第05話 共通の敵
イザベルはローレンがいなくなった後も、しばらくカッカしていた。
「疑っているなど、竜人族が魔女と繋がっているなど、何を根拠にそのような世迷い事を!」
たぶん私に戦士の話をした後だから、気が緩んでいるのかもしれない。本来の彼女の性格が顔を出している。
「本当ね。何も知らないのに酷いね」
「竜人族は誇り高き種族です!魔女と通じ世界を破滅に導くなど、あるはずがないじゃないですか!」
イザベルは怒り心頭だ。私は共通の敵を作ることで、少しでも彼女に近づけないかと同調する。
「竜王は思慮深くて未来の分かる竜人だもんね。変なことするはずがないのに」
「本当です!4日後の謁見の時にも竜王様に同じ態度を取るようであれば、他の誰が許しても私は許しません!」
え、ローレンと竜王が会うのは4日後なの?ちょうどイザークが乗り込んでくる日じゃないか。
「イザベルは竜王のこと、とても慕っているんだね」
「当たり前です。竜人族で竜王様のことをお慕いしない者などおりません。竜王様は未来を見て、私たちの危機を何度も救ってきたのです」
竜王は干ばつが起こる前に作物の備蓄を増やすよう働きかけたり、海賊が盗みを働こうとするのを返り討ちにしたりとこれまで数々の功績を残してきているのだという。
未来が見えることは竜人たちの安心に繋がるようだ。竜王さえ信じていれば自分達は安泰なのだから、それは信じたくもなるだろう。
やっぱりカルヴィンもそうだったのだろう。私は次の日、溢れんばかりの花束を抱えたカルヴィンを見て思った。
「ご機嫌は如何か、マーガレット」
「その花束はまさか私に?」
「もちろん」
カルヴィンは私に花束を渡すと、「妻への贈り物だ」と笑った。ご機嫌取りなんかしちゃって。
花の香りに癒されながら、私はカルヴィンを観察した。目の前の麗人は変な口調だが整った顔立ちをしていて、正義感溢れる平和を愛する男だ。プライディアに戻れるとなる前は、人種問わずに世界の平和を願える竜人だったのに。
そうは言っても、私は彼の気持ちが分からなくもない。私もこの世界を何とかしたいと思うけれど、もし深淵の常闇を失い誰かを犠牲にすれば元の世界に戻れると言われれば…私も誰かを差し出して元の世界に帰ろうとするんじゃないか。
「私は花束よりも、自分の荷物の方がほしいけどね」
「マーガレットはもう冒険になど出ないのだから、不要ではないか。何か必要なものがあればそれがしが別に用意するのだ」
「例え冒険に出なかったとしても、私がお世話になった人に買ってもらったローブとかなのよ。大切なの」
ディアナに選んでもらったローブなど、何としてでも取り戻したい。しかし私の言葉を聞くと、カルヴィンは少し考えてから私の荷物一式を返してくれた。
「実は竜王様から、今日マーガレットからそのように要求があるだろうと…それがしの判断で渡して良いとのことだったのだ」
「また予言?カルヴィンの判断で良いの?」
私は突然のことに少し驚きながらも、荷物に飛び付いた。杖はブレンダの人形に壊されてしまったが、それ以外の物はあった。
「それがしの選択したことが未来になるのだ。渡そうと思ったのだから、それが未来に繋がるのだと思う」
私は荷物に深淵の常闇も入っていることを確認できてホッとしていた。カルヴィンは自分で言った言葉を自分で噛みしめ考えているようだった。
「そう言えばカルヴィン、冒険者のローレン・ハリントンが来てるわね。見た?」
「あぁ、そのようなのだ。まさかあのローレン・ハリントンが直々に来るとは驚きなのだ」
「あのって?」
何気なく振った話題にカルヴィンは教えてくれた。
「ギルドでも指折りの冒険者と言われている。Aランクの冒険者なんて、本当に一握りしかいないから有名人なのだ。彼女は魔法の扱いもずば抜けていて、空を飛び戦えるのだとか噂を聞くのだ」
「空を?重力の魔法か何かなのかしら」
「さあな。竜人族は空など魔法を使わずとも飛べるので、その分野に関しては分からないのだ。とにかく、あの若さの人族でギルドの支部長を任されるなど、そうないことなのだ」
彼女は有名人らしい。そんなに強い人が、よりによってイザークが突撃してくる日にかち合うなんて…
「ローレン・ハリントンは魔女対策も一任された冒険者だ。彼女は昔から魔女のことでスペルディア様を訪ね、魔女討伐の協力を要請してきていたのだ。スペルディア様はずっと拒否していたが、彼女の魔女に対する執着は異常でもあったそうなのだ」
柔らかな雰囲気でキレイな言葉遣いのお嬢様みたいな女の子に見えたが、中身はまた違うらしい。あの時、彼女に感じた恐怖は間違いではなかったようだ。
「人族の中には、魔女も魔族と同じ冒涜的生命の一人だと主張する一派が存在する」
「どうして?何かそういう変身する姿が見られたの?」
「いや、そうではない。しかしもはや冒涜的生命とは身体を変形させられる者に対しての認識ではなく、魔素の扱いに長けていれば冒涜的生命なのだという者もいるのだ」
カルヴィンは忌々しげに吐き出した。
「つまりだ、その者たちはもう『身体が変形する』だとかそんなことよりも、『自分達よりも力を持つ者』…つまり魔法を扱うことに長けている者を粛清したくて冒涜的生命と呼ぶのだ」
「話が違ってきてるんじゃないの?」
「誰も彼もが怖くて疑心暗鬼なのだ。ある日突然、自分では抗いようのない力を持つ他者に攻撃され、殺されてしまうのではないかと…そんな恐怖を抱えている」
魔法を使える者と使えない者と…そこの違いで軋轢が生まれているのか。
「でも、だったら魔族でなくても魔法を使える人族だって獣人族だっているじゃない。まさしくローレン・ハリントンだってそうだし」
「そこがまた彼女の行動原理となるところなのだ。ローレン・ハリントンは人族に貢献することで自分の立場を守り、魔女狩りに力を入れているのではないかとそれがしは考えている。つまり、人族の敵と設定する者を粛清することで、自分が人族の敵ではなく味方であると示しているのだ」
面倒なことになってるんだな。結局、冒涜的生命って差別は都合よく解釈して自分の気に食わない他者を攻撃するための体良い理由に過ぎないのか。
「世の中は複雑だ。一つのことだけが真実ではないのだ」
カルヴィンの言葉は重くのしかかってくるものだった。




