フィース君《21》
特有スキルから固有能力に変更しました。
眷属補充の旅から、数ヶ月が過ぎようとしていた。
屋敷に帰ってからはバタバタした日々が続いたが、最近は日常を取り戻しつつある。
そうそう、私が眷属化を成功させた少年、彼の名前はフィース君というらしい。歳は6歳。
フィース君は最初、突然こんなところに連れてこられて、とても戸惑っていたけど、ガイエル先輩やヒルダ先輩のフォローや献身的な心のケアのお陰で、今はここに馴染んで元気に高位吸血鬼になるために訓練をしている。色々と思うところはあると思うけど、幼いながらに自分が置かれいている状況を何処か察しているみたい。うーん、賢い子だな~。私は此処に来た当初、内心ビビりまくってチビりそうだったよ?
「リンゼルお姉ちゃーん!」
おや、そんなことを考えてると、フィース君がニコニコの笑顔でこちらに手を振って走って来ている。
そうそう、フィース君は私をリンゼルお姉ちゃんと呼んでくれている。そう呼ばれるのは何十年ぶりだろうか、最初にそう呼ばれた時、ピーリフのことを思い出して少し泣きかけた。
殆どの人が私を無能と呼ぶものだから、フィース君にお姉ちゃんと呼ばれるのは最初は本当にむず痒さを覚えたけど、最近は少しずつ慣れてきた、かな?
フィース君は私が無能だと知っても態度が変わらず、無邪気にありのまま私と接してくれていた。いや、どちらかと言うと…なんだろう?こう…懐かれてる?気がする……本当に何故?先輩方にしろ、私特に何もしてないけど?
「リンゼルお姉ちゃん!」
「どうしたの?フィース君?」
「えっとね!くんれんほーこくにあがりました!」
「おーそっかそっか!報告ね!」
訓練を終えてからどれだけ成長したか、覚えた能力、技、体力がどれだけついたかを細かく書き、その記録をまとめて提出するようにゼディアス様に指示されている。他の眷属の子達も然り。私はフィース君やバイカ君、最近入った新人の子供達の記録係を任せられている。
「あのねっ今日ね!ヒルダお姉ちゃんとガイエルお兄ちゃんがそろそろ基礎体力がついてきたから血の能力を使っても良いかもね!って、訓練でボクの固有能力はどんなものかってヒルダお姉ちゃんに調べてもらったんだ!」
「へえ~そんなんだ!どうな能力だったの?」
「うーんとね、“創造”だって!」
「創造?」
創造?って、なんぞや?聞いたことあるような無いような…?
「それってどんな能力なの?」
「えっとね、触れた事がある物なら手の平サイズまでだったら何でも再現出来る能力なんだって!」
「へえ~………」
はい?ん?うん………えっ?サラッと凄いこと言わなかった?この子?
「なっ、なるほどね~!えーと、それって今出来たりする?」
「うん!出来るよ!今は出せるものは~…えーと、それじゃこれ!【ソード】!」
フィース君の手には赤い色をした小型の剣が握られていた。
「わぁ~すごーい!」パチパチ
「えへへっ…そうかな?」
「うんうん!凄いよ!」
うんうんっ……ところで魔法で剣出てくるってなに?どういう原理です?そう言えばゼディアス様もバルト先輩と闘ってる時、なんか禍々しい魔剣?みたいな凄いの出してたな…?フィース君が出した剣からもあの魔剣と同じぐらいの迫力あるけど……きっ、気のせいだよね!
「なんかね!ガイエルお兄ちゃんとヒルダお姉ちゃんが言うには、ボクの血の能力は特別?らしくてね!触れた事がある物ならそれをベースにして、その剣の能力を上げたり下げたりして振り分けて自分でカスタムが出来るだって!」
「へえ~っすんごいね~!」
すみません、何を仰っているんでしょうか?この6才児様は?
「今は剣だけしか創造出来ないけど、このまま訓練を積めばその内バリエーションが増えてくるよってガイエルお兄ちゃんが言ってた!」
「そっかそっか~!」
オッケー!無能には分からない話をしているね!ありがとう!
