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無能な吸血鬼少女  作者: 愚かな黒ウサギ
33/48

バイカ少年《27》



ガヤガヤザワザワ



「ごふっ…!?」


  突然、お腹に鋭い痛みが走る。


「あっ、ゴメ~ン!」バタバタッ


  そう言って立ち去る女性。


「アイタタッ…」


  私はお腹を擦りながら起き上がる。


「………ボーッ」


  あぁもう夜か……下位吸血鬼の奴隷仲間のみんなが慌ただしく支度をしている。下位の子達は今日は朝日が上るまでひたすらに訓練の日だったけ?上位の方々は今日は戦争に参加しているって聞いたし、まだ帰ってきてないのかな?


  それにしても、思いっきり踏まれたなぁ~、まぁいつもの嫌がらせと違うみたいだし良いか。どう見ても朝の支度でバタバタして足元見てなくて踏んじゃった感じだろうし。


  私ちっこいからな~……他の吸血鬼の仲間のみんなはもう上位吸血鬼に進化しているし、大人の姿に変身している人達も多い。フィース君も上位に進化するのが後一歩手前まで来ているってガイエル先輩が言っていたな。


  最近、上位吸血鬼の先輩方が本当に忙しそうにしている。下位の子達も訓練内容がドンドンとハードなメニューになっているらしいし。戦争も佳境を迎えているのかな?何だかんだ長いこと戦争しているな、人間と魔族は。もう100年以上、いや私がここに来る前から小競り合いはよくしているようだから、400年ぐらい?人間と魔族は戦争をしているらしい。400年も戦争していたらもうそろそろ飽きて来ないのかな?というかこの戦争に終息があるのかな?私が吸血鬼になって100年の間に一度だけ物凄い熾烈な戦いがあったって聞いたけど、その時ばかりはガイエル先輩もヒルダ先輩も、「もう終わりだ。自分達は死んでしまうんだ」って思ったらしいけど、何とか生き残ったらしい。その時の戦争から帰ったガイエル先輩とヒルダ先輩は本当にボロボロで殆ど瀕死の状態だったけど、時間は掛かったけど何とか回復をして二人は今も生きている。


  私はただ、それを聞いているだけだった。見ているだけだった。待つだけだった。


  私はただ、眺めているだけだった。



「おい!無能!」


「…おや?バカ君?どうしたの?」


「だから俺の名前はバイカだって何度言えばっ……はぁ、もういい。おい、糞無能女、ガイエル先輩とヒルダ先輩がお呼びだ。お二人の部屋へ早く迎え!」


「ガイエル先輩とヒルダ先輩が?何だろう?用事があればお二人が私達の寝床に来ることが多いのにな…」


「内容は知らねえよ。さっさと行けよ」


「あっ、うん!伝言ありがとうバカ君!キミ、よく伝言任せられてるよね?なんかそういう係か何かに付いてるの?」


「んな係に付いてねえよ!たまたま通り掛かったら言伝てを任せられる事が“何故”か多いんだよ!」


「……大丈夫?言い様に扱われてない?パシられてない?もしかして人間だった頃パシりさんだった?」


「誰がパシりだっ!?ぶっ殺すぞ!!テメエはいつもいつも一言多いんだよ!さっさと行きやがれ!」


「はーいっ!今すぐ向かいまーす!だからその振り上げた拳を下げてっ!!」


「チっ…さっさと行け!糞無能女っ!!」


「アイアイサー!」バタバタッ


  よっしゃっ早く行こっ!拳が飛んでくる前にっ!!いくら拳が飛んでくるのが慣れている事とは言え、痛いものは痛い!なるべく受けたくない!リンゼル全力ダッシュ!!



バタバタッ



「………チッ……最近元気ないってフィースの奴が言ってたが、別にいつもと変わらず口減らずの糞無能じゃねえか……フィースは何を心配してんだが……あんな奴気にかける程の奴じゃねえだろ……」


  そういや、あの無能女、最近誰かに階段で突き落とされたって聞いたが……


「………」



  バイカはリンゼルが立ち去った方向を見つめる。




  




  俺はスラム出身の金のない孤児だった。親は死んだ。いや、俺が殺した。俺の親は俺のこの童顔で女のような綺麗な顔をした俺を汚い大人達に売り捌いていた。ようは売春をされていたわけだ。俺は12の時、魔法が使えるようになって、その魔法で糞両親どもをぶっ殺した。後悔はしていない。俺は俺の自由を手にする為にやったんだ。後悔などあるものか。


