約束《24》
「これはこれは、此処で古参株の“育て”の方々に、凄まじい早さで成長を遂げている少年君ですか。確か少年の血の能力は“創造”でしたね。良いですねえ!無限の可能性を感じる!それに、まだまだ“色々”と“隠し持って”いそうだ」
ビクッ
「っ…」
ニタリ…と、不気味に笑いながら、フィース君を探るように見つめるロネス博士。そんなロネス博士の圧に思わずフィース君もビクッと身体を震わせ。思わず後ろにたじろいだ。
大丈夫だよ!フィース君!君の後ろには無能が控えているよ!うん!安心できないよね!
「いやはや、今日は最高の日ですね~!嬉しいです、こんなにも一気に気になっていた方々を拝見できたのだから。ゼディアス君は本当に無口のお方ですから、中々君たちの詳しい情報を教えてくれなくてねえ…(チラッ」
そう話ながらゼディアス様の方を一瞥するロネス博士。
「………」
ゼディアス様はやはり無言なまま、語らない。
「この通り、多くは語らない男だろう?全く、少しは話し相手にもなって欲しいものだよ。少なくとも、被験者になり得る可能性がある者達ぐらい、もう少し情報を渡してくれても良いだろうに…」
「「「「………」」」」
私達はどう反応すべきか迷って、とりあえず曖昧に笑ってその場を濁して、無言を貫いた。
「おや?ご主人様に似て、眷属の子達も無口さんなのかな?」
「申し訳ありません。私達のようなものが、口を聞いて良いものか、迷ってしまって……ロネス・グリオ博士?ですよね?」
あっ、代表してガイエル先輩が対応してくれた!ありがてえ!ガイエル先輩!よろしくお願いします!私はこの人が苦手なので助かります!
「おや、もしや先程の話を聞いていましたか?でしたらどうぞあなた方も気軽にロネス博士と呼んでください。確か君は……眷属の中でも群を抜いて最強の男だと聞きましたよ?確か名は、ガイエル君だったかな?」
「畏れ多いです。すみません、盗み聞きするつもりはなかったのですが、“たまたま”通りかかったもので、そうしたら身に覚えがある声がしたので、そちらの僕らの後輩が粗相していないか?と心配になってしまって…」
「それはそれは、後輩思いのお優しい先輩ですねえ?(ニヤリ」
「いえいえ、それほどでも(ニッコリ」
なんだろう?なんかバッチバチに腹の黒い探り会いを間近で見せられている気が……ちょっとお腹痛くなってきた……トイレ行っちゃ駄目かな?いやっ別にこの状況が堪えられないとかそういうわけじゃっ……スミマセン!嘘です!堪えられません!今すぐおトイレに避難させて!入って直ぐ鍵閉めるから!私トイレとお友達になって一体化するから!!
「そうだ……お噂はかねがね、聞いていますよ?ガイエル君?」
「……さて、なんでしょう?」
「君は頭脳派みたいで、戦争では参謀を務めているらしいね?そして、君の持つ魔力量は膨大だと聞いた。ありとあらゆる上級魔法を駆使して、防御力や筋力に劣るものの、素早い詠唱と頭脳で戦いを制する男だと。いやはや素晴らしい!是非とも我が研究所に来て欲しい!」
「それは、どうもありがとうございます、ロネス博士。どうやら私の事をとてもよく知っているようだ、流石は“博士”と呼ばれているお方だ。私のような者の能力なんて、まだまだ未熟なもので、全くもってお恥ずかしい限りです」
「恥じることはない。君はとても素晴らしい能力を持っている。どうだい?研究所に来るつもりは?」
「…ありがとうございます。光栄ですが、ゼディアス様の許可なくしては、私からは何とも言えません」
「…と言っているが、ゼディアス君、どうだね?」
「……“それ”は、うちで長く“育て”をやっている。コイツが居なくなれば、育てがいない。困る。それに、参謀が居なくなるのは普通に痛手だ。故に無理だ、諦めろ。」
「ふむぅ……それは残念だ。仕方ない、諦めるとしますか」
あっ、わりとあっさり引くんだ。もっと粘るかと……なんか、研究の為ならどんな卑怯な手でも使うとか何とか言ってきそうな雰囲気なのに…。
「それでは、そちらの赤い髪の女性の方、確かヒルダ君だったかな?治癒と破壊に長けた面白い人材だと聞きました。何でも“破壊”の能力は素晴らしい迫力だとか、貴女の手に触れた者は忽ちバラバラの死体となって無に返るとか。いやはや恐ろしく素晴らしい能力だ。戦争で貴女を見た者は治療を施してくれる女神と言う者がいれば、同時に死神だとか破壊神とか言われて……ッ!」
すると、話していたロネス博士に何かがヒュッと音を立てて掠める。頬を見ると血がツーッと伝い、見てみるとすぐそばの壁にナイフが突き刺さっていた。
「あら、申し訳ありませんロネス博士?少し聞き捨てならない言葉を聞いたもので。乙女に付ける渾名ではないな、と。死神?破壊神?すみません、どちら様がそんなことを?少しその方とお話あい(殺し合い)をしたいなって♪」
すみません、ヒルダ先輩?
