不穏《11》
天国のお父さんお母さんピーリフ、お元気ですか?もう百年経ってるから、普通に考えて、人間である三人はもう死んでるよね……冗談で言っていた言葉が、もう本当になっちゃった……
ある時、ヒルダ先輩が何かを思い出したように…
「あぁ、そう言えば…貴女がここにきて丁度今日で百年ね……ご家族とかは、もう寿命の事を考えると亡くなっているんでしょうけど…」
「……」
「あっ…ごっ、ごめんなさい!しっ失言だったわ!」
「アハハ、全然、大丈夫ですよ」
「でも……」
「家族との思い出なんてそんなにないんで……だから全然、気にしてませんよ…」
そっか、百年経ってるもんな……人間の寿命的に、もう死んでるよなぁ……考えもしなかった……置いて行かれてから、家族のことなんて、あまり考えていなかった……ヒルダ先輩に文字の勉強を学ばせて頂いている時に、宿題のような形で、文字の練習の為に日記とか付けてみたら?と言われて、たまにネタ的に、家族の事を冒頭で面白可笑しく書くことが多かった……
そっか、もう居ないんだなぁ……
あまり家族との思い出、ないなぁ……家族ってなんだろう?何をして家族なんだろう……
ふふ、ほんと、急にしんみりしちゃって、私らしくもない……うん、もう昔のことだ……
冷遇されていたし、あの人達にとって私は居ない存在、要らない存在だったから……家族として一緒に過ごした記憶なんて殆どないけど、少しだけ、ほんの少しだけ、私はもう会えない、二度と会うことのない家族に手向けの言葉を贈った……私なんかの手向け、いらないかもだけど、ただ気持ちだけ……気持ちだけ贈らせて。これは私の自己満足だから。
大嫌いな大嫌いな家族へ
どうか、安らかに……
☆
さて!暗い空気はここまで!改めて天国のお父さんお母さんピーリフ!お元気ですか?私は元気です!とーっても元気です!私は今日も今日とて元気に夜の見回りをしてます!何故見回りをしてるかって?ここから脱走しようとする人達が少なからず居るからです!そりゃまぁ…居るよね……普通こんな殺し合いが当たり前のようにあるところに留まり続けたいなんて思う人間なんていない、勝手に連れて来られて吸血鬼にされて奴隷にされ殺し合いの戦争に参加をさせられて、逃げたくなるのは当たり前だ。
でも、血の従属の呪いをかけられてる私達は、例え何処に居ても、あのお方から逃れられない。
血の誓約、従属の烙印、これがある限り、私達は何処に逃げても必ず見つかる。ゼディアス様の血が、私達を離さない、逃がさない。
それが分かって居ても、人とは諦めが悪いもので、それでも逃げ出そうとする輩が一年に数回現れる……その度、連れ戻したり説得したりしている、ヒルダ先輩とガイエル先輩が。私のような無能なんかの言葉を他の吸血鬼諸君が聞くわけないしね!それにゼディアス様より先に見つけないとゼディアス様に殺され兼ねないから!当然だ、ゼディアス様を裏切って逃亡など到底許される事ではない。
そんなこんなで、見回りをしてます!逃亡者とかが居たら念話でヒルダ先輩とガイエル先輩に伝えて説得か連れ戻してもらう、たまに侵入者とか迷子とかがいる時もガイエル先輩とヒルダ先輩を呼んで捕獲して貰う。その人達はこの屋敷に入った事が運の尽き、ゼディアス様の奴隷になるしかない。
さて!お外は危険だから上位吸血鬼の先輩方が見回りをしているし、私達下級吸血鬼はお屋敷の中を隅々見回りしてゆくぞ!レッツゴー♪
「ふんふん♪」
鼻歌を歌いながらご機嫌で真夜中の屋敷の廊下を歩く見た目は10才ぐらいの女の子、端から見たら頭に?マークがつくだろう。真夜中に屋敷をウロウロするのって怖くないかって?最初の頃は怖くて物凄く怯えに怯え散らかし半泣きで見回りをしていた、それを見かねたヒルダ先輩やガイエル先輩が、私が見回り当番の時に二人の手が空いてる時に交互に来てくれて、一緒に手を繋いで貰いながら見回りを手伝ってもらっていたよ!もうヒルダ先輩とガイエル先輩大好き過ぎる!!もうこの二人が居ないと私は生きていけない体になっちまったぜ……フッ( ´,_ゝ`)
本当にいつもありがとうございます!ヒルダ先輩ガイエル先輩!一生ついていきます!
