いつも通り《26》
拝啓、天国のお父さんお母さんピーリフ!お元気ですか?私はとっても元気ですよ!今日は久々にご主人様のお部屋を掃除しています!やっぱりご主人様の前でお掃除のお仕事をするのは緊張するな~いつまで経っても慣れませんね!最近のご主人様は屋敷に居ることが多く、自分のお部屋でお仕事?されている事が多いです。というかご主人様って何されているお方なんだろう?よく出掛けているし、ご主人様も戦争に参加されているのかな?もしかしてニート?うーん、今更だけどご主人様のご職業ってどんなだろう?うーん、分からん…。
えっ?どうしたどうした?ついていけないついていけない?って?いつもの調子に戻ってるじゃないか?と?何を言ってるんですか!私はいつだって明るく楽しく生きていますよ!えっ?妹の件はどうした?って?それはまぁ、知った時はとても悲しかったし、沢山泣きましたよ!だけど、私(無能)に出来ることなんてないですし!確かに気になる事が多くありましたけど、無能に何を出来ましょう?何にも出来ませんよ!えっ?ここで覚醒とか成り上がりとかしないのか?って?ほえ?何を仰っているんですか?今の私に出来ることなんてお茶を入れるか鼻歌交じりに掃除するかみんなの訓練記録と成長記録を残すことしか出来ませんよ!私が今所持しているスキルがどれだけのものか知っていますか?
【自己回復】【味覚】【嗅覚】【吸収】【魔力変換】【念話】【吸血】、
これでどうやって妹を誑かした“何者”かに対抗しろと?戦闘スキルはこの百年かけても一個も習得出来ませんでした!本当に何も才能が無いんでしょうね!
どうやって成長出来ると言うんですか……私(無能)に、どうやったら………どうやったら、私は“普通”になれるの?どうやったら……“力”を習得出来るの?どうやったら……“あの子”に届くの?もう何もかも失った今、あの子の居ないこの世界で、私はどうすれば良いの?復讐?それをして妹は帰って来るの?私は、私は………もう……。
「よし!ご主人様!お部屋のお掃除終わりました!どうですか!」
「………床は水浸し、床に紙が散らばっている、本棚は倒れている、窓ガラスが割れている、というか、入ってきた時より部屋が汚れている気がする…」
「あれ?」
アレ??そんな馬鹿な!あっホントだ!?私が部屋に入る前の方がまだ綺麗な方だった!!一体何が起こったんだ!?私掃除してたよね!?つーか窓ガラスが割れているのナニ!?本当になんで!?いつ割った?割る要素あった??
「………はぁ……もういい、下がれ。」
「へっ……ぁっ…はっはい!すみませんでした!失礼します!」ドタバタッ
早々に立ち去るぜ!こういう時は素直に従って直ぐ様立ち去る事が吉!これが世を上手く行き渡るための知恵よ!100年生きた無能おばちゃんを舐めるんじゃないよ!全くもって胸をはって言うことではないんだけどね!
ご主人様、なんかもの凄く呆れたと言うか、疲れた表情をされていた!なんだか流石に申し訳ないな…。というか、いつもは失敗する度にバルト先輩並みに光の速さで拳が飛んできたのにな~、今日は見逃してくれた。何でだろう?
ご主人様は最近、本当に元気がないというか何というか、何かあったのかな?こちらも少し調子が狂うな。悩み事でもあるのかな?というかご主人様って悩みってあるのかな?いやその考えは失礼かな?
カツカツカツ
そんな風に考え事をしながら屋敷から地下へと繋がる階段を下りていると……
トンッ…と、背中を押された気がした。
いや、確かに背中を押された。
「えっ……?」
私は背中を押された勢いで足を滑らせ、階段をゴロゴロと転げ落ちながら、地面に叩きつけられた。
「うぅ…」
いやいや、マジで洒落にならんぐらい体全体が痛い!!流石に今のは死ぬかと思った!というかよく生きているな!?本当に……うぅ…体の節々が痛い…。
「ハァッ…ハッ…」
ヤバイ、血も止まらん。頭から血がドクドク出てるわ…。呼吸も荒くなってきた、私のナメクジに並みに遅い自己回復さんも間に合いそうにない……。
ハァ~ッ……ハハッ、うん、まぁ、丁度良いか……もうこの生涯に、私は悔いも未練もない……もう十分生きた……100年……そうだ100年も生きたんだ……人間の寿命だったらもうとっくの昔に死んでる………十分に生きた………本当なら、捨てられたこの命は、捨てられたあの日、10歳の時に終わっていたはずだったんだ………よく生きた方だ……もう、いいんだ………もう………
「なんだろう?階段の方から大きな物音がしたような?気のせいかな?」
なん、だろう……声が、する……誰の、声、だろう?あぁ……そうだ……この声は………“フィース君”の、声だ………
「あ、れ?リッ、リンゼルお姉ちゃん!?」
フィース君が直ぐに駆け付けてくれた。ハハッ、やっぱり、フィース君の足は速いな~…。
「リンゼルお姉ちゃん!?一体どうしたの!?何でこんなことに!?」
「あは、は……えっ、と……ごふっ……わぁ、血、出た……ええ、と……階段で、足を、滑らせた、みたいな?」
「何で疑問系なの!?」
「あは、はは…」
「笑ってる場合じゃないよ!?………ねえ、もしかして……誰かにやられた?」
