ロネス博士《23》
入室許可をもらって扉を開けて速攻スライディング土下座を決めた私こと、リンゼルはそれから約10分ぐらいそのままほったらかしにされていました。
「「「………」」」
誰か反応してぇええっ!!気まずいじゃん!なんか私がスベったみたいじゃん!あれ?もしかしてスベった!?
「「「………」」」
そっ、そのぅ…あのぅ……すっ、すみません!そろそろ足の限界が!痺れてきててっ、もう足の感覚が無くなってっ…………
あっ……やっぱいいです。何にもないです。問題ありません。もう大丈夫です……逝きましたから……旅立ちました、足が。
「ほう……なるほど、面白い。良いですねぇ…この子」
「………」
「ゼディアス君、そろそろ彼女の顔を上げさせましょう。何だか彼女の背中から哀愁が漂い始めましたし、あれは足を痛めてますよ」
「………あぁ…そうだな。顔を上げろ、それを止め、普通に立て」
「はい……ありがとうございます…」
あぁ…すみません。誰だか知らない声の方、ありがとうございます。出来ればもっと早めに助け船出して頂けませんでしたか?知ってますか?もう私の脳内では両足のお葬式が始まっているんですよ?
「おや、固まってますね?」
この状態で直ぐに立てるとでも?ん?さっき足逝ったばかりですよ?私の脳内ではそろそろエンディングの曲が流れ始めているんですよ?
「………」
「どうしました?貴女のご主人様が“立て”、と言っているのですよ?」
「っ…」
チクショーーッ!!もうとにかく気合いで立つしかねぇえええ!!エンディングをオープニングに変更じゃああっ!!頑張れぇえええっ私の足ぃいいいっ!!
「しっ、失礼、致しました!そ、それで…いっ、いったい、どういった、ごっ、ご用件で、しょうか?」プルプルッ
「ハハハッ!本当に面白い子だ!生まれたての小鹿のように膝がプルプルと震えているよ!」
笑ってないで早く用件を言って下さい!いやそれより貴方だれっ!?本当にだれっ!?
足をガクブルと震わせながら、知らない声の人物をよくよく見ると、白衣を着た男性だった。なんだろう?あれ?眼鏡じゃ、ないな……えーと、前にガイエル先輩に聞いたことがある……あっそうだ!モノクルだ!モノクルを右目にかけている、緑色の目に、白髪のオールバック、細身の、少し歳のいった人のようにも見える…60~70代ぐらい?かな…。
人間?なのだろうか?見た目は人間とさして変わらないけど……私達と同じく吸血鬼なのかな?何者なんだろう?
「………」
ゼディアス様は大きな椅子に座り、もう用はないとばかりに、こちらの方を見向きもせず窓側の外の方を無言で眺めていた。
「はーっ…いやはや、良く笑った。久々ですよ、こんなに笑ったのは。」
白衣を着た男性は散々笑った後、ジロジロとこちらを興味深そうに見ていた。
うぅ……なんか居心地悪い…。
一体どういう状況?ゼディアス様はこちらを見向きもしないし、知らない白衣を着たおじさん、いやおじいさん?も居るし……えっ?本当に何?
「………ええと、その~、本当に、一体どういったご用件なのでしょうか?」
「ああ…すまないね。どうやらゼディアス君の所に面白い人材が居ると聞いてね、魔力を一切持たず、それどころかやることなすこと全て無に返す、ある意味本当にどうしようもない無能がいるってね…」
「は、はぁ……」
はい!無能です!って、いつもは明るく言ってるところだけど、なんだろうな~…この白衣を着た男性の前だと、いつもの調子がでない。この人、改めて見ると、不気味というか、こちらを見る目が、妙に居心地が悪い。ゼディアス様の場合、こちらを虫ケラでも見るように興味なさそうに見ているけど、この方の場合……人を人として見ていない、興味は持っているけど、決していい意味ではない。そう感じる。勘、みたいなものだけど、私の無能の勘がそう言ってる。なんか急に信憑性薄れたな。
「そんな面白そうな被験者、一生に一度は見ておきたいと思ってね…」
「……」
それはまた、嬉しくない興味ですね~……というかこの人、今私のこと被験者って言わなかったか?
