終結《29》
「人間側の……敗、北?」
私はガイエル先輩の話に驚きすぎて目を大きく開いて、口をポカーンとしていた。
駄目だ、頭が真っ白だ…。
「僕も聞いた時は驚いたが、我々の……いや、僕達の元同族達は、人族は……完全敗北したそうだ…」
「………」
「魔族側が亜人族の者達と手を組み、エルフ、ドワーフ、獣人族、龍人族、その他諸々の人間ではない種族達全員を魔族側に引き込み、合併を成功させた。それからは、圧倒的な数の暴力で人間側の軍隊がほぼ全滅。人間側の各国の国も殆ど全滅状態。人族の生存はほぼ絶望的とのことだ。そうして、魔王率いる魔族たちが勝利を収めたそうだ…」
「………」
「ロネス博士は人間側が敗北したことを伝えに屋敷にやって来たようだった……ロネス博士がその報告を僕に伝える時、とても愉しそうに話していたよ…」
ガイエル先輩はロネス博士のその様子を思い出したのか、拳をギュッと力強く握り締めていた。
「………そう…だったん、ですか……」
そっか、戦争は、もう終わったんだ。人間の完全敗北で終結したんだ。まあでも…確かに人族側は魔族以外の種族ともあまり上手くいって無さそうだったし、そっか、ある意味では道理だったのかな?それにしても、まさか他の種族の方々と手を組むなんて、また魔族側は凄いことを考えたな。絶対大変だったと思うけど…。何だかんだ生まれも育ちも考え方だって大分違うわけだから、それを全部丸めて合併させるなんて、ドワーフとエルフ同士なんて仲が悪いことで有名なのに、その二つの種族も取り込むとは……並大抵の努力じゃ出来ないことだよ。魔族側に余程優秀な軍師殿でも居たのかな?
あれ?ということは……
「もしかして、先輩方や眷属のみんながもう戦争に出ることは無くなった、ということですか?」
「あぁ、そうなるね…」
「そうですか……それは良かった……」
もう同族のみんなが亡くなることはないんだ……良かった……。朝に戦争に出ていって、夜に帰ってきた頃には何人か減って帰ってくる同じ眷属の仲間達。昨日まで同じ寝床で衣食住を共にしてきた仲間達は、翌日にはもう“いない”ということはよくあることだった。別に特別仲が良い人がいたとか、そういうものは無かったけど…。それでも、眷属の奴隷仲間が一人、また一人と消える度、何処か物悲しい気持ちになった。誰かを助けられる力も無ければ、戦争に参加出来る力もない……本当に何にも出来ない、してやれない無力な自分自身に腹が立って煮えきれないもどかしい日々をこの100年間、何度も味わった。それがやっと、終わったんだ…。
「そうか……終わったんだ……戦争が……」
ホッとした気持ちと、人間側の敗北という、元同族的には少し複雑な気持ちがあるけど……私自身、“あちら”に残してきた家族も大事な人も居ないから、全員逝ってしまったし…。そう言えばザナドさんとサラさんはどうしているだろう?ザナドさんはエルフで長寿だから100年経った今でも生きている可能性はあるよね?サラさんは……どうなんだろう?獣人族って何年生きるんだろう?今の時代でも生きておられるだろうか?お二人はこの戦争に巻き込まれてなければ良いのだけど…。
「……ゼ、ル?リンゼル!」
「ハッ……なっ、なんでしょう?ガイエル先輩っ?」
「……流石にこの報告はビックリしたよね…」
「そうですね…大分、驚きました…。でも良かったです……もうみんなが無理に戦いに行くことは無くなったんですから…」
「そう、だね……うん、本当に……」
「?」
あれ?ガイエル先輩、顔色があまり優れていないな?どうしたんだろう?まだ何かあるのだろうか?
「その、ね……僕達はそもそも戦争の兵器として迎えられた訳だから、この戦争が終わったらどうなるか、正直戦争が終わるまで僕らも知らなかった。だけど、先程ロネス博士の口から伝えられた。僕らは戦争が終わり次第、ロネス博士の研究所に全員引き渡されるらしい…」
「……えっ?」
「これから、僕達はみんな、ロネス博士の実験道具として生きていく……そのような事をロネス博士が言っていたよ…」
「………」
そんな…ことって、あり?
