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無能な吸血鬼少女  作者: 愚かな黒ウサギ
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とある姉妹の過去4



  あれから、ザナドさんとサラさんは一週間程ニコイ村に滞在して、村長さんとお話したり、(リンゼル)と沢山遊んでくれた。


  ザナドさんは村長さんから服を貸してもらっていた。そういえばザナドさんがパン一だったこと忘れていた。もう完全にパン一が馴染んでいたから、ほぼ裸だったとしても何にも思わなかった。


  そうそう、そんなちょっと残念なザナドさんからはこの一週間、本当に色々な話を聞かせてくれた。


  魔族の首都には、美味しいものが沢山売っているって聞いた。えーと、なんだっけ?


  “たこやき”とか“たいやき”とか、“ぱん、けーき“?とか、とにかく色んな食べ物があるんだって!


  初めて聞く名前ばかりでワクワクしたよ!どんな味なんだろうな~?食べてみたい!


  どうやらその食べ物たちはザナドさんが発案して作ったらしいよ!すごい!


  でも、ザナドさんが作ったって言っていたとき、ちょっと目が泳いでいたけど……どうしたんだろう?


  なんかボソボソと『うん、まぁホンマは俺が作った訳では無いんやけど……“前世の記憶”の偉大な方々が作ったもんやねんけど、いやだって“日本”の料理食べたくなったやもん!それに商売で生きていく為でもあったし!』とか、急に声のボリュームが上がって大きい声で叫んで、『急に大きな声出すんじゃありません!ご近所さんに迷惑でしょう!』って言われてサラさんに頭叩かれてそのまま気絶してたけど…。


  何だったんだろう?

  前半はボソボソ言ってたから聞き取れなかったけど、“にほん”?とか商売で生きていく為ってとこまでは聞こえてたんだけど……。


  “にほん”って何だろう?知らない言葉だ。商人さんだけが使える暗号とか何かなのかな?


  うーん、考えてもよく分かんないや!


  とにかくお二人がとっても良い人ってことは確かだし、わたしが“無能”だって知っても態度は一切変わらなかったし、お二人ともとても優しい人たちだった。正確には“人”ではないんだけど、亜人?って周りから呼ばれてるんだよね?でも差別的に呼ばれてる言葉だって言われてたし、う~ん…言葉って難しい!



  あっ、そうだ!ピーリフにもザナドさんとサラさんを紹介したかったんだけど、やんわりとお断りされた。なんで?良い人たちになのにな~。


  この前一瞬だけど、村長さんのお家で村長さんとザナドさんとサラさんとわたしで、“とらんぷ”で“ばばぬき”というゲームを4人で遊んでいた時に、ピーリフが村長さんの所へ魔道書を借りにやって来て、バッタリ出くわしたんだけど、『村長さんこんにちわ!今日も魔道書お借りしますね!また一週間後に返しにきます!あとリンゼルおねえちゃん、夜遅くならないように早くかえってきてね!ぜったいだよ!それじゃ、またね!村長さん失礼しました~!』バタンッ


  という感じで早口でそう言ってさっさと出ていっちゃったんだよね~。


  まぁ、その時の状況が悪かったのもあるのかもしれない。


  その時は“ばばぬき”で負けた人は罰ゲームを与えようってサラさんの提案でやることになって、男性チームは服を一枚一枚脱いでいくってもので、女性チームは自分の持ってるお菓子を一抜けした人にあげるっていうルールで遊んでたから、ザナドさん“ばばぬき”で死ぬほど負けて、またパン一になっていたもんな。後ついでに村長さんも…。


  いい歳した成人男性二人がトランプを片手にパン一で真剣に向き合ってる姿は確かに直ぐに立ち去りたくなるよね…。


  最初は一、二戦したらゲームを終わろうねって言っていたんだけど、負け続けるザナドさんがムキになって『もう一戦や!もう一戦頼む!』といい、『面白いのう!都会のゲームは!もっと遊びたいのう!』って村長さんまでも楽しくなってきたのか歯止め効かなくなって何度もババ抜きをやった結果、二人ともパン一になったのだった。


  サラさんは肩を震わせていたし、わたしに至ってはもう爆笑しながらババ抜きをやっていた。


  うん、ピーリフも逃げるよね。そりゃあ。


  パン一成人男性二人に、肩を震わせているメイドに、爆笑してる姉だもんね。軽くホラーだもんね。怖いよね。


  でもその時、去って行ったピーリフをザナドさんがジッと見つめていたから、『どうしたの?』ってわたしが聞いたら『あぁ、いや、気のせいか?あの嬢ちゃんから妙な“力”を感じた気がして……あれはなんや……“何”かがあの嬢ちゃんに“憑いてる”ような…』と言い、わたしはそれを聞いて首を傾げた。


