レコード《9》
♪~♪~♪
あ、ご主人様の部屋からレコードの曲が聴こえる……
ゼディアス様は音楽を嗜む方だから、時々こうして部屋から聴こえてくる。私はそれをBGM感覚で聴きながら作業をしていた。パリーンッ…あ、窓割れた……なんで?あ、バルト先輩の飛び蹴りが飛んできた……もろ食らった。今日も顔面潰れたまま作業か~
シュルル……
「ぁ……」
最近自己回復を覚えた。何処で覚えたかは知らない。自然に覚えていった。完全に傷が治る訳ではないけど、元々自己回復の能力は吸血鬼になったら自然と備わってるらしく…まぁだからと言って流石に修復不可能なぐらいの重症は直せないらしいけど、軽い怪我ぐらいなら治せるらしい。どういう原理?ヴァンパイアってまだまだ不思議がいっぱいだな~と、しみじみと思っていたら、それ(自己回復)が余計腹を立たせたのかもう一発バルト先輩からお見舞いされた。
とりあえず、窓ガラスの破片を片付けよう……小さな子供が踏んでは怪我しかねん……うちは時々小さな子供が此所に加わる時がある、ヒルダ先輩の回復があるとは言え、まだ幼い頃は血の能力が上手く制御出来ないからな、怪我をしたら早い子は自己回復の能力を数日ぐらいで出来る子がいるが、私は50年ぐらい掛かったが……まぁそれはいい。とりあえず最近新人の子供達が入ってきたから、怪我をしないようにちゃんと片付けをしないと……まぁその子達も暫くしたら私が無能なんだって気付いて私をサンドバッグにし始めるんだろうけど、まぁいいさ、慣れっこ慣れっこ♪そんなことよりお掃除お掃除~♪
~♪~♪~♪
やっぱり、この曲、何だか切なくなるなぁ……柔らかいような、包み込むような優しさがあるような、だけど、泣いているような……
これ、一体何をテーマにした曲なんだろう?
☆
「へ?ゼディアス様の部屋から聴こえてくるレコードは一体どういった曲だって?」
「そうねぇ……なんでしたっけ?」
「確か……戦時中に出来た曲だって聞いたよ?」
「戦時中……」
「どういったテーマかは、うーん…僕もよく分からないなぁ…」
「私も、よく知らないわ…ごめんなさいね?」
「あっいえいえ!お気になさらず!何となく気になってしまって、教えて下さりありがとうございます!」
「……私、あの曲、好きになれないわ…」
「えっ、それはどうして?」
へっ?マジで!?そうなの!?私わりと好きだったんだけど!
「何となく、不気味、なのよね、あの曲……」
「不気味…」
「うーん、確かに、僕も分からなくもないかな~」
えっ、ガイエル先輩までも!?
「途切れ途切れ聴こえる歌声が何だか……心を落ち着かせない……ザワザワするのよ…」
「あのレコードも古いものだからね、僕とヒルダが此処にきた当初からあったものだから、もう寿命なのか音が途切れ途切れなんだよねぇ……あれで音楽を楽しめているのかな?あの方は?」
「あのゴミ、耳が節穴なんじゃない?」
「ヒルダ…あまり滅多な事は言わない。何処に耳があるか分からないんだから」
「あはは……」
確かに、途切れ途切れで、不気味に聞こえない事もないけど、私は……あの女性の歌声が何かを伝えようとしているような…?いや違うか……あれは……どうしようもない、嘆き?悲しみ?違う……あれは……
諦めだ……
☆
『やーい無能力者!』
『こんなことも出来ないのか!』
『使えない…』
『おいっブスが泣いてるぞ!アハハッ』
『ゴミがっ死ね!!』
『この無能が!』
『もう二度と喋るな、ここでじっとしていろ』
『はい…ごめんなさい…』
パタンッ……
『お姉ちゃん、恥ずかしいから横に並んで歩かないでくれる?』
『うん……ごめんね……ピーリフ……』
『名前も呼ばないで!』
『ごめん……』
『……お母さん……私の分の……ご飯……』
『……その辺のゴミでもあさって食べてれば?』
『……』
『ハァーッ……こんな子、産まなきゃ良かった…』
『ごめんなさい……』
ごめんなさい……
☆
「……」
「リンゼル、ちゃん?」
「リンゼル!」
「!……ガイエル、先輩?どうしました?そんなに大きな声を出して?」
「ぁ……ううん、何だかボーッとしてたみたいだったから、何か考えごと?」
「あ~…少し昔の事を思い出していました……あ、そろそろ自分の仕事に戻りますね!先輩方、先程の質問の件はありがとうございました!それでは失礼します!」タタッ
「あ……」
「行っちゃったわね…。あの子、時々ああやってボーッとしてること多いのよね…」
「うん…」
「……気になることはあるけど、私達も話せていないこと沢山あるんだから、今は置いときましょう…」
「あぁ、分かってる…」
『お兄ちゃんには分からないよ……私が吸血鬼になった理由なんて……分かりこっない……もう、私は“そっち”には戻らない…』
「っ…」
ガイエルはとある過去のフラッシュバックを首を左右にふってかき消す。
リンゼル……妹のフィーリアとは見た目も性格も、全く違うというのに……だけど時々、妹と同じ表情をする……
彼女は何の能力も持たない、力も脳も何にもない人間……自分にも世界にも、何の期待もしていない瞳からは、空っぽの闇が静かに覗いている。
僕らのことが、彼女には見えていない……
いや、見る気がないんだ……全てを諦めて闇を飲み込んだ彼女は……
彼女は時々、こちらがゾワゾワするような恐怖心に駆られるようなオーラを放つ……これは、彼女の血の能力だろうか?血の能力は人によって違う……創造で魔法を作る者、回復に長けた者、血で人形を操り戦う者、それぞれがそれぞれの能力を活かした力を使う……
彼女の力は……一体……
「あの子と一緒の目……」
ヒルダがポツリと、そう呟いた……
あぁ……どうしてだろうな……見た目も性格も声も何もかも違うのに……
君は妹と同じように暗闇を飲み込んだ空虚な瞳をしている……