それって……戦争が終わって、用済みになったらポイッ…みたいことでしょ?私は、まあ良いとして。今まで戦争で頑張って命がけで戦ってきた先輩方や後輩のみんなは、報われないじゃないかっ…。
いや、此処に来た時点で、もう…私達の未来は閉ざされたようなものか……最初から、私達に報われるような未来……あるわけ、なかったんだ……。
「その……どんな、実験が行われるのか、ロネス博士から、聞いていますか?」
「……あぁ…」
「……一体、どのような?」
「………人によってバラバラに刻まれ解体して実験材料に使ったり、薬物などを使ってどれだけ強化出来るのか…とか、内容は様々だったけど……後は、あまり口に出来ない程の実験も多かった……どの道、僕らにあまり良い未来は待っていないと思う…」
「………」
「今ほどの自由も、此処でもそんなに自由ってほど自由は無かったけど、でもゼディアス様があまり我々に執着というか、興味が無かったお陰である程度の自由はあった……だけど、ロネス博士のところに行けば、もうそれは無いだろう。あの方は我々に興味津々で執着心の塊のような方だ。我々を良いように面白可笑しくコネ繰り回して遊ぶだろうね。いや、それどころか命すら……戦争でどれだけ活躍した強者でも、呆気なく命を散らしてゆくだろう……心も身体も、何もかも壊された上で……」
「………」
なんというか……本当に……私達に明るい未来なんて、ないんですね……そりゃあ、そっか……奴隷、だもんね……私たち……。
「……あの、どうして私にそれを?他に話す相手は沢山居たのでは?無能の私に、こんな重大なこと…」
「言ったろう?リンゼルにお願いがあるって。この話を踏まえた上でリンゼルに頼みたいことがあるんだ…」
「私に、頼みたい、こと…?」
こんな大きな話を聞いた後に、私に出来ることなんて、あるだろうか?
「リンゼル、僕達はね……ロネス博士から僕達みんなが研究所に引き渡されるって聞いた時、強く思ったんだ……」
「?……何を…ですか?」
「“諦めたくない”って…」
「っ……」
「今までゼディアスの圧倒的な魔力の多さにしろ、腕力のパワーにしろ、圧倒的な戦闘スキルの多さ、闘争に関してはゼディアスに敵う術はほぼ無いに等しい。300年あのお方を見てきたんだ、それぐらい身に染みて分かる。今の今までゼディアスに勝てるわけがないって諦めていた。それよりも眷属になった仲間と一緒に強くなって一日でも長く生き残れるようになった方が良いと思ったんだ。」
「………」
「そう思っていた……今日、ロネス博士の話を聞くまでは。」
「私達はこんなところで終われない…そう強く思ったわ…」
そりゃ、そうだよね…。300年間もここで頑張ってきた二人だ。こんな結末、嫌に決まってるよね…。
「だから、“此処”から出ようと思う。」
「……えっ?」
「“此処”から、この屋敷から、みんなで逃げ出そうと思うんだ。此処にいる吸血鬼のみんなと、全員で!」
「……正気、ですか?」
いやいやいやっ、本気ですかっ!?
「ああ、正気で大真面目だよ」
「パクパク…」
思わず口をパクパクしてしまった私。いや驚くわ!そりゃビックリするわ!だって「あぁ、このままみんなでロネス博士の研究所に行ってみんなで仲良く死ぬんだ~終わりだ~」って思ってた矢先、お二人は今の今までバルト先輩が戦おうって誘っても断ってきたのに、そんな二人が今、動き出そうしている!
「で、でもっ、にっ逃げ出すのは良いのですが、ゼディアス様への従属の烙印が我々の胸には刻まれていますし、この烙印がある限りゼディアス様からは逃げられませんよ!直ぐに見付かって殺されますよ!?」
「その事なら問題ない。実はその烙印を消す方法をヒルダと共に300年かけて解読していてね。実はもう一年前からその烙印を解除する方法を見付けていたんだ。」
「へっ!?」
なんですと!?サラリととんでもないこと口走りませんでした!?