  だけど世の中はそう甘くはなかった。俺みたいな餓鬼を雇ってくれる所なんて何処にもなかった。やはりこの顔だからか売春の仕事を進められる事が多かったが、俺は全力で断った。俺はやっと開放されたんだ!もう二度とあんな環境に戻ってたまるか!そうやって啖呵を切ったところで、腹が膨れることはねえ。


  そしてあの日、俺は腹が減っていた。糞ほど腹が減っていた。もう何ヵ月もロクな飯にありつけていねえ。痩せこけて腕や足から骨が浮き出ていた俺は餓死寸前だった。腹が減って体が動かなくて、俺は地面に倒れこんで、俺はこのまま死ぬのか?と思ったその時……



『あの~……こっこんにちわ!あっいや、こんばんは?かな?えーと、んと、その……だ、大丈夫、ですか?何だか、グッタリしてますけど……えっと、もしかして死んでおられる?あの~、もしもーし……あれ?やっぱり死んでるのかな!?』


  何とも間抜けな自信なさげな少女の声が聞こえた。


『もしもーし!死んでますか~?』


『………るせ……』


『…はい?』


『うる、せえっ……勝手に、殺す、な!!』


『あっ、生きてた……“目”もまだ“生きて”ますね!』


『ぁあ…?』


  目も、まだ生きている?何を言ってやがる?コイツ?


『うん、じゃあ良いかな?』


  ハア?さっきから何を言ってやがるんだ?このチビガキは?つーかいつの間にこんなガキが目の前に立っていやがった?


『よし、先輩達近くに居るな……これぐらいの距離なら私でも“アレ”を飛ばせるかな?』


  このチビガキはよく分からない言葉をペラペラ喋りながら唐突に目蓋を閉じ、また開いた時には目が赤くなっていた。


『…ぉ…おまえ……いったい……なに、もの……』


『あぁ大丈夫ですよ、そのままで居てください。いま先輩方を“呼びました”から。』


  チビガキがそういった途端、チビガキの背後に音もなく二人組の男女が現れた。



『リンゼルちゃん!探したのよ!もう貴女は毎回毎回村や街に着くなり直ぐ居なくなるんだから!』


『リンゼル?いつも言ってるだろう?僕達から離れちゃ駄目だって、昨日約束したよね?』


『あっ、えっと、そのっ、なんと言うか!つい新しい所に来ると興奮してしまって、元々田舎者故、つい自分の住んでいた村と違う場所だと新鮮で趣味の散歩心が騒いでしまって、気が付けば探検してました!そのあのっ、ごっごめんなさい!』


『ハアーッ、もう毎度毎度お外に出る度これだとハラハラで心臓が持たないわ。リンゼルちゃん、暫く外出禁止ね?』


『そんなっ殺生な!?』


『当然だろう?約束を破る子には罰を受けて貰います。』


『うぅ……自業自得故にぐうの音も出ない…(しくしく)』


『……(何なんだ、コイツら……急に現れてたと思ったらこっちなんてお構い無しに揉め?始めた。マジで何なんだコイツらは…?)』


『あっ、ごめんね?君のことほったらかしにしてたや。先輩方!彼、この通り瀕死の状態なので、よろしくお願いします!』


『ふぅ、説教はまた後でにするか…』


『えっ?まだあるんですか!?これで終わりじゃないんですか!?』


『当たり前でしょう?(ニッコリ)』


『ひえ~っ(ガイエル先輩のニッコリスマイルほど恐ろしいものはない!逃げたい!)』


『まっ、とりあえず“この子”、ね。適合すると良いんだけど…』


『大丈夫ですよ!』


『何処にそんな根拠があるのよ?リンゼルちゃん?』


『えーと、大して根拠はないんですけど…』


『ないんだ…』


『でも、大丈夫ですよ。彼はまだ、“生きたい”って目をしていましたから。まだ諦めていない。心は折れていない。きっと、生き残りますよ。まぁ、結局のところ運もあるんでしょうけど……(私も、“あの時”、本当は心の何処かで……“生きたい”と思ったから、今もこうして、生きているのだろうか…。)』