()になんだか恐ろしい本音が見えているような…?
いえっ、何でもないです!気のせいですよね!きっと!!
私も戦わないけど一応戦争に参加したことがある、人間の死体回収係として。後々保存食として我々の糧になる予定だそうです。後たまにロネス博士の研究所にも送られるそう。その死体は研究所でどうなっているのか?とか、考えない考えない!絶対ロクなことじゃない気がするから!!
まっ、まぁその為、私はガイエル先輩やヒルダ先輩の戦いを見たことがある。ガイエル先輩は参謀としてみんなに的確な指示を出しながら、上級魔法をバンバン打ち放して敵を凪払っていた。おおっ流石はガイエル先輩だな~無駄な動きが一つもない。と感心していた。ふと、ヒルダ先輩の方もどうなっているんだろう?と気になって見てみた。ヒルダ先輩は仲間を治療しつつ、襲い掛かってきた敵をまるでコバエでも払うように拳一つ振るってブチ飛ばしていた。そしてブチ飛ばされた敵は何故かバラバラの死体になっていた……
えっ……なにそれこわい。やだそれこわい。えっ?ヒルダ先輩って回復魔法だけじゃなかったの?今の幻?夢?えっ…??
私はこの光景を見た瞬間、絶対にヒルダ先輩には逆らわない!怒らせない!と、心のメモリに深く……それはもう深くっ、刻んだ!!
「おやおや、申し訳ない。少し喋り過ぎたかな?どうやら君の逆鱗に触れたようだ。すまないがその渾名を広めた者は誰だか私も知らないのだよ?噂なんてものは人の預かり知らぬ所でドンドンと広がり、もはやどれが真実か分からなくなる。犯人捜しは困難だと思いますよ?」
「………そうですか、ありがとうございます。では後で私の部下の者達(下僕達)一人一人に聞いて回ってきます♪(ニッコリ」
うんっ、諦める気、ゼロですよね!知ってました!部下(下僕)の子達、強く生きて……いやある意味ご褒美か?あの人達、ヒルダ先輩の部下という名の親衛隊みたいなところあるからな…。とりあえず、合掌しとこう。
「絶対に根絶やしにしてやるっ……ブツブツ」
ヒルダ先輩っ!?心の声が漏れてる漏れてる!ちょっと抑えて下さい!?
「ハハッ、いや~面白い!ゼディアス君の所は本当に興味深い者達ばかりだ!飽きないねえ!どうだい?ヒルダ君?君は研究所に来てみる気は…」
「ないです!お断りします!(帰れ♪)」
うん!キッパリ断った!だと思った!ヒルダ先輩らしい!ブレないな~流石だ!ガイエル先輩は一応ゼディアス様に断りを入れてからって感じだったのに!ヒルダ先輩はもうロネス博士が言い終わる前に即座に切った!もういっそ心の声が(帰れ♪)って言ってる!この人に恐れるものなんてないのかな!?
「ハハッ、またフラれてしまいましたか。今日はよくフラれる……まぁ、良いでしょう……それもまた、巡り合わせ、でしょうから。」
へー、ヒルダ先輩の方も、直ぐ引き下がるんだ…。
「ところで、ロネス博士。そろそろリンゼルを解放してあげてくれませんか?ロネス博士やゼディアス様のような畏れ多い偉大な方々の前でリンゼルも緊張しています。ほら、このように足が震えています…」
あっ、いや、これは私がスライディング土下座をした名残です!純粋に足が痺れて震えてるだけです!ガイエル先輩!