「ボク、もっともっと色んな技を覚えて、もっともっと沢山訓練して、すごーく強くなるよ!」
「うんうん!それは頼もしいね!」
そう、この通り、フィース君はとても優秀な才能を持った子供でした。
フィース君の血の能力訓練1日目、
「(リンゼルお姉ちゃーん!ボク念話覚えたよー!)」
「(ホントだ!使えてるね!というか1日で覚えたの!?凄いね!」
まぁ優秀な子は1日で覚えるって言うしね。私は30年掛かったけどね!
フィース君の血の能力訓練2日目、
いつものように走って私に訓練結果を報告しにきたフィース君。
「リンゼルお姉ちゃーんっ…うわっ…」バシャーン
フィース君が転んだ!
「だだだっ大丈夫!?フィース君っ怪我ない!?」
「うっ…うん……ぁ…」シュウ…
「あ…傷が治ったね……自己回復、もう覚えたんだね!」
傷の治る速度早かったな~、私の自己回復ナメクジ並みにおそーく回復するよ?というか2日目で自己回復覚えたの!?私50年掛かったよ!?
フィース君の血の能力訓練1週間目、
「リンゼルお姉ちゃーん!みてみて~飛んでるよー!!」
「うんうん!凄いよー!フィースくーん!でも落ちないように気を付けてね~!!」
フィース君は飛んでいた。浮遊の魔法を覚えたらしい……なにそれ?そんなのあるの!?
フィース君の血の能力訓練2週間目、
「リンゼルお姉ちゃん!おそうじに、おせんたく、かんりょーしました!」
「えっ、もう完了したの?どれどれ……洗濯物は服も装備も綺麗に汚れが落ちている、その上服の畳み方も丁寧に出来ている……お掃除は床も窓もピカピカ!部屋も綺麗に整理整頓されている……うん!完璧!文句無しだよ!」
「わぁ~良かったー!」
もう言うことないよ!何にもないよ!一応フィース君の教育係も任せられている身だけど、私が教える事はもうないよ!こっちが教えてほしいぐらい!もはや私の存在いる?ってレベルだよ!
フィース君の血の能力訓練3週目、
「リンゼルお姉ちゃーん!今日はヒルダお姉ちゃんとガイエルお兄ちゃんに【魅了】と【洗脳】のスキルを教えてもらったんだ!」
「そっかー!どっちか覚えられたスキルあった?」
「?…両方ともすぐ覚えたよ?」
「……そっか、そうだよね!流石はフィース君!もうガイエル先輩とヒルダ先輩教えることないんじゃないかな?」
「えっ、そうなの?もっと沢山二人から学びたいのにな…」
うんうん!すんごい向上心だ!大事だね!私には欠けてる所だから羨ましい限りだ!そして私の語彙力の底も尽きたよ!もう驚くことすらしなくなったよ!だよね!出来るよね!そうですよね!って気持ち!
そして数ヶ月が過ぎた今現在、
「ぐわーっ」
バイカ少年が倒れる!
「そこまで!」
審判のガイエル先輩の掛け声。
「ハァッハァッ……ヤッター!かったー!」
木の棒を使った戦闘訓練でフィース君(6才)がバイカ君(14才)に勝利していた。
「くっ、くそっ!!」ダンッ
バイカ君が悔しそうに拳を地面に叩きつけた。
「バカ君……どんまいだよ」
私はバイカ少年の肩に手をポン…と優しくおいて励ました。
「うるっせえよ!無能の励ましなんて要らねえんだよ!つーかまたバカって言わなかったか!?」バシッ
バイカ少年は私の手を振り払った。あ、やっぱり駄目?