まぁ流石に百年も経てば怖さとかどっかいく、慣れって怖いね!
「ルンルン♪」
今日の私が何故ここまでご機嫌かと言うと、今日はゼディアス様が所用?で出掛けているらしく、今屋敷にゼディアス様が居ないのです!だから普段と違って気持ちが楽と言うか、ピリピリとした空気が屋敷から感じないから、私の気持ちが今ルンルン気分なのです!
「ふんふん♪ルンルン♪」
そういうことで、私は鼻歌交じりにルンルン気分でスキップしながら見回りをしていると、
「うるっせえっ!!」バンッ
ビクッ
「ひょわ!?」
突然、通りかかった扉の前で男の大きな怒鳴り声?が聞こえた。やべ、驚きで変な声が出た……き、聞かれてないよね?
それにしても誰だ?こんな夜中に大きな声なんて出して、ご近所さんに迷惑でしょう!まぁこの辺にこの屋敷以外の建物なんて無いからご近所さんなんて居ないんだけどさ……
あ、れ?でも待てよ……あの声何処かで聞いた事があるような…?もしやこの声はバルト先輩?まさか私の鼻歌を聞いてまた腹を立ててぶん殴りにきたとか!?
いや、それにしてはバルト先輩の拳が飛んでこない……え?あれ?もしや私のこと気付いていらっしゃらない?じゃあ何で?私が何かやらかす時ぐらいしかバルト先輩は大きな声を出して怒ることなんて滅多にないのに……
私は怒鳴り声がした扉の前に恐る恐る耳を当てた…
「うるせえっお前らがやらねえなら俺はやるっ……ゼディアスをぶっ殺す!」
「バルト!」
「滅多なことを口走るんじゃない!」
え……ゼディアス、様を、殺す…?
「もう我慢ならねえよ!俺達は300年…そうだ300年だ!300年アイツの側でゴミのように働いてきた!何人もの仲間達が死んでいった!いつ自分が死ぬかも分からねえ恐怖の中!仲間達の断末魔を!仲間達の無惨な亡骸をっ…俺達はっ……俺はっ」
「バルト…」
「………」
「俺は抗う、抗ってやる!俺はこの時の為に強くなったんだ!戦争で元は同族だった人間達を沢山殺した!子供も大人も老人も赤子でさえっ…殺してきた!クソッタレの“ご主人様”の命令でなっ!!俺は同族の屍を踏み超えても!いや屍の上でヤツをっ、ゼディアスの野郎をぶっ殺してやるっ!!」
「……バルト、この話は聞かなかった事にする……だから、考え直すんだ……あの方に、お前が敵うとでも?」
「敵うさ!300年、俺が何もして来なかったと思うか?」
「バルト…」
「それにな…もうおせえんだよ…」
「え……」
「バルトっ、あなた!」
「多分もう気付いてるさ、我らがご主人様がよぉ……自分が眷属にした”奴隷達の数が減っている”ことによ…」
「なん……」
「やっぱり…」
「ヒルダ…?」
「おうおう流石は鼻が利くヒルダ様だなあ?俺の血の匂いに気付いたかよ?」
「まさか、お前……バルト…仲間を、お前の部下だった仲間達を…喰ったのか?お前を慕っていた部下達をっ…お前はっ」
「あぁ勘違いするなよ?無理矢理喰らった訳じゃねえよ、ちゃーんと同意の上でだぜ?みんなヤツに復讐したいのさ!この地獄を作り上げたあの糞野郎に!同じ目に!同じ地獄を!部下達は喜んで俺に命をくれたよ……だから俺は誓った……部下達の想いを、死んでいった仲間達の無念を、俺が晴らしてやる!何もかも呑み込んで喰らって喰らって喰らって喰らってっ……仲間達の痛みも嘆きも無念も屍をも超えてっっ
俺は仇をとるっ!何がなんでもっ!!」
「「……」」