「ククッ、思った以上に愉しそうな子だった。ゼディアス君も意地が悪い、こんなに面白そうな被験者をこの100年間私に報告なしとは、ねえ?」
窓側の外を眺めていたゼディアス様は、何処か面倒くさそうに白衣を着た男性の方へ体を向け、答えた。
「………優秀なものだけ、そちらに送れと言われていた……ならばそのような無能は報告する必要はないと判断した、それまでだ…」
「なるほど。確かに優秀な被験者を優先的に回してくれと言ったね……いやはや失敬失敬」
「………」
ゼディアス様は、どうでもよさそうに体の向きを窓側に戻して黙ってしまった。
仲悪いのかな?お友達って雰囲気じゃなさそうだし、距離も感じる。
「ところで君、名前は?」
「へっ……名前、ですか?」
ビックリした!急に振られるから最初間抜けな反応してしまった。うーん…名前、か~……何となくこの人に名乗りたくないんだよな~。
「どうしました?まさか自分の名前を忘れたとかあり得ませんよね?」
「……リンゼルです…」
「ファミリーネームは?」
「!………リンゼル……ハルジオン、です…」
「ほう……良き名前ですね」
「はぁ……どうも…」
「リンゼル君とお呼びしても?」
「お好きにどうぞ…」
どうしよう、何となくやりづらい…
「ふむ……そうですか。ハルジオン…ですか……嗚呼、そういえば、何処かで聞いたことがありますねえ?その名前……さて、何処でしたかな?」
聞いたことが、ある?何を言って……
「あぁ、思い出した……今から100年も前、当時僅か7才という若さで光と闇、2つの属性を持った神童が現れた、と人間の世界で一時期話題に上がっていましたね。そうだ、その子もハルジオンという名前でした」
「!……」
それって、まさか………
「おや、心当たりがあるようですね?」
「っ……」
しまった、表情に出てたか!だって、思いがけない人物の名前が出てきたから……それも、私の妹の……
「もしや、知り合いか何かなのかい?」
「……いえ、光と闇の属性を持った人間なんて、聞いたことがなかったので、驚いてしまったんです…」
とりあえず、誤魔化す!何となくこの人に私の情報をあまり渡したくない!私の直感がいってる!この人は駄目だ!危険だって!
「フフ……そうですか、知り合いじゃありませんでしたか……まぁ確かに、私も最初光と闇の属性2つを持っているなんて聞いた時は驚きましたよ?それだけの逸材なら是非とも我が研究所に来て欲しかったぐらいです」
「研究所……」
「あぁそうだ、申し遅れた。私は吸血鬼の研究を行っていてね、まぁ他にも色々と研究を行っているが、最近は吸血鬼がメインかな?そこの所長をやらせてもらっている、ロネス・グリオというものだ。気軽にロネス博士とでも呼んでくれたまえ」
「……それは、ご丁寧に…どうも…」
なるほど、今まで上位に進化した吸血鬼の方々の一部が何かの実験に使われていると言われている話、やっぱり本当だったんだ。この人だ、この人がゼディアス様に頼んで上位の吸血鬼を連れて行ってたんだ。研究……何の研究をしているんだ?そこに連れて行かれた上位の吸血鬼さん達は無事なのだろうか?
「あぁでも、どちらにせよ、その神童の少女、確か彼女が17の歳の時、誘拐されて行方知れずだと聞きましたね…」
「………えっ?」
ゆう、かい?なにを、いって………
「全く、何処の誰かは知りませんが、先を越されましたよ……私も彼女を研究してみたかったのに…残念でならない」
「………」
誘拐?行方知れず?ちょっと待って……頭が、脳が、追い付かない……
「おや、どうしました?固まってしまって?やはりお知り合いか何かでしたか?」
「……いいえ?誘拐に行方知れずなんて聞いて、その少女のことを少し不憫だなと思ってしまって……それだけです」
落ち着け落ち着けっ、落ち着くんだ私!まだピーリフと決まった訳じゃない!あくまでもこの人が言った言葉はハルジオンという名前だけだ!ピーリフ・ハルジオンだって言った訳じゃない!同じような名前はいくらでもいる!
「フフ、なるほど……ただの無能ではなさそうですね、頭は回るようです」
「!……」
あ~嫌だな~…この人……やりにくい……何より、こちらを品定めするような眼差し、嫌いだなぁ~……
ハァーッ、嫌な相手と対峙することになったな~、今まで平和過ぎるぐらい平和だったからな~……こんなにピリピリした状況はバルト先輩がゼディアス様と闘うって聞いた時以来だ。
「ふむふむ……正直に言えばあなたを持って帰って研究を行いたいところですが、今日のところは帰らせて頂きましょう。そちらの方々の睨みは怖いですからね~」
「えっ……?」
そちらの方々の睨み?
「あっ……ガイエル先輩!ヒルダ先輩!」
気が付けば、ガイエル先輩とヒルダ先輩が私の背後に立っていた!いっ、いつの間にいたんだ!?気配を全く感じ取れませんでしたよ!?いや無能たる私が上位のお二人の気配を読むこと事態無理な話でした…。
「リンゼルお姉ちゃん!」タタッ
するとガイエル先輩とヒルダ先輩の背後からフィース君が現れ、私の目の前へまで走って来て、ゼディアス様とロネス博士を睨み付けながら、私を守るように両手を広げた。
「あっコラ!駄目じゃない!フィース君!」
「フィース!前に出てきては駄目だ!」
ガイエル先輩とヒルダ先輩の制止の声も振り切って、フィース君は私の前でゼディアス様とロネス博士の前に立ちはだかっていた。
「リンゼルお姉ちゃんはボクが守る!」
うん、カッコいいね!?ありがとう!とっても嬉しいけどちょっと待って!えっ?フィース君も来ていたの!?いやいやっ私を守ってくれようとするのは嬉しいけども!どうみてもこの二人には部が悪すぎるよ!私のような無能なんてほっといて先輩方の後ろに隠れてて!?
「おやおや…」
「………」
突然現れた三人にゼディアス様はいつもの如く無反応、ロネス博士は興味深そうにニヤリと笑って此方の出方を伺っていた。
「えっ…と……」
汗がダラダラと流れる……
なにこの状況?なにこの混沌?
すみません、リンゼルもう心臓が持ちません!!地下に帰っていいですか!?