『……そう、そうだね。それじゃあ、彼を“此方”に迎えますか…』


『私がやりましょうか?』


『ああ、そうだね。君の方が“迎える”のが“上手”だからね?任せるよ』


『了解よ』


『あ、そうだ、“声”が“漏れ”ないように“防音の結界”を張らないと……ブツブツ』←(呪文を唱えている)


『?(コイツら、さっきから何を言ってやがるんだ?意味の分からん事をペラペラと…)』


『坊や、今から少し……いいえ、ものすっごーく激痛が走ると思うけど、頑張ってね♡』


『……は…?』


  なに、言ってんだ?この赤髪の女?おい、なんで笑顔でこっちに近付いてきてんだ?おい待て!なんかよく分からんが待て!?さっきの白髪の優男もなんかブツブツと怪しいこと言ってた気がするし!嫌な予感がする!おいっ、そこのチビガキ!なんで俺を見ながら遠い目をして合掌してんだ!?ふざけんな!なんか分からんが腹立つな!


  って、そんなこと考えてる間に赤髪のツリ目女が目の前まで!?待て待てっ、一体何をする気だ!?



『カプリッ』


『は、あ…?』


  首、筋を、かま、れた…?

  なんだ?“何”かが、“流れこんでくる”?



『グゥッ……ガアァアアアアアア″ッッ!?!?』


  熱い熱い熱い熱いアツいアツいあついあついあついっ!!!体が燃えるように熱い!


  痛いっ痛い痛い痛い痛いっっ!!!


  寒い、熱い、痛い、寒い、熱い、痛い、暗い、暗い……なにも、みえない、なにも、きこえない……



  俺、死ぬ…のか?



  “怖い”。


  怖い、よ…


  誰か……誰か……





  ギュウッ



  だれ、だ?だれかが、俺の手を、握っている…?小さな、手だ……。


  冷たい手。温かみを感じない、温度のない手。


  でも、何故だろう?不思議と、落ち着くような……



『がんばれ少年。キミは、本当はまだ、“こんなところ”で死にたくないんでしょう?だからキミは最初、“うる、せえっ……勝手に、殺す、な!!”って私に吠えたんでしょう?あの啖呵はどうしたの?少年?あれは嘘?強がり?』



  あぁ……チクショウ……うるせえ…な……コイツは、目が合って、口を開いた瞬間から………



『ぐっ……うる、せえ……糞チビ、お喋りガキ女……テメエは、さっきから、ペラペラペラペラと、腹の立つことこの上ねえんだよっ!!』


『!……ふふ、うん、キミはやっぱり大丈夫だったね?』


  リンゼルは少年を見ながら何処か満足そうに笑った。


『あら、血が適合したみたい』


  ヒルダは少し驚いたように少年を見る。


『ハァ、まさか街に買い物に出たらこんな思わぬ拾い物をするとはね。全く、リンゼルと一緒に居ると色々なことが起こって楽しいね』


『本当にそうね。いつか大きなドラゴンでも連れて帰って来るんじゃないかって思ってしまうわ』


『いやいや……流石にそれは…』


『確かに、あり得そうだね』


『ぇえっ!?先輩方にとって私は珍獣か何かですか!?』


『えっ……違うの?』


『ちょっと先輩方っ!?』


『フフ……』


  なん、だよ……こっちのことほったらかしにして、またアイツらの空気になっちまった……本当に、なんなんだよ、コイツらは。


『……ウッ…』


  やべ、体が、重ぇ……意識、が……。



『あら、寝ちゃった?』


『というよりは気絶した、かな?吸血鬼になったばかりだからね、体がまだ付いていけてないのだろう。仕方ない、地下まで背負って運ぼう。』


『ええ、そうね。“食事”の用意もしておきましょう。“なった”ばかりだと、“渇き”が酷いもの…』


『そうだね。リンゼル、運べる?』


『アイアイサー!この子、ものスッゴく痩せているから私でも運べそうです!ヨイショーッ!!』


  リンゼルは痩せこけた少年をお姫様抱っこした。


『あら~この少年よく見たら可愛らしいお顔してますね~!孫に欲しいくらいです!』


『孫って……いや、見た目変わらないから忘れてたけど、リンゼルちゃんってもう100歳ぐらいだものね。そのぐらいの子なら孫に見えても可笑しくないか…』


『アハハ、気持ちは分かるよ。僕も年齢が200越えた辺りから眷属になった子供達がもう全員赤ちゃんのように見える時がある。』


『あーそれは私も分かるかも。もうみんな赤ちゃんか孫に見える。別に私自身は独身だし娘も息子もいないけど…。もうなんか、300年も生きていると、息子とか娘より孫が欲しくなっちゃうのよねえ、不思議。』