「お前達はどうするんだ?いつまであの野郎に頭を垂れているつもりだ?あ?お前達ももう充分に強くなったろ?俺達三人で奴に立ち向かえば…」
「それは出来ない相談だな」
「……私も、協力する気は、ないわ…」
「……なんでだ?オメーらは奴が憎くねえのかよっ!?」
「憎いさっ!憎いに決まってるっ!!」
「っ……なら!」
「それでもっ…」
「あの方には敵わないわ、例え私達三人が結託して戦ったとしても……絶対に。」
「……」
「貴方も本当は心の何処かで分かっているはずよ……例え貴方が仲間の命と引き換えに手に入れたその巨大な力を持ってしても、あの方には届かない…」
「…そんなもの、やってみねえと分からねえじゃねえか!」
「…あぁ…そうかもな……」
「ガイエル!?」
「お前は、そこまでしても、あの方に復讐を遂げてようとしている……その気持ちは……痛いほど分かる……分かるが……僕は今残ってる子供達をとるよ……子供達の未来をとる……僕達の未来じゃない……」
「……ガイエル!」
「もし、なにか奇跡でも起きてゼディアス様を倒せるようなことがあったとしても……フィーリアの元へはいけないよバルト…」
「!……」
「……はあ?」
「君はどうせ、ゼディアス様を倒し次第、フィーリアを探しに行くんだろう?」
「当然だ!俺はその為にっ……その為にアイツと同じ吸血鬼になったんだ!!」
「君じゃ、届かない……今の君では、フィーリアには届かないよ…」
「はあ?さっきから何を言って…」
「僕はもう持ち場に戻るよ、まだ外の見回りが済んでない所がある…」
「おい待てっ!まだ話は終わって」
「終わったよ」
コツコツ……ガチャ…「!……」パタン……
「私も失礼するわ」
コツコツ……ガチャ…「!…リンゼルちゃん…!」パタン……
★
「ククッ……クハッ…ハハッ……アハハハハハッッ!!!
上等だあ……俺一人で全部やってやるよっ!!」
『君では、フィーリアには届かないよ』
「チィッ…うるせえ!俺じゃフィーリアに届かないだと?何を根拠にっ」
★回想
『バルト……なんでついて来るの?』
『オメーこそこんな時間に何処に行くんだよ?』
?……コイツ、こんな表情する奴だったか…?なんか、妙に大人びた顔を……
『……関係ないでしょう』
『最近書庫に籠ったまま出て来ねえって聞いたけどよ、まぁいつものことだけどよ……オメー、暫く見ない間に痩せたか?顔も青白いしよ……なんかあったか?』
『……あった』
『!……』
『あった、と言って、貴方は何をしてくれるの?』
『俺に出来ることなら何でもする!フィーリアが何か困ってるなら俺はっ』
『うん、困ってる…』
『!…なら助けてやる!何があった?言ってみろ』
『貴方につけられて困ってるわ…』
『……え』
『貴方、昔から私の事を見ていたわよね……子供の頃からずっと…ずーっと………正直……
とーっても気持ち悪かったわ!!』
『っっ!!?』
『貴方じゃ、私に相応しくない……貴方じゃ、私に届かないよ』
カツカツカツ……
★
「……俺じゃ、届かない…?
違う違う違う違うぅっ!!うるさいうるさいうるさいうるさいっっうるっせえっっ!!
俺はみんな仇をとってぇ、
フィーリアを、フィーリアに相応しいっ、強さをっ!力をっ……フィーリアの為にっ…フィーリア為にぃ俺は俺は俺は俺は俺は俺はっっ!!!」
☆
「…………クハッ…ハハッ……奴が明日帰ってくる頃には奴隷達が半分も居ねえんだ、一体奴はどんな顔をするかねえ?見物だなあっ?
クヒッ…クハハハハハッ!!」