  サラさんは『幼女をジッと見つめるなんてロリコンですか?貴方は?やはり役人に付き出しましょうか?』といい放ち、『ちょい待ちぃ!違う違う!ちょっと気になったというか、妙な“気”を感じたというか…』『幼女に妙な気を起こした!?やはり役人に付き出しましょう!』『違うわ!?待って待って!?聞き間違いや!誤解やって!?』そんな二人のやり取り見ながら、わたしはさっきザナドさんが言っていた言葉を思い出していた。




  『あぁ、いや、気のせいか?あの嬢ちゃんから妙な“力”を感じた気がして……あれはなんや……“何”かがあの嬢ちゃんに“憑いてる”ような…』




  “何”かがピーリフに憑いている?

  ザナドさんそういってたよね? 

  どういうことだろう?


  わたしは、ピーリフが立ち去った方向をジッと見つめた。


  最近ザナドさん達と遊んでて、帰る時間が夜遅くになることが多いし、父さんと母さんはわたしに興味がないから帰りが遅くても何も言うことはないけど、ピーリフはいつも心配そうにしてる。


  ピーリフにも早めに帰って来てねって言われてるし、今日のところはこのトランプのゲーム終わったら早々に帰ろうかな。



ボソボソッ…

『なぁ、ホンマにサラにもあの嬢ちゃんから何か感じへんかったか?あの子がおった時間一瞬やったから【鑑定】も半分ぐらいしか出来ひんかったし…』

『……確かに、一瞬ですが、何か嫌な気配を感じました…』

『やっぱりか!って気付いてたなら何でロリコンやって疑ってん!?』

『ただの意地悪です。』

『純粋に質の悪いやつやん!?』

『はい。(ニッコリ)』

『はいってなに!?開き直り!?』


『ザナドさ~んサラさ~ん?どうしたの~?二人でコソコソと話し込んで~?』


『あっいや、えーと、そや!あの子!噂のリンゼルちゃんの妹さん?』


『うん!そうだよ!可愛いでしょう!』


『おっ、おぉ……た、確かに可愛い子やったわ…。リンゼルちゃんはホンマに妹さんのこと大好きなんやね。(テンション急に上がったな…)』


『うんっ大好き!』


『そっか…。(チラッと見た感じあの子の魔力量は桁違いに多かった。リンゼルちゃんから聞いた感じ、頭も賢そうや…。確執とか、嫉妬とか、ないんやな…リンゼルちゃんには。)』


『どうしたの~?ザナドさん?』


『いや……俺の心が汚れてしまってるな~って思っただけや…』


『?』



  俺は、そんな風に思われへんかった。



  俺は前世の記憶を持っている。日本生まれの関西育ちのその辺に何処にでもおる平凡な男やった。


  俺と同じく日本からの転生者として異世界に転生したリックス・フォースターこと、前世の名前、驫木(とどろぎ) 蓮夜(れんや)は、日本育ち、生前は男子高校生だったしく、しかも生徒会長をやってたらしい、すごいな~。


  リックス君の死亡理由は車の衝突事故に巻き込まれてらしい。それで魔界に“グール”として転生して魔族になった、と。


  最初にそれ聞いた時はまあ可哀想やな~って思ったけど、前世は彼女おったって聞いて…殺殺殺殺殺…。


  うんっ、メッチャ殺意が沸いたカナ☆



  しかもそいつは魔力の多さ、身体能力もずば抜けていた。火、水、雷、土、四つの魔力属性を持っており、剣術もピカイチ、見た目もまあ爽やかイケメン君やった。しかも性格も優しく男気があった奴やったやから、もう敵わん。しかもやっぱりこの異世界でも彼女がおった!しかも何人も!!この魔界では一夫多妻でもオッケーの国らしくて奥さん旦那さんはいくらでも作れるらしいっ!!


  コンチクショウがッ!!俺でさえまだこの世界では彼女出来たことないのにっ!!顔かっ!?やっぱり顔なんか!?いや仕事にかまけてた俺も悪いかもしれへんけどっ!!チクショウッ(血涙)


  まぁそんなイケ好かない奴やったけど、同じ転生者ってこともあって、わりと直ぐに仲良くなって友達になった。


  やけど最初に魔界で出会った時、嫉妬の嵐やったわ、ホンマ。俺やって転生したらむっちゃイケメンでチート能力授けられて女の子とキャッキャウフフしたかったわーーっ!!産まれた時から命狙われてたわーーっ!!