「まあそれでも、成功するかしないかは五分五分の瀬戸際ではあるんだけど……だから一年前に解除する方法が分かっていたとしても、公表出来なかった…。みんなに下手に期待をさせまいと思って…」
「いやいや!先輩方の考えはごく当然ですよ!それに先輩方が私達の事を誰よりも思っていることは分かっていますから!そのご報告は遅れても問題ないと思いますけども!それよりも!凄いですね!この烙印消せる方法があるなんてっ……というか消せるんですねっコレ!?」
「まぁ、何とか、だけどね…」
「元々“此処”に来た当初からずっと、私達を縛る心臓に刻まれているこの奴隷の烙印を消す方法をガイエルと一緒に模索していたの。それが一年前にやっと解除方法が見付け出せたの…随分時間が掛かったわ…」
「僕達も元々はゼディアスから逃げ出す算段は随分前から考えていたんだ。ただ、想定以上にゼディアスの脅威と力が強くてね、とても逃げ出す隙が伺えなかったんだ…」
「なるほど……確かに…。無能な私でもあの方と先輩方の力の差が歴然であることが分かりますからね……あっいやっ、決して先輩方が弱いと言ってる訳ではありませんからね!?」
「フフ、ああ大丈夫だよ、気を使わせてごめんね?リンゼルが言う通り僕達二人では力不足だ。例え此処にいる全部の吸血鬼の仲間達と一緒に束になってゼディアスに挑んでもあっという間に負けるだろうね…」
「悔しいけど、奴は強いわ……憎らしいほどね…」
「………」
ゼディアス様は本当に強いお方だ。先輩方もとてもお強い方々だが、それでもまだまだゼディアス様には届かない。実際にお二人がゼディアス様と戦っているところを見たことはないけど、バルト先輩とゼディアス様の戦いを見て強く思った。例えガイエル先輩とヒルダ先輩が全力を出して戦っても勝てない。根拠はない、ただ有無を言わせない強さがあの人(ゼディアス様)にはある。
「まぁ、今はゼディアスの強さの有無は置いとこう。烙印の件に話を戻そう。とにかく、烙印を消し去ってからが問題だ。勿論烙印を消し去ればゼディアスでも直ぐに気付くだろう。そして僕達を殺しに来るはずだ。もしくはまた烙印を付け直すかはしてくると思う。どちらにしろ命がけだ。だが、それに関しては大丈夫だ。」
「?…どうして、でしょうか?」
「僕達が烙印を消し去ってから、ゼディアスと戦って足止めをする。その間にみんなには逃げてもらう。」
「そんなっ!?それはっ、でも……おっ、お二人は…?」
「………僕らは十分に生きたよ。この命、いつ散っても何の悔いもないさ。」
「…ガイエルに同じくよ。」
「……でも…でもっ!お二人を犠牲になんてっ…」
「……これまで、散っていった同胞達と犠牲に比べれば、僕達の命は些細なことさ。」
「そんなことはっ!」
「リンゼル……よく考えて見て?今この段階で、ゼディアス様に対抗出来る者達が眷属の仲間内にいると思うかい?」
「それ、は……」
「僕達だけだよ、あのお方とまともに殺り合える吸血鬼はね。」
「どうして……そこまでして……私達を助けてくれるのですか?」
「………そうだな……」
ガイエルは何処か遠く見つめながら、空を見上げた。
「多分、“君達の為”じゃないんだ…」
「………」
「これは“僕達の為”だ……“僕達の為の戦い”なんだ…」
「………」
「正直に言うとね……僕達はもう随分と前から腹を立てていたんだ。奴隷として落とされたこの身を、理不尽な暴力を、沢山の同胞達の戦争の犠牲を、幼い時から共に育った腐れ縁の“友”を、それを失った悲しみを、苦しみを、痛みを、涙を、憎しみを、怒りを……僕らはね、忘れられないんだ……いや、僕らは、僕らだけは、“忘れて”はならないんだ。」
「………」
「積もり募っていたものを今、やっとぶつけられるんだ。この戦いは、僕らにとっては弔い合戦なんだ。もう僕達は、見て見ぬふりはしない。」
「………」
そうか……この人達は、“向き合う”ことにしたんだ。幼馴染み(バルト先輩)の話を蹴ってまで、“より多くの命が生き残る選択”をした“あの先輩方”が、だ。ずっと、その信念は変わっていない。弱気者を助け、強き者としての責務を果たす。やっぱりこの二人は、私達の先輩は、カッコいいな…。
「それにね、勝算がないこともないんだ。どうやら、僕らの“幼馴染み”が最期に残していった置き土産があるみたいなんだ」
「幼馴染みって、もしかして…バルト先輩、ですか?」