『あーっ分かります!私も100歳になった時に無性に孫の顔を見たくなりました!というか新しく入ってきた新人の子達を見ると孫みたいに可愛い時あります!苛めてくる子達もいますけど!なんか、不思議と許せます!』


『苛めてくる者達は許さなくても良いからね?というか誰?教えて?』


『孫達は売れません!』


『本当の孫ではないから!血が繋がってる訳でないから!いや、ある意味では繋がっちゃいるんだけど…そうではなくて、えーと、あぁもうややこしい!』


『……リンゼル、辛くなったらちゃんと伝えるんだよ?度が過ぎるようなら僕たちが介入するからね?』


『…はい、分かりました。ありがとうございます、ガイエル先輩。ヒルダ先輩も心配して下さりありがとうございます!私は大丈夫です!』


『……リンゼルちゃんがそう言うなら良いけど。ちゃんと助けを呼ぶのよ?』


『はい!』


『さあ、随分と長いこと居座ってしまった。そろそろ屋敷に戻ろうか』


『ええそうね、今日は色々あって疲れたわ。さっさと屋敷に帰って休みたい』


『はい!了解です!』



コツコツコツコツ



  そう言って、足音をコツコツと立てながら、少年を抱えた三人の影は闇に消えた。




  そしてこれが、俺とガイエル先輩とヒルダ先輩、そして、あの“糞無能女”との出会いだった。






  随分昔の事を思い出しちまったな。

  はぁ、今思い出してもあの時の糞無能のセリフ、腹立つぜ!突然現れて訳分からんことペラペラ喋って、俺を吸血鬼にしやがった。



「………チッ……糞無能がどうなろうと知ったこっちゃねえが……」


  俺にあんな台詞を吐いて、“この世界”に引き入れたのはあの糞無能女だ。クソッたれた奴隷になっちまったが、どちらにしろ拾われてなきゃ死んでいた命だった。結果は糞だが、同じく眷属の奴隷仲間達とも仲良くやれている、頼れて尊敬出来る先輩方にも出会えた。家族も仲間も居なかったあの時に比べれば、まだマシな環境なのは確かだ。



「あぁ、全くよ……クッソ腹立つし、クッソ嫌いだし、クッソぶん殴りてえけどよ……」



  あの“糞無能女”が、あの時、俺を見付けたから、俺は今生きているんだよな。糞ムカつくが、俺はアイツに救われているんだ。認めたくないけどな!マジで認めたくない!!


  だけど、あの時、確かに俺は引っ張りあげられたんだ……



  冷たくて温度のない手だった。だけど、温度のない無力で非力なその手から、不思議と力強さを感じた。



『がんばれ少年。キミは、本当はまだ、“こんなところ”で死にたくないんでしょう?だからキミは最初、“うる、せえっ……勝手に、殺す、な!!”って私に吠えたんでしょう?あの啖呵はどうしたの?少年?あれは嘘?強がり?』



  うるせえ、黙りやがれ。

  クッソ、こんな言葉で、“引き上げられちまう”なんてよ……あぁ、チクショウ……。



  俺の尊敬する先輩方や、敵わねえ弟分(フィース)に心配かけてんじゃねえよ糞無能!


  テメエのことは大嫌いだし、この生涯一生お前を好くことも仲良くなることもねえ!!



  だけどなっ、“恩”は少しはあるんだよっ……あるんだよ……馬鹿野郎が……。


  そんなお前が、毎日毎日、なに死にたそうな顔してんだよ……


  俺を“この世界”に連れてきたんだ……

  責任とってしょうもねえ死に方晒すんじゃねえぞ……糞無能女……。







ちなみにリンゼルはバイカ少年との出会いをあまり覚えていません。言われて、そう言えばそんなこともあったような~?みたいな感じのうろ覚えです。それがバイカ少年を余計に腹を立たせて嫌われている要因でもあるんですが、リンゼルは特に気にしていません。その時その状況をわりとエンジョイして生きている子なので。

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