「……まぁ、良いでしょう。見たいものは見ました。実はこの後予定が入っていましてね?これでも忙しい身でして、元々挨拶をするだけしたら早々に立ち去るつもりでした。それに思わぬ“出会い”がありましたので、今日は満足ですよ。これは良い手土産になりそうだ」
ええ!さっさと帰っちゃってください!
「それでは、今日のところはこの辺で。またの機会にじっくりと、お話しましょうね?」
はい!二度と来ないで頂きたい!こちらは話すことなんて何にもありませんから!!もうなるべく顔も合わせたくないです!
「あぁ、そうだ。戻る前に一つ、リンゼル君に質問したいことがあるのですが……宜しいでしょうか?」
「へっ………えっ!?私ですか!?」
「ええ、そうです」
質問したいこと?いえもう早く帰って頂いて結構ですよ?私は特に貴方に答えることなんてないんで!
「えーと、まぁ……私でも、答えられる、範囲なら……」
「それは良かった!それでは早速、貴女のその“目”、どうなっているんですか?それは魔眼ですか?」
「………はっ?」
魔眼?何を言って……
「おや?違うのですか?貴女の瞳からゾクゾクとした気配を感じるのですが?」
「………えっ、と……私は無能力者ですよ?そんな、魔眼なんて大層なものあるわけ……」
「いいえ、貴女の瞳は間違いなく何かを宿している。それは確実ですよ?ふむ……少し失礼!」ズイッ
「っ!」
ヒィッ、ロネス博士の顔面ドアップ!緑色の目が光ってるぅ!多分なんか見ているぅ!嬉しくないサービスです!チャエンジを要望します!フィース君かヒルダ先輩の顔面ドアップ!でお願いします!
「さてさて………っ!ほう……なるほどっ…これは面白いっ!!」
「ヒャッ!?」
人の顔面付近で急に大きな声を出さないで下さい!?心臓に悪いでしょう!?
「嗚呼これは失礼。あまりにも興味深いものでしたので…」
「は、はぁ……何か分かりましたか?」
「ええっええ!それは勿論ですとも!やはり面白いですよ貴女!右目に呪いを!左目には祝福を受けている!」
「………はい?」
右目に呪い?左目に祝福?何を言ってるんだ?この人?研究のし過ぎで頭が可笑しくなってるのかな?
「二つとも賢者クラスにしか扱えないような上級の魔法ですよ!呪いは闇属性の上級魔法の一つ……いや、これは錬金術の類いも混ざっているか?何かを代償に払って彼女の右目に強めの呪術を組み込んだ形跡が見える…」ブツブツブツ…
いや、あの、唐突に一人の世界に入られたのだけど……なんか私の両目?にかけられている魔法?術?の分析を…してるのかな?
「祝福の方は光属性の上級魔法の一つ、それも幻術も加えている?彼女の左目からは何処か懐かしいような、守りたくなるようなものを感じる……こんな応用があるのか……ククッ、面白いですねえ?これは常人が出来る芸当ではないですよ?全くっ楽しいですねえ!」ブツブツブツ…
「………」
うん、完全に付け入る隙ないね……自分の世界から戻って来ないわ…。
「二つの能力をかけられているから、二人の者からこれを?いや、両目から同じ魔力を感じる……では一人の者が祝福と呪いの能力を使ったのか?もしこの二つの能力を一人の者が使ったのならば、体の負担は相当なものだ。祝福は上級魔法の中でも膨大な魔力量と精神力を持って行かれる。呪いに関しては何かを代償に払っているのだ、それ次第ではその者の命……呪術は己の生命力をも削る禁忌の術だ、迂闊に使うものなどそうはいない……余程の恨みを持つものか……いや、だが祝福も施しているのだ……恨みだけではない?これは……」ブツブツブツ
うーん、難しい話をしている……やべっ、だんだん眠くたくなってきた……もう寝て良いかな?