  チートやん!ハーレムやん!神様は不公平やーーっ!!って叫んだわ。本人の前で。


  片や俺は前世の名前、田中 正治(たなか  しょうじ)は、まあホンマ、平で凡凡なそこら辺の営業サラリーマンやった。売り上げそこそこ、給料もそこそこ。彼女も学生の頃以来さっぱりおらんかった。そんな人間が転生したらハーフエルフで、産まれた時から狂人なジジイによって殺されそうになって、暗殺者から逃げて逃げて、どこ行っても厄介者で、戦闘スキルもからっきし。鑑定スキルと前世の知識を生かして何とか商人として生きてきたけど、築き上げた商会も同じ転生者で友達やと思ってた見た目爽やかイケメン、中身は実はドッロドロ真っ黒やったリックス・フォースターに乗っ取られて、今や無職。あまりのショックで放浪の旅に出ている始末の俺。


ホンマ……カッコ悪いわ……。



『大丈夫だよ』


『……えっ?』


  ザナドが過去の出来事を思い出して落ち込んでいると、リンゼルが急に『大丈夫だよ』と声をかけた。


『ザナドさんの心は“優しい”んだよ。“わたし”なんかに良くしてくれる人は、みんな“優しい人”だよ。ザナドさんは差別なんてしない、“傷み”を知ってる人だよ。無能力者でも、人より物覚えが悪いわたしに呆れる事なく何度もトランプの遊び方を根気強く分かるまで教えてくれた。わたしはその時思ったよ?ああこの人はとってもお人好しで、とっても“心が綺麗な人”なんだって。だからザナドさんは何処も汚れてないよ』


  そういって穏やかに微笑むリンゼル。

  リンゼルはよく笑う子供だが、何故かいつもその笑顔がニヘ~と歪な笑みになってしまう。ピーリフの前でしか自然の笑顔が出ないリンゼルだが、珍しく今は自然の笑みが溢れている。


『っ……』


  ザナドはリンゼル言葉にも、そしてその笑顔にも驚いて目がカッと開いていた。


『……俺、そんなたいそうな人間やないで?』


  リンゼルはザナドの事を改めてジッと上から下まで見て、答えた。


『…うーん、確かに!』


『っておい!?手のひら返し早いな!?』


『よーく見たら、パン一の変態さんだったなって』


『そう言えばそうやった~っ!!つーか俺、君の前やとほぼパン一の姿しか晒しとらんな!?』


『やはりロリコンの変態だったんですね、ザナド様は。役人に連絡しました。』


『ちょっと待って!?えっ?まって、いま役人に連絡しましたって言った!?』


『まぁそうなると、ワシもパン一じゃし、変態にならんかの?』


『村長さんは大丈夫だよ~』


『村長様は別ですよ、あの変態とは違います。』


『格差ひどない!?いや俺と村長さんやったら村長さんの方が立派な方やけどもっ』


『天と地の差がありますね、比べるのもおがましいですよ、ザナド様』


『ねえホンマに泣くよ!?号泣するで!?』


『どうぞ。』


『うわーんっ』


『あれ?またどうして泣いてるの?ザナドさん?』


『あれ?やっぱりリンゼルちゃん無自覚ナイフで刺してた?それが一番のホラーやで!?』


『やはり天然物のナイフは良いですね、切れ味が違う。私も見習わなくては。』


『辞めなさい!わざと刺す言葉のナイフも十分痛いのに、天然物となるともう無差別殺人やから!』


『『??』』


  リンゼルとサラは首を傾げる。


『なんでやねん!!というかサラっお前が首傾げるのなに!?お前に至っては確信犯やろ!?分かってるやろ!?』


『はい(ニッコリ)』


『毎度の事ながらその返事と笑顔ホンマになんなん!?怖すぎるねんけど!?』



  なんか、話が有耶無耶になった気がするけど、まぁ、ええか。


  にしても、リンゼルちゃん、あんな顔出来るんやなぁ。なんで普段はあの笑顔が出ないんやろ?ホンマ、不思議な子やなぁ~。



  それにしても………



『ザナドさんの心は“優しい”んだよ。“わたし”なんかに良くしてくれる人は、みんな“優しい人”だよ。ザナドさんは差別なんてしない、“傷み”を知ってる人だよ。無能力者でも、人より物覚えが悪いわたしに呆れる事なく何度もトランプの遊び方を根気強く分かるまで教えてくれた。わたしはその時思ったよ?ああこの人はとってもお人好しで、とっても“心が綺麗な人”なんだって。だからザナドさんは何処も汚れてないよ』



  俺はホンマにそんなたいそうな人間、いやエルフやないんやけどな…。


  メチャクチャに醜く妬むし嫉む恨むし落ち込むし泣くし、、、


  あれ?俺メンドクサイ奴ちゃう?大丈夫?よくサラに見放されてへんな?心汚れまくりやない?