「あぁ、そうだよ。最近ゼディアスが屋敷の部屋に籠る事が多くなったろう?」
「た、確かに……最近屋敷に居る事が多いですね」
「バルトは死ぬ間際に自分の生命を使ってゼディアスに呪いをかけたんだ」
「えっ…」
「禁忌魔法の一つなんだけどね、自分の生命と魂を全部捧げて使える最上級魔法【道連れ】を使ったみたいでね」
「【道連れ】……それって一体どういった能力なんですか?」
「いや、それはそのままの意味だよ。バルトが死んだらゼディアスも【道連れ】で死ぬような魔法だよ。」
「ええっ!?それって結構っていうか、すんごくとんでもない魔法なのではっ!?えっ?それがあるなら先輩方戦わなくて大丈夫なのではっ!?」
「それは無理だ。ゼディアスが今、屋敷に籠っているのはその呪いを解く為なんだ。」
「あ……」
「腐っても最上位の吸血鬼だ。あの人にはどんな最上級の呪い魔法も効かないよ。実際に今解読しているんだ。まあだけど、流石のゼディアスも解読に半年は掛かっているみたいでね?随分手こずっているのは確かだろう。全く、バルトも最期にとんでもない土産を残して逝ったものだ…」
「…確かに……バルト先輩らしい……執念深いお方でしたからね…」
私を必要以上に苛めてきたあの人だ。この置き土産は何だか納得がいく。
「でも、バルトのお陰で、今が“チャンス”でもある。」
「……確かに、今ゼディアス様が解読に時間を取られている間に、奇襲を仕掛けるのは千載一遇のチャンス、ですね…。」
「流石のゼディアスでも呪いを解読しながら戦うのは大変なはずよ。そこを一気に畳み掛ければ…」
「もしかしたら“倒せる”可能性が見えてくる?…ってことですか?」
「ええ、そういうことよ」
「まあ、それでもギリギリの戦いにはなるだろうけどね…」
ガイエル先輩は苦笑いを溢した。
「そう、でしょうね…」
あぁ、何だか頭がクラクラしてきたや…。急にこんな大きなお話……リンゼルのキャパはもうオーバーキルしてますよ……頭から煙でも出そうです……。
「リンゼル……そこでね、さっき話したリンゼルにお願いがあるって話なんだけど……」
「……はい、なんでしょうか?」
こんな大きな話の上でのお願い事か…。
「リンゼル……この“お願い”は勿論断っても良いものだからね?それを踏まえた上で聞いてくれ……
リンゼル、みんなで屋敷から逃げ出す時に、ゼディアスを倒す為に僕達と一緒に戦ってくれないか?」
「………はい?えっ?今なんですと?」
あれ?聞き間違いかな?今ガイエル先輩の口からとんでもないこと発せられませんでした?
「ああ、何度でも言うよ。リンゼル、僕達と一緒にゼディアスを倒す為に戦ってくれないか?」
聞き間違いじゃなかったぁああああっ!!
言ってた!しっかり言ってた!私をゼディアス様討伐メンバーにお誘いになられました!?私に!?この私(無能)に!?マジで!?嘘でしょ!?正気か!?
「…えっ?へっ?はいっ!!?やっ、えっと、私が、ゼディアス様と、戦う?えっ?私(無能)が?ですか?」
「うん、そうだよ」
えーと、自分で言うのもなんですが、二人の足を引っ張りまくると思いますよ!?何よりも私は無能力者ですよ!?戦力外にも程がありますよ!?
「えーと、その……先輩方にとって、私って、戦えるように見えますか?」
「いいや?」
「ですよね!?ビックリした!二人とも急に目が腐ってしまわれたんじゃないかって心配になったんですよ!?えっ?何故その上で選抜された!?私!?」
「それはね……ゼディアスって君に少し興味を示しているだろう?」
「えっ……そうなんですか?全然そんな気がしませんけど?皆さんと同様いつも通り虫ケラみたいな目で此方をよく見てますよ?興味?私のような無能に興味なんて持つわけないじゃないですか~ハハッ、ガイエル先輩面白いこと言いますね~。ねえ?ヒルダ先輩?」
「いいえ、私も…ガイエルと同じく、ゼディアスはリンゼルちゃんにだけ、少し対応が違うと思うのよ…」
「ええっ!?ヒルダ先輩まで!?」
「ゼディアスは何故か君には少し興味を持っているような気がするんだ…。他の者達のことは見向きもしないぐらいどうでも良さそうにしていのに、リンゼルにだけ、ほんの少し興味を示している。これは眷属の中じゃ、本当に君だけなんだ」
「………」
えっ?ゼディアス様が私に興味を?何故に?私何かやったか?いや待てよ、あれ?それってピーリフの祝福魔法なのでは?