「「………」」
一方、ヒルダとガイエルはロネス博士のブツブツと喋る言葉を拾う中、突然、二人ともハッと驚いた表情でお互い目を見合わせた。
「(そうか!リンゼルの目を見る度、少し不気味な気配を感じたのはっ…)」
「(そういうこと、だったのね…)」
「(どうやら僕らの気のせい、というわけではなさそうだ。リンゼルの目に何処かおぞましい恐怖を覚えたのは……あの目を見ると、階級の低い魔物だったらリンゼルの目を見たら怯えて逃げていた……リンゼルは地味にショックを受けていたけど。それに、何処か懐かしさを覚えたのは……そうか、リンゼルからフィーリアを連想させたのは、あの瞳からの祝福……彼女を守るように、そういった催眠術的なものがかけれていた?)」
「(あの子と重ねてしまったのは、そういうことだったのね…。それにしても、祝福に呪い…とんでもないことをするわね……一体誰がそんなことを……何のために?)」
「(……彼女を恨んで、愛してるもの、か……)」
「(恨んでるんだか、恨んでないんだか、よく分からないことをするわね、その方…)」
「(いや、これは……ただの恨みじゃない……あくまで僕の予想だが、この能力の効果を見るに、この術を使った者は、リンゼルを……愛しているから、呪ったんだ……彼女から外敵を除くために……愛しているから、祝福したんだ……周りから守ってもらえるように……)」
「(それって……)」
「リンゼル君!」
「ふあっ……はいっ!?」
ビックリした!急に大きい声出さないで下さいよ!目が覚めたじゃないですか!いや、目は覚めて良かったか……ここで急に寝始めたら、色々と空気読めてないわ…。
「私は勘違いをしていました。最初にその瞳を拝見した時、貴女の…リンゼル君自身が所持している魔眼なのかと思いましたが、どうやら違うようだ。貴女、誰かから恨まれた上で愛されていますよ!」
「………はい?」
すみません、何を仰って?えーと、誰かから恨まれた上で愛されている?うん?訳が分からない。
「祝福は神々に愛された光属性、呪いは錬金術との相性が抜群の闇属性……どうです?何か、心当たりはありませんか?」
「!……まさかっ…」
もっ、もし、さっきロネス博士が話していたことが本当なら、ピーリフは光属性と闇属性を持っていることになる………そんな、わけ、ないよね?嘘、だよね?ねえ……ピーリフ……。
「うそ……でしょ……?」
違う、違う、そんなわけ、そんなわけなんて……
「そ、そんな……はず……な、い……」
そんなこと……あってたまるかっ……
「うそだよ……だって……」ポタッポタッ
涙がポタリッポタリッと地面に落ちる。目から溢れる涙が止まらない。
ハァー……嫌だなぁ……信じたくない……信じたくなんて、ないよ………
知りたかった答えでもあったけど……知らなきゃ良かった、答えだったかもしれない。
「リンゼル、ちゃん…」
「…リンゼル」
「リンゼル、お姉ちゃん?」
ガイエル先輩とヒルダ先輩は、何処か察したように、気遣うようにこちらに声をかけてくれた。フィース君は、突然泣き出した私を心配そうに見ている。アハハ、ごめんね、突然泣き出して……心配しないで?ちょっとだけ、気付いた、ことがあって……それが、あまりにも信じがたい、ものだったから……私、少し戸惑いが隠せなかった…。
あーもう、嫌だな~……ねえ、なんで急に、もうとっくの前に死んだ身内の話が、100年も経って出てくるの……そんなの……どうしろって言うの……
「なるほどな~合点がいったよ。どうして階級の低い魔物達が私を見るや否や逃げ出したのか、ヒルダ先輩やガイエル先輩がどーみても似ても似つかない妹さんと重ねていたか……アハハッ……ハァーッ……冗談きついよ……ピーリフ……ねえ……なにやってんの……」
「その反応を見るに、やはりお知り合いのようですね…リンゼル君?」
「………ハァーッ……本当は貴方にはあんまり話したくなかったんですが、まぁいいです……今まで謎だった事が一つ解けた……そのお礼です。多分その呪いと祝福の術をかけた者、私の妹です……」
「ほう……つまり、先程話した光属性と闇属性の二つの属性を同時に手にした少女というのが…」
「私の妹でしょうね……断言は出来ませんが。百年も前という時期的にも、ハルジオンという名前にも、その当時の少女の歳が7歳だった事にも、当てはまる事が多すぎて、本当に嫌になるくらいですよ…」
