第04話 Aランク冒険者ローレン・ハリントン
イザベルはメイドさんだけど、実は活発な女性であることがわかった。いや別にメイドさんが活発じゃないって訳じゃないんだけど、イザベルは誰かのお世話をするよりも、戦ったりする方が性に合ってるそうだ。
「弟たちがたまに家で手合わせなどするときは、必ずそれを見るのです。家族が寝静まった後に、思い出しながら動きを真似て…これだけで随分気づかなかった身のこなし方など分かるようになります」
「ふーん、なるほどね」
「そもそも昔から『見て盗む』と言うように、達人の技は教わるのではなく盗むものなのです」
彼女の口数は大分増えた。夢中になって話をする姿はいつもの姿とは違い楽しげだ。
「それじゃイザベルは何でメイドになったの?」
「それは…」
すぐにイザベルの表情は元に戻り、寂しげに曇った。
「竜王様から使用人として働くのだと予言をいただいたのです」
「竜王に言われたから?」
「未来を教えていただいたのです。私がそのような選択をするというのですから、そうなのでしょう」
それっておかしいじゃない!試しもしないで自分の好きなこと諦めちゃうの?でもイザベルはこれが運命なのだと私の言葉は受け入れなかった。
「少し喋りすぎてしまいました」
イザベルは反省して口を閉ざした。イザベルも、話してみれば結構いい竜人だ。もしかして何とかできるかもしれないとは思ったが、如何せん時間が足りない。どうにかして心を開いてもらえないかしら。
私は窓際に椅子を寄せ、座りながら外を眺めた。私のいるこの部屋は高い塔かどこかの中らしい。眼下に城下町のように一般の竜人たちが住む町が見下ろせる。プライディアの町は真ん中に一本広い道が通っていて、それが城門へと繋がっている。その道を中心に賽の目のように建物が並んでいるようだ。
「ん…?」
よく見たら人だかりのできているところがあった。あれは何だろうか?
「あれは冒険者ギルドの使者がプライディアの視察をしているところです」
「冒険者ギルド!?」
そう言えばカルヴィンが謁見の申し込みがあったって言ってたな。じっと見てみるが遠すぎてよく分からない。でもギルド長は人族が務めてると聞いたことがあるから、多分人族の冒険者なのだろう。
えー、でももう来てるの?タイミング悪すぎない?5日後にはイザークたちが乗り込んできちゃうのに…
「竜王様に会う前に、彼女は明日ここにあなたに会いに来ます」
「なんで!?」
「竜人族に嫁入りにきた人族に会ってみたいとのことです」
冒険者ギルドは国境を超えた集まりだ。もしかすると、私の事情を伝えたら助けてくれるかも。私はちょっと考えてみて、イザベルに尋ねた。
「竜王は私とその冒険者ギルドの人が会うことに反対してないの?」
「いえ、お通しするようにと」
***
冒険者ギルドに所属する人だから、屈強の猛者かと思っていたら、柔らかい雰囲気の女性だった。
次の日、私の部屋にギルドの冒険者は一人で訪ねてきた。
「初めまして。わたくし、ローレン・ハリントンと申します。Aランクを賜っておりまして、マグノーリェ大陸冒険者ギルド・ダーリエ支部の支部長を務めておりますの。どうぞお見知りおきを」
ローレンはニコニコ人の良さそうな笑みを浮かべながら私に軽く頭を下げた。なんか凄そうな肩書きの人が来たとは思えないギャップがある。
「は、初めまして…」
「はい。Eランク冒険者のマーガレットさんですね。最近冒険者ギルドに登録いただいたばかりだとか」
「え?あ、えっと、はい」
そうか私のこと調べてきてたのか。いきなり名前とランクを言われて驚いてしまった。
「まだ冒険者としての活躍はこれからってところだったようですね。ビギナーを経た後、ホッピングラビットとフライングフィッシュ狩りくらいでしょうか」
「そうですね」
何だろう、面談されてる気分。ギルドへの依頼は全然こなしてないから実績なんて全然ないのだ。
「気にしないでください。Eランクはまず生き延びることが第一の課題と言われてるくらいなのですから。町の外、魔物と対峙して生き残れること、これは立派なものですわ」
「はぁ…」
「気になる部分としては、ビギナーの卒業の早さくらいですわね。やはりビギナーは経験を積んでこそだとわたくしは思っていますので、このような依頼をギルドが通したことは問題かと思います。ゾンネンブルーメ支部の方には指導を入れておきますわ」
え、ゾンネンブルーメのお姉さん怒られちゃうの?あれはナイトが無理言ったせいなのに…
「まぁ依頼主の力によるところもあったようですが、そう言ったものを毅然と突っぱねられなければ冒険者ギルドは成り立ちませんのに。しかし彼に関しては…今、別件で捕まっておりますしね。マーガレットさんも複雑なお気持ちでしょう」
「あ、エイブラハムは捕まったんですね」
良かった、ちゃんと取り押さえられてるのなるば良いんだ。そう安堵していたら、ローレンの瞳がキラリと光った。
「情報が遮断されているのですか?」
「へ?」
「マーガレットさんは竜人族に嫁入りにきたと聞きましたが、世界の情報から隔絶され、ここに無理やり閉じ込められているのですか?」
そうですと即答できなかったのは、ローレンの目が怖かったからだ。美しい女性であるはずなのに、ギラギラとして獲物を狩る瞬間を待つハンターのようだった。
「彼女への情報は遮断されておりません。ギルドから派遣された鳩兵隊からの情報も受け取っています。その報告も受けていらっしゃいますよね」
「そうですね。でもわたくしはマーガレットさん本人に伺っているのです」
ローレンはイザベルの言葉を軽く受け流すと私に優し気に微笑みかけた。「大丈夫です。正直に教えてください」と言われるが、なぜか不安を煽られる。
「いえ…無理やりとか、そんなことはない…です…」
ドキドキしながら私は否定してみた。それはイザベルの目を気にしたとかではなく、本当にローレンが怖かったからだ。彼女がここを訪ねてきた理由が分かった。ローレンは竜王に会う前に何か彼を攻められるような材料がほしかったのだろう。
「そうですか。でしたら、良いのですよ。わたくしの思い込みだったようですね」
私の言葉を聞き、彼女は表情を変えなかった。でも、やっぱり嫌な雰囲気は残っている。本当は助けを求めたいけれど、冒険者ギルドって例えば竜人族の弱みを握ったらどうするんだろうか。私は全ての種族が入ることのできるこの組織は平等で平和的な組織だと思っていたけれど、ローレンを見たらその考えは違っていたんじゃないかと思った。
竜王が私とローレンが接触するのを阻止しなかったのは、この未来も知っていたからだろう。
「エイブラハム氏はその効果を把握していながら魔物が凶暴化する薬草を売っていたのだと、冒険者ギルドで身柄を拘束したのです。竜王スペルディア様が発見してくれたのですから、ありがたいことですよね。ただ、どうやってプライディアに籠っている竜王がその事実を知ったのか…また予言を見たのだと言われればそれまでですが。魔女と何か通じていたのではないかとも、ギルドでは疑っていますの」
ローレンは変わらず笑顔のままだった。
「それではお時間いただいてありがとうございました。同じ人族として、同じ冒険者として、お話できてよかったですわ」