  いや、リンゼルちゃんは別に俺の心を綺麗って言ったんやない、“優しい人”って言ったんやわ…。


  優しい人、か……。

  別に俺はそんなに優しくした覚えはないんやけどなぁ、普通の事をしてるつもりやねんけど。リンゼルちゃんは、こうやって俺達と遊んでるだけで“優しい”って思うんやな…。


  リンゼルちゃんの服の袖からたまにチラホラと見える(あざ)、村の大人達のリンゼルちゃんを見る冷たい目、村の子供達の無垢で残酷な罵倒と暴力、それに『夜遅いからもう帰った方がええんちゃう?』って尋ねても、『大丈夫だよ、父さんと母さんはわたしに興味がないから。帰って来なくても何にも気にしない』ってリンゼルちゃんは遠い目で語った。


  あの歳でどれだけ彼女は“優しさ”に触れてこうへんかったやろう?


  愛情をもらってこなかったんやろう?


  どんな風に育てたら、6才の子供にあんな悲しそうな、大人帯びた表情させるんや…。


  なんでリンゼルちゃんが普段あんな笑顔が下手くそなんか分かったわ。そんな環境で楽しそうに、幸せそう笑えるかいなっ!


  アホか俺はっ……なんで直ぐ気付かへんかったんや…。



  リンゼル・ハルジオン、か。


  ホンマに短い間やったけど、彼女のことは少し分かった。とても優しくて愉快で明るくて………何もかも、諦めた子供や。


『………』



  よし、決めた!






  それからまた一週間後、本当は先週辺りに旅立つ予定だったザナドとサラは、思った以上にリンゼルと村長さんと仲良くなった為、もう少し滞在することになり、結局二週間ほどニコイ村に滞在した。


  そして今日、ザナドとサラが旅立つ日。




『うおぉおおおおんっっ』


  リンゼルは大号泣していた。


『あーよしよし泣かんといてリンゼルちゃん……泣き方恐竜みたいやな…』


『きょう、りゅう?』


『あぁこっちのことやから気にせんといて』


『?…ズビッ』


『はいリンゼル様、鼻をチーンッしてください』


  リンゼルはサラから差し出された白いハンカチに全力で鼻を噛んだ。


『チーンッ』


  その様子を和やかに見ていたザナドだが、


『ってそれ俺のハンカチッ!?いつの間にっ!?』


  ザナドは自分の服に付いているポケットをまさぐった。


『ないっ!?ってことはやっぱりっ!?』


『あっ、ありがどう…サラしゃん…ズズッ』


『どういたしまして。はいどうぞ、ザナド様、お返しします。』


  サラは、リンゼルの鼻水がベッタリと付いた白いハンカチをザナドに返した。


『俺のハンカチがぁああああっっ』


『女の子の涙を拭ったハンカチなんです、役得でしょう。』


『いやどちらかと言うと鼻水拭いましたけど!?』


『ザナドしゃん…サラしゃん……えっぐえっぐ』


『リンゼルちゃん……もうホンマ、号泣やないか。ちょっと前までは俺が泣かされてばっかやったのになぁ…』


『ええ確かに本当に煩かったですね、ご主人様は。』


『誰のせいや!誰の!……んんっ、まぁそれは置いといて。リンゼルちゃん、この二週間程ホンマにありがとうな、長いこと俺達と付き合ってくれて』


『ズビッ……ううん!こちらこそだよ!魔界のこととか、美味しい食べ物のこととか、お菓子とかいっぱい貰って、色んな遊びを教えてくれて、いっぱいいっぱいこの二週間遊んでくれて、本当に、ほんっとーにとっても楽しかった!』