「そうですかそうですか!いやはや私も謎が解けて良かった!貴女のその瞳、初めて出会った時から気になっていたんですよ!」
「気になってみたから、最初に妹の話題をワザと出してみたんですよね?私にカマをかける為に、でしょう?貴女は研究者ですからね、気になった事は直ぐにでも解明したくなるもの。だからハルジオンという名前を出した、私を揺さぶる為に。いや、本当はピーリフ・ハルジオンという名前を最初から知ってたんじゃないですか?」
「!………ハハハハッ!素晴らしい!どうやら素晴らしいのは貴女の“瞳”だけじゃないようだ!貴女自身、どうやら侮れない人間のようだ!」
「それはどうも。もう人間ではないですが、まぁいいです。ところで、ロネス博士。先程、呪いの方は生命力をも削る禁忌の術だと仰っていましたが、祝福もとても難しい技だとか……もし、一人の人間がその二つの能力を使った場合、どうなるんですか?」
もう私の表情から感情は抜け落ちていた、笑顔も取り繕う余裕はない。私一人の問題だったらまだしも、身内が絡んでくるなら話は別だ。おふざけはなしだ。
「(……ふふ、良い目だ。呪いも祝福の術も関係ない、彼女自身の“生きる”目だ)」
「…聞いていますか?質問に答えて貰えませんか?」
「嗚呼っ失礼!ええそうですねえ……相当な負荷が身体にのし掛かっていると思いますよ?一つであればまだマシな方ですが、二つですからね。その上呪いで生命を削っていますからねえ……妹さんが当時7才だとして、それだけの幼い身体で上級魔法を二つも使ったのですから、身体が悲鳴を上げていても可笑しくない。大人の身体であれば、もう少し負担は減っていたでしょうが…………そうですね……寿命で考えて、もって10年ぐらいでしょうか?」
「……そっか……もう一つ、謎が解けたよ…」
「ほう…?」
「ピーリフが、17歳の時に、行方知れずになったのって、誘拐じゃないんだね…」
「ふふ、それも分かりますか。ええ、そうです。当時、私も彼女の事をよく調べていましてね、多少詳しいんですよ?ぜひ私の研究に参加して頂きたいと思って……嗚呼、そんなに睨まないで下さいよ?研究者としてどうしようもないのですよ、この探求心はどうしても止められない。まぁ話を戻しましょう。突然、神童と呼ばれた少女の失踪、周りが彼女の才能を妬んだ人間が誘拐したんだとか何だとか騒ぎ立てたそうですよ。特に彼女のご両親は凄かったそうですよ?手段を問わず、血眼になって探していたそうです」
「……あの人達らしい…」
「それにしても、誰も彼女自身が行方を眩ませたとは疑わなかったようだ……まぁ本当のところは、君の妹さんの心の内にのみ、だがね?」
「…ええ、そうですね」
「ふふ……その能力をかけたのが10年も前なら、彼女は自分の死期を分かっていたのかもしれないね?そして、行方を眩ませた……自分の寿命を誰にも告げずに…」
「どうして……家族にぐらい……母さんと父さんにぐらい、伝えても良かったんじゃ……いや、私を助ける為に禁忌に触れた、なんて言ったら、あの人達は鬼のような形相で顔を真っ赤にさせて此方の言い分なんて聞かず、ひたすら怒り続けるか……」
私のせいで……ピーリフになんて重いものをっ……
「いや~素晴らしい!幼くしてそれだけの上級魔法を使えるとはっ!!なんと魅力的な人だ!一体どんな人生を送ったらこれだけの事を出来るのかっ、気になりますねえ!!是非とも我が研究所でっ……」
「………」
「あー、ゴホンッ…失礼!思わず興奮してしまいました。そうですね……ここまで辿り着けたご褒美、ではありませんが、小耳に挟んだ噂程度ものですが、お話しましょう。その光と闇の属性を持った少女が17の歳に消えてから数ヵ月後、ある村の近辺でドロドロに溶けた人間の死体が見つかったと言います。顔も、身体もドロドロに溶けて、性別も何処の誰かも分からなかったそうです…」
「っ……」
「ドロドロに溶けた死体が見つかった近辺のその村は、かつて神童と呼ばれた少女が幼き頃に過ごした村だったらしい…とも、噂されているそうです…」
その話を聞くと、ヒルダ先輩がポツリと呟いた…
「そっか……最期は、お姉ちゃんと過ごしたかったのね…」
私はヒルダ先輩のその言葉を皮切りに、感情が爆発した。
「っ……ばか……ばかばかばかっ……バカ!なにやってんの……なにやってんのよ!」
『…バカなの?姉さん、見捨てられたんだよ?ゴミみたいに、ポイって…』