「バカ……バイカ、まぁ、頑張った方だと思うぜ?」
「ばか……あ、バイカ君、また次があるよ!」
「バカ先輩!きっと少し調子が悪かっただけですよ!」
するとバカ……バイカ少年のお友達?や後輩君達からも励ましの言葉をもらっていた。
「おい待てっ!!お前達もいまバカって言わなかった!?つーか最後の奴に至っては普通にバカって言ったよな!?いつの間にこんなに浸透してんだよ!?」
「スーッ…」
私はスーッと息を吸い、明後日の方向を向いた。
「テメーのせいか!?無能っ!!」
いや、ちっ違うんだよ!前にこの血の海なに!?って私が騒いでバイカ少年が説明していたのを他の子達もどうやら見ていたらしく、なんか、そのやり取りが随分ウケたらしく、実はバイカ少年が居ない時はバカ君って周りから呼ばれてるらしい。その、なんかごめん…。
「?」
あぁ、フィース君がよく分からない…といったように首をコテンと可愛らしく傾げている。うん、可愛い。君は癒しだね!
さて、とっとりあえずバイカ君!その持ち上げている木の棒を下げてくれるかな!?
「おらぁあああっ!!」ダダダッ
「ギャアアアッごめんなさーーい!!」ダダダッ
私とバイカ少年のおいかけっこが始まり、みんなは何事も無かったようにガイエル先輩も「はい次の人~構えて~」と戦闘訓練を再開しようとしていた。
いやっ誰か助けて!?
「今日も平和ね~」と、ヒルダ先輩がお茶を啜る。
どの辺が!?私いま命散らしそうな勢いですけど!?ねえっヒルダ先輩っ!?
「わーい!ボクもおいかけっこする~!」シュッ
フィース君!?違う違う!そんな平和な感じじゃないよっこのおいかけっこ!どうみても殺しにきてる鬼と哀れな無能だよ!
ん?シュッ?
うわあっ!いつの間にか私の隣にいるフィース君!なにその瞬間移動!?何処で覚えたの!?
ドタバタッドタバタッ
彼は血の能力訓練一日目で念話を覚え、自己回復能力も高く、身体能力、頭脳、どれをとっても全て優秀であった。
フィース君の血の能力は“創造”、触れた物を再現出来るだけじゃなく、その物を自分の好きなようにカスタムして強化出来るという。
えっ、強すぎない?最強じゃない?なにこの子?神童?世に言う神童さん?神々に愛された申し子か何かって言われても何の疑問も思わないよ?
これはこの子、高位の吸血鬼に進化するのも時間の問題だな。
「………」
でもそうなると、戦争に参加することになるんだよね……それだけじゃない、下手したら何だかよく分からない“実験”とやらに参加させられても可笑しくない……まだこんなに幼いというのに……才能があると言うのも考えものだな…。
「待てやゴラァアアアアッ!!!」ダダダッ
「ギャーーっ!!」ダダダッ
いや今そんなこと考えてる場合じゃねえ!迫りくる鬼から逃げねばっ!!だが私は無能!直ぐに追い付かれる!もう捕まるかと思った瞬間……
「リンゼルお姉ちゃん!」
「フィース君!?」
フィース君が私の手を取って走り出す。
「おいこら!フィースを使うとは卑怯な!」
違うから!私から頼んだ訳じゃないから!フィース君が多分哀れな無能に同情して助けてくれただけだから!
「一緒においかけっこだー!」
いやごめん!この子何にも考えてなかった!おいかけっこを純粋に楽しんでいただけだっだわ!
ドタバタッドタバタッ
「ふふ……ははっ…」
あぁ、どうしてだろう?こんなに危機的状態なのに、不思議と笑顔が溢れる。
うん、今は難しいことを考えるのは止めよう……私は無能……所詮何にも出来ないんだ……ただただ今は、この瞬間を生きよう。
みんなとはしゃげる今を噛み締めて、ただ、前へ……
「テメー!なに笑ってやがる!フィースが手を貸したからって余裕じゃねえか!!いいぜ!こうなったら本気を出してやる!【身体強化】!!」ダンッ
「わぁ~!バイカお兄ちゃんが光った~!」
「いやいやっちょっと待って!それはズルでしょう!?待ってまってまってぇえええっ!!」
ドッゴーーンッ!!
「ギャアアアアアッッ!!!」
「わぁ~♪(キャピキャピ☆」
うん、死んだかも♪