『そっか…』


『それは良かったです。』


  二人はリンゼルの言葉に優しく微笑みながら答えた。


  そしてザナドとサラはお互いに目を合わせて頷き、リンゼルの方へ向き直った。


『ズズッ…?』


  リンゼルが鼻を啜りながら首を傾げると。


『リンゼルちゃん、話があるんや。』


『ズズッ…おはなし?』


『ああ、大事な話や。サラとも昨日話し合ったんやけどな……リンゼルちゃん、俺達と一緒に旅にこうへんか?』


『………ほえっ??』


  リンゼルはザナドの言葉を聞き、間抜けな声を上げて固まった。


『せやから、一緒に俺達と旅に出よう、リンゼルちゃん。』


『………パクパク』


  リンゼルはビックリして口をパクパクとさせる。


『あのな、今のリンゼルちゃんの状況な、まあ聞かなくとも目で見れば大体分かるねん。劣悪な環境であるのは確かやし、親御さんとも上手くいってへんのやろ?最近妹さんともあまり話出来てへんって言うし、避けられる事が多くなったんやろ?』


『………』


  確かに、最近ピーリフはわたしが話しかけても無視する事が増えた。最近はザナドさんサラさんと遊ぶことが増えたから、寂しい思いをさせたかな?って思って、ピーリフに『最近一緒に遊べなくてごめんね』って謝ったんだけど、ピーリフは無言で何も答えてくれなかった。なんか、ここ最近のピーリフの様子が可笑しい?ような気がする。なんでだろう?こんなことで怒るような子でもないと思うんだけど…。最近、ピーリフは目を虚ろにして何もないところに向かってブツブツと何か喋っている?ような光景を見ることが増えた。どうしたんだろう?なにかあったのかな?


『リンゼルちゃん、キミも俺達と同じく自分の居場所ないんやろ?一緒に自分達の拠り所を見付ける旅に出いへん?自分にとっての居場所を見付けるまででええねんで?』


『………』


『正直この旅路にリンゼルちゃんも加わってくれたらホンマに楽しい旅になると思うねん?この二週間三人で楽しく遊んだし、歳はバラバラで結構離れてるけど、わりと気が合ったやん?どう?悪い話やないと思うけど…?』


『……えっと……きっ、急に、言われても…』


『あ~それはホンマごめん!俺も旅立つ直前に決めたっつーか、昨日の夜突発的に思い立ってサラにも相談して、サラは『リンゼルさんと一緒に旅を出きるのはとても楽しそうにです。二人でザナド様を苛め倒せますしね(ニッコリ)』って乗り気やし、最後の方は聞かんかったとして……うん。』


『………』


『……一緒に旅に出れば、もうキミを殴ってくる奴もおらん、そんなもんおったらサラがぶっ飛ばしてくれるし…』


『八つ裂きにします(ニッコリ)』


『それは辞めなさいサラさん?』


『はぁ、仕方ありませんね、では目を抉るだけにしますね』


『なんの譲歩もしてへん!それはそれで怖いし危ないわ!』


『おやこれも駄目ですか…』


『ハァーッ、お前はなんでそんな物騒な事しか考えられへんねん…。んんっ、また話が逸れたわ。リンゼルちゃん、さっきの続きやけど、キミを殴る奴もおらん、罵倒する奴らからも庇えるし、守れる。この村でキミに味方してくれる人、後は村長さんぐらいやろ?ずーっと今の状況が続けば、嬢ちゃんの心も身体も持たんで?』


『………』


『たった二週間ぐらいしかリンゼルちゃんを知らんけど、でもムッチャええ子やってことはこの二週間でも分かった。こんなええ子をこんな村で死なせたくない。まあ…こんな短い時間やったけど、情が移ってもうたってことや。だからこそ、痣だらけになって、下手くそな笑顔取り繕ったまま死んで逝く姿なんて、見たくない。“友達”として、それは俺自身嫌やと感じたんや…』


  ザナドは真っ直ぐとリンゼルを目を見据えて告げる。


『っ……』


  ザナドの真剣な表情にリンゼルの心も少し揺らぐ…。


『とも、だち………わたしたち、“友達”なの?』


『ええ、勿論ですとも。』

『ああ、当たり前や』


  サラとザナドは笑顔で直ぐに答えた。


『そっか……これが“ともだち”なんだ……はじめてだ……はじめて友達が出来た……そっか……これが……』


  リンゼルは噛み締めるようにその言葉を心に刻んでゆく。そして……リンゼルは顔を上げてザナドとサラを真っ直ぐと見据えた。


『ザナドさん、サラさん!