「バカなのはどっちよ!私なんかのためにっ…」
『そんなんじゃないっ!!私は貴女なんかっ、貴女なんか大っ嫌いなんだからっ!!』タタタッ
「私のことっ……大っ嫌いなんでしょう!?大嫌いだったんでしょう!?どうしてっ……こんなことをっ……」
『どうして?おねえちゃんは優しいよ?ピーリフといっぱい遊んでくれる……ピーリフが近所のあの大嫌いなユー君たちにイジメられてる時、いつも守ってくれるよ?怪我して血いっぱい付いてて、ちょっぴり怖かったけど、でも、そのあと泣いてるピーリフをいっぱい抱きしめてくれるよ?撫でてくれるよ?いつもおねえちゃんはピーリフを守ってくれるよ?ピーリフ、そんなおねえちゃんが大好きだよ?』
「っ………どうしてっ……」
『ピーリフおねえちゃんのこと嫌いにならないよ!殴らないしムシしないよ!ほんとだよ!』
「殴れば良かったんだよっ……無視すればっ…良かったんだっ……私の事なんてっ…忘れてっ……ピーリフがっ……幸せにっ…なってくれるだけでっ…お姉ちゃんはっ……」ボロボロッ
『どうして泣いてるの?おねえちゃん?どこか痛いの?』
「ズビッ……痛いよ!沢山痛いよ!まさかピーリフがこんなことしているなんてっ…お姉ちゃんっ、知らなかったんだよ!知らずに100年間っ…のうのうとっ……みんなに守られてっ…生かされてっ…こんなっ…未来っ……姉さん……望んでないよっ……」ポタポタッ
『うーんと、うえ?にいくってなんだか分からないけど、ピーリフはおねえちゃんと一緒にいく!』
『っ……ふふ、お姉ちゃんと一緒に上にいく?』
『うん!お天とさままで!』
『お天とさままでっ!?それは大きく出たな~お姉ちゃん付いて行けるかな~?』
『だいじょうぶだよ!ピーリフが引っ張っていってあげる!』
『お~それはありがたい!それじゃあお姉ちゃんピーリフの後ろに必死にしがみついて行くしかないね~!』
『ちがうよ!となりで一緒にいくんだよ!』
『!……そっか…そうだね!隣で一緒に歩いていこう!』
『うん!』
あぁ……そうか……ピーリフは………
「そっか……ピーリフ……一緒に、歩いて行こうって…約束、したもんね?ピーリフは……その約束を果たそうと、してくれたんだね?私、何にも出来なかったや……なんにも、してこなかった……ただ、この状況を受け入れていた……奴隷になった自分を、甘んじて受け入れていた…ここから出ようなんてっ…しようともしなかったっ……ごめんね……ピーリフ……ずっと、待ってくれていたよね?ずっとずっと……待っていて、くれていたんだよね……あぁっ…」
私は、ゼディアス様の部屋であることも、そしてゼディアス様やロネス博士、ガイエル先輩やヒルダ先輩、フィース君がその場に居ることは分かっていた。それでも、もうそんなこと、どうでもよかった……その場で膝をつき、溢れる涙を抑えきれず、声を上げて泣き叫んだ。
鼻水と涙でグショグショになった顔、今の顔はとても人に見せらたものじゃないだろうなぁ……
でも、もう……全て……どうでもよかった……
「あぁああああっ……」
その場に、誰も……止めるものはいなかった。リンゼルが泣き止むまで、みんな見守ってくれていた。ガイエルやヒルダは、どう声をかけるべきか、迷っているようだった。フィースは、突然泣き出したリンゼルに最初は困惑をした表情を見せていたが、咽び泣くリンゼルを見て、いても立っても居られなくなったのか、リンゼルの元へ駆け寄り、フィースも若干半泣きになりながら、そっとリンゼルを抱き締めた。
私がゼディアス様の部屋で泣いていても、ゼディアス様は特に止める様子はなかった。いつも通り無言なまま……あぁ…でも……珍しく、此方の方をジッと…見つめていた、気がした…。
涙も声も枯れ果て……気が付けば、ロネス博士は居なくなっていて、私は泣き疲れたのか、突然、目の前が真っ暗になって…足に力が入らず、そのままと倒れた。倒れて地面に激突するかと思った直前、誰かが受け止めくれたような気がした。
★
コツコツコツ…
コツコツと、足音が聞こえる。体が揺れている……温もりを感じる……誰かに抱えられて運ばれているのかな?誰が運んでくれているんだろう?あぁ…ごめんなさい…重いでしょう?そうだ……お礼を、言わなきゃ……あぁ、でも……目蓋が、重い……目が、開けられない……
あぁ、眠い……とても、とても、眠い………
もう……目を、開けたくない……