「………」
あらら、勘の鋭い子だなぁ。
「その無言は肯定、って捉えて良いんだね?」
「………アハハ…」
私は思わず苦笑いを溢した。
ピーリフにしろ、どうしてここまで若い子供がこんなにも大人びた考え方が出来るんだろうねえ。全くもって凄いねえ……おばさん感心しちゃうわ~。
「誰がこんなことを!どうしてこんな酷いことが出来るんだ!」
「……しょうが、ないよ…」
「しょうが、ない?どうして?リンゼルお姉ちゃんがこんな目に遭うことがしょうがないの?」
「………戦争にも参加しない…無能、力者を、よく思う同族たちは、いないよ……そういう、ものなんだ…」
「だからって!」
「ゲホッゲホッ…」
「っ!リンゼルお姉ちゃん!?口から血が沢山出てるよっ!?とっとにかくヒルダお姉ちゃんを直ぐ呼んで来るからっ」シュンッ
わぁ……消えたな~……瞬間移動だな~……相変わらず、フィース君は凄いな~……。
前に私がピーリフのことをロネス博士から聞いて、ショックで倒れてから2週間も眠りについて起きたら、フィース君が直ぐに駆け付けてくれて、でも私の顔を見ると凄く怯えた顔をしていた。どうしてだろう?その後、ガイエル先輩とヒルダ先輩が部屋にやってきて、私が目を覚ましている所を見ると、とても驚いた顔でこちらを見た後、ゆっくりと私に近付いて何も言わず二人とも抱き締めてくれていた。私も何も言わず二人に抱き締められていた。
ボソッ
「チッ……しぶとい奴……」コツコツコツ
んん…?なにか声が、聞こえた、ような?あぁ、そうか……私の背中を押した人か……未だに私をよく思わない人達がいるからからなぁ。まぁ確かに、戦争に参加しないどころか、こんな奴(無能)が此処で最強を誇るリーダー的存在のガイエル先輩とヒルダ先輩二人や、天才少年でみんなから絶大な人気を誇るフィース君と仲良くしている状況なんて、確かに面白くないし気に食わないって思う人が居ても可笑しくない。バルト先輩を筆頭に私を苛めていた勢力は居たけど、バルト先輩がお亡くなりなったのをきっかけに少なくなった方だった。あとフィース君とよく一緒に居たから表だって手を出してくる者達はいなかった。
ハァ、久々の嫌がらせが命を全力で刈り取る勢いのやつで笑えてくるよ…。
まぁ、気持ちは分かるよ。こんな無能が、優秀な三人に気に入られているのが気に食わないのは当たり前だ。
それも、どうやら私にかけられている魔法、祝福の魔法と呪いの魔法のお陰で、だ。
ハハッ、そりゃそっか……あれだけ優秀で力を持った三人が、私のような無能を気に入って守ってくれるなんて、そんな都合の良いこと、それこそ魔法の力を借りなきゃ無理な話だ。
いくらなんでも親切でここまで手の掛かるお荷物を面倒見るわけない。可笑しいと思ったんだ、こんな、私にとって都合の良いことが、こんなに立て続けに起こる訳がないって……少し考えれば、分かることなのに………あぁ、本当に……私は……馬鹿だなぁ……。
フィース君がああやって必死になって助けを呼びに行ってくれるのも、祝福の魔法のお陰。
「リンゼルお姉ちゃん!ヒルダお姉ちゃんを連れてきたよ!」
「リンゼルちゃん!?大丈夫!?」
あぁ、フィース君にヒルダ先輩の声も聞こえる…。
「いま回復の魔法をかけるからね!リンゼルちゃん!」
こうやってヒルダ先輩が回復の魔法を施してくれるのも、ピーリフの魔法のお陰。
タタッ
「リンゼル!階段から転げ落ちたって聞いたよ!大丈夫なの?」
「ガイエルお兄ちゃん!」
「今から回復魔法をかけるところよ!」
「そうか……リンゼル!何とか堪えるんだぞ!」
こうやってガイエル先輩が心配して駆け付けてくれて声をかけてくれるのも、ピーリフの魔法のお陰。
「………ふっ…」
「リンゼル、ちゃん?」
「リンゼルお姉ちゃん?」
「リンゼル?」
ハハハッ!笑える……ずっと、ピーリフに助けられていたんだ…。
あぁ、そうか、私は、最初から、ここに来た時から、もうずっと、“独り”だったんだな…。
「ば、か、ば、しい…な……」
馬鹿馬鹿しいな……私の人生……。
「リンゼル?」
ガイエル先輩の声が聞こえる………
あぁ……眠い……眠るか……。
一応補足として、祝福の魔法は、魔力の強い者や、大事な人がいる者に特につよく反応するようピーリフが設定しています。故にガイエルとヒルダ、フィースには祝福の魔法が効いて、今回のようにリンゼルを階段から突き落とした魔力の弱い者には効きません。バルトも魔力が強く、大事な人がいましたが、彼は我が強く、反骨心の塊のような男だったので、一瞬リンゼルがフィーリアに見えた瞬間があったのですが、気合いで直ぐ様振り払いました。逆にその事でリンゼルを不審に思い、警戒心を高めて必要以上にリンゼルに敵意を向けて苛めていた節があります。
ピーリフがこの魔法かけた当時、彼女自身まだまだ幼さない7才の少女であった為、この祝福魔法は上級魔法でありながら、実はわりと穴だらけの未完成の祝福魔法だったりもします。そのため、バルトのような固い意思(反骨心)を持つ者には効きませんでした。まあ、彼の場合は拗らせ過ぎた愛故に、ってところもありますが。