ごめんなさい!一緒に行けません!』



『………えっ?』


『………』


  ザナドは予想外の言葉に驚いた顔をして、サラは何となく察していたのか落ち着いてそのままリンゼルの言葉を待った。


『せっかく誘ってくれたのにっ、本当にごめんなさい!』


『いや……えっと、それは、ええねんけど………その、なんでか理由を聞いてもええか?』


『うん……あのね、確かにわたしは無能で役に立たなくて、村の人たちからも苛められてるし、家族にもほぼ見放されている……唯一仲の良かった妹にまで、見放されかけている…。でもね、わたしは…役立たずの弱い無能である前に、“お姉ちゃん”だから。ここ最近、妹の様子が変?と言うか、何か嫌な感じがするの……理由はわからない。勘?みたいもの。だけど、わからないまま、そんな状態でこの村から離れるわけにはいかない。』


『………』


  ザナドは何とも言えない表情でリンゼルの話を聞く。


『わたしが無能な分、父さんと母さんの期待とかプレッシャーを一手に引き受けているのはピーリフなんだ。わたしが無能だったばかりに、全部あの子が背負うことになっちゃったんだ…。わたしのせいなんだ……それなのに、ピーリフは笑顔でそんなことないって、おねえちゃんのせいじゃないって、大丈夫だよって、わたしに言ってくれたんだ……妹が、まだ3才の妹が、そんなことを言ってくれたんだ………そんな子を残して、“お姉ちゃん”だけ逃げるわけにはいかないよ…』


『……見放されかけているんやろ?嫌われてもうたんちゃう?』


『……うん、純粋にこんなお姉ちゃんに嫌気をさして嫌いになっちゃったのかもしれない……けど、救われたんだ、初めてわたしを見放せないで味方でいてくれた人が、妹だったんだ…。最初に救ってくれた理由は同情もあったのかもしれない……それでも、それでも良いんだ。わたしは見放されても、嫌われても可笑しくない人間だけど、でも妹は違う。わたしは妹を嫌う理由はないよ。』


『………それは、依存ちゃう?リンゼルちゃんに優しくして救ってくれた子が身近に妹ちゃんしかおらんかった。でも今の妹ちゃんはリンゼルちゃんを避けてる。今は無視で済んでるかもしれへんけど、いつかリンゼルちゃんを傷付ける可能性がだってあるんやで?それでもええの?』


『……いいよ。これが依存だとしても、わたしはそれで良い。それでも、わたしはピーリフの側に居る。ピーリフがわたしの顔も見たくない!って言って何処かに旅立つその時まで、今は側に居る。嫌われても無視されても良いよ。慣れてる。』


『なんで……そこまで……』


  ザナドの言葉にリンゼルは笑った。また下手くそな笑顔で。


『ザナド様、引きましょう。彼女の意思は固いですよ』


『サラ……』


『彼女には彼女の人生があって、彼女にとって“譲れない”ものが、“ここ”にあるでしょう。たかが二週間程度過ごした私達と、赤ん坊の頃からずっと一緒に過ごした姉妹の思い出を比べて考えたら、当たり前のことです。』


『………』


『私達の生半可なリンゼルさんへの同情と、家族の長く付き合ってきた“情”は違いますよ。』


『俺はっ、そんな半端な気持ちでっ…』


『では旅先でリンゼルさんみたいな人達を見つけ次第、同情して助けますか?』


『それは……』


『えと、あのあの、あのね!二人とも!きいて!わたしね!でもね!二人にそんな風に一緒に旅に出よう!って誘われた時ね!すごく、すっごっく嬉しかったんだよ!友達だって言ってくれて、こんなにいっぱい面倒見てくれて、遊んでくれて、それだけならまだしも、わたしを連れ出してくれようって言ってくれて……ほんとうに、ほんっとうに嬉しかった!だからっ、だからね!』


『リンゼルちゃん…』

『リンゼルさん…』


『ズビッ………いっぱい遊んでくれて、たくさん良くしてくれて、ありがとう!!』


  リンゼルは涙を浮かべて、でも笑顔でザナドとサラにお礼を伝えた。


『ごめんねっ……二人の優しさで、えーと、こ、こ、こうび?』


『ご厚意、ですね。こうびは、色々と危ない言葉ですね。リンゼルさんにはまだ早い言葉です。』


『あっ、厚意?だね!教えてくれてありがとうっサラさん!えと、二人の“ご厚意”で手を差し伸べてくれたのに……わたし……』


『……いや、俺も軽率やった。そもそもこんな話、急に言って返せるわけないわな…。スマン、勝手に同情してリンゼルちゃんはこの村から出たいもんやと思ってた…』


『…それは……』


  それは………わたしも、出られるものなら……本当は、出たかった。だけど……だけど。



『ありがとう、ザナドさん。でも同情だなんて言わないで。例え同情だったとしても、その気持ちはすごく嬉しかったから。初めて、お友達が出来て、一緒に旅に出ようって……ひっぐ…』