「それってピーリフの……私の妹がかけた祝福魔法のお陰なのでは?」
「確かに、僕達もロネス博士からその話を聞いたとき思ったけど、それはロネス博士が否定された。リンゼルが倒れた後、ロネス博士が溢していてね、“まあゼディアス君程の吸血鬼だったらあの魔法は効かないだろうね”ってロネス博士が言っていた。ゼディアス様も“当然だ”ってどうでも良さそうに答えていたよ」
「そ、そうなんですか……」
な、なるほど、確かにあのお方程の最上位の吸血鬼様には祝福も呪い魔法も効果なさそう…。実際に禁忌の魔法かけられても、解読出来る能力があるわけだし。
「そんなリンゼルだからこそ、やってほしい事があるんだ。別に僕達と一緒にゼディアスと戦って欲しいって訳じゃないんだ。ごめん、さっきのことは言葉の比喩なようなもので、大きく言いすぎた。正確には“協力”して欲しい。」
「わっ私に、でっ出来ることなら、もちろん協力はしますけど…」
「そんなに難しいことじゃない。だけど、命がけなことなのは確かだ。本当はこんなこと頼みたくなかったけど、今このチャンスを逃がしたらもう2度と訪れないと思うんだ。」
「………」
「リンゼルにお願いしたいのはね、僕とヒルダが烙印を解除している間、ゼディアスを“引き付けて”おいて欲しいんだ」
「ゼディアス様を引き付ける?えーと、どうやって、でしょうか?」
「リンゼル、君には唯一、得意としている事があるんだろう?」
「私が…唯一…得意としていること……」
もしかして……
「正直、これは“賭け”だ。だけど、今考えられる“最善”はこの作戦なんだ。リンゼル、君には僕達と一緒に、ゼディアスを足止めして欲しい。恐らくだけど、解除した途端、ゼディアスは直ぐに気付いて僕らを殺しに来るか烙印を張り直しに来る。そしてまず近くにいるリンゼルに詰め寄る筈だ。多分、直ぐには殺されない筈だ、その間に烙印を解除した吸血鬼の仲間達を一人でも多く逃がす。そして僕達が二人の元へ向かい、ゼディアスと対峙する。そしてより時間を稼ぎ仲間達を逃がす、あわよくばゼディアスを倒す。まぁ、最後は願望かな?」
「……つまり、私は……“囮”、ってことですね…」
「本当に……本当にすまない…。こんな責任重大なことを、しかも下手をしたら君の命を犠牲するような外道なやり方だって分かっている。だからリンゼル、勿論断っても良いんだ。ロネス博士が戦争の処理もあるから僕らを研究所に連れていくのは今から一週間後だと言っていた。出来ればその間に答えを出してくれると…」
「分かりました!引き受けます!」
「……えっ?」
「そっその、リッリンゼルちゃん?そんなに早急に答えを出さなくても良いのよ?ガイエルも言ったけど、これは断っても良いものなのよ?」
「私も、お二人のお手伝いをしたいと思っていたんです!そんな話を聞いたら私だって居ても立ってもいられませんよ!協力させて下さい!」
これは、良い機会だ。
私は、やっとみんなの役に立てるんだ!こんなに光栄なことはない。私のような無能にも、出来ることがあったんだな…。
「リンゼルちゃん…」
「リンゼル……本当に、良いんだね?」
「もちろんです!あっでも、ちょっと待って下さい!私のような無能で何にもしていない者が言うのもおこがましいかもしれませんが、もし許されるなら、完全にその話を受ける前に少しだけ“条件”を提示させて頂けませんか?」
「?…勿論、こんなに大きな頼みだ。僕達に出来ることなら何でもするさ」
「ええ、そうね。それでリンゼルちゃん、一体どういった内容なの?」
「ありがとうございます!私の出す条件は…………」
☆
「……ねえ、リンゼルちゃん、貴女の出した“条件”は分かった。“理由”もね。でもね、リンゼルちゃん、本当に“それで良いの?”」
「……はい、私の意思は、変わりません。」
私はヒルダ先輩の問いに真っ直ぐとヒルダ先輩を目を見据えて答えた。
「……そう。本当に…リンゼルちゃんは頑固者ね?」
「エヘヘッ」
「いや褒めてないんだけど……なんで照れるのよ?可愛いけどね?」
「フフ……リンゼル。しつこいようだけど、もう一度だけ確認させてくれ。“良いんだね?”」
「……はい!」
私は真っ直ぐとガイエル先輩の目を見据えて元気よく返事をした。
「うん、そっか……。よし!それじゃあリンゼルとも話をつけたことだし、ゼディアスの討伐と、仲間達を逃がす作戦をもう少し詳細に話し合うとしますか!」
「イエッサー!」
「ええ、こうなったらとことんやりましょう!」
「おー!」
私は拳を上げて元気よく返事をした。
ああ、やっと、やっと………100年も続いた私の願いが、叶う。
嗚呼、良かった。
これで、やっと、“終れる”。