  あぁダメだ……思い出しただけで泣けてくる。こんなに優しくされたのは、妹以外では初めてだったから……


『うぐっ……本当にっ…本当にっ…ありがどうっ…』


  行かないで、行かないで。本当は、一緒に行きたいっ、行きたいよっ……。こわいよ、寂しいよ………また、“独り”になりたく、ないよ…。


『……リンゼルちゃん…』

『リンゼルさん…』


  ザナドとサラは再び号泣し始めるリンゼルに近寄り、両手を広げてリンゼルを包み込むように抱き締めた。



『こっちこそ、ありがとうな?この村に居る間、沢山沢山遊んでくれて、見知らぬ俺達なんかに優しくしてくれて、愚痴も沢山聞いてくれて、たくさん泣かされたし……それに関しては未だに許してへんで?』


『あ、やっぱり?』


『勿論や。(ニッコリ)』


『アハハ~良い笑顔~…』


『そんな些細なことを気にするとは、ご主人様はまだまだですね。リンゼルさん、お気になさらずに。このお方は器が小さすぎるんですよ。』


『何処が些細なこと!?主にお前のやってきたことはホンマに許してへんからな!?』


『馬鹿がよく鳴きますねえ…』


『ねえ何べんも言っとるけど俺お前のご主人様っ!?』


『ぷっ…ふふっ……あはははっ』


 わたしは思わず吹き出して笑いだした。あぁ、最後の最後まで、わたしたちはこんな感じのやり取りで終わるんだなー、やっぱり、好きだな~。もっとこの時間がもっと続けば良いのにって思うけど、ダメなんだろうな…。そろそろお別れの時間だ。




『それじゃ、リンゼルちゃん、この辺で。さよなら……いや、またこの村に来るから、また今度!また今度一緒に遊んで馬鹿やろうな!』


『うん!』


『それでは、出発します。リンゼルさん、お世話になりました。次会った時もザナド様を苛め倒しましょう。約束ですよ?』


『うん!約束!』


『本人の前で不吉な約束すな!?』


『二人との思い出と約束、一生忘れない!』


『思い出は良いとして、約束だけは一生忘れといて!今すぐ消し去ってっ!!』


『心のメモリに刻んでおくよ!』


『その約束は心のメモリから今すぐ消去しなさい!楽しい思い出だけメモリに残して置きなさい!』


『またね!』


『ねえ最後こんなお別れでええの!?ホンマに!?もっと、ほら!』


『さあ行きますよ、ザナド様。ここには思った以上に長居し過ぎました。そろそろ出なくては。それではリンゼルさん、この辺で失礼します。またお会いしましょう。』


  サラさんはそういって微笑みながら、あーだーこーだと言うザナドさんを引きずりながら歩き始めた。


『嫌や~こんなお別れの仕方~もっとこう、エモい感じのお別れの仕方があったはずや~』


  ザナドさんはザーザーと涙を流しながらサラさんに首根っこを引きずられながら、旅に出ていった。



  最後の最後までグダグダであったが、三人らしいお別れだとわたしは思った。



  きっと、また会える。そう信じて……。





  それから5年後、ザナドとサラは自分達の身元が割れぬよう仮面をつけて魔界と人族の国を行ったり来たりしながら、二人で旅商人としてまた一から商売を始めていた。


  旅をしている中、ザナドが『そろそろリンゼルちゃんと村長さんがおるニコイ村へ寄ろうか?』と言い、サラが『良いですね、久々にリンゼルさんと共同してザナド様を苛められますね(ニッコリ)』『ん?後半物騒なこと言わんかった?』『言っていませんよ?』『ホンマかいな…』『おや?“妻”のことが信用出来ないと?全く失礼ですね~、ねえ?』とサラはお腹を優しく擦りながら問い掛ける。


『お父さんはお母さんのこと信じられないようです、お母さん悲しいです。しくしく(棒読み)』

『だーっ信用してるし信頼してるしお前のことも愛してるわ!』

『あら?今日は随分積極的ですね?』

『いやっ、ちがっ、いや違わんけど、ゴニョゴニョ……つい勢いで言ってもうたって言うか…』

『クスリッ……まぁ、私を愛してくれるのはとても嬉しいですけど、次からは“二人とも”愛してると言って欲しいものですね?』

『!……んなもん、当たり前や。サラと、“俺達の子供”を愛するのは。』


  ザナドはサラの方へ近付き、ふっくらと膨らんだサラのお腹を優しく撫でた。


『リンゼルちゃん驚くやろうか?』

『ふふっ、リンゼルさんなら飛んで喜んでくれそうな気がしますね。その後ジャンプに失敗してスッ転んで大怪我しそうですけど……でも鼻血を垂らしながら笑ってお祝いの言葉を送りそうです。』

『アハハッ!やたら具体的なこと言うな~……なんかホンマにそうなりそうで怖いわ…。怪我しないようにリンゼルちゃんの近くに控えておこう』

『それが良いかと。まあそうなった時はそれはそれで面白いですが。』

『お前のドSっぷりは母親になっても変わらんな…。つーか年々ドSっぷりに磨きかかってない!?』

『気のせいかと。』

『絶対気のせいちゃう!!ハァーッ、まぁええわ。ほな、おめでたい報告も兼ねてニコイ村へ向けて出発するか!あっ、サラは無理なくしんどい時は言うんやで?休み休みゆっくり行こうな?』

『ふふ…はい、ありがとうございます。あなた。』

『っ~……アカン!その呼び方ホンマにアカン!顔が茹で上がる!』

『おや?では前のようにご主人様?と言いましょうか?ザナド様?』

『………あなた。でお願いします。あと様はもう要らんて言うとるやろ?未だにサラは俺のことザナド様って言うやん。もう夫婦なんやし、呼び捨てでええねんで?』

『ああ、それはすみません。もうこれは癖みたいなもので。直りませんし直す気もありません』

『なんでや!?』

『ふふ、秘密です。』

『なんやねんそれ…』



  ザナドとサラはそんな風にいつも通り和やか?に話していた。二人はニコイ村に行く為のルートを地図を見ながら細かくチェックしていると、通りかった旅商人の知り合いが『おや?お二人さんニコイ村へ行くのかい?』と話し掛けてきた。


『ええ、そうなんです。昔少しの間世話になってて、それに俺達の“友人”もニコイ村に居るんですよ』


  と、答えたザナド。


『ハーッそうだったのか……だとしたらこの話は君たちには……いや、いずれ知ることになるか…』


『『??』』


  ザナドとサラは首を傾げた。


『いや実はね、君たちが向かおうとしているニコイ村ね、もう一年も前になるかな?魔族の襲撃に遭ったとかで、村は壊滅して住人達も一人も残らず全滅したって話だよ』


『………えっ…?』

『っ……』


  ザナドとサラは知り合いの旅商人の言葉を聞き、絶句した。



『…うそ……やろ?』


『残念だけど、本当だよ。もうその村は存在しないし、地図にも乗っていない。今はその村は閉鎖されていて、多分行っても追い返されるだけだと思うよ。結構惨い殺され方だったらしいからねぇ、そこらじゅう血だらけで、家も何もかも壊されちゃって……』



  他にも色々と喋っていた気がしたが、もう俺達の耳には何にも入って来なかった。



  気が付けば知り合いの旅商人の仲間は居なくなっていて、ああでも、一言『その、気をしっかり持てよ』と何処か気まずそうに去っていった。



  俺達はモヤモヤとした気持ちのまま自分達の宿に戻り、やっと落ち着いてきたのか頭がクリアになり冷静になった。だけど、冷静になった途端に涙が溢れ出てきて……俺は声押さえて泣いていた…。隣からも鼻を啜る音が聞こえた……きっとサラも泣いているのだろう。


  そして俺達は抱き締め合い一緒になって泣いた。声を出して泣いた。宿の人にめっちゃ怒られた。(ザナド)だけが。うん、確かに声だしてワンワン泣いてたの俺だけやけども!サラは声を圧し殺してすすり泣いていた。



  俺達がもう少し早く来ていれば、何か変わっていただろうか?何か出来ることがあったのではないか?あの時やっぱり無理にでも一緒に旅に出ていれば、と………そんなことが、もう何もかも終わった後に押し寄せてくる。絶望と後悔と悲しみで俺達はここ数日宿から出ることなくひたすらに落ち込んでいた。




  『ザナドさん!サラさん!』



  そう言って下手くそな笑顔を浮かべて手をブンブンと振りながら駆け寄るリンゼルが二人の脳裏に過った。




  俺達はまた、泣いた。











なんとか、なんとか!とある姉妹の過去編完結です。なんかグダグダになったような気がしますが、いや毎話毎話グダグダな展開だったような気がしますが。読んで下さる方々ありがとうございます。


次回から、リンゼルの現在?に戻ります。


ゆっくり更新ですが、また次回お時間のある時、見て頂けると幸いです。

